婚約解消を断られたので、理想の花嫁斡旋します
KTC異世界漫画原作大賞 金賞受賞作
コミックブリーゼにてコミカライズ連載開始しました!
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「ギルバート様、私との婚約を解消してください」
――ついに、言った。
言ってしまった。
セアラ・エリオット子爵令嬢は、十年間婚約していたギルバート・ノーマン公爵令息と、今日決別する。
決して、嫌いになったわけではない。
それどころか今でもギルバートのことが好きだし、心から幸せになってほしいと思う。
……だからこそ、セアラが身を引かなければいけないのだ。
セアラの決死の言葉が届いたのか届いていないのか。
ギルバートは澄んだ水色の瞳を何度も瞬かせ、しばらくしてようやく口を開いた。
「――嫌だ。婚約は解消しない」
今度はセアラの方が瞳を瞬かせ、すぐに眉間に皺を寄せた。
……一体、何を言い出すのだろう。
そっけない態度をとり、最近では他の女性と親しげに話す姿も多く、いつセアラが婚約破棄されるかという噂まで出ているというのに。
ギルバートにとっては、渡りに船の提案のはず。
それを何故、断られなければいけないのだろう。
「でも、他の方が」
「ノーマン公爵家に相応しい婚約者は、そうはいない。自分をきちんと知るべきだ」
まるで諭すようにそう言われ、セアラは口を閉ざす。
……自分を知るべき、か。
ギルバートはノーマン公爵家の嫡男で、芥子色の髪に水色の瞳が綺麗な美少年だ。
容姿はもちろん、学業だって優秀だし、将来の国王である第一王子とも親しい。
まさに将来有望な貴公子である。
対してセアラはエリオット子爵家の娘だ。
父は騎士団長でもあり相応の評価を得ているとはいえ、公爵家とは並ぶべくもない下位貴族である。
容姿は悪くはないとはいえ深紅の髪が鮮やかで悪目立ちするし、象牙色の瞳はいまいち華がない。
ギルバートに相応しくあろうと学業も美容も力を入れてはいたが、このぶんでは及第点には及ばないということなのだろう。
――やはり、あの時。
学園入学前のあの事件の時に、ギルバートとは離れるべきだったのだ。
好意を捨てられず、必死に努力を続けてきたが、それも結局は無駄なこと。
ギルバートにとってセアラは親の意向で婚約させられただけの相手であって、それ以上にはなりえないのだから。
セアラは唇をかみしめると、浮かんできそうになる涙をこらえ、いつのまにか俯いていた顔を勢い良く上げた。
「わかりました」
セアラの言葉に、ギルバートがほっとしたように眉を下げ、息を吐く。
「…そうか、良かった。わかってくれた――」
「――それでは私が、ギルバート様に……ノーマン公爵家に相応しい理想の花嫁を探してごらんにいれます!」
「――は? え?」
ギルバートの声が上擦っているが、それだけ嬉しいということだろう。
それもそうだ。
婚約者がいる立場では、せいぜいが話に花を咲かせる程度。
人となりを知り、相手を調査するのは難しい。
せっかくならば、ギルバートに見合う素晴らしい女性と幸せになってもらいたい。
これは、セアラができる最後にして最大のはなむけだ。
「大丈夫です。身分に容姿に学業から人となりまで、完璧な女性を探します。ギルバート様は、安心して幸せな生活を送ってください」
「――ちょ、ちょっと待て、セアラ」
予想外の提案に嬉しさが限界を超えたのか、ギルバートの目は泳ぎ、あたふたと手までもが泳いでいる。
この期待を胸に、努力しよう。
セアラの頑張りが、未来のギルバートの幸せに繋がるのだ。
そう考えると、すこし心が軽くなった。
「大丈夫です。お任せください。それでは、失礼いたします」
セアラは歓喜の動揺を隠せないギルバートに背を向けると、その場から走り出す。
飛び散るのは涙ではない、心の汗だ。
泣いてなんかいられない。
これからセアラは、愛しい人のために理想の花嫁を探さなければいけないのだから。
「必ず素晴らしい理想の花嫁を探し出しますから! 待っていてください、ギル様! ――絶対に、幸せにして差し上げますからね!」
負け犬の遠吠えよろしく叫びながら、セアラは中庭を後にした。
ざまぁしない!
幸せにしたい!
婚約破棄系(?)、暴走女子&意地っ張り男子のラブコメ連載開始です。
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「竜の番のキノコ姫 ~運命だと婚約破棄されたら、キノコの変態がやってきました~」
同時連載中です。