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聖母はビートに想いを乗せる  作者: 紫煙a.k.a.腐れ学生
3/3

初めての観戦。

クリックに感謝を

「よし、服はこれでいいかな」

 鏡を前に吐いた一言に誰が返してくることもないが、くるっとターンを決めて映った姿に一人納得する。

 自室でこんなことをやっているのを親に見られようものなら、しっかりと心に傷を負うことは自明の理なのだが、だからといって日和ることもできない。

 


 地味すぎず、おしゃれすぎず、それでいて輩過ぎない。

 そんなテイストに見事にあった自分の姿は、まさに高校生といった感じなのだろう。

 まぁ実際高校生なのだから年相応で片づけられるのだが。


「さて行くか」

 机の上に申し訳程度に置かれた電波時計は18:30を示したそんな頃合い。

 スマホに映した一枚の写真を見ても時間としてはちょうどいい。


『19:00 START!!』


 そんな文言の映るラップバトルの開催地はわが家から徒歩だと少し遠いな程度のそんなところ。

 灯台下暗しというかなんというか、まさかあのライブハウス風だったところが本当にライブハウスで、ラップバトルの開催地だとは。

 自分の知る限り、閑静な住宅街にひっそりとあるようなそんな感じだった場所が今回の会場。

 

 もともとそういうところだったのかと検索を掛けてみてもどうやらそうではなく、たまたま縁があって今回会場となったらしいが、


「すげぇわな」

 

 自分の知っているはずの町の、わかった気でいた店の一面にただただ驚くだけだった。


 それに、

『高校生参加可能!』

 別に参加するわけではないが、チラシに映るその文言に心が引かれないわけではない。

 自分と同じ高校生が、ラップバトルという自分の未体験のステージに上がっているかもしれないのだから。

 

「んじゃ、行ってきまーす」

 でかけざまに、リビングの方から母親の声が聞こえるがそれに適当に返す。

「何時に帰るの?」

 そんな質問に何も考えずに俺は、

「22時までには帰る」

 そう答えたが、これからの時間が間違いなく、今までの人生で一番濃いということをこのときの俺は知らなかった。


********

「おにいさん幾つ?」

 住宅街にある寂れたというと表現が悪いが、そんな感じのライブハウス。

 ただ、いつも通りのひっそり感も扉を開ければ一変した。

 扉を開けてすぐのところにいた、ガタイがいいスキンヘッドのおじさんに開口一番声を掛けられれば、気持ちをいくらか下がってしまう。

―—怒られてないのに怒られた、そんな気持ち

「あ、高1です」

 思わず、きょどったようになったが俺は悪くない。

「ん、じゃあ1000円です」

「.....はい」

「はい、これドリンクチケットね。 あと飲酒喫煙はしないよーに」

「は、はい!」

「そんな気張んなくていいよ。 楽しんでね」

「はい」

 俺の姿を見かねたのか、それとももともとなのか。見た目に合わないぶっきらぼうではあるが、優し気な感じで相手をされればこっちとしても気分はいい。

  

 ドリンクは何にしようか。

 そんなことを考え俺は会場へつながる最後の扉を開けた。


 扉越しでも中から聞こえる音はぼんやりと受付でも聞こえていた。

 それでも、


「俺はキメる!このワンバース! 見せてやんぞこのやられ役!」

「「「「wooooooo!!!!!!」」」」

「やられ役?笑わせんなガキャ! かかって来いよ格下のラッパー!」

「「「ohoooo!!!!!」」」


―—なんだよこれ


 ラップバトルに来る前に事前練習というか勉強がてら動画サイトでいくつかみた。

 だから別にラップバトルを知らないわけではない。韻というものを踏んで音に合わせてリズムよく言葉、フロウを紡ぐってことは知っていた。


 知っていたはずなのに。

「それでは、ジャッジに移ります!」

 その言葉と共にまた一層沸き立つ会場。

 もはや、叫び声すら聞こえるのに、


―—ラップってすげぇ

 

 人によっては台本を用意するなんていうネットの記事を見たが、たぶん今のは完全な即興というものだろう。

 即興で音に乗せて言いたいことを言う。

 ただただ俺は驚きを隠せなかった。


「それでは次の試合は......」

「あ、ドリンク」


 聞こえてきた実況の声にもう次が始まることを知ったが、ドリンクを交換しないと。

 今回は小さい箱というのか、小さい会場だからドリンクを持って観戦できるらしい。教室以上の大きさで小さいということは大きいところは一体どれだけ大きいのだか。人だって俺からしたらいっぱいいる。


「これお願いします」

「どれにします」

 カウンターでチケットを滑らせれば、手元のメニュー表を射される・


「じゃあ、緑茶で」

「はい」

「ありがとうございます」

「たのしんで」


 明らかに某メーカーのペットボトルをそのまま渡されたが、それも仕方ないのだろう。

 

 いつの間にか熱気にやられた喉を潤そうと、お茶を傾けたとき。


「そして! 青コーナー!! 今日が初参加! MARIA!!!」


 そんな声が聞こえ視線をステージに。

 マリア......音羽麻里亜

 頭の中で気持ち悪い速度で彼女の事を思い出したがこんなところにいるタイプではない。

 きっとミュージカルとかにいるタイプ。


―—さて、どんな人かな

 間違いなく女性だろう。

 そう思って焦点のあった視線がとらえたのは、


「ゴフッ!!」

 

 盛大にお茶でむせこんだが、仕方ない。


 俺の視界は、マイクを持った一人の少女。

 音羽麻里亜を捉えた。 



 

 

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