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ファフニールの息吹  作者: 伊吹 ヒロシ
第一章 ドラゴンの留学生
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プロローグ

 ティフォンは校長室の窓から、今日も満足気に自分の箱庭を眺めていた。

 嘗て神々の盟主を倒し、魔王たちを退けて、勝ち取った人間界を……。

 「おい、ファフニール! 聞えているか? 最近の様子はどうだ? お前を倒して財宝を奪おうと……人間の勇者は現れたか? 現れないよな……お前は現れもしない人間の勇者を、何千年待っているんだ。わはははははははははははははははは」

 ティフォンは時折暇を感じては、同胞の中で暇をしているだろうファフニールに声を掛け、退屈凌ぎをしていた。

 いつも返事が返ってくることはなく、一方通行の会話であったが。

 「ティフォン、貴様、今、何と言った……勇者が現れないとは、どういうことだ?」

 ファフニールは、ヨーロッパのアルプス山脈の洞窟を住処にしている。

 人間の若き勇者が、自分を倒し財宝を奪いに現れるのを、ひたすら待ち続ける日々を過ごしていたのだ。

 いつか、必ず人間の若き勇者が挑んで来ると信じて……。

 だが、ティフォンが言う様に、一度も人間の勇者は現れなかった。

 初めの数百年は、人間たちが力を蓄えているのだろうと思い、警戒していたが。

 最近は本当に現れるのだろうかと、内心自分でも疑いを持つ様になっていたのだ。 

 「ファフニール、お前は人間を警戒するあまり、住処にした洞窟が深過ぎたのだ……。お前が人間の勇者を数千年待っている間に、人間たちはすっかり変わってしまったぞ。人間の若者は、最早お前の財宝には興味を示さなくなり、別のモノに夢中のようだ」

 「な、何だと……俺の宝以外に……もしや貴様は、俺を騙して宝を奪うつもりでは……思い上がるなよ! 貴様でなく、俺でも神を倒すことは出来たのだ! 俺は宝を守るために、動けなかっただけなのだからな!」

 「いや、落ち着け、ファフニール……私はお前の宝に興味はない。私の興味のあるものは知っているだろう。それより人間の若者が、お前の宝以上に興味を持っているモノが気にならないか?」

 ティフォンの言葉を聞き、ファフニールは自分の宝の山を見つめる……。

 「良いだろう。ティフォン、お前の言葉に耳を貸してやろう。だが、勘違いするなよ! 俺は、お前の言葉を信じた訳ではないからな! ……それは何処にあるのだ……」

 「うむ、まずは私の創った学校に来い! お前のことだから、直接その目で見ないことには信じないであろう。幸い、私の作った学校は、若者たちが集まる場だ。お前はそこで人間のことを知ると良いだろう」

 「俺が、人間の若者たちの集まる場にか……」

 ティフォンは、ファフニールが簡単に自分の言葉を信じるとは思っていなかった。

 半分冗談のつもりで口にしたのだ。

 だが、ファフニールはティフォンが知らないだけで、実は好奇心が旺盛な性格だったのである。

 「最近、小者だが悪魔たちの動きが目立つ様になっている。どうも、ヤツらも何か企んでいるらしい……」

 「なに? 俺の宝を狙っているのではないだろうな?」

 「ヤツらは人間を利用して何か企てているのだ。お前の洞窟には人間は寄りつかないだろう。それに、お前が封印すれば誰も近寄れないし、万一封印が破られたら気づくだろう」

 「良いだろう。ティフォン、お前の言葉に耳を貸してやろう。だが、勘違いするなよ! 俺は、お前の言葉を信じた訳ではないからな! ……それは何処にあるのだ……」

 ファフニールは自分の宝が気になるが、意を決してティフォンに答えた。

 しかし、ティフォンは奥歯を噛み締め、拳を握り締める。

 「何度、同じ事を言わせるつもりだ! お前はさっさと人間の姿になって、私の所に来い!」

 ティフォンは怒りで顔だけドラゴンの姿に戻り掛け、大声で怒鳴った。

 春休み最後の日の学校であったが、部活や入学式の準備で校内には職員だけでなく生徒も多くいる。

 そんな学校を中心に地響きが起き、校長室の窓ガラスが吹っ飛んだ。

 周囲の人は地震が起こったのかと思ったが、それ程気に留めなかった――。

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