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7.異世界恋愛事情

 

 クラウスたち冒険者パーティと仲良くなって、冒険者ギルドでもたまに話すようになったら、他のパーティとも仲良くなった。

 ここの人間って本当に体力ある。

 冒険者だけでない。

 職人も農作物を運んでくる農作業をする人も専業主婦も、皆タフだ。

 なにかといっちゃあ、力も持久力も耐久力もない俺は呆れられる。

 子ども扱いだが、小さい子よりも役に立たない。

 でも、くじけないぜ!

 一度死んだんだからな。生まれ変わった気持ちでやるよ。なんてったって、魔法があるからな!

 不思議と魔法があると言う事でモチベーションを維持することができた。

 テンション高いやつらが多くてヘコんでいる間もなかったのもある。


 人力で色々しないと駄目で、元居た世界の文明の高さを知る。

 魔法と科学の融合のギミックが気になるけれど、それよりもやることが山ほどある。

 水汲みなど雑用をするうちに手に豆や擦り傷ができた。痛い。でも、そんなことを気にしていてはこの世界では生きて行けない。

 他には、風呂に入れないこと。せいぜいが桶に水をためてばしゃばしゃやるくらい。そりゃあ、白い肌が汚れて見えるはずだわな。俺なんか、二日に一度は頭を洗わないと気が済まない。元々、それほど風呂好きではなかったんだけどな。


 それと食事。

 酒は飲まないし、甘いものもものすごく好きだというのでもない。

 でも、それは選択肢があってこそだ。できないとなると途端にほしくなる。ここではそんなものはぜいたく品で、あったとしても向こうの世界のクオリティには程遠い。


 ただ、俺は希望を捨てていなかった。

 あの料理はきっとここでも作れる。似たような野菜を見つけたんだ。

 目標があるってのは違うね。それが食べ物ってのもポイントが高い。

 この町だけなのか、料理の味が薄い。素材の味をしっかりと味わう。

 調味料をあまり使わない。

 香辛料は高いのだ。そりゃあ、もう、馬鹿高い。

 そう、香辛料!

 スパイスです。

 ここはアレですね!

 カレー!

 俺は向こうの世界で殆ど料理をしなかったが、カレーは別だ。色んなものが取り揃えられていて、趣味嗜好に凝る人間が多かったあの世界、カレーもまたスパイスから作る本格的なものを、一介の大学生が簡単に作れてしまうのだ。


 せっかくの異世界なのに、まだ外に出られていない。

 いや、魔獣に出会ったら、即座に死んじゃいそうでさ。

 食べることくらいしか希望が持てない。

 だから、借金を返してお金を溜めて、カレーを作るんだ。

 全く同じものにならなくて良い。というか、カレーのスパイスも複数あって、組み合わせで多様な味わいになる。

 奥が深いんだ。

 なら、こっちのオリジナルカレーを作ってみるのも楽しそう。

 というか、やりたい!

 食べたい!

 米は今のところ見つかっていないけれど、ナンっぽいパンを探せば良いしな。

 先は長いが、やり甲斐がある。


 色気より食い気だよ。

 自分にベタ惚れの人間しかいない世界でもないし、自分を頂点とした世界でもない。向こうの世界と同じだ。

 容姿そのままなので、もてない。

 からっきしだ。


 というか、こっちの倫理観念ってやばいのよ。

 浮気はし放題。ばれて喧嘩になっても、それは倫理云々ではなく、自分が嫌だからとか嫉妬からだとかで、そんなもの知るか!で終わる。女の人が浮気した場合、放り出されたら生活できないから、ばれないようにやる。ばれたら、ご奉仕するから、で終わり。

 うを、生々しいね!

 実際、冒険者もパーティ間や町の人間とくっついたり別れたりで忙しい。

 ちょっと良いなと思ったらいっとけ、って感じ。


 知り合った冒険者たちも同じだった。

 中にはさ、奥さんがいるやつもいたんだよ。

「お前は一人でも生きていけるだろうが、あいつは俺がいなくては駄目なんだ。そう言って別れて今の女房と一緒になったんだけれどさ、あいつ、本当に何もできないんだ。だから、料理も買い物も掃除も洗濯も俺がやらなくちゃならないんだよ。家に帰りたくねえ!」

 あほだ、こいつ。


 いや、冒険者ってあれだね。

 浮かれたやつが多いっていうか、ネジが一本二本飛んじゃったやつがいるっていうか。

「俺たち冒険者ですから!」

 だから何?

「今なら俺の熱―い口づけを貰えちゃうよ! これ、特別待遇!」

 謹んで辞退します。

「分かっているさ、あの子は俺のことが好きなんだろう?」

 ちょっと何言っているのか分からないです。

「ハハッ、情けねえよな」

 ええ、本当に。

「しゃなねえな、俺が手取足取り教えてやるよ!」

 あ、これ全部女の人に声かけているやつな。ナンパ。最後のは初心者の女性冒険者に教えてやろうとしたの。カウンターが見事に嵌って悶絶していた。

 合掌。


 自己評価が高い、異常なまでのポジティブ思考、上から目線、女性の行動は全て自分への好意の表れだと思っている、自分に都合のいいように解釈する、頭の中がお花畑、世界は自分を中心に回っている。

 うん、そんな感じ。

 誘ったのを「忙しいから」と返されても断られていると気づかない。今は時間がなくとも、後からならばオーケーなんだな、ああ、オーケーってことなんだな、って都合がよいところしか記憶に残らない。


 それで、突っ込みを入れていたら、なんでか恋愛相談を受けることになった。

 酒場に連れ込まれて愚痴を延々聞かされて、それに合いの手を入れただけなんだけれどなあ。

 俺、他人の恋愛事情よりも、自分のハーレムが気になるんだけれど。

 できるかなあ、ハーレム。

 異世界に来たのになあ。


「なあ、聞いているか? だからな、浮気したって何一つ恥じることはないぜ!」

 ちょっとは悪気を持て!

「むしろ、公開イチャイチャしたいぜ!」

 なんて言うか、まあ、元気だよなあ。呆れて物も言えないとはこのことだ。

 雑用完了の報告をしに冒険者ギルドに来たのに、いつの間にか併設の酒場に引っ張り込まれていた。

 テーブルには一仕事終えたクラウスたちがエールを飲んでいる。おごってくれるというので遠慮なく食べる。


「愛は数じゃないんだぞ」

 ヘルマンがエールを飲み干してクラウスに言う。

 そうそう。人数じゃない。どれほど愛せるかだ。

「そうだ。愛は金だ!」

 違うだろうがよ!

 結構現実的なのね、リーナス。

「よっしゃー! 魔獣を倒して荒稼ぎじゃー!」

 ま、まあ、冒険者としてのモチベーションに繋がっていると思えば、うん。

 しかし、本当にマグヌスは若いね。俺の方がよほど慎重じゃないか?


「グロリアさんにどどーんとプレゼントして一気にお近づきに!」

「なにぃ⁈ グロリアさんだと? この身の程知らずめが!」

 わいわい騒ぐのに耳を傾けていると、どうやら狙っている女性がいるらしいが、高嶺の花のようだ。


「なあ、コウ。プレゼントしたいが何が良いと思う?」

「ん? そうだなあ。プレゼントの前段階が重要かな」

「前? おいおい俺の話を聞いていたのか? プレゼントのことだよ!」

 途端にクラウスに背中を叩かれる。馬鹿力め。

「まあ、聞けよ。良いか。高嶺の花なら自分を安く見られるのは嫌だろう」

「そりゃそうだな」

 太い腕を組んでうんうん頷く。

「とにかく、紳士に礼儀正しく、清潔な恰好をすること。がつがつしないこと。でも、好意はしっかり出すこと。ちゃんと話を聞いて受け答えすること」

「お、おう」

 指折り、思いつくことを並べ立てるとちょっと怯んだ顔になる。ちゃんと覚えていられるか? 大丈夫か~?


 プレゼントは独りよがりじゃなくて、そうだなあ、あ、ウィンドウショッピングしている時に欲しそうにしたものを買ってやるってのは? デートもできるじゃん!」

 一石二鳥だね。

「……前に高額なプレゼントを渡したらものすごく迷惑そうだった」

 眉尻を下げて憮然と言う。

 お、おう。すでに失敗していたのか。

 っていうか、なのに、なんでまた高いプレゼントを渡そうとするかな!


「それじゃあ、やっぱり値段じゃなくて、何が欲しいか、だよ。めっちゃチャンスじゃん! 今度は気に入ったものを貰って欲しいからって、一緒に買い物に行こうって誘えよ!」

「でも、貰う理由がないって言われた」

 もう断られていたんですね!

「じゃあさ、お返しに何かやってもらえば良いじゃん」

「何かって、いきなりベッドイン? そりゃあ早すぎるだろう」

「そんなの言い出したら引かれるわ! それは飛躍しすぎ! なんかさ、こう、次のデートでクラウスの好みの格好をしてもらうとか、弁当を作って来て貰うとかさ!

「そんな安い買い物じゃなかったぞ!」

「先行投資だよ!」

 だから、高額プレゼントから離れろよ!


 いやね、俺は自分はこんなに積極的にいかないよ?

 でもさ、こっちの人間ってわりにガツガツしているのが多い。俺の周りだけなのか?

 だから、もうガツガツしている上で、なるべく紳士的にいけば、確率も少しは上がるんじゃないかな。


 現に、後日、話を聞いたら、その女性とうまくいったんだって。

 ところが、恋人になった途端、他の女性が気になるという相談をされたのだから、驚いたね。

「なんで手あたり次第に行くの?」

 相手のことは考えないのかと疑問をぶつけてみる。

「そんなの、寂しさや不安を紛らわせるために決まっているだろうがよ」

 言い放ったクラウスにパーティメンバーがげらげら笑う。

「いやまあ、そう言うと身もふたもないけれどよ、俺たちは冒険者だ。危険が付きまとう明日をも知れぬ身ってやつだろう? その日その日、その場その場で悔いがないように生きるのが染みついているんだよ」

 リーナスが涙をぬぐいながら言う。

「そうそう。知り合いはもちろん、友人や身近な人間、なんなら、一緒に組んでいたパーティメンバーでさえあっさり消えて行ったんだ」

「そういえば、そんなやついたなあ、ってなもんだぜ」

 マグヌスやヘルマンも同意する。

 またぞろ笑いが沸き起こる。


 何て奴らだ。

 一緒に戦っていた仲間が死んでしまったという。となれば、その死んだ場面を間近で見ているかもしれない。なんなら、自分も死に際にいたのかもしれない。それをようよう引き返してきた奴らだ。

 とすれば、建前とか取り繕うとか表面上の付き合いとかは考えなくなる、かなあ。


「ちょうどパーティメンバーを募集しようとしていたところだ。コウ、どうだ?」

「やる!」

 大チャンス到来だ!

 とうとう、俺も町から出るのか!

 そうと決まれば、装備変更だ!



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