19.死んでも悔いはない
ダンジョンとは魔獣が多く出る場所のことで、大抵は魔物がため込んだ物品があるらしい。それが人間にとって珍しいものだったらひと儲けできるってので、冒険者は一度は行くんじゃないかな。運試しとか力試しとかにもなるってさ。
肝が据わっているというか、何も考えていないっていうか。
恐怖を感じる回路が麻痺しちゃっているんじゃないの、って思うこともあるけれど、ちゃんと怖さも感じるんだよな。クラウスたちとパーティを組んだ時に思った。
でも、どこか突き抜けているんだ。
なんかさ、死んだらそれまで、だから、死ぬまではしっかり楽しんで生きる、って感じ。
だから、慎重すぎる俺はよく驚かれる。それで揶揄ってくるやつもいるけれど、俺にはそこまで思い切れないよ。
スウォルは向かうダンジョンを、出てくる魔獣が初心者向けだというものにしてくれた。
おまけに、事前に短剣の扱い方も教えて貰った。
スウォルの重量級の振り下ろしは一撃一撃が受ける剣を持つ腕が痺れるほど重い。少しでも重心が逸れれば受け損ねる。きっちり捉えて受けても短剣が下がる。
スウォルのも同じ短剣なんだけれどなあ。
身長は俺より少し高いくらいで、他の冒険者と比べると小柄に見える。
でも、鍛えられた体躯は細身に見えて、肩と胸、肩甲骨辺りに発達した筋肉がついている。逆三角形の上半身に、太い筋肉に覆われた腿、すらりと膝小僧下が伸びる。着替えの時に思ったんだけれど、やっぱり体つきが違う。
買いに行った短剣はスウォルが選んでくれた。俺が試したのは持ち手の具合くらいだ。
「咄嗟に攻撃を防ぐことができれば、コウなら何とでもなる。それに、そう思っていれば、安心できるだろう?」
全くその通りだ。
ちょっとした丘にぽっかり口を開いている。アーチ状の上部にはコケや草が生えていて垂れ下がっていた。
そこを身をかがめて入る。緩やかな下り坂でトンネルは続いていた。
ランタンに火を灯して持つ。
スウォルは腰にぶら下げている。一般的に手が使えない方が不便なのだそうだ。
俺は魔法を使うだけだから、持っていろと言われた。必要に応じてランタンを移動させた方が足元が危なくないだろうってさ。
山羊の乳のような鍾乳石が垂れ下がっているなあ、とどうでも良いことを考えてスウォルにそう言おうとした時、あれ、となった。
「スウォル、瞳孔が縦になったように見えたよ」
「ああ。暗いからな」
「うん?」
「例えば、蛇はより多くの光を集めるために縦の瞳孔に変化した。そちらの方が光を集められるからだ。また、左右の眼のピントを合わせて自分と獲物の距離を正確に知ることができる」
「へえ。物知りなんだなあ」
ちっ、男前、強い、魔力チート、とここまで揃っているのに博識とか。天は二物を与えずはチート主人公には当てはまらないよな。
「コウは大きな買い物をする時は誰かに相談しろ」
スウォルがなんとも言えない表情で言う。そんな顔をしても、ランタンの灯りを下から浴びても男前。
むむむ。
「えー。いかにも慣れていないっぽく見えるかもしれないけれど、俺の知り合いって冒険者がほとんどだもん。あいつらに相談しても、乗っとけ買っとけって言われるだけだと思う」
最近、周囲に変態が多いことを自覚したんだ。あいつら、絶対に煽るだけで問題が解決するとは思えないよ!
「じゃあ、俺に相談しておけ」
「うん、そうする」
だったら安心だよな!
って、なんの話をしていたんだっけ。
「下がっていろ」
緩んでいた気持ちが引き締まる。
言われたとおりに数歩後ろへ行く。
入口は狭かったけれど、洞窟内部は広い。それでも、剣を振り回すのにはいつもと勝手が違うだろう。
そう思っていたのだが、スウォルは素早く走り寄って来る魔獣に薙ぎ、払い、突きといった動作で倒していく。まさしく、ばったばっただ。
「ネズミ?」
普通のネズミよりも大きい、一メートルないくらいの体だったが、姿かたちはそっくりだ。
「似ているが、違うな。ほら、牙があるだろう」
口の正面に上下二本ずつ牙が生え、上から下、下から上に向かって真っすぐに生えている。
「これで噛みつかれるとごっそり肉を食いちぎられる」
「ひぇぇぇ」
蛙の魔獣にちょっと齧られたくらいで心が折れた俺だ。思わずスウォルの服の背中の部分を掴んだ。
肉はそれほど上手くない魔獣らしく、角だけ持って行って売却するのだそうだ。こんなところで悠長に解体していたら、魔獣に取り囲まれそうだしな。肉は他の魔獣の餌になる。
「この魔獣は労働する者と戦う者と統率する者とで役割が決まっている」
「へえ。アリとかハチみたいだな。女王アリならぬ女王ネズミがいるの?」
「良く分かったな。そうだ。女王がいる」
褒められてちょっと嬉しくて続けてみる。
「ということは、女王が子供を産む役割をするのか?」
「コウは本当に賢者だな」
そんな風にしてスウォルは俺の言葉が正しいと答えた。
いや、単に向こうの世界で習ったことなんだよな。こう考えてみれば、向こうの世界っていろんなことを学校で勉強した。
この時、俺はそうだとしても、スウォルが動植物の生態に詳しいという事には考えが及ばなかった。冒険者たちは職業柄、魔獣に詳しくなるからそんなものだと思っていた。でも、スウォルは魔獣に限らず、色んな事に詳しかった。俺は自分が知っていることが普通だという感覚でいたから、すごいスウォルならもっと良く知っていても当然だと思い込んでいた。
「面白いのは、人間と同じく、女王、兵隊の順で偉そうにしているところだな」
「知能が高いの?」
「そこそこな。鳴き声で意思疎通をするにも、女王は短く低い声で鳴くが、労働ネズミは長く鳴く」
「ああ、偉そうな人が「うむ」とか言って、下っ端はせっせと話す、って感じか」
「そうだ」
言いながら、スウォルは剣を持って数歩前へ出る。そこはちょっと開けた場所で、待ち伏せされていた。
スウォルに推定兵士ネズミが殺到する。あまりに数が多すぎて、二重三重になって、後ろの方のネズミはスウォルにまで届かない。そこで、閃いた!とばかりに、ててて、と回り込む。
後ろから襲い掛かられたスウォルは振り向かずに、前のめりに倒れてこれをかわし、逆に相手が空ぶってできた隙を過たず逃さず、振り向きざまに切った。
体を翻した勢いに乗せた剣勢に鈍く空が鳴る。
援護射撃の魔法を撃とうと準備していたのだが、全く危なげなかった。あっという間に再び戦闘は終了した。
「面白いのは、兵士ネズミは女王に話しかける時には鳴き声を連ねるのに、労働ネズミに話す時には短く終わる」
ネズミじゃないって言っていたけれど、俺がそう言うものだから、スウォルも移ったみたいだ。分かりやすくていいよな。
「ふはっ。しっかり立場があるんだな」
再び角を回収しながら魔獣の不思議な生態に噴き出す。
「労働ネズミは住環境整備、つまり洞窟を掘ったり崩れた部位を修復したり、掃除や餌の運搬にせっせと働く。兵士ネズミは普段は何もせず、食べてばかりいるが、こんな風にして侵入者が現れたら仕事をする」
「で、女王は子供を産むのが仕事ね」
「そう。こいつらの天敵は蛇に似た魔獣でな。入口が狭かっただろう? 入れないように作ったんだ」
「ああ。って、俺たちが屈んだら入れるくらいはあったよ! どんなに大きい蛇なんだよ!」
「それでも、どうにかして入り込んだ蛇が兵士ネズミを二、三匹食べたら腹が膨れる」
まあ、一メートル弱もあるネズミ型魔獣だからなあ。
「蛇も腹が膨れたら気が済んで帰る。だから、兵士ネズミは侵入者が現れた時には生きたバリケードとなる。真っ先に食べられるのが仕事だな」
えっ……。
「面白いのは、普段のんびりして、働いている働きネズミに対して偉そうにしているのに、いざ仕事となったらしり込みする者もいるところだな」
スウォルは多分、初めてダンジョンに来た俺の気持ちをほぐそうと色々話してくれたんだと思う。さっきも思わず服を掴んじゃったし。
でもさ、スウォルってやっぱり天然なんだよな。
今の話は十二分に恐ろしいです。はい。
ランタンの灯りでもきっと顔色が真っ青になっているのが分かったんだろう。
スウォルは口を噤み、どうしよう、と慌てているのが分かった。珍しい表情に、怒りは沸いてこなかった。
うん、ちょっと休憩しようか。
その後、広場の隅に角を回収した死骸を寄せ、座って水を飲んだ。
ランタンの様子を確認したりもした。急に使えなくなったら大変だからな。
スウォルが差し出した干し果物を一瞬断ろうかと思ったが食べた。もったりした甘さが良い。しっかり食べ物を食べている、という感じがする。
休憩後に広場にやって来た魔獣を俺にも倒させてくれた。向こう側に続く道から顔を出す魔獣を倒す簡単なお仕事だ。すばしっこいのはスウォルが戦っていた時に見て解っている。
真正面からやって来て、距離があるのだから、外すこともない。
「速さについていけているな」
「うん。離れているしな」
それでも、ダンジョンで魔獣を倒した!
俺、やったよ、ポチ!
心の中でポチが良くやったとサムズアップした気がした。
殆どの魔獣はスウォルが倒し、時折俺にも倒させてくれた。
もっと連携が取れるようになりたい。まだまだ先だ。今は慣れることだな。
内部に入ると、労働ネズミらしい魔獣もいた。俺たちの姿を見たら逃げ惑う。兵士ネズミよりも一回り小さい。
慌てすぎて互いにぶつかり合って目を回す者もいた。そんな混乱の奥から、のっそりと女王ネズミがやって来た。
兵士ネズミよりも一回り大きい。
労働ネズミや兵士ネズミがさっと道を開ける。
兵士ネズミも労働ネズミもいっぱいいたが、女王ネズミは一頭だけだった。
「女王様のおなり?」
「そうだな。コウ、魔法を撃ってみるか?」
「良いの?」
「ああ。外しても気にするな。他のネズミのことも考えなくて良い」
破格の待遇だ。パーティは役割分担をするが、やっぱり美味しい役どころってのはあるだろう。それを譲ってくれるという。
まあ、スウォルからしてみれば、この程度の魔獣は倒し慣れているのかもしれない。
ならば、遠慮なく!
「おお、大地の母なる褥よ。時に険しく聳え、時に優しく受け止める。その力を用いて、我が眼前の敵に向かいて矢のごとく駆け、穿てよ!」
魔法ってのは意識してみると、やっぱりその属性の影響を受ける場所に副ったものの威力が強い様に思える。川の近くだったら水の魔法が強い、っていう感じだ。
ここは洞窟。ならば、地の魔法が有効でしょう!
俺は魔法使いだ。
スウォルに教えて貰った短剣はあくまでも補助。
魔法で冒険者としてやっていくのだから、使いこなしたい。
イメージを強くして、魔法の発現を短縮させ、なおかつ威力を籠める。
眼前に現れた土の矢というよりも杭といった方が良さそうな代物が一直線に飛んで行く。
女王ネズミが一声甲高く鳴いた。その口に、杭は吸い込まれていく。
一瞬、硬直した女王ネズミはばたりと横倒しになる。
呆然とそれを眺めていたネズミたちは騒乱を起こした。うちの何匹かがこちらに向かってくる。
スウォルが剣で一掃する。
そういえば、この洞窟の中に入ってから、スウォルは魔法を使っていない。
あれか。威力が強すぎて、崩落事故を起こす可能性があるのか。
どんだけなんだ。
「ふう。やっぱり、こいつらってどんどん増えるから、定期的に退治しないといけないってのはわかるな」
魔獣たちが作り上げた巣は、それこそアリの巣のようにいくつもの部屋が作られていた。女王ネズミを倒したからか、向かってくるものは大分減った。後は逃げ去ったのだろう。
初めてすることにはおっかなびっくりだが、意外と早く順応した。自分の体力や魔力を過信しないで余力を残しながら戦っていたので、危ない場面はなかった。適正レベルは十分に超えているというやつだろう。
倒した魔獣の角を取って、ダンジョンの奥の壁に背を預けて休もうとすると、ひっくり返った。
びっくりした!
気持ちの準備をしていないところに、預けていた背中がふわっとなった。一瞬、何が起きたか分からなかったよ。
「返し扉だ!」
いや、壁だが。心の中でセルフ突っ込みしておく。
「隠し部屋かな」
これは、宝の予感!
ネズミたちも色々集めて来ていたみたいだけれど、大したものはなかった。
四つん這いになって恐々顔を覗き込ませると、後ろから頭を掴まれて戻された。スウォルさん、頭を掴まないでください。つか、片手で掴んで引き戻せる握力をお持ちなんですね。でもね、声を掛けるとか、せめて肩を掴むとか———。
前髪が数本切り取られて飛び散った。
ぽかんと眺めていると、濁ったというか、多重音声というか、不協和音というか。って、真ん中のは違うか。ともかく、妙に気に障る変な声が聞こえた。
『ククク、よくぞ、この部屋に気づいた。気づかぬままなら、後ろから忍び寄り、頭から喰らってやったものを』
「わあ、ラスボス登場? あ、いや、初心者用ダンジョンに出るなら、序盤ボス?」
キター!
これぞダンジョンの醍醐味!
実はさ、ボスが出るかもしれないって思って、魔力を使い過ぎないようにしていたってのもあるんだよな。
魔力温存。ダンジョン攻略の基本だよね!
「コウ、下がっていろ」
これがいたから引き戻してくれたのね。あのままだったら、前髪じゃなくて首が切り取られて飛んで行ったかもしれないものな。
「あ、うん。その、スウォル、大丈夫か?」
「ああ、大したことない」
さらっと言ってくれやがりましたよ!
頼もしい!
序盤ボスっぽくても大したことないんか。すごいな。
序盤ボス(推定)は俺たちの会話には興味はないようで、いやらしく笑っている。蛇の姿をしているが、言葉のやり取りはできる。
これがネズミたちの天敵ってやつだろうか。確かに、大きくて太い。そこまで長くないから、ちょっとツチノコっぽい。ツチノコ、架空の生き物だっけか。まあ、異世界だしな。確かに、食べ過ぎたら、あの入り口は通れなさそうだな。
『気づいた褒美をやろうぞ。そうだな。どちらか一人だけ助けてやろう』
序盤ボス(推測)は悦に入って笑い、盛り上がっている。
『さあ、争いあえ! 血みどろになってみせよ!』
スウォルは眉を顰めた。
やっぱり、序盤ボス(見做し)でも、脅威は脅威だよな。ほら、出来ると思っても、よくよく考えてみたら無理そうだなってことがあるだろう。
それかな。
だとしたら、採る選択肢はひとつしかない。
「あ、あのっ!」
『うん? 命乞いか?』
にやにやと実に楽しそうだ。いたぶっているんだろうな。この場合、俺が命乞いをしても、スウォルを殺したあと、俺も片付けるだろう。そんなタイプのやつだ。
「いえ、あの、こ、こいつを助けて下さい!」
言って、スウォルの腕を取って引っ張った。
『ああん?』
意味が分からないという感じに目を見開く。
「おい」
スウォルが何か言い掛けるが構わず続ける。
「お、俺はこの世界に来る前に死ぬところだったんです。それがどうしてか生き永らえた。それが今日この時まで引き延ばされただけなんです。だから、こいつを助けてやってください」
「おい、勝手なことを言うな」
スウォルが腕を振りほどいて目を細める。
う、威嚇したって、ここは引かねえぞ!
「まあ、聞けよ。お前、色々人間社会を見て回りたいんだろう? こんなところで終わらせるなよ。俺のことは良いんだよ。ポチだって、これまで良くやったって褒めてくれるよ、きっと」
「お前の方こそ、簡単に諦めるな。ださい」
「ぐっ。年頃の若者に向かってださいは禁句だ!」
自覚があるだけに、男前から言われると攻撃力がとんでもないんだぞ!
「今度、俺の誕生日にはかれーとやらを作ってくれるんだろう?」
「お、おう。その前に、香辛料を集めないといけないんだがな。いくつもいるからなあ」
『内輪の話は余所でやれ!』
序盤ボス(憶測)に怒られた。
「あ、忘れてた。ごめんごめん」
うっかり序盤ボス(類推)を忘れて話し込んじゃったよ。あぶねえあぶねえ。しっかし、なんで二度繰り返すと真剣みがガタ落ちするんだろうね。
「そういうことで、こっちを助けるってことで」
スウォルを指さした。
俺はこの世界へ来て、慎重だった。痛いのは嫌だし、腹が減るのも辛い。
でもさ、友だちとどっちかを選べって言われたらさ。
そりゃあ、死にたくないよ?
ただ、俺ってもう一度死んだようなものだもん。
ボーナスステージでもう一度生きて暮らすことができただけでさ。だから、こんなに不便で暴力的な世界でも、頑張ってみようかなって思った。
それでも、スウォルを押しのけて生きようとは思わなかった。
それだけなんだよ。
『そうじゃなくて! 互いが助かりたいと思って殺し合うんだってば!』
うを?
序盤ボス(推量)の言葉遣いが変わる。こっちが素かな。じゃあ、それっぽく振る舞っていただけか?
あ、いや、そうじゃなくて。
「いや、その必要はないし」
「そうだな。その必要はない」
スウォルも同意する。
うん、そうだよな。
俺はどちらかを助けてやると言われた際、「ボスだから敵わない」という意識があった。
それを、スウォルはあっさり覆した。
『はへ』
序盤ボス(仮想)が気の抜けた声を上げる。おいおい、素が出過ぎじゃねえ?
「ん?」
違った。
いつの間に詠唱が済んでいたのか、ってか無詠唱か。
いや、容赦ねえな!
細切れじゃないか。
スウォルが放った魔法が、序盤ボス(推察)の皮を、肉を、骨を刻む鈍い音が延々と続く。血や脂が周辺に飛び散る。
先ほどの気の抜けた音を発した後は声もなく、地面に倒れ伏した。
瞬殺。
ボス戦ってアレじゃないですかね?
ヒットポイントのバーが通常一つのところが二つ三つあって、それを減らすのに青息吐息、デバフは掛からないわ、全体攻撃してくるわ、死に際にはえげつない攻撃を放つわ、っていう、よくこれ倒せましたね、っていうアレ。
なんなの?
魔法を一回放っただけでヒットポイントのバー三つがはじけ飛ぶものなの? いや、無詠唱だから、延々唱えていたかもしれないけれどもさ。
これぞ、チート主人公の実力!
魔法の影響か、洞窟内なのに風が走り、スウォルの髪をなびかせる。
あ、うん、格好良い。
くっ、チート主人公め!
助けてくれてありがとうございます!
当のスウォルは魔力切れなにそれ美味しいの状態で平然と序盤ボス(推断)の解体を始めている。
ちゃんと角は避けているんですね。流石です。
「ちっ」
「ん? どした?」
あれ、珍しい。スウォルが舌打ちするなんて。いつも、なんてことないですよ、って普通の顔をしているのに。
「勢い余って売れる部位を刻んでしまった」
「はは。スウォルもそういうことがあるんだな。安心するわ」
スウォルは俺をまじまじ見つめた後、ぺしりと頭の後ろを叩いて解体を続けた。
「なんだよ、すごいやつもたまには失敗するんだなっていう当たり前のことを言っただけなのにさ」
文句を言いつつも、スウォルの解体を手伝う。叩かれたのも、全然痛くなかったし。
「そこじゃなくて、ここを切って」
「ここ?」
「そう。もう少し深く。そこから斜めに」
適当にナイフを入れようとしたらすぐさま指示が飛ぶ。
こうして、俺はボス戦込みの初めてのダンジョンをクリアした。
ボス戦は何もしていないけれどな!