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15. 異世界ハーレムは他人事

 

 誕生日だと言ったらスウォルが祝ってくれるっていう。

「借りを返すってこのことか?」

「いや。俺に借りを作ることが出来たんだから、もっと使いでのあることで呼べ」


 俺が食べることを楽しみにしているのに気づいたのか、スウォルは料理屋を貸し切った。多くの者に祝われた方が嬉しいだろうと知り合いを呼んでもいいって言ってくれた。

「でも、すごいお金がかかるんじゃねえ?」

「誕生日だからな。いつも奢るわけじゃない。今日くらいは好きなだけ気心知れた者と楽しめば良い」

 そんなに広い料理屋ってわけでもないけれど、俺とスウォルの二人だけでぽつんと飯を食べるのも寂しい。


 お言葉に甘えて、クラウスたちやメルに声を掛け、来ないかなと思いつつ、冒険者ギルドの人も誘ってみた。急なことだし、と思っていたんだけれど、二つ返事っての? 即答で来るって。タダメシだもんなあ。ギルドの人は俺が冒険者登録したての頃はタメ口だったんだけれど、スウォルとパーティを組み始めた辺りから、他の人たちのと同じように敬語になった。一人前って認めてくれたのかなあ。

 そんなやり取りを見ていたのか、他にも来たいというやつらがいた。自分の金じゃないしって渋っていたら、酒とか料理とか持ち込んでくれるって。

 それ、単なる宴会好きだろう!

 俺の誕生日を祝うんじゃなくて、かこつけて呑み食いしたいだけだな、うん。


 あ、こっちの世界に来てすぐに世話してくれたおばちゃんにも声を掛けた。おばちゃんは喜んでくれて、友達を誘っても良いかって言われたから、あまり多くなければ、ってことと、他にも冒険者が来るからねって伝えておいた。

 うん、でもさ、異世界のおばちゃんもパワーがすごいのな。


 おばちゃんたちは全部で四人来たんだけれど、それぞれが手作りの料理を持って来てくれた。冒険者は野営をするから料理をしそうなもんだけれど、皆、肉を焼くくらいしかできない。それも、美味しそうな匂いは魔獣を引き付けるから、しないことも多いんだって。そうなると、食料は保存食に頼ることになる。これがまた革の噛みごたえ風干し肉とか岩触感のパンとかなんだよな。あ、でも、干し果物は美味しいよ。栄養満点だし、甘いしね。


 で、おばちゃんたちは肉ばっかり食うな、酒ばっかり飲むなって、がたいの良い冒険者にも料理を勧めてくれるの。

 スウォルなんか、良い男だねえって囲まれちゃって困っているのが分かった。

 仕方ないなあ。ここは助け出してやりますか!

「わあ、おばちゃん、これ、美味しいね! 味付けはどうやったの?」

「おや、コウは料理をするのかい?」

「こんなに凝った料理はできないけどね。でも、肉もハーブを掛けて焼いたら美味しいしさ。ハーブは薬草採取のついでに採れるから」

「コウは良いお嫁さんになりそうだね!」

「これだよ! 今は男だって料理ができた方がもてるんだぞ! 美味しい料理を食べたいのは男も女も関係ないからね!」

「その通り!」

「良く言ったよ!」

「よし、おばちゃんが教えてやろうかね」


「おい、クラウス、お前もよく聞いておけ」

「なんで俺が」

「お前がパーティリーダーだからだ」

「そうだ。俺たちも美味い飯が食べたい」

「あ、コウ、そのハーブっての、どんなのか教えてくれ」

「私も知りたい!」

「いいよ。時間がある時はさ、内臓を取って洗ってそこに詰め込んで焼くだけで美味しいから、手軽だよ」

「焼く時はこうやって出てくる汁を何度もかけてやるとぱさつかなくていいよ」

 おばちゃんが俺の言葉に付け加える。

 七面鳥を焼くのと同じだな。でも、あれってオーブンで焼くんだよな。焚火でできるものなんか?


 皆でわいわい料理の味付けのことを教わって食べて呑んで楽しかった。

 冒険者はもちろん、おばちゃんも酒に強くて、皆がそれぞれ持ってきた酒はどんどん減っていく。

 スウォルも同じくで、全く顔色を変えずに淡々と飲んでいる。

「これ、食べる?」

 人の輪に自分から入らず、眺めているだけれど、話に耳を傾けてリラックスしているみたいだから、そういう楽しみ方が好きなんだろう。

「ああ。……辛いな」

「だろう? でも、複雑な旨みがあるよな。やっぱり調味料って高いからな。奮発してくれんだなあ」

 出資者様々、スウォル様々だ。


 カレーを作りたくて、たまに市場でスパイス探しをしている。スパイスは高額で今はまだ手が出ない。だからこそ、お金を持つようになったら、見かけたらすぐに買えるようにしておくんだ。

「くく。コウは金のことばかりだな」

 傾けていた杯をテーブルに置いてスウォルが喉で笑う。

「だってさ。それがなきゃあ何もできないだろう」

「まあな。でも、あんたは他人が金を使うことを気にする」

 ちょっと褒められているような気がして、落ち着かない気分になる。

「あー、うん。あ、そうだ、俺、ようやく借金を返せたよ!」

「ああ、役所と冒険者に借りていたやつか」

「うん。メルのやつは今日のこの会に手ぶらで参加するのでチャラにしてくれるって」

 どんだけ、宴会好きなんだ。冒険者ってそういうイメージはあるよな。


「コウはこの町へ来て長いのか? 知人友人が多いな」

「え、ううん。ちょっと前だよ。その、誰にも言っていなかったけれど、親を亡くして遠い親戚が行商するのに同行したんだけれど、どうも、その人に置いて行かれたみたいで」

 以前から考えていた「言葉も分からない俺が一人でいる理由」を説明した。

 しどろもどろになったのは、嘘をつくうしろめたさからだ。スウォルには随分世話になっているしな。でも、本当のことを話して嘘つきだとか信用ならないやつだと思われたくなかった。


「そういえば、スウォルの誕生日はいつなの?」

 話を逸らしたくて逆に質問した。

 スウォルの誕生日はもう少し先だそうだ。

「じゃあさ、今度は俺が祝ってやるよ」

「へえ、楽しみだな」

「あー、でも、こんな風に貸し切って大掛かりに祝うことはできなさそうだけれど」

「別に同じにしてくれなくても良い。そうだな、では、さっき料理の話をしていたし、何か作ってくれ」

 その時、俺は閃いた。

「あ、じゃあ! カレーを作ってやるよ」

「かれー?」

 こっちにはないのか? 気が抜けたイントネーションで返された。

「俺の故郷の料理だよ。まあ、別の国から入って来たんだけれどさ。故郷で人気が出て、色々アレンジされて広く愛された料理だ!」

 胸を張るが、愛された、なんて言葉はちょっと恥ずかしいな。

「ふうん?」

 スウォルが目を細める。

 お、これは興味を持ったな。


「でもさ、調味料が複数必要で、高いんだよなあ」

「ああ、それで金のことを気にしているのか」

「うん。それに、何か目標があった方が色々励みになるし、楽しいだろう?」

 俺は普通のことを言っただけなのに、スウォルは口に持って行きかけた杯を置いて、きょとんと俺を見た。

 きょとん顔もイケてるなんて。ちっ。

「はは。そうだな。その通りだ。コウは本当に賢者だな」

「うう、褒められている気がしない」

「いや、俺も協力する」

 にっこり笑って返される。

 うん、これは引かないやつですね。

 でもさ、もう十分に色々してもらっているんだよなあ。

「あー、金とかは良いよ。自分で溜めるし。それに、スウォルの誕生日祝いも兼ねるんだしさ」

「では、コウが金を溜められるように協力しよう」

 正直、とてもありがたい。

「ええと、よろしくオネガイシマス」

 素直に受け入れたのに、また笑われた。

 ちょっと、スウォルさん、俺をペットか何かと思っていませんか?

 いや、スウォルの強さからしてみれば、俺の弱さってそのくらいのものかな?

 同じ人間だよ!

 異世界から来たけれどもさ!



「おお、愛しい君よ。俺の女神。意地を張らないで。そんなことでは、真実の愛へはたどり着けないぞ!」

 スウォルとカレー談義をしていたら、突然突飛なセリフが聞こえた。思わずそちらを見たら、筋肉が女性に腕を差し伸べていた。間違った。筋肉に覆われた大柄な男が、だ。濃い顔立ちだが、結構男前だ。眉毛も鼻も太く、唇は厚い。ついでに下眉毛も長い。うん、濃いな。

 言い回しも濃い。暑っ苦しい。

「流石はジェラルド! 詩人だな」

「言う事が違う」

「美しい言葉だわ」

「おお、愛しの女神!」


「……あいつ、初めにおお、って言わないと喋られないのか?」

 しかし、ここの世界の人たちって。あんなベタなセリフが評価されるんだな。

「おいつは「愛の狩人」と呼ばれているそうだぜ」

 クラウスがエールを片手にやって来た。

 スウォルのことはパーティを組むようになってから、クラウスたちにも紹介している。パーティに誘われていたのに、断ることになってしまってまごつく俺に、笑って背中を叩いて良かったなと言ってくれた。馬鹿力でむせたのは良い思い出だ。

「……そうか、愛の狩人か」

 それ以上、何が言える?


「ちょっと、ジェラルド、私という者がありながら!」

「おお、マイスイート。拗ねている君も可愛いよ。今日明日はずっと一緒にいてあげられるからさ。ご馳走を用意して待っていておくれ」

「あいつもあちこちにこなかけている人種か」

「羨ましいねえ」

 ヘルマンが料理を山盛りにした皿を両手に持ってやって来た。リーナスは別のテーブルでおばちゃんに捕まっている。こいつ、リーナスを餌にして逃げて来たな。マグヌスは意外にもメルと話し込んでいる。


 ジェラルドは俺もギルドで何回か話したことがある。

 悪いやつじゃないんだけれど、信じられない程のポジティブ男だ。

 とにかく、女性が何をしても、俺が好きだからだと思う。女の子たちはみんな自分の事が好きだから争いが怒ったらどうしよう、と本気で悩んでいる。

「俺のことを好きって思っていくれている子たちにはやっぱり格好良いところを見せてあげなきゃ!」

 って言ってCランクにまで上り詰めたのだからすごい。

 ジェラルドはこの町へ来て一年かそこらなんだそうだ。

 ふざけた言動をするが、実力は超一流で、英雄って呼ばれている。なんか、強い魔獣を討伐したらしい。


「あっちは英雄。お前は一冒険者」

 酔っているのか、クラウスがげらげら笑う。

 有名冒険者にはファンがつき、大勢になるとファンクラブがある。ジェラルドは大勢の取り巻きをいつも引き連れているんだそうだ。

 異世界、暇人が多いのか?

 娯楽がないだけかな。どの世界でもアイドルとそのファンというのはいるものなんだな!

 はっ。

 これが異世界ハーレム⁈

 う、羨ましくなんて、ないんだからねっ!


 うん。俺、異世界に来て、こんなに楽しいの、初めてだよ。宴会のダシだとしてもさ。皆が集まってくれて、一緒に騒げて。

 皆、日々生活するのにかつかつなのだから、無償の労働とか好意というのはそうそうないということくらいは知っている。

 でも、こうして集まって祝ってくれた。

 良い誕生日を過ごせた。

 次はスウォルの誕生日を目いっぱい祝ってやる!



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