13. 正当派チートとの違いを思い知る
クラウスたちを含め、今まで知り合った人間は破天荒なのが多かった。ちょっとばかり情緒不安定だ。
その点、スウォルは落ち着いているし、何事にも動じない。やつの傍にいると安心する。
それに、物知りだ。あちこち旅をしてきたそうで、その話を聞くのも面白い。
ほら、俺って町に引きこもっていたからさ。
魔獣は無暗に他者を襲うもののことを言う。目印は角を持つことだ。これは一本に限らず複数持つものもいるらしい。
一般的に角の数が多ければ多い程、また、大きければ大きいほど強いとされている。
「まあ、ガセだけどな」
「そうなの?」
「ああ。角だらけのドラゴンがいて、それを見たやつがそう思い込んだみたいだ。他にも角の数が少ないドラゴンがいるんだけど、そこはどう考えているんだろうな?」
「あはは。角が多い方が強いっていう考えが定着しちゃって、事実は目に入らないんだろうな」
「この話を信じるのか?」
「嘘なのか?」
「いいや」
「変なことを言っているって笑われたって今更だしな。俺、笑われ慣れた。角が多い奴に固執せずに済むってもんよ」
それよりも! ファンタジーの定番モンスターといえばドラゴンだよな!
こっちに来てゴブリンとかオークとかの話は聞いたことがない。それっぽい格好の魔獣もいないみたいだ。
でも、ドラゴンはいるんだな。
そっか、そっか。
それに、やっぱりドラゴンは強いっぽい。
角を持ち帰ったらそれが討伐証明になる。そして、強い魔物の角は大抵高く売れる。
後は毛皮とか肉とか内臓の一部とか。
魔物によって色々用途があって、覚えきれねえ!
でもって、それを全部分かってらっしゃるのがスウォル様だ。しかも、失敗しても怒らないし、ちゃんと教えてくれるし、もたもたしていても、少しも苛立たない。人間ができていらっしゃる。見習いたいね。
やってもらいっぱなしって気持ち悪いもんなんだな。実力差があるなりに、こう、何かしなくちゃって気になる。
俺が出来ることって何だ?
「コウは面白いぞ」
いや、まあ、それはそれで嬉しいんですけれどね。
なんか、こう、生きるか死ぬかの部分での話と同じように言われるとなあ。俺、よく面白いと言われるんだけれど、スウォルは何か。お笑いでも目指しているのか? その前に、この世界でお笑いってあるのか? 道化師とかそんなの?
スウォルは知識もあるし、強い。
単に剣技があるだけではなく、頑丈で耐性も高い。
戦闘をしていると、体力がどんどんなくなる。命の危険に晒される場面ってのはそうでなくとも神経を使う。
怪我をしたらHPがいくらか残っている、ではなく、すぐに手当てしたい。治療法として即効性があるのは魔法か効果と値段が高い薬だ。軟弱な俺はすぐに手に入れたね。母蛙から飛び出た子蛙にやられた時にもお世話になった。町に戻ったらすぐに補充した。
その点、スウォルは化け物だ。
「痛くねえの?」
怪我をしても慌てず騒がず、やせ我慢をしている風でもない。
「そうでもない」
平然と答えるのを見るとそうは思えないんですけれどね。ちなみに、怪我をしたのはその時見た一度きりだ。
でもって、俺が弱くてもそのまま受け止めてくれる。
ああ、弱いんだって思って終わり。
そんな感じだ。
自分ができるからできないのが分からないとか、痛みに強いから相手が大げさに痛がっているのが不思議だとかはない。
他と違って当たり前って感じで、コウはそうなんだな、という風に受け取る。
それを知って、俺は思わず語っちゃったね。
できなくても特になんとも思わないのが心地良かったんだ。
「何て言うかさ、人は人のせいで傷つくことって多いんだよ。でさ、その傷ついて悲しんでいるのって、意外と馬鹿にされることがある。そうされると、腹が立つのと同時に卑屈になるんだ。で、それを誤魔化すの。日々の出来事に疲れてくると、ああまたか、ってなって、なにくそ!とか、見返してやる!とか悔しい気持ちを糧にするってできなくなることがあるんだよなあ。まあ、傷つくことが怖くて、それを認めるのがみっともなくて、もっと言えば、自分と向き合って不甲斐ないところを受け止めきれないっていうかさ。仕方がない、次からはもっとうまくやろうなんて思えないの。だから、取る行動は人から離れること。ボッチになった方が楽なんだよな。でも、俺、この世界で一人でやっていくのなんて、到底無理。だから、スウォルが俺のやることに何とも思わないってのがすっげー、楽」
結局は自分ができないことを他の人がどんな風に思っているのか気にしているだけかもしれない。できない自分が悪いんだから、っていうのは分かるんだけれど、負担になるんだよな。
「ふうん?」
面白がっているのが分かる。先を促してくるので遠慮なく続ける。
「でもって、役割に応じて報酬を割ってくれるのも楽」
「だからこそできなくてもなんとも思わないんだろう。その分報酬でこちらが多く貰っている」
「うん、でもさ、気持ちの負担がかかるじゃん。もたもたされるとイラつくし。危険があるところで余分な時間を取っていたら、余計危なくなるしさ。なんかさ、スウォルってそういうところ泰然としているから、やっぱり強いんだろうなあって思うよ」
「まあ、確かに強いな」
しょっているとは思わない。自分の実力を正確に測ることができなかったら、それは死に直結する。
「俺、スウォルとパーティを組めて良かったよ!」
友情! 青春って感じだよな。
あ、でも、今、俺、黒いことを考えました。
ちっ、男前の微笑なんざ、見ても嬉しくねえよ!
スウォルは重い剣も軽々と振り回す。
剣って、鉄の塊だから重いんだよな。大抵がそんなに切れ味は良くない。日本刀のように鋭いものはその分繊細で、血脂がついたらすぐに手入れをしてやらなければならないらしいよ。こっちの剣はそこまで鋭くなくて、力技で叩き折る側面もある。
なのに、スウォルは魔獣を一刀両断にする。
タイミングとかコツとかの問題なんだって。
聞いても俺にはできなさそうだから、深くは追及しないで置いた。
しかし、魔法剣士である!
魔法だ!
見せてほしいと言ったら、あっさり次の魔獣との戦闘で使ってくれた。
スウォルが「踊れ、回風」と言った途端、幾つもの竜巻ができたのを目の当たりにして腰が抜けた。やっべえ、規格外チートすぎんだろ!
遠くにできた風の渦がびょおうっていうそら恐ろしい音が聞こえてくる。もう自然災害の域じゃありませんか!
あ、魔獣が巻き込まれて舞い上がっていく。何匹もいたんだな。まとめて空中遊泳している。
合掌。
しかも、けろりとして、魔力欠乏何ソレおいしいの?って感じだし!
俺、異世界転移して規格外チートのおこぼれに預かっていますって、そんなラノベがありそうだな! 実際に本当にこれっぽっちも役に立っていないけれどな!
くっ、俺が美少女だったら!
って、それ、本当にラノベ主人公じゃね?
異世界から転移してきた新米美少女魔法使いをフォローする規格外チート主人公。うん、アリだな。
……たゆんたゆんがなくてすみません。
いっそ、土下座りてえ!
土下座れば、土下座れど、土下座る時!
うん? なんか変だな?
ま、いっか。
でもさ、それって好都合なんだよな。
「なあ、ちょっと魔法の練習をしても良い?」
「ああ、いいぞ」
スウォルが解体しながらあっさり言う。
これほど規格外チートなら、俺が試してみることなんて、大したことじゃないだろう。
「刺せ!」
俺の予想通り、水の矢が飛んでいく。
「んん、やっぱり威力は落ちるか」
口ではそう言いつつも、にやけるのを止められない。
コツは水の矢を思い浮かべながら呪文を唱えることな。異世界魔法の基本だよな!
長い正式な呪文は「間違ったら魔法が飛んで行かないこともあるらしい」
「こともある」だ。
短縮することもできるんだ。
なんなら、「水の矢よ、刺せ!」とか言葉を入れ替えて使ってみようかな。
んでもって、最終的には無詠唱でできないかな~なんて。
憧れでしょう、無詠唱!
……できませんでした、無詠唱。
やっぱり壁は厚かった。
ん?
何の壁かって?
そりゃあ、チート主人公とチートなし一般人を隔てる壁だよ。
とんでもなく厚そうだよな!
あ、練習は散々しましたよ。魔力が空になるまで試した。休憩してもやった。
その間に仕留めた獲物はスウォルと一緒に解体しました。その間に魔力も回復するしね。
そして、スウォルは本当にチート主人公でした。
できちゃったんだよ、無詠唱!
これ以上短くできないと言う呪文を、イメージで補うことで更に縮めてやるんだと説明したら、あれこれやるうちに、あっさりマスターしやがった。無詠唱に至っては、発案者の俺が出来なくてスウォルができた。
どういうことだ⁈
スウォルが無言で視線をやったら地水火風の魔法が!
つか、四大属性全部で無詠唱使えちゃうの? 使えるようになっちゃったの?
「ふうん、イメージか」
とか言いながら、夢の無詠唱を成功させやがりましたよ!
この正統派チートめ!
「コウ、感謝する。いつかこの借りを返そう」
「いや、俺には結局できなかったことだしな。それだけスウォルがすごいってことだろう。まあ、なんだな。スウォルが強くなってくれたら、パーティを組んでいる俺の生存率も上がるってもんよ!」
だから、今後も魔法の練習をさせてね?
「では、借りではなく謝礼として、困った時には助けてやるよ。俺の名を呼べ」
キター!
困ったときのチートキャラクターのオーディエンス!
ひゃっほう!
いやいやいや、俺はだな、こいつのことを気に入っているんだよ。
「うん、ありがとうな。困った時は遠慮なく呼ぶよ。スウォルも、俺が助けられることはないと思うけど、困った時は言ってくれよな!」
いいねえ、いいねえ、友情! これぞ、青春!
「俺が困った時に助けてくれる、か。そんなこと言われたのは初めてだな」
「あ、うん。俺も初めて!」
でも、俺、やっぱり黒いことを考えました。
ちっ、男前の照れくさそうな微笑みなんざ、見ても嬉しくねえよ!