Girl Clockworks006
「……御前に参りました、『陛下』……」
場所は変わってここはテラニウム王国王宮、この国の王が住まう所であり、政(まつりごと)が行われる場所でもある。その中の王の執務室にて、一人の若者が王の前に立っていた。片膝をつき、一礼してスッと立ち上がる。
「よく来た、我が息子『ルートヴィッヒ』よ……お前をここに呼んだのは、他でもないお前に一つ頼みがあるのだ……」
「何なりとお申し付けください。王である父上自らの願いとは何でしょうか?」
王にルートヴィッヒ呼ばれた青年は、さらさらした金茶色の髪の毛に、深い緑色の瞳をした非常な美男子だった。物語に出てくる王子さまそのものである。彼の前には、年代を感じさせる執務机に肘をつき、重厚だが座り心地の良さそうな椅子に座すこの国の王、『フィリップ』がいた。彼もまた灰金色の髪に、灰色がかった碧色の瞳の美丈夫だ。王がふむ、と王子に話し始める。
「ルーイ、お前はこの国の“聖女伝説”を知っているな」
王がルートヴィッヒを愛称で呼び、彼に確認する質問をする。
ーー“テラニウム王国の聖女伝説”ーー。それはこの国に住む者なら誰でも知っているような、この王国の建立と王家の創始の物語である。直接関係のあるテラニウムの王族、しかも次期王で王太子であるルートヴィッヒが、知らないわけがない。なぜ今、そんなことを尋ねるのか。意図の見えない父親の質問にもルーイ王子は律儀に返す。
「もちろん存じ上げております。我々はその偉大な勇者さまと聖女さまの末裔なのですから」
ルートヴィッヒが頷いて答えた。その声には、その身に宿る自らの血を自負している感情が感じられた。王もそれに首肯しながら続ける。
「その通りだ。我々の王家は初代勇者と初代聖女の直系の子孫と言われている。このテラニウム王国は、歴代の聖女が女神さまの神託を賜わることによって、発展してきた。そして今代の聖女は我が妻だ……」
そこまで言った王の言葉を聞いて、ルーイはハッとした顔になった。女神さまから神託を得る、つまり女神さまを降ろせる器を持つ者が聖女となる。そして聖女は王家との婚姻が義務付けられていた。ルーイの母親も正しく聖女であった。父王が今彼女の立場を持ち出してきたということはーー。
「我が息子ルートヴィッヒに命じる、我が妻であり王妃、そして今代の“聖女”でもある『フリーデリーケ』から女神さまの神託である。“次代の聖女”が目覚めたとのこと。速やかに次期聖女の元へ向かい、自身の半身として彼女を迎え入れよーー……」
「……御意に……」
ルートヴィッヒは王の前に身をかがめたのだった……。
歴史が、動き出すーー……。
その預言、謀言につきーー。