Girl Clockworks005
「……“目覚めた”……」
高い塔の中の一室のような、星に近い場所で一人の女性がひそやかに呟いた。窓からは王都の街並みが見える。下に目をやれば、よく手入れのされた庭が眺められる良い場所だ。一際明るい星の明かりが、その女性の顔を照らした。月だろうか、その光を浴びて輝く髪は、見事な黒髪。同じく黒い睫毛は、けぶるように長く、それに囲まれた瞳は淡いアップルグリーン。装飾の多い質の良いドレスから覗く白い肌は、いっそ青白くも見える。大きな窓辺に佇む彼女は、星空の光に照らされ、幻想的なまでに美しい。けれど、どこか人間離れした美しさは、無機質ささえ感じられた。紅い唇を震わせささやく。
「……長かった……時が終わる……」
何かの言葉の羅列だろうか、彼女の言葉を理解する者は今はここにいない。美しいが、表情のない彼女の瞳は遠くを映す。高価な調度品で固められた広い室内は、その華やかさに反して灯りがなく、薄暗い。ただ大きな星の光だけが窓を通してゆらゆらと、彼女の影を揺らしていた……。
Girl Clockworks005
「……“ファイアボール”!!」
森の中に元気な声がこだまする。少年が叫ぶと同時に勢いよく大きな火の球が出現した。
「その調子よ、アレン」
頷きながら少年を褒める少女はとんでもなく美少女。昼の温かな日差しを受けて、反射する艶やかな長い黒髪。少年を見る目は、鮮やかな緑碧の瞳。光をたたえていて、宝石のようだ。
「ありがと、アリス……」
アリスに魔法の出来を褒められて、照れつつも嬉しい気持ちが抑えられないアレン。だがしかし……。
(ホントに何でこうなってるんだろうなー……)
頭の中の冷静な部分では、どうしてこの冴えない自分が超絶美少女と魔法の練習デートみたいなキャッキャウフフしてるんだ!?と、絶賛白眼剥き中であった。
(こ、こんな、こんなリア充のチート勇者みたいな経験を僕なんかがしていいのか!?)
軽いパニックである。異世界の定番のような、美少女との出会い(エンカウント)を果たしたアレン。そんなある意味異世界の王道とも言えるけれども、彼にとっては非日常の中で、更に自分には非現実的なイベントみたいな出来事が起きるなんて。
(もうこれ、ご褒美?何の?僕今日死ぬんじゃないの?)
訂正、超パニックである。そんな内心嵐が吹き荒れているアレンをよそに、アリスは次の魔法のアドバイスを始めている。そもそもどうしてこんな状況になっているかと言うと、今朝のイザベラの言葉から始まったのだった……。
「おはよう、アレン。あの後彼女と一晩話してね、彼女しばらく家で預かることになったからね」
「…………え…………?」
昨晩、結局そのまま朝まで寝てしまったアレンは、朝起きて一番に頭と心臓を揺さぶられることとなる。
(ま、まあ、僕もなぜかアリスをお持ち帰りする方向で考えてたけどさ……あ、いかんいかん、お持ち帰りだなんて品がないや)
アレンは昨日遺跡でアリスを見つけた時のことを思い出して、ゲフンゲフンと咳をして邪な下心を追い払う。それにアレンも、もしかしたらそうなるんじゃないか、否、そうなったら良いなーという、希望的観測を持っていたことは否めない。だから、イザベラの言葉にそこまで驚かなくても良いはずなのだが……。
「部屋はとりあえず、あたしと同じ部屋を使うとしようかね。長期になるようだったら、追々考えよう」
「…………」
何と言って良いか分からない。アリスも起きてきた。昨日と同じ服だが、美しさは変わらない。
「おはよう、アレン」
「……あ、おはよう……アリス……」
透き通る緑の瞳で見られて、何もしてないのにどぎまぎしてしまう。
(結局彼女は何者なのか……聞いても良いんだろうか……?)
一晩話し合っただろうに関わらず、何も言わないイザベラに、どうしたものかとアレンは戸惑う。そんなアレンのモヤッとした気持ちを察したか、イザベラが声をかけた。少し苦笑している。
「と言っても、急に納得できるもんじゃないだろうさね。昨日アリスから彼女のことをあらかた教えてもらったんだが、到底一日で理解できるような話じゃあなかった。あたしも上手く人に説明できる自信がないんだ……ただ、君に害を及ぼすようなことはしないだろう。あたしはこれでも人を見る目はあるつもりだ。そこはあたしが保証するよ」
「……そっか……」
イザベラにこう言われてしまっては、問いただすことはできない。それに、イザベラの言う通りだとすると、もしアリスから自身の正体について話してくれたとしても、自分が理解できるかどうかは分からない。それに何となくだが、アレンにも彼女が他の人を害するような人には見えなかった。美少女だと言う色眼鏡を外したとしてもだ。
(まあ、僕も得体の知れない子どもだけど、拾って置いてくれてるし、害がないならいいかな……)
アレン自身、身元も何も分からない人物であるが、イザベラは快く手元に置いてくれている。詳しく話してくれなくても、文句を言える立場ではない。イザベラが申し訳なさそうに言った。
「あたしの口から今言えるのはこれだけだ。もちろん、アレンがどうしても不都合がある、嫌だ!と言うのなら、別の方法を考える。どうだい?」
「そんな……嫌だなんてことはないよ!」
思わず食い気味に言ってしまった。自分でも想像以上の大きな声が出て、恥ずかしさに顔が熱くなってきた。隣に座るアリスの顔が見られない。慌てて顔を伏せるアレンを、イザベラが優しそうな顔で見た。ふ、と笑って言う。
「そうかい、なら良かったよ。アレンには無理を言うね。だけど、本当に嫌だったらいつでも正直に言うんだよ?負い目なんてそんなもの考えなくたって良いんだからね。今回の件だけじゃなくてもね」
「……母さん……」
アレンは、イザベラの不意打ちの気遣いの言葉に、自分の瞳が潤むのを感じた。目蓋の裏が熱くなる。涙を零すまいと、必死で目頭に力を入れる。だが、薄い膜が張るのを止めることはできやしなかった。思えばこの世界に来て、不安でーーイザベラという安定した心のありかを手に入れたあとでもーーどこか気持ちが晴れることはなかった。本当にここにいてもいいのか、いつか追い出されるのか、自分は何のためにここにいるのか、僕は何者なのかーー……。
(……そうか、僕は焦ってたんだ……いつか自分の居場所が無くなるんじゃないかって)
アレンは自分の中の漠然とした不安を、初めて形として認識した。神さまにも会うことなく、何の理由も得られないままこの世界に放り込まれたような状況で目覚めたアレン。何も分からない世界で、チートもなく、身のすくむ思いをした。イザベラに出会えたことは本当に幸運だったとしか言えない。でも心のどこかで、彼女を頼ってはいけないと思っていた。実際頼らずには何もできなかったのだが。それでもいつかは離れようと、自立して、この世界で“独り”で生きていこうと決めていた。そんな彼の気持ちを見透かしたように、イザベラは先ほどの言葉を贈ってくれたのだ。
(やっぱり、彼女には頭が上がらない)
「……母さん、ありがとう……」
アレンは涙を我慢しつつ、恥ずかしそうに照れながらも、その言葉を述べた。イザベラも嬉しそうに笑顔で返した。
「あたしは良い息子をもったもんだ。さて、朝食にしよう。アレン、手伝ってくれるかい?アリスは、台所狭いからね、座っててくれたらいいよ」
「りょーかい……!」
アレンは台所に向かうイザベラを張り切って追いかける。そんな二人の様子をアリスはどこか不思議そうな表情で眺めていた……。
朝食も終わり、さて今日も野良仕事に精を出すか、と立ち上がると、そうそう、とイザベラから声がかかる。
「言い忘れてたが、彼女、アリスは魔法が得意らしいよ。アレンの魔法の練習に付き合ってもらうと良いんじゃないかい?」
「そうなの……?」
確かにアリスの眠っていた遺跡で地面もろとも天井を吹っ飛ばす大層な攻撃?魔法を見せてくれましたけども。その後の移動で、光学迷彩かと見紛う隠密?魔法も。
(あれを魔法と言っていいのかは、甚だ疑問だけれど……)
何だか複雑そうな顔をしているアレンを見て、イザベラが苦笑をこぼす。
「確かに、アリスは謎のある女の子だ。持ってる力もちょっと変わってるかもしれないさね。まあ、深く考えずに楽しんでみたらどうだい?彼女のことを少しずつ知る良い機会になるんじゃないかね」
「……そうだな……」
それもそうだ、とイザベラの言葉に頷いて、アレンは午後の予定を思い巡らした……。
イザベラに言われて、アレンは畑仕事が終わった後、アリスに声をかけてみた。イザベラは、薬草から作った薬を薬局と呼べる所へ納めに行っている。
(というか、アリス、部屋で半日何してたんだろう……)
外に出たらあの美貌だ、否が応でも目立つだろう。彼女はイザベラさんの部屋で今日は過ごしていたはずだ。イザベラとアリスの部屋をノックする。
「アリス、ちょっと良いかな?」
「……どうぞ……」
扉の向こうから了承の返事が返ってくる。そっと静かに彼女の部屋のドアを開けた。
「えーと、入っても良い?嫌なら食べる所で話すけど……」
「大丈夫、入って」
「じゃあ失礼して……」
アレンは部屋の中へと足を一歩進めた。平静を装ってはいるが、心の中ではこんなことを考えていた……。
(って、女性の部屋って何か緊張するー!)
抑えようとしても勝手に胸が高鳴る。今から入る部屋は元々イザベラさんの部屋だ。母とは呼んでいるが、血は繋がっていない。彼女は、年齢的にはアレンのことは息子としか見ていないだろうが、アレン自身は前世でれっきとした成人男性であった。女性の部屋に入るというのは、いやでも意識してしまうものだ。その上、今はアリスもいる。絶世の美少女と、二人きり部屋の中。男なら興奮するなと言うほうが無理である。
(……ダメだ……落ち着け自分。挙動不審になってどうする)
物珍しくてつい部屋の中を見回してしまいそうになる衝動を抑えて、アリスのほうを見る。と言っても部屋の中はシンプルで、服をかける造り付けのクローゼットに木でできた机、椅子、本棚、そしてベッドくらいしか置いてなかった。シンプルで潔い。アリスはそのベッドの上に腰掛けていた。ただそれだけなのに様になるほど美しい。と同時に、何とはなしにどきりとするシチュエーションである。
「どうぞ、座って」
「あ、ありがとう……って言っても用件は簡単なものなんだけど……」
アリスに椅子を勧められ、そう言いつつ、無下にするのも悪いしとアレンはとりあえずその椅子に座った。ふう、と軽く息をつく。
「母さん……イザベラさんから聞いたんだけど、魔法が上手いんだってね。僕も魔法の練習をしてるんだけど、良かったら教えてもらっても良いかな?」
「……魔法……」
そう口にして、黙ってしまったアリス。
(どうしたんだろう……)
何か変なこと言ったかな?と若干不安になる。しかしそれは杞憂だったようで、アリスは頷くと、肯定の意思を示した。
そうやって森に着くと魔法の特訓となるわけだが……。ちなみに、この森に来るまでもアリスは途中まで某少佐だった。ほとんど人が通らないような所まで歩くと解除していた。
「まずアレンが魔法を使う所を見せて」
「分かった……とりあえず簡単な、“ファイアボール”!」
アリスに言われて、アレンはいつもしていたように、魔力を意識してそれを発動させる。魔力が魔素に伝わる流れがキラキラと細かく輝いて見える。ややあって、掌の上に火の球が浮かんだ。アリスはそれを興味深げに見ている。
「……なるほど……これが今の“ナノマシン”の使い方……」
「…………」
はい、科学的ワード来ましたー!!うん、唐突に来たね!!反応しきれないよ!!アレンが戸惑う表情で、心の中では吐血笑顔で叫んでいた。ぼそりと結構重大な言葉を呟いたアリスは、そんなアレンを構うことなく彼との距離を縮めてくる。
「ちょっと触っても良い?」
「え、と、いいけど……」
(うわああああ……!!)
どこに?何を?どうやって?プツンとアレンの平常心は切れかかる。かろうじて表情だけ紳士を保てて……いるのか?
(落ち着け、自分!まだ理性は切れてない!!)
アリスは、平常と動揺の綱引き大合戦で内心大嵐のアレンの心など知らないように、表情一つ変えず彼の手に触れた。アリスの少しひんやりした手の温度がアレンの手に伝わってくる。自分自身の手も今はまだ子どもの手なので小さめだが、アリスの手も細く華奢だ。その繊細な指先がアレンの左手を弄っている。こそばゆくて得も言われぬ羞恥心に襲われる。アリスはアレンの指輪に興味があったのか、中指のイザベラさんがくれた指輪と、親指の元々はまっていた指輪をじっくり眺めている。
「……アレンは今の力……魔法をどうやって出したの?」
「……どうやってって言われても……こう、魔力が空気中の魔素に伝わって、頭の中のイメージが形になるような……そんな感じなんだけど……」
アリスに聞かれて、今度は本当に答えに戸惑ってしまう。アレンの魔法の行使の仕方はけっこうアバウトだ。イザベラさんから本を借りたり教えてもらったりして、使ってみてはいるけれど、本当は杖を使わないと発動しにくいらしいし、呪文も長いのは難しいので正確に発音できてる自信がない。とりあえず、本当にイメージを頼りにしている。アレンの答えに、アリスは軽く頷き、また質問をした。その間アリスはアレンの手を握ったままだ……。
「魔法を使う時、アレンはどの指輪を使用しているの?」
「……どの……?って、それはこれか、それかってこと?」
アレンは左手の二つの指輪と右手の人差し指の指輪を指した。が、アリスが示したのは左手の二つの指輪のほうだった。右手の人差し指の指輪は、アレンがちょっと厨二病を発症、ならぬ発揮して、太めの木の枝をくり抜いて作ってみたものだ。もちろん、それで魔法が使えた!なんてことはありはしなかった。ただの木目の木の温もりがあるリングである。
「魔法を使う時は真ん中の、中指の指輪を使用してるよ……それはイザベラさんが作った指輪なんだ。魔法を発動し易くしたり、身を守る魔法が仕込まれてるみたいだ」
「……そう……親指の指輪は使わないの?」
彼女の視線がアレンの親指にはまっている黒金色に鈍く光る指輪に向いている。いまだに彼の手はアリスの掌の中だ。アレンはふと握られている自身の左手を見た。そこには二本の指に指輪。一本は出処が知れている。
(……そう言えば、この親指の指輪、気にも留めたことなかったなー……)
でも、多分前世からの何らかの影響で引き継いだものかもしれない、とは思う。イザベラに発見される前からしていたのなら、きっとそうだろう。
「それは使ってないよ。使ったことないから分からないけど、魔道具か何かかな?」
答えながら考える。いつ手を離してくれるのか……じゃなくて、この指輪の効果だ。神さまが転生した時にくれたチートとやらがもし他にあるならば、この指輪がもしかしたらそうかもしれない。
(今度、意識してこの指輪で魔法を使う練習をしてみようか)
アリスはしばらくアレンの左手を握って、指輪を見比べていたが、少ししてそっと離した。失われたアリスの掌の感触に、アレンが一抹の寂しさを覚えたのは内緒だ。アレンの手を離したアリスは、自身の手を彼の前に見えるように差し出した。彼女の右手には、石等は付いていない、デザインもとてもシンプルな少し幅の広めの赤金色の指輪が中指にはまっている。光に透けて、菱形が重なったような星の意匠が施されて見える、上品な指輪だ。
「『セイン』」
唐突にアリスが呟いた。すると右手の指輪が輝き始め、辺りに電子式が広がったかと思うと、一瞬で炎が二人の前に現れた。
「……うわ……」
アレンも思わず声を上げる。アレンやこの世界の人たちが魔法を行使するのとはやはり手順が違うようだけど、その鮮やかな手際に感動した。先程の言葉が呪文かどうかは分からないが、短い言葉に速やかな術式の展開、そして発動ーー。見事だった。
「綺麗……アリスは本当に魔法、が上手だね……」
「ありがとう」
魔法と言っていいものか、迷って変な間になってしまったが、アレンは瞳を輝かせながら率直な感想を述べた。揺らめく炎に照らされる彼女の姿も美しい。アリスはその炎をすっと消すと、アレンに向かって口を開いた。
「アレンの魔法も上手よ。想像力(イメージ)も確かに大事。でもイメージだけでは“術(わざ)”は発動しづらい。思ったことを確実に具現化したいのなら、“式(コード)”は外せない……」
そう言ってアリスはふわりと右手を宙にやった。円を描くように動かすと、淡く先程の電子式のようなものが彼女の周りに浮かぶ。その式はゆっくりと回転しながら、彼女を緑の光で照らす。それと同時に水がどこからともなくわきあがり、その光の式に沿って回り出した。何とも幻想的な光景である。
「……本当にキレイだ……」
アレンは、ほう、と溜め息をついた。
「これは“水”の式。式があれば、呪文が無くても、術は発動する。でも厳密に言えば、式だけでも、術を思う存分に行使するには要素が足りない。“ナノマシン”、この国の人たちが“魔素”と呼ぶものに、指示を与えることが必要。指示を与えて、式を発動させる。わたしのこの指輪には、魔素にそれぞれの現象を起こすよう指示を与える式が組み込まれている……」
「……へ、へえー……」
また出たな、ナノマシン。超科学的用語。アレンは、なまじアリスの言っている言葉を知っているだけに、返答に困る。淡々と言うアリスに、かろうじて相づちをうった。
「じゃ、じゃあ、僕も式を覚えればもっと上手くなる?」
「そうね、今の状態のアレンでは、まだ魔素を自由に扱うことは難しい。式を使って呪文で補助するのが良いと思う」
そうして、最初の練習の場面に戻るのだ。
(というか、“今の状態”の僕って何だろう……進化でもするのか。僕はポケモンか。そしてどんどん指輪がチートになってゆく……)
心の中でブツブツ呟きながらアレンは練習に励む。アリスは、アレンの指輪に更に魔法を使いやすくするための術式を組み込んだ。こう言うと大層だが、数秒で終わった。アリスに再び左手を握ってもらい、中指のリングに式を書き込んでもらうだけである。イザベラさんにもらった指輪がどんどん普通から遠ざかっていく。見た目は至って地味なのだが。
(それと、ほんとご褒美……)
美少女とこんなにイチャイチャ(アレン比)できるなんて。煩悩を通り越して、仏顔になる。魔法のほうはと言うと、アリスに式を組み込んでもらっただけでも、ずいぶんと発動にかかる時間が速くなった。やはり本来の使い方というか、正式な手順を踏んだほうが何事も良いということだろう。
(……でも、こんな、この世界の人も知らないような、この世界の秘密みたいなことを知っているなんて……)
魔素と呼ばれるナノマシン、それを利用した魔法世界、超文明を思わせる遺跡、そこにいた不思議な力を持つ眠れる美少女アリスーー……。
(いかん、全てが男のロマン過ぎる……)
アレンは一人興奮を抑えきれない。いかんいかん、と目の前のアリスと、魔法の練習とに集中力を向ける。水の式を用いて、ウォーターボールを成功させたアレンにアリスが分からないくらいの笑みを浮かべた。
「アレンは本当に上手。すぐに他の式も使いこなせるようになる」
「……ありがとう……アリスの教え方と、この式のおかげだよ」
(やっぱり僕は今日死ぬようだ)
天使だ、天使が微笑んでいる。いや、女神か……?ヤバい、お迎えか……って、ちゃうちゃう!!また関西弁でツッコんでしまった。脳内で一人ノリツッコミを繰り広げているアレン。そんな彼をアリスはじっと見つめると、こう言った。
「アレン、貴方は“ナノマシン”という言葉の意味を知ってるわよね?」
「ぶふっ!!」
やっぱり僕は今日死ぬらしい。
その衝撃、致死的美少女ミサイルにつきーー……。