僕は模範生にはなれない。幼少期#2
小学校入りたての僕はやっぱり変だった。
恐らく、先生方も対応に困っていたのではないのだろうか。
いや、この場合は僕が困らせていた。
と、訂正しよう。
小学校の方針として、どんなに家が近くとも、ランドセルに防犯ブザーをつけることが義務付けられていた。
僕はこの防犯ブザー着用についていくつか疑問があった。
いや、抜いてたりボタン押したりしてる暇あったら叫べばよくね?
むしろ緊急時用のモノを緊急時に適切に使用できるのか?
僕たちは小学生なのだ。
万が一があれば大声で助けを求めた方がいいに決まってる。
と。
それを先生に述べたところ、こんな返答が帰ってきた。
「じゃあもし君を連れてこうとする悪いおじさんが、君の口を塞いだらどうするの?」
あぁなるほど。
そうなっては助けを呼べなくなるな。
しかしそう思ったのも束の間、また新たな疑問が出てきた。
「防犯ブザーも同じじゃない?むしろ何かしようとしてたら捕まるよね。」
あ、それもそうかと先生。
「じゃあ捕まる前に走って逃げて、その間に防犯ブザーを鳴らせばいいでしょ?」
「それも大声出した方がいいんじゃない?」
「・・・・・それもそうね。でも、安全のためだし、偉い人が決めたことだから……。防犯ブザー持ってるだけで悪い人は近づかないかもしれないから、一応着けてこよ?」
「はぁい」
これにもしようとすれば反論できたのだが、学校の方針には何故か反射的に逆らえなかった。
いま思うと、このとき辺りから学校の為に~とか、学校の方針で~みたいな、学校の為に貢献する役職に興味を持っていたのだろう。
翌日、防犯ブザーをランドセルに着けてきたはいいものの、登校中にどこかにぶつけたらしく、ずっと耳障りな音を鳴らしながら校門をくぐった僕に、慌てて先生が駆け寄ってきた。
「これ!どうしたの!?なにがあったの!?」
「なんか、ちょっと前からずっと鳴ってた。」
僕は全然なんとも思っていなかったのに対し、当の本人である僕よりもあわてふためいている先生。
僕が使っていた防犯ブザーは紐を抜くタイプのもので、紐が抜けてはいないのに音が鳴っている。
どこが壊れたのかはわからないらしく、ブザーを急いでランドセルからとり、何処かへ走っていった先生。
なるほど、すでに姿は見えないのにこんなに大きな音が聞こえるのか。
このタイミングで僕は防犯ブザーの偉大さを知ったのだ。
いや、そんなことよりも褒めるべきは適切な対処をした先生だ。
瞬時に状況を把握して、被害を最小限にするために防犯ブザーを持って、どこかへ走っていったのだから。
2階の教室近くになると、流石に音は聞こえなかったのだが、耳をすませば聞こえるらしい。
耳のいい生徒が口々に言う。
防犯ブザーは素晴らしいものだと知った僕は感動していた。
いや、本当に迷惑なだけなのだが……
人は誰しも失敗から学ぶものなのだ。
この言葉を聞く前からそう思った僕はもはや学者レベルだ。
僕はその防犯ブザーがどうなったかは知らない。
先生に返してと聞いてみたところ。
「あれは返せなくなっちゃったんだ。いつか直してかえすからね!」
と。
あぁなるほど。
壊したのかと悟った僕。
この経験、この心境を小学1年生で体験した僕は、誰よりも濃い小学校生活を送ることになるのだった……………