オカルト相談バー シャンソン
佐藤はなぜそうなったのか? 自身のお人よしさを恨んだ。
ここは、飲食街の中心にある古びたビルの1つ、地下1階に存在している店だ。
店の名は〝オカルト相談バー シャンソン”
嫌いな物ベスト2に深く関わってしまっているような気がする。イライラして酒瓶が目の前にあるし、やけ酒したくなる気分が最高潮だ。
19歳だが、佐藤はまじめな方でもなかったので隠れて酒を飲んではいた。
バーデンダーが各人に頼んだ飲み物を渡す。
「筑波ちゃん、お友達を連れてきてくれたの? 私感激しちゃう」
細マッチョ系で化粧をし、長い茶髪を後ろに結んでいる綺麗め男の口からそんな言葉が出てきた。
「私、怪談相談バー〝シャンソン”のオーナーでママの川上よ。〝ママ”って呼んでね」
ウィンク1つされる。
「おかまバーか?」
「馬鹿。この人はあっち系なんだよ」
「そこの2人! 小声だけど聞こえてるわよ。今日はそちらのお嬢さんの相談じゃないの?」
「な、なんでわかったのですか? 私の相談だって」
久野は驚きのあまり、オレンジジュースが入ったグラスを倒しそうだった。
「お・ん・な・の・か・ん」
「馬鹿言え、推理でしょうに」
馬鹿なことをこれ以上言いだされる前に、佐藤は考えを述べることにした。
「筑波はこのお店に通っているらしいし、初めての客を2名連れているということは相談者を連れてきたということになる。だから、自分と久野さんのどちらかに絞られるよね」
頼んだウーロン茶を飲んで、続けた。
「自分がおかまバーか? と筑波に茶化したことで、相談者からはずれる。何故なら、相談者としてはあまりにも緊張感に欠けるからね。相談者特有の思いつめた顔もしてない。そんな顔はどちらかというと、久野さんが思いつめている顔だからね。バーで接客しているからそれくらいの観察能力は持っているでしょう」
口笛が響いた。
佐藤の推理に感心した筑波が発したものだ。
「すごい推理力だわね。推理ドラマやアニメの探偵並みだわ。筑波ちゃんのお友達は探偵事務所でも将来開く予定なのかしら?」
川上に拍手を送られたたえられても佐藤は嬉しくはない。
「将来は探偵事務所ではなく弁護士事務所を開く予定ですけどね」
声に怒りを含んでいると思ったが、一番嫌いなワードを続けざまに言われて受け流せるほど大人ではなかった。
「それに、どちらにも例えられたくないね。自分としては当然の観察能力なんだから。川上さんもそうでしょう?」
「でも、私は推理や観察したから出した答えではないの。私は当て物が得意なだけで、不思議な能力で色々なことがわかっちゃうのよ」
川上は筑波に目配せした。
「筑波ちゃんお友達泣かせてよいかしら?」
「あまりいぢめないでくださいって」
筑波が苦虫をつぶした顔をした。
「なに」
川上はしゃがんでカウンターの下で何やら探し出す。探し終えたかと思ったら、右手に水晶玉を持っていた。佐藤の明らかに嫌いなやつだ。
「ふふふふっ。本格的に見ちゃうぞぉ。君の中身を」
「気持ち悪い」
「占い師みたいですね!」
水晶玉を見た久野ははしゃいぐ。女は占いが好きというのは本当のことらしい。
「占い師でもインチキ占い師だ」
こんなオネエ、ネオン街の片隅でやっているインチキ占い師と同じだ。
「はいはい、集中したいから黙っていて」
水晶玉を睨み付け、何やらぶつぶつ言いだした。
こいつは大丈夫なのかと、背中から変な汗が出てくる。
呪文みたいなのが終わったと思ったら、今度は水晶玉超しに佐藤を眺めている。
「君、小学生のキャンプ。肝試しあったでしょう」
「それが何か?」
「肝試し実行委員でおどかし役になったでしょう。余計なことをしたわね。筑波君がお化け嫌いだからって必要以上に脅かすことなかったんじゃない」
勢いよく筑波は佐藤に体を向け、佐藤の両肩を掴んで揺さぶる。
「俺をおどかしたのはお前かっ! 佐藤」
「へっ? お前知っていたんじゃ」
「知るかっ! あん時怖くて熱出て大変だったんだぞ」
「ケンカは止めてくださいって」
久野が割って入ってきた。
久野が割って入ってこなければ、佐藤は筑波に首を絞められるところだった。そのくらいの勢いだ。7年前の出来事を根に持っていやがった。
「話は戻しまして、筑波が話したわけではなさそうですね」
「今初めて聞いたことを話せるかっ」
「ね、私の能力すごいでしょう?」
自慢気にウィンクを1つされ、寒気が背筋に走った。
「マスター、依頼者ですか?」
背後から声がした。