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事件の入口は向こうから

 やたらと薄暗い店内だと佐藤は思った。

 全体的にブラウンと木製の家具で統一され、おまけに上品な音楽が流れている。ようは、大人女子ウケする店。でも、メニュー表に親子丼やかつ丼がある。ちぐはぐしている。

「筑波は色々なお店知っているね」

「合コンすりゃ、お店の100件は知ることができる」

「大学生になってから軽すぎる男になったね」

 ウェートレスが注文と受けにきたので、とりあえず飲み物を注文する。

 全員が未成年であるため、酒のかわりにこの店オリジナルのリンゴ炭酸ノンアルコールカクテル。アルコールが飲めない客でもお酒っぽく飲めて好評です。という文字を見て、筑波が勝手に決める。

「ちょっと訳あり話なら、こういう静かで仕切りがある店がいいでしょう。あと、この店のリンゴ炭酸ノンアルコールカクテルは絶品だから来たんだ」

 向かい側に座っている女子大学生を見ると、メガネを拭いている。

 長方形の黒ぶちメガネ。それをかけると文学少女のイメージが強くなるのは、おさげのせいであろう。

「話って何?」

 嫌そうな顔をしているのだろう。なんて、佐藤自身は思ったが表面を繕う気はない。

「自己紹介がまだですよね。私は、久野 ゆずると申します。学年は1年生。貴方たちと一緒です」

「そぉ~なんだぁ~。一人暮らし? 親元? 彼氏いる?」

 場違いな質問をしだした筑波を肘でつっつき止めさせる。

「これ、合コンじゃないからな」

「知っているけど。これは、単なる世間話。俺は筑波で、不機嫌マックスなこの男が佐藤ね」

 店員がやってきて、飲み物を置いてくれる。

 飲み物の炭酸を眺めながら、佐藤は腕を組みなおした。

「自分に話って、昼間の事だね? 困るんだよ。普通の大学生に何ができるっていうのさ。助けを頼むなら、頼む人間違えているよ」

「それなのですが、一緒に証言してほしいんです。佐藤君の証言が必要なのです」

「なんで?」

「私だけの発言は弱いんです」

「襲われているから、弱いとかないんじゃないのかな」

「普通ならそうでしょうけど、相手が変ないちゃもんばかりつけてくるので第三者の証言があったほうが

強いですし」

 言いにくそうにあたりを見渡し、久野は少し小声で話しを進める。

「相手も弁護士をつけているのですが、相手側には姉がストーカー行為をしていると逆に訴えてきました。婚約もして結婚も近かったのに、一方的に別れ話をされて納得いきますか? 普通なら納得しませんよ。だから、納得がいくまで説明を求めに行ったのに、それをストーカーなんて」

「ストーカーというものは、相手が不快に思ったら成立するからね」

 佐藤はリンゴ炭酸ノンアルコールカクテルを飲む。

「おいおい、お前はどちらの味方だ?」

「味方? 自分は本当のことを言っているだけだよ。これ、改正ストーカー規制法にあるから後で詳細に調べてみるといいよ」

「でも、納得のいく説明をしていないのは、相手が悪いのではないでしょうか?」

「あのね、婚約は結婚と違って法律上の縛りがないの。納得のいかないのは違法でもなんでもないよ。ただ、結婚近いということでその資金の問題解決に話し合うことなら、ストーカーにならないけど。それ以外で、納得してないからってつきまとわれるなら立派なストーカー。今、女を否定したけど、性別は関係ないからね」

「だとしても、職場で言い広めるなんて。そのせいで姉は行方不明になったのです」

「で、自殺して幽霊になったと? バカバカしい。夏だからってその手のテレビ番組見すぎだって」

 まざと盛大なため息をついて、否定した。

 佐藤は怪談話は夏限定の風物詩としてもあってもいいと思っているが、あくまで娯楽として楽しむ場合のみである。実際に心霊現象を体験したなんてのは、精神を病んでいる人だけだと思っている。

 現実と虚構の区別がついてない人のみだ。

「おいおい。佐藤むきになるなよ。お前、腹減っているから怒りっぽくうなっているんだろう? 何か食べ物を注文してリラックスしないか? 俺は腹減っているから、佐藤や久野ちゃんが減ってなくても皆の分を頼むからな」

「それじゃぁ、軽い物にいてくれる? 自分は気分悪いからさっさとこれ終わらせて帰りたいんだけど」

「はいはい。この話で気分悪くなっても悪いって言ったらダメ。佐藤は弁護士になりたいんでしょう?だったら、なおさら我慢を今覚えないと。弁護の依頼人だってぴんからきりまでいるんだからね」

 筑波に諭され、本日何度目かのため息をつく。

 久野を改めて見ると、心なしか涙目になっている。

 言い過ぎたかもと思ったが、本当のことだから他に言いようがない。

「筑波。適当に頼んでよ」

 筑波のチョイスで、鳥のから揚げとフライドポテト、チャーハン3人前を頼む。

「んで、お姉さんってどこに行ったのか本当にわからないの? 予想もできない?」

「全く予想ができないのです。 姉の友達や知人にも聞いてみましたが」

「へぇ~。男の方はもう頭がイカれてそうだったな。何が何でも、お姉さんが悪いってしたいから、幻覚が見えちゃって」

 幻覚さえも女が悪いという男は、すでに精神科医へ通院するレベルだと佐藤は勝手に判断する。

「それとも、新興宗教並みに変なのに捕まったのかな?」

「筑波、現実的な話をしているんだけど?」

「まぁ、新興宗教とはいかなくても、実際に幽霊が見えたりして?」

「姉は、もう」

「違うって、ただの仮説だけど。実は生霊でしたぁ~ってオチはどう?」

 無表情はウェートレスがフライドポテトと唐揚げを持ってきて、テーブルの上に並べる。

「久野さんはマヨネーズ派? ケチャップ派?」

「私はどちらも混ぜる派です」

 久野はフライドポテトを2つつまんで、1つにマヨネーズをたっぷりつけ、もう一つにはケチャップをたっぷりつけた。そして、二つを取り皿で混ぜ合わせた。赤白のマーブル模様からピンクと肌色の中間色になった後、2本を口の中へ入れておいしそうに食べ始めたのだ。

 そんな食べ方があるのかと、佐藤は感心した。

「俺の話をきけって」

 筑波がふてくされた。

「ポテトを食べなって、この店のポテトの量が多いよ」

「それもこの店の売りだからな」

 筑波も1本取って何もつけずに口の中に放り込んで、咀嚼して言葉をつづけた。

「俺は男の方をもう一度説明聞くことがいいと思うけど。もし、本当に幽霊や生霊だったら、手かがりがつかめるじゃん」

「面白がるな。非現実的を現実的に言うな」

「面白がってないって、俺もまじめに久野ちゃんを助けたいと思ってアイディアを言ったまで」

「すいみません。この問題を解決するアイディアなら何でもいいので、言っていただけませんか?」

 ポテト一つをつまんで振り回しながら、筑波は説明をしだす。

「幽霊が見えるだのとか言っているなら、その手の連中に見てもらうんだよ」

「精神科に?」

「ちがーう! 幽霊が見えて会話ができる奴さ」

「なんだって?」

 筑波はつまんでいたポテトを食べ、ニンマリと笑みを浮かべた。

 佐藤は嫌な予感がひしひしと感じた。

 中学生以来厄介事に巻き込まれないよう気を付けて生きてきた。だが、今日は気を付けても気を付けても

事件の入口が向こうからやってくる。そんな感覚に急に襲われた。



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