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双子王と死の国  作者: 蒼銃
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宰相と将軍

●宰相と将軍

 サキはラトに引きずられて、水浴びに行っている。

 それを待つ間、ロウとマハは、二人連れ立って宰相、グィンド・ヤ・カドスに報告と相談を兼ねた話をしに向かっていた。

 宰相室に、グィンドはいた。短い明るい茶色の髪に、金の瞳、年はたしか42歳だったか。

 宰相室にはもう一人、巨躯の人物が立っていた。将軍、サーラ・ファンドルド。まだ弱冠35歳で将軍職に上り詰めた実力者だ。真っ赤な炎のような赤い髪が目印。

 双子王が室内に入ると、グィンドは優しい笑みを浮かべた。

「お帰りなさい。何かあったようですが、お怪我などはないようですね」

 グィンドはいつでも二人を気遣ってくれる。前王から仕えてきただけあって、その辺は忠誠心がとても深い。

 双子王もグィンドを心から信頼し、頼りにしていた。

「でかい拾い物をしてきたって?」

 逆にサーラは二人に遠慮がない。年の離れた姉のような存在が、サーラだ。

 からかうような視線に、口を尖らせたロウが反論する。

「大事なことなんだ。ちゃんと聞いてくれよ」

 一転、即座に引き締まる二人の大人の顔。ロウはこういうところはずるいと思っていた。いつか自分も余裕を持った対応ができるようになるだろうか。

「もちろんです。双子王よ」

 グィンドの静かな声が、宰相室に響いた。


 ロウとマハはお互いの見解を含めて、二人に話をした。

 サキという少女、死の国という聞いたことがない国の存在。

 大精霊への謁見。

 全て話し終えるまで黙って聞いていたグィンドは、先程とは打って変わて、いつもの冷たい顔をのぞかせた。

「その話は、どこまでが真実なのでしょう?」

「全部だろ」

 ムキになったロウが反論するが、敢えてそれには答えずグィンドは続ける。

「古代タージルト語が刻まれた印が、消えるものだとしたら? 娘に魔法痕と火傷の見分けはつかないでしょう。サキと名乗る少女が死の国のものだという証は?」

 第一に、とグィンドは言い募る。

「死の国が存在するという証拠がありません」

「それは」

「物証がないねぇ。もしも真実だとして、それだけ重要な役目を負った者が何の国交手段も持ってないってのはおかしい。護衛がいないのも含めてね」

 サーラも付け足すように言う。二人を納得させなければ、サキの手助けなどできない。

 それに、二人の言うことは最もだ。

 サキはほとんど身一つだった。護衛役らしき者の姿もない。武器さえも持っていなかった。

 聞いてたマハの心に疑念が渦まく。

 しかしロウは、

「二人が言いたいこともわかる。けど、俺は信じる。サキは嘘を言うような女の子には見えなかった。話した感じも」

 どこまでも真っ直ぐだった。それしか道を知らぬように、そこに進むしかないように。

 マハは、ふっと笑い溜息をついた。それでこそ、我が兄。

「二人の言葉に反論するなら、国の情勢が不安定なため国交手段を持ち出すことができなかった。同じく護衛がつかないことも理由として説明がつく」

「毒されたねぇ」

 サーラがからかうように言った。マハも自覚している。

 まだ説明できないことだらけだ。サキに話を聞かなければ。情報が少なすぎる。

「僕も、サキの話や行動には、説明不足を感じる」

「マハ」

 咎めるようなロウの視線を受け止める。ロウは感情で物事を語りすぎるきらいがあった。

 心情では、マハも信じてやりたい。サキという少女が嘘をついているようには感じなかった。

 しかし双子王ふたりが、根拠も信ぴょう性もないことを無条件に信じるわけにいかない。

「まずは死の国が実在するか、からだ」

 マハが言うのに、グィンドも頷いた。

「話しを聞くところからですね。地図を見せて様子を見ましょう」

「わかるまで何もするなというのか?」

 ロウがグィンドに噛み付く。

「存在するかわからない国のために、見ず知らずの者を大精霊に会わせるわけにはいきません」

「大精霊に直接聞けばいいじゃないか! 死の国は存在するのかって!」

 ロウはヒートアップしていく。マハが腕を掴んで止めるが、振り払われた。

「死の国が瀕している、それを見過ごすことはできない!」

「アルデリア王」

 グィンドが、名を呼ぶ。ロウは顔を強張らせて次の言葉を待つしかない。

「冷静に。大精霊に危害を加えられることになれば、我が国の危機です。それだけは避けたい」

「……ッ俺が、大精霊に聞く」

「大精霊の謁見には時間と労力、王の負担がかかり過ぎます。一年に一度でも大変だというのに、王の負担を増やすわけにはまいりません」

「……!」

 ロウは行き場のない怒りともどかしさを両手を握りしめることで堪えた。

 その場にロウの味方は、マハだけだという事実がロウに突き刺さる。

 踵を返して部屋を飛び出すロウ。声を上げかける二人を制して、マハが後を追った。



●2

 大股で城の廊下を歩くロウと、そのあとを必死に後を追うマハ。

 ローブで歩く足では、とてもじゃないが追いつけない。

「ロウ」

 答えない。

「ロウ」

 マハの強めの呼びかけにやっとロウは足を止める。

 背中を向けたままロウは言う。声が震えていた。

「降霊官なしで大精霊を召喚する」

「ロウ」

「決めたんだ」

「何をそこまで意地になってる? グィレドも言っていただろう。死の国が本当に存在するかはわからないんだ」

 ばっと振り返るロウ。炎のような真っ赤な瞳が、今にも爆発しそうだと思った。

「せめてもう一度、サキと話そう。行動を起こすならそれからでも遅くない」

「……」

 一瞬考える様子を見せたロウは、渋々頷いた。

 激していたロウの説得が叶ったことに心底ホッとするマハ。サキの名を出したことが吉と出たのか。

 そっとロウに近づき、腕をとる。

 さきほどまでの激情は打って変わってロウは静かだった。その静けさに不安を覚えないわけでは、なかったが。

 サキがいるのは風呂場だ。

 俯いてしまったロウを引きずるように、マハは城内を歩いた。


 風呂場の前では女官が一人立っていた。二人を見咎めると、さっと頭を下げる。

「双子王様」

「ラトはいるか?」

「はい、いらっしゃいます。ただいま入浴中です」

「ああ。入浴が終わったら、僕の部屋に来るよう伝えてほしい。連れの少女も一緒に」

「畏まりました」

 女官に用件だけ伝えると、二人はマハの部屋に向かった。


 マハの部屋はマハの執務室の奥にある。

 日当たりのいい南窓だ。室内には本も多く蔵書されていた。マハの私物だったり図書館から借りてきたものだったりする。

 あと目につくのはガラス細工だった。これは風の国の特産物で、わざわざ風の国から取り寄せてコレクションしている。マハのお気に入りだった。

 マハは部屋の入り口に置いてあるベルを鳴らした。

 暫くして世話係が一人現れる。

「紅茶を。ロウの分も頼む」

「畏まりました」

 世話係が消えるのをみて、ベッドに座っていたロウがぶすっつらで言う。この世が終わったような顔をしていた。

「紅茶なんていらない」

「紅茶には精神を安らげる効果がある。もう少し頭を冷やしたほうがいい」

「よけーなお世話」

 そういうとロウはベッドに横倒しに倒れる。やれやれとマハは呆れ顔でため息をつくが。今ここでこうして目の前にロウがいることが、よっぽど安全なのにほっとした。

 紅茶も運ばれてきて、二人が一服していると、部屋の扉がノックされる。

「どうぞ」

 ヒョッコリ扉の隙間からとラトが顔を覗かせた。

「お待たせした?」

「いや、ちっとも」

 先ほどとは違う装いのラトが一度引っ込み、ぐいぐいともう一人を強引に入れる。

「わ、あの」

 サキだった。小綺麗になり、服も火の国の装いになったサキは、見た目だけは立派な国民だった。

 恥ずかしそうにもじもじしてる。

「似合うぜ。国民って言われたら信じる」

 ベッドから起き上がっていたロウが言う。歯の浮くセリフをなんでもないように言うのがロウのいいところだ。

「あ、ありがとう」

 マハは置かれていた椅子から立ち上がり、再びベルを鳴らす。

 その間にラトも部屋にはいって扉を閉めた。

「そんなとこにいないで、こっち来いよ」

「ほら、行こっ」

 ラトに引きずられるようにして、室内に入るサキ。物珍しそうに室内を眺めガラスの調度品に目を止めた。

 世話係に追加の二人分の紅茶を頼んだマハが言う。

「手にとってみると良い。光の加減で色が変わるんだ」

 目を輝かせて、鳥のガラス細工を一つを手にとって慎重にそれを眺めるサキ。その姿はどこにでもいる少女だった。

 しばらくして紅茶が運ばれて来る。椅子に座り、マハの仕草を物珍しそうに眺めていたサキは、真似るようにして紅茶にはちみつを垂らす。

「最初は少なめがオススメよ! そこから自分好みに調節していくの」

 ラトの説明になるほどと生真面目に頷いた。

 スプーンでかき混ぜ、ふーふーと息を吹きかけ、ひとくち。

 ぱぁっとサキの顔が輝く。ふたくち、みくち、止まらない。

 その様子を楽しそうに眺めていた3人は顔を見合わせて笑いあった。

「気に入ったか?」

 テーブルに頬杖をついたロウが笑いかける。サキは先ほどの笑顔で頷いた。

「はい!」

 しかし次の瞬間、サキははっとした顔で俯いてしまった。

「……」

 その様子に一瞬にしてぴりっとした雰囲気になる場。

 ラトが手を伸ばして、サキの手を取った。

「聞きたいことがあるんだけど、構わないか?」

 ラトの手を握り返すサキ。

 サキはキリッと顔を上げ真剣な顔で頷く。

 マハとロウは目配せあい、頷いた。

 マハが問いかける。

「死の国はどこにある?」

「……それは」

「言えるところから言ってくれればいい。君が死の国から来たという証はあるか? 国交書のようなものでもいい」

「……死の国の内部もめちゃくちゃで、食料と武器を持って出るので精一杯でした」

 サキは俯き、唸るように呟く。悲痛な叫びのような。

「いま、国は二分化されています。国交せず滅びを待つだけの保守派。そして国交を開始し、外国からの援助を受け入れる推進派。……人柱はこの限りではありませんが、私が命を狙われたのは保守派です。彼らは国交をすること自体、滅びを受け入れるものだという宣言をしています」

「言ってることめちゃくちゃだな……」

 口に手を当てたロウが唸る。

「君がいたのは推進派、で間違いないな?」

「……はい。どちらかと言えば。推進派に良くしてくれた官吏がいて、彼女とその一派の手引きで国外に脱出できたのです」

「その一派と今から連絡をとることは可能か?」

「簡単ではないです。恐らく保守派の妨害があるでしょう」

マハが黙り込む。ロウが代わりに質問をする。

「もう一度聞く、死の国の場所を言うことはできるか?」

 ロウとサキが見つめ合う。サキは真顔だが迷っているようだった。何度も唇が震える。

 言いかけて唇を閉じ、それからすぅっと息を大きく吸った。

「……ここから南東。地獄に一番近いと呼ばれるヘル・ヴァリーのさらに奥」

「人が住めないって言われてる土地じゃないか」

「未開の地か」

「そんなに危ないところなの?」

 ラトが問いかける、二人は脅かすように。

「マグマが吹き溢れてるっていうし」

「熱風は肌を焼くらしい」

「渓谷は厳しい立地で歩くのも苦労する」

「モンスターも住まないってやつね…!」

 ノリノリ。

 ごほんと咳払いするサキ。ちょっと苦笑して。

「どちらかというと、モンスターのほうが問題です。死の大精霊からあぶれたマナがモンスター化して、非常に危険なモンスターもいる……という話です」

「そこを通ってきたんだな」

「いえ、正確には渓谷の脇にある山道を。古くは王族の隠れ道として伝えられてきた場所です。比較的安全で、まだモンスターもあまりでません」

「まさか一人でここまできたの!?」

 ラトが怒るように喋り出す。慌てて、サキは首を何度も横に振った。

「いえ、いえ、山道の出口までは護衛が! そこからは一人ですが……」

「ばっかじゃないの!? いくら武器を持ってるとは言え、戦闘手段を持たない女の子一人で来させるなんて、最低だわ!」

「あの、護衛役の方も立場のあるお方で、私一人にかかりきりというわけには」

「だったら兵士でもいいじゃない! 運良く怪我一つなかったけど、モンスターに会ったらただじゃ済まないわよ。それに重要な役目なのに死の国が存在する証拠を何一つ持たせない!」

 ぎろりとロウとマハを睨みつけるラト。恐ろしい人を敵に回した。

「あなたたちはそんなことしないわよね!?したらどうなるか……」

「しないって!」

「しない、絶対」

 この少女、ラト・ラ・カドスは宰相の娘だ。今年15を数える。母似の金髪をツインテールにし、赤いリボンでくくっている。空色の瞳はくるりと丸く好奇心を語るかのようにくるくるとよく動く。日々王城に通い詰め、ロウやマハに気安く話しかける。父親に注意されたこともあったが、元来の気安さなのか敬語が時々ついてもそれ以外は直らず。

 特に兄王のロウを気に入っているようだが、他の貴族の娘たちの目の敵にされている。

 そんなわけで双子王でも時々タジタジになる気の強いこの少女は、双子王にとって妹のような立場だ。

 くすり、とサキが笑う。儚げな笑みをたたえて、ラトを見つめた。

「ありがとうございます、ラト様。ですが、国に余裕のない今、護衛の一人すら欠けるのも惜しいのです」

「ラトでいいわよ。それに敬語もなし!」

「……はい。うん」

「俺たちも呼び捨てでいいぜ。敬語もなし」

「え、でも、それは」

「あなたは今の所、死の国の代表だ。それと王の間に貴賎はない」

「……わかった。今だけ」

 サキは再びあの寂しそうな笑みを浮かべ頷いた。

「んじゃ、早速グィンドに死の国の場所を教えるか」

 マハが頷き、サキの顔を覗き込む。

「詳しい場所を教えてくれるか?」

「……はい」

 覚悟を決めた顔をしたサキは3人に連れられ、宰相室に再び向かった。

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