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双子王と死の国  作者: 蒼銃
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サキという少女

●サキという少女

 横抱きにした少女をロウたちが宿に運んだのは昼過ぎだった。

 城下のにある酒場宿、マリーの酒場宿に運び込む。昼過ぎをすぎた店内は戦場だった。男たちの笑い声、女主人の叫び声。

 ここで自己を認識してもらうにはよほどの声量が必要だろう。

 それでも双子を目ざとく見つけてくる、女主人のマリー。40代の恰幅のいい女性だ。

「すまないね! 今は席はいっぱいだよ!」

「いや! 宿を貸してほしい」

 先に立ったマハが手筈を整える。二人の傍に寄ってきたマリーは、ロウが少女を抱えていることに驚くものの特に詮索せず、二階の角部屋を指差した。

「鍵は開いてるよ!」

「サンキュー!」

 ロウは聞こえるように礼を言い、二人は少女を抱えたまま部屋に入る。

 階下とは静まり返った室内、ベッドは二つ。その片方にロウが寝かせる。

 その間に、マハは通信魔法を準備し、城にいる宰相に連絡を取った。

「旧図書館にモンスターが現れた。至急確認されたし」

 相手の出方を待つ一瞬の間。

「頼む。あと、ラトに応急処置ができる用意を持たせて、マリーの酒場宿に来させてほしい」

 了解の答えを聞いて、マハは通信を切った。

 ベッドに寝かせられた少女は、表立って怪我はしてないように見える。しかし服の下まではわからない。ラトに調べてもらって、ついでに手当をしてもらおうという話だ。

 目覚めない少女を見、ロウが先ほど少女が言った台詞をマハに伝える。

「助けて? 他国の人間か?」

「わからん。まぁ見た目は他国の人間だけど、切羽詰ってる感じだった」

「助けるのか?」

「もちろん」

 ロウの即答に、マハは苦笑を零す。こうなっては梃子でも動かないのがロウだ。

 無言の頷き合い。答えは決まっていた。

 少女がどこの誰で、どんな身分の者であろうとも、できる限り力を貸そう。ロウはもちろん、マハも同じ気持ちだった。

 そこでコンコンと扉が控えめにノックされる。ロウが立ち上がり、腰の短刀に手をかけながら、扉を開く。

 扉の先で待っていたのは、バッグを持ったラト・ラ・カドスだった。宰相の娘で、ロウとマハの幼馴染だ。金髪をツインテールにして、赤いルビーの瞳をしていた。

 招き入れられたラトは、最初少女がベッドに寝ていることに驚いた。が、特に詮索することなかった。ここは通じ合う馴染みというものだろう。

「二人は部屋の外で待っていて」

 急かされて部屋の外に追い出された二人。


 しばらくして、ラトが部屋の扉から顔を出して、二人を招き入れた。

 マハが扉を閉めると、ラトはふん! と鼻から息を出さんばかりの気合を入れる。

「怪我はしてなかったわよ」

 ラトの言葉にほっとするロウ。しかしマハは、ラトの言葉尻を捕まえた。

「怪我、は?」

 待ってましたと頷くラト。言葉遊びをするのは宰相の娘だからか。

「身体中に古代タージルト語の文字が刻まれてる。たぶん焼印とかの消えない感じのやつ」

「古代タージルト語」

 ロウが首を傾げて、マハを見る。言外に問いかけているのだろう。それに気づいたマハが説明していく。

 古代タージルトとは、遥か昔統一国家だった。四国、二国は全て合併されていた頃にあった、超大国タージルト。

 柱は特別な存在として崇められていた。その他に、国を統べる王がいたという。

 魔法の扱いに優れ、特に人体に刻むことで魔法が発動する少し特殊な魔法の生みの親もいた。

 滅びた理由は定かではないが、今の国の形になったことには何らの理由があるはず。

「そんなものがなんで女の子の体中に?」

 ロウが質問する。マハは首を振った。わからないという意志。

「古代タージルト時代には身体中に魔法印を施して大精霊の柱としたことがあるという」

「なんだそれ!?」

 ロウが憤慨する気持ちもわからないでもない。マハも実際にまだ行われているとしたら、一人の魔法使いとして見過ごせない。

 先ほどのロウの声に、少女の目が覚める。いち早く駆け寄るラト。

「大丈夫?」

「ここは……?」

「火の国の宿よ」

 ロウとマハも少女に近寄る。

「旧図書館で倒れてたんだ、覚えてないか?」

「……あなたは、!」

 ロウを見て慌てて体を起こす少女。しかしラトに制止され、静かに横になる。深呼吸した少女は改めてロウを見た。

「火の国の、双子王の一人ですか?」

 少女は一目でロウを双子王の片割れだと言い切った。双子王の噂は、容姿年恰好などは他国にまで知れ渡っている証拠だった。

 双子王とは、それほど珍しく、そして重い役目を背負った二人だ。

「ああ、もう一人はここにいる」

 ロウがマハを指差す。

 少女は更に驚き、

「この導きに感謝します」

 少女は、二人に向かってベッドの上で深々と頭を下げた。

「双子王、このような無礼な格好で失礼いたします。私は死の国から参りました、サキ・イオリと申します」

 聞きなれない名前と聞きなれない国の名を口にしたサキと名乗った少女は、死の国の現状を説明していく。

 死の国は、柱の後継者不在による滅亡に瀕していた。

 死の国には、他国に関わらない、関わらせない、関わってはいけないという国の教えがある。そのため他国から旅人を受け入れることもなく、ひっそりと自給自足の生活をしてきた。

 その生活は年月を忘れるほど長い間続けられた。

 その間も国は流れる。

 新しい柱が生まれ、次の柱へ受け継がれる。ロウたちの火の国や他の国がやってきたことを、死の国も続けてきたのだという。

 しかし。

「ある日、ある柱が、壊れたのです」

 サキは重々しく告げた。


 柱が壊れる。


 その言葉の重みは、室内にいる3人ともが理解していた。

 柱が壊れるとは、大精霊と契約した国を支える柱が何らかの疾患、傷病などにより国の運営が行えなくなることだ。

 国の運営とは、大精霊からのマナを受け取り国に満遍なく行き渡らせること。それが行えないということイコール、国にマナの供給を途切らせること。

 マナがなければ土地は繁栄しない。マナがなければ人の生活は立ち行かなくなる。

 それに大精霊から受け取れなかったマナが大陸に溢れ、モンスターとなって人々を襲うことも考えられる。

 大精霊からマナを受け取り、大陸に還元する柱という存在はどの国でも必須の儀式だった。

 だから国は、柱を王と定める。

 サキの言うには、死の国でも柱は王だった。その王が数代前から途絶えている。

 これが自国なら、と考え、ロウは唾を飲み込んだ。恐ろしい。

「その間、柱はどうしている?」

 マハが問いかける。

 サキは躊躇いがちに左腕を捲った。古代タージルト語と呼ばれる印が露わになる。

「柱を人為的に作り、王の代わりをしています。私たちは、人柱と呼んでいます」

「! そんな」

「……みんな、わかっててやってるんだな?」

 ロウの言葉にサキはしっかりと確かに頷いた。

「国を継いでいくために」

 サキは服の袖を戻しながら説明を続ける。

「今は少しでも適正のある私のような者を複数用意して、大精霊を誤魔化すしかありません」

「大精霊にバレたらどうなるか」

 さらに重ねてロウは問いかけた。

「ええ、はい、覚悟しています」

 大精霊に本来の柱でないとわかったとき、国は滅びる。そして大精霊はモンスターとなる。誰も手がつけられないほど、巨大で凶悪で禍々しい。

「……わかった。そこまで覚悟しているなら。それで、俺たちにどうして欲しいんだ?」

「力を貸してくださるのですか?」

「話を最後まで聞いてからだ」

 サキは一瞬落ち込んだ様子を見せたが、すぐにキリとした面持ちをロウに向ける。そして改めて頭を下げた。

「火の大精霊様と水の大精霊様に御目通りを願いたいのです」

「なぜ?」

「四大精霊の2柱に、素早く、国を跨ぐことなく謁見できるのは、火と水の大精霊様だけ」

「2精霊に探知をお願いしたいのです。死の大精霊の本来の柱その人を」

 例えば火の大精霊であれば、それは容易いことだろう。自らの属性と合うものを指し示せばいい。しかし、それが死の属性を持つ者であれば、困難以上の壁が立ちはだかる。

「待った。死の大精霊に陳情できないのか?」

「……それは」

 サキは口ごもる。しばし惑ったあと、サキははっきりと口にした。

「死の大精霊と接触を図るのは、最小限にしたいのです」

 理由は簡単。バレることを避けるためである。

「年に一度の降霊式は行っています。ですが、それにも事情があり、大精霊とコンタクトをとることは難しいです」

「つまり、本来の柱である誰かに死の精霊の適合者を、どうしても見つけてほしいと」

 ロウの言葉に、サキは頷く。

 ロウとマハは顔を見合わせた。サキは何かまだ隠していることがある。今それを言わないのは、何か理由があるのだろう。

「取り次ぐことはできるが」

 大精霊になら、ロウとマハの召喚があれば可能だ。

「大精霊とお話しするのはお任せします。事前に陳情内容をお伝えします」

「わかった」

 話がひと段落したところで、マハが一つ気になっていたことをサキに問いかけた。

「なぜあんなところで倒れていた?」

「モンスターに追われ、都市に迷い込んだ先があそこでした」

 運よく郊外にある旧図書館に迷い込めた。しかもそこにロウとマハがたまたま通りがかった。

「運が良かったな」

「はい」

 サキにやっと笑顔が浮かぶ。安堵と、運の良さ。しかし人の町に出会った喜びこそ、サキを安堵の波に揺蕩わせていた。

「それじゃあ、王城に行くか。急ぎにしても降霊式の準備は時間がかかる。それに城で休んでもらったほうが俺達も安心するし」

 サキは申し訳なさそうに頭を下げた。

「すみません、よろしくお願いします」

 パンっとラトが手を叩く。いい笑顔でサキの顔を覗き込んだ。

「さ! そうと決まれば、城に帰って水浴びね!」

 今まで黙っていた分、フルスロットルである。気安いラトに、びっくりしてサキは顔を真っ赤にして首を横に振った。

「い、いえ、そんなことをしてもらうわけには!」

「だーめ! 汚れてるでしょ? 女の子なんだから綺麗にしてなくちゃ!」

 ラトの勢いに、そのうち小さい声で「はい、はい」と頷き始めたサキに、ロウとマハは笑った。

「さ、城に帰ったらまずは回復魔法かな」

「え、あの、私は……!」

 戸惑うサキを置いてけぼりに、話はどんどん決まっていった。

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