新たな道へと
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数日後、火の国の一行が帰国することになった。旅支度を終え、護衛をつけるといったリンの言葉を一行は丁寧に断った。
新たな柱を迎え、これから国を立て直す死の国の力を借りるのはもっとずっと後になるだろう。
ロウとマハは、そのいつかに願いを込めて、リンと固い握手を交わした。
「では見送りもしません」
言い切ったリンの言葉を好ましく思いながら、ロウとマハは頷く。
イズミも国の立て直しに奔走しているらしく、顔を見ることはなかった。
王ジュウロウは魂が抜けたように威厳すらもなくし、ただの老人のような人となってしまったらしい。それは王妃のしゃれこうべが喋らなくなったのと強く関係しているだろう。
ユウキは軟禁されている。サキに攻撃したのを危険視したイズミが軟禁を強く推した。軟禁されている中で、ユウキは悲鳴をあげているという。
代わりにカズマが国代表の最後の見送りを務めた。
鴉城の城門からでた一行。
改めて鴉城を眺めると、これは壮観だ。黒い城壁は威圧感溢れ、視界を覆ってくる。
「今度は手合わせしてくれよ」
半分本気、半分冗談でいったロウはカズマに手を差し出す。
カズマは力強く握り返すと、確かに頷いた。
「必ず」
「それじゃ、イズミとリン王女によろしくな」
「……そういえばカズサネはどうしている?」
マハの問いかけに、カズマは少し考えた素ぶりをして、マハだけを呼んだ。
ロウは気にしたが、マハが制すると大人しく待つ様子をみせる。
二人きりになったカズマとマハはひそひそと声を落とす。
「あの様子ですから、リン王女とイズミ殿に顰蹙を買いまして」
「ああ……」
「今は自室で大人しくしています。王が現役であったときも、ああやって都合の悪いことは翻し、人にはいい顔ばかりしていた方なので」
「わかった。変なことを聞いたな」
「いえ、マハ様にはお話しておくべきことかと。唯一カズサネ殿にお会いした方でしたので」
カズサネにも立場や性格があったのだろう。
マハは深く問わず、あの時の激昂も過去にしようと心に決めた。
マハが戻ってくると、ロウは聞きたげな顔をしていたので苦笑する。
「国に帰ったらな」
「へーい」
「そういえば、ロウ様、傷の具合はもうよろしいのですか?」
「動けるようにはなったからな。平気平気」
顔色も随分よくなったように思う。カズマが微笑んでいると、無表情のマハが割り込んできた。
「ロウを刺したものの、何か手がかりは」
「あーないない! 手がかりなんて一つもない!」
マハがこの様子だ、とカズマにロウの対応を見せる。
駄々っ子の子供のようだ。
「んじゃ、カズマ、行くわ」
「はい、お元気で!」
カズマは居住まいを正し、一行を見送る。城の途中の朝市は相変わらず寂しかった。
しかし土地が貧しい問題はこれからなくなっていくだろう。
来る途中と同じところで、老婆がプラムを出していた。ロウは同じように一つ買う。
「旅の方」
立ち去るロウに老婆が話しかけてきた。ごく自然のことに振り向いたロウに、老婆は微笑む。
「良き旅を」
「ばーさんも元気でな」
プラムをかじったロウは言いようのない疑問に襲われたが、その疑問が湧き上がる前に街のはずれにサキとアヤフミの姿をみつけた。
最後の見送りにはサキとアヤフミだけが立った。
国使であるのにあまりにも見すぼらしいとイズミが大々的なパレードを提案したのを、ロウとマハが全力で止めたのはここだけの話だ。
「サキ」
ロウが声をかける。会えなくなる前にどうしても言っておきたいことがあった。
「サキは一人じゃない。俺たちがいるし死の国の連中もいる」
この間のことを言われていると気づきサキは背筋を伸ばす。
諭すようなしかしどこか怒っているような声だった。
サキはそれに気づいて、しっかりと頷く。
一人じゃない。
家族がいなくてもサキは仲間がいる。
「ごめん」
「謝らなくていい、ただ二度と言わないでほしい」
そう言ってロウは小指を出してきた。
サキも応じて指切りをした。
「イズミに家族を探すよう頼んでおいた」
「ありがとう、マハ」
マハもロウの隣に来ていう。
双子は双子なりにサキのことを案じていた。短い間だったが、サキはそれが嬉しくて涙を浮かべる。
「寂しい」
「また会えるさ」
「国交を結べば、道中はもっと安全になる」
ロウとマハの言葉にさらに涙を溢れさせる。慌てて拭う。
「また死の国にきて。今度はいいところ案内するから」
「おう」
「楽しみにしている」
そこでマハはロウの肩を叩いて離れた。
遠くでハンディーサとユージンが待っている。
その姿を眺めながら、ロウは寂しそうに言った。ようにサキには見えた。
「……サキ、また火の国にも来てくれな」
「うん、もちろん!」
「約束な!」
ぱっと明るく振る舞うロウ。無理しているのがサキにもわかった。
だからサキはロウの手を取った。ロウの手はゴツゴツとして男の人の手だった。
「また会えるよ」
「サキ」
「また会えたら今度はいろんなこと聞かせて!」
ロウは泣きそうなのを堪えていた。切なそうに笑って、やっといつものロウの表情になってああ! と頷く。
「好きな女の子のタイプとか、好きな食べ物とか、ラトのことどう思ってるかとか」
「ええ、なんでそこでラトがでてくるんだよ」
うろたえたように見えたロウに、サキは笑って手を離すと背中を押す。
「約束」
「おう、約束だ」
ロウのことをもっともっと知りたかった。火の国のこと、それ以外の国のこと、たくさん知りたかった。
歩きだしたロウは一行に混じり、見えなくなるまで笑顔で手を振り続けた。
サキも応じて、見えなくなるまで手を振った。
見えなくなった後、サキは静かに涙を流した。拭うこともせず、ただ静かに流れるままにした。
悲しかったわけじゃない。ただ寂しかった。
ロウは暖かく、真っ直ぐで堂々としていた。マハは冷静でいつもロウのツッコミをして、色んなことに詳しかった。
ハンディーサは親切で表情豊かで、ひょうきんだった。ユージンは、わからないけど双子王のことを思っていたように思う。
火の国の人は、サキが知る限り親切で暖かい人ばかりだった。
きっと知らないだけで、死の国にもいるはずだと思う。
それを探して死の国を、火の国に負けない暖かい国にするのがサキの役目だ。
今そう決めた。
(頑張らなきゃ)
ギュッと黒焦げになったタリスマンを握る。効果がなくても捨てられなかった。これはラトの想いがこもった大切なものだから。
「咲希」
後ろで見守っていたアヤフミが声をかけてくる。
振り返ると、アヤフミが首を街の方にくいっと指す。
「行こう」
サキの人生は始まったばかりだ。
「うん!」
行こう、死の国を新たな世界へと導くために!
拙いものでしたがお付き合いいただきありがとうございました。
双子王以外の設定も考えているので、いつか小出しにできればなーと思っています。
閲覧、評価、ありがとうございました!




