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双子王と死の国  作者: 蒼銃
12/18

イズミというひと

●1

 ロウが部屋に戻ると、マハがベッドに座っていた。膝の上に魔法道具一式を広げている。

 それが遠隔通信魔法の類だと、見慣れたロウはすぐに気づいた。

 水晶玉を媒体に、耳に水晶片を当て、遠方と通信するものだ。マハは最近会得したと喜んでいたが、こんなに早く役に立つとは思わなかっただろう。

 ちょうど火の国と通信をしている最中であると予想したロウ。

 マハは視線だけロウに一瞬送ってきて、すぐに宙を見つめた。

「つい先ほど、推進派のレジスタンスと名乗る者と接触したところだ。……ああ、今はレジスタンスのリーダーとやらを待っている」

 ロウは向かいにあるベッドに腰を下ろして、通信の様子を見守る。

「王家の者が保守派であると聞いた。王家からの説得は難しいかもしれない」

 死の国の王家とはどんな連中なのだろう? ロウはマハの持つ水晶片を見つめながら思う。もしかしたら、配下の官吏に懐柔されて言いなりになっているだけかも知れない。

 そう都合のいい考えが過ぎる。

「とりあえずレジスタンスのリーダーと話をして、可能なら王家と接触を図ってみる」

 概ねロウも考えていたことだ。さすがマハ。

「父上が? いや、そこはうまく誤魔化しておいてくれ。終わる前にバレるのはまずい」

 父上、という単語にロウがびくりと震える。マハの声も若干上ずっている気がする。双子よ。

「ああ、また連絡する。そちらは問題ないか? ……そうか、ありがとう。引き続き頼む」

 マハはそれを最後に通信を切った。ふう、と長いため息をつく。通信魔法にはそれなりに精神力を使うらしい。

 膝の上から魔法道具をどかしたマハが、ロウを真正面から見つめてくる。

「まず、父上が帰国されるらしい」

「げ」

 第一声はそれ。いろんなことが過ぎるが、とりあえずは。

「いつ?」

「わからない。双子王の政務の様子をみて、らしい。今は忙しいのを理由に宰相が断ってくれている」

「時間の問題だな……。他には?」

 なぜよりにもよって国を離れた時に。頭が痛い問題だが、今から帰ってもわざわざ死の国にきたのが無駄足になってしまう。

「宰相が言うには、王家の中にも派閥がある可能性」

「俺は官吏に懐柔されて言いなりになってると考えた」

「その可能性もあるな。とりあえず王家の内部を調査したほうがいいだろう」

「サキから他の柱、そこから接触するべきか」

「これから接触するリーダーからでもいいかも知れない」

 ひとしきり語り合い。

 一瞬の間。見つめ合うロウとマハ。

「俺はサキから」

「僕はリーダーから行こう」

 ほぼ同時に喋る二人。やるべきことは決まっていた。

「ハンとユージンにはどう動いてもらうか」

「ハンはもしもの時のためここに待機。カズマはついてきてもらおう」

「ユージンには連絡係になってもらうか。三股の通信魔法くらいできるだろ?」

 それにはマハは顔をしかめる。

 軽い気持ちで言ったが、案外大変かもしれない。

 失言だったかとロウが考えていると、マハ渋々答えた。

「三股の通信魔法? あまり賛同しないが……仕方ない。ユージンが請け負ってくれたら認めよう」

「よし」

 ロウの最後の一言で、ロウはベッドに横になり、マハは魔法道具をローブに包んでからベッドに横になった。ほぼ同時くらいの動きである。

 とりあえず今は体を休めることが先決だった。二人は程なく、夢の中に落ちていく。


●2

 夕刻。

 階下の物音で、ロウとマハは目を覚ました。二人同時に起き上がり、身支度を整える。

 部屋に一つある窓の外は橙色に染まっていた。


「お待たせしました」

 部屋を出たロウとマハを待っていたのは、四十代の女性だった。艶やかな黒髪を三つ編みにし肩に垂らし、瞳らサキやカズマと同じ黒だった。

 しかし瞳に宿るのは力強い炎のような気力。気品の中に気力溢れる女傑というのが二人が受けた印象だ。

 一礼した女性は、ロウとマハを順番に見比べてから自己紹介をする。

「イズミ・ダテと申します。死の国の官吏の一人として、またレジスタンスのリーダーも兼ねております」

 イズミと名乗った女性は、手を差し出してきた。まずはロウと握手をし、それからマハとも力強い握手を交わす。

「アルデリア・ロウ・フェアリーロンドだ」

「私はシュタイド・マハ・フェアリーロンドです」

「双子王自ら出向いてくださるとは、これ以上心強いことはありません。レジスタンスを代表し、心から感謝を」

「俺はロウ、シュタイドはマハと呼んでくれ。敬語でなくても構わない。俺たちもそうさせてもらう」

 イズミは、困ったように首を傾けた。その仕草が若い女性のように見える。

 しかし一瞬だった。イズミは力強く頷く。

「それでは遠慮なく、ロウ、マハ。死の国のために動いてくれてありがとう」

「礼は全て終わってからな」

「状況を説明してくれないか?」

「カズマの説明では不足でしたか。質問にお答えします」

 イズミは二人を椅子に促した。

 そこで階下からハンディーサとユージン、その後に続きカズマとサキが上がってくる。

 二人が椅子に座るのを確認してから、イズミも椅子に座った。

「王家の内部は、保守派だけなのか?」

「いいえ。まずは現在の王家の状況から」

 イズミは死の国の王家の説明を始めた。

 王家は政に関わっている、王と呼ばれる民に向けたカモフラージュもしている。

 現代の王は、ジュウロウ・シシオウ。

 ジュウロウの子供、長男のユウキ。長女のリン。

 ジュウロウの弟のカズサネ。

「このうちの、ユウキ・シシオウは、保守派の人柱です」

「!?」

「王家の者が人柱だというのに、正式な柱ではないのか?」

 はい、とイズミは重々しく頷いた。

 百年経った中で、王家のマナは薄まり、大精霊から認識されなくなったのではないか、というのが、降霊官たちの見解だという。

「そのほかに、保守派は王のジュウロウ」

 イズミは指折り数える。

 人柱のユウキ、王のジュウロウの二人。

 特に王のジュウロウは頑固で、話を聞いてくれるかは不明であるという。話を聞いてくれる希望があるのは、長男で人柱のユウキ。こちらは癖のある人物だ。

「長女のリンと弟王のカズサネは推進派、私たちの味方です」

 残りは二人。

 長女リンは文武に優れ、先見の才もあるという。弟王のカズサネは、穏やかで気質の優しい人がらだ。

 死の国の王家は真っ二つに分かれていた。

「もう一つ聞きたいことがある」

「どうぞ」

「もう一人の人柱は、どんな人物だ?」

「──」

 イズミはすぐに答えず、目を伏せた。その表情からは感情が読み取れない。

 視線をあげたイズミは、問いかけたマハに向けた。

「彼はどちらでもありません。どちらにも興味がないのです」

「戦力にならないってことか?」

 ロウが言うと、イズミはすぐさま肯定した。

「はい。彼はただの人柱です。それ以上でもそれ以下でもありません」

 人柱であれば、サキのように多少、政関係に人脈ができ、こちら側に引き入れやすくなるのだが。

 イズミがそういうのであれば、あまりあてにしても仕方がない。

 ロウとマハは一瞬、視線を交わし合う。

「どっちにしても王なしで話を進めるのは無理だ。過激なことを言うが、推進派にいいような人事異動も考えてもらわなきゃな」

「……というのがこちらの意見だ」

 ロウの言葉にマハがフォローを入れる。

 イズミは頷いて次の言葉を待った。

「俺は保守派に話をつけに行きたい。確か話を聞いてくれるのは、長男のなんとかってやつか」

「ユウキ王子」

「そう、そいつ」

「僕は推進派の二人の王族の話を聞きたい。両方から話を聞けば、糸口が見つかる可能性もある」

 双子王は、火の国の王という立場を最大限活用する気でいた。

 でなければ、同じ王族の説得などできないだろう。

 話が通じるかは、運だった。

「推進派の王族には、カズマが引き合わせます」

「あいつも城に入れる身分なのか?」

「百人長です」

 昼間の出来事を思い出し、ロウは渋面をマハは笑いを堪えた。その様子をみたイズミが、眉を寄せていう。

「まさか、もう何かご無礼を働きましたか?」

「いや、大したことじゃない」

 そういうロウの顔から渋面はなくなっている。もうということは、前科があるのだろう。そう思ってロウとマハは横目で苦笑し合う。

 しかしイズミは額に手を当てて、しばらく考え込んだ。

「やはり別のものを」

「いや、カズマがいい」

 人となりを知り合ったからこそ、信頼できるというもの。マハはきっぱりと言った。

 それを聞いたイズミは、頷く。

「で、保守派の柱には誰が引き合わせてくれるんだ?」

「サキと、城までは私が」

「サキが王家の人間と関われるのか?」

「大丈夫。任せて」

 サキからは力強い言葉が返ってきた。

 最初見た時より逞しくなった気が、ロウはした。

「では明朝」

 イズミは立ち上がり二人に頭を下げた。

「よろしくお願いいたします」

 作戦は静かに動き出した。

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