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双子王と死の国  作者: 蒼銃
10/18

死の国

●1

 一行は、途中に現れた酪農家の集落を素通りすることにした。

 立ち寄ろうと言ったロウの提案を、ユージンとハンディーサが反対する。

「旅人がいない国に旅人が現れたら怪しいですな」

「国風というものがわからない以上、狭い集落に姿を現わすのは危険かと」

 旅の物資が少ない今、少しでも休憩したいと言うロウの希望は打ち砕かれる。肩を落として最後尾をトボトボ歩いていた。

 ハンディーサとユージンの言うことは最もだが、とぶつくさ言っている。

 マハが歩調を緩めて、ロウの隣を歩く。マハがきたタイミングでロウがボヤく。まるで愚痴を聞いてもらうのを待っていたかのようだ。

「だめか」

「諦めろ」

「休憩だけでもいいんだよなぁ」

「大丈夫、半日も行けばつく。……それに、死の国に安全な場所は少ないから」

 ロウとマハのやりとりに、そっと混じるサキ。

 双子王のやりとりはテンポがよく、隙がない。だからこそ今まで聞いているだけだったが、混じりたいと思っていた。

 二人は特に驚いた様子もなく、サキを会話に招き入れた。

「建物の中も?」

「うん」

「これだけマナが濃ければな」

「そんなに濃いのか?」

 マハはああと頷き、例を出す。

「全体を百として、火の国の首都の魔力量が二十としたら、ここは八十くらいある」

「へえ」

「そうなのね」

 ロウとサキが同時に言う。サキは気になって、ロウに問いかけた。

 柱とはマナが高いものが選ばれる、今の死の国はそうだった。場合が違うが、大精霊が選ぶのだから皆、マナがわかりそうなものだったが。

「ロウはマナがわからないの?」

「全く」

「サキこそ、わからないのか?」

 逆にマハに問いかけられ、サキも首を振った。

 畳み掛けるように、マハが説明を交えて再度質問してくる。

「空気が淀んでいるとか、息苦しいとか感じないか?」

「あ、それは感じる」

「俺も感じる!」

 サキにならいロウまで混じってきたが、マハはそれを華麗に無視した。

 双子というか、気安い仲だからか、その辺の容赦がないのはマハの性分なのか。

「それじゃあそれを感じた場所で、空間が歪むような目眩を覚えたことは?」

 サキは思い当たる場所をいくつか思い浮かべて、ハッとした。

 ごく最近それを感じた。【死の落とし穴】だ。

「ある。景色がぎゅっと萎んで、膨らむ場所」

 マハが満足そうに頷いて笑みを浮かべた。先生のような佇まいだ。

「そこがマナの濃い場所だ」

 サキはぱっと笑顔を咲かせ、自分にも魔力を探知する能力があるのを喜んだ。

 が、無視されたロウが気になって振り向くとぶすっつらで最後尾を歩いていた。その姿に思わず吹き出す。

「ふふふ」

「笑うなよ」

「だって、顔おかしい……! ふふふ」

 口を尖らせて少年のようにむくれるロウは、サキが初めてみる少年らしいロウだった。

「三人とも、都市の門が見えましたぞ」

 先頭を歩いていたハンディーサが手を振る。まじか! と声をあげたロウは我先に護衛をほっぽり出して駆けていく。サキは慌ててそれを追い、やれやれと言いつつも楽しみなマハも後に続いた。

 地平線の先に現れた都市は、暗く淀んでいた。

 サキのよく知る死の国だった。

 戻ってきたら変わっているかも知れない。そんな希望を少しだけ持っていた。人柱の必要がない、サキの家に帰れる、明るくて町の人々が笑い合うそんな。

(そんなものはない)

「門番はいますかな?」

 追いついたハンディーサが問いかけてきた。サキはあわてて暗い顔を晴らし、首を振って否定する。

「門が厳重なだけ。国交を絶ってからは兵士も立たなくなったらしい」

「んじゃそのまま行けるな」

「町に入ったら私が案内する。ついてきて」

 了解の意を込めて、四人ともが頷いた。

 やっと役に立てる。一度沈んだ気持ちが湧き上がってきた。


●2

 街に入るための、重厚な門扉は開けっ放しだった。

 これが閉められるのは、毎夜と一年に一度の儀式の時だけ。

 モンスターは入ってこない。街にいても、家の中にいても、モンスターはどこにでも現れる可能性があるからだ。

 だから門を閉じないし、街の者でも軽い武装をしている。街全体の雰囲気がギスギスしていた。

 街に入ると、さらにマナが濃いのにマハとユージンが気づく。殊更言うことでもないと、二人は視線を交わし合うだけで済ませた。

 サキの足取りは軽い。故郷に帰ってきた喜びと、もう少しで嫌な儀式から解放される嬉しさと。

 街は大きな通りが城まで一直線に突き抜けていた。シンプルな街の作りで、それに対し人の姿はまばらだ。

 活気がない。

「ここは大通り。朝市なんかが並ぶ」

 その割に、脇の家屋は見すぼらしく、人が住んでいる様子がない。遠くに見える一軒家の中に真新しい建物もあるが。

「あそこに見えるのが王城。鴉城とも呼ばれる」

 サキの指の先に見える、城。大きさは火の国の王城と同じくらいかそれ以上に大きい。一番目を引くのは、サキの言った色だろう。

 黒く重々しく、鴉城と呼ばれるに相応しい佇まいだ。

「かっこいいな」

 ロウがしみじみと感想を述べる。が、それだけに止まらなかった。

「火の国の城も黒く塗ろう」

「やめろ」

 マハに一言にばっさり切られる。

 冗談なのに、と口を尖らせるロウに、笑みを零してサキは説明を続ける。

「鴉城のそばに兵舎がある。さすがに王城の門には門番がいるから……兵舎の人に中の人と連絡をとってもらう」

 道すがら、腰の折れた老婆が売っていた果物を一つ買うロウ。貨幣は共通らしい。

「行動を慎め、ロウ。貨幣が違ったらどうするんだ」

「確かめたんだよ」

 マハに咎められるが、気にしないロウ。口笛を吹いて知らぬフリをしている。ロウの突飛な行動に、サキも正直ドキドキしていたが、街の人に溶け込んでいたので黙っていた。

 果物を服で拭いて齧る。

「甘酸っぱい。うまい」

「プラムよ」

「へー」

 食う?とマハに差し出すも断られた。

 大通りをかなり奥まで歩いたところで、右手に二階建ての石造りの建物が見えてきた。

 急にサキが振り向き、両手を出して一同を止める。

「ここで待ってて。すぐに戻ってくるから」

 そういい返答を待たず、石造りの建物に入っていった。

 プラムを食べ終えたロウが手持ち無沙汰に、道の脇にある石に座る。

「俺ら入らないほうがいいのか?」

「兵士でもない見慣れぬ集団が、突然火の国の兵舎に現れたら、お前はどうする」

「すげー怪しむ」

「それが答えだ」

 なるほど、とわかったのかわかってないのか、曖昧な返事をして、兵舎を眺めた。ロウは力を抜いているときは、分かり切った質問をしてくるが、これはいつものことだった。


 しばらくして、サキと鉄装備に身を包み腰に剣をはいた一人の青年兵士が開かれた入り口から出てきた。

 兵士は一行に目を見開き、一瞬驚いた顔をしたものの、一行に敬礼のようなものをして城の方へ走っていく。

 それを見送ったサキが、一行の元へ戻ってきた。

「さっきのは推進派の配下の兵士のシュウさん。いつもお世話になってる人」

「兵士にも派閥があるのか」

「あったりなかったり。曖昧な感じ」

 マハの問いかけに、曖昧な返事をするサキ。兵士たちにも兵士たちなりの派閥があるのかもしれない。

「で、これからどうするんだ?」

 ロウが立ち上がり、体を伸ばす。

「レジスタンスのアジトに案内する」

「レジスタンス?」

「初耳だぞ」

 ロウとマハが同時に声をあげた。

 サキは何かまずいことをいったのだろうか、と慌てたように説明する。

「王家に仕えてる人たちの中で推進派の人たちは、自称してるけど、表立って反発した運動ができない」

「何故?」

「王家が保守派だから」

 一行の空気が固まる。いよいよサキの顔色も悪くなり、説明する口調もしどろもどろになる。

「だ、だからレジスタンスがいて、官吏や兵士たちも隠れて活動していて」

 そこで伸びていたロウが大股でサキ近づく。慌てたサキは後ずさるが、手首を痛くない力で掴まれた。

「待った、サキ、待って」

「あの、でも説明を」

「ここじゃまずい。説明はいいから、案内してくれ」

 こくこくと何度も小刻みに頷くサキの背中を、ロウは落ち着けるように優しく叩いた。

 大の男四人に睨まれてはびっくりしただろう。申し訳ないことをした。とロウはサキにわからないように顔をしかめる。

 サキは先ほどとは打って変わり、ふらふらとした足取りで歩く。

 今度はマハがサキに歩み寄り、肩に手を置く。

「サキ、今のは気にしなくていい。急いで、ゆっくり行こう」

「う、うん」

 兵舎の前でサキを喋らせたのは失敗だった。

 政に関わってないサキは、レジスタンスの存在も知っていたが隠すことでもないと思っていたのだろう。

 サキは悪くないし、間違ってもいない。

 ただ素早く行動を起こす前にロウたち火の国側がもっと深く知るべきだったのだ。

 背中にある兵舎を睨みつけて、ロウは一行に追いつくように走る。

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