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Scene9:戦えるわけないでしょ

「……それでここは何処なのかな」


 僕はアイカさんに質問をする。家って事だけしか分からないんだ。僕が泣き叫んでたここは一体……。


「宿よ。村のね」


「えっ」


 宿屋の中で……泣き叫ぶって……物凄い恥ずかしいんだけれど……!


「いっ……言ってよ……! そしたら、泣かなかったのに」


「ふん、勝手に喚いた癖に……」


「好きで泣いた訳じゃないよ!」


 恥ずかしさを堪えて、赤面になってるのを感じつつ反論を行う。いつの間にか泣いてたんだって! あれは!


「人前でよく泣けるわね」


 アイカさんが、プッと嫌な笑い方をしながら、言ってくる。絶対馬鹿にしてる……! それだけはハッキリ分かる……!


「だーかーら!」


「そろそろ寝るわ。眠くなってきたし」


「人の話を聞いてよ!?」


 もう……なんでこの人は話を聞いてくれないんだよ……。因みに、この部屋には布団が一つしかない。アイカさんは、僕の横を通り過ぎ、布団の中に潜り込んだ。……うん、潜り込んだ。


「……僕は何処で寝ればいいの?」


 一応、僕は怪我人なんだけど……と思ったけれど、アイカさんの方が疲れただろうな……魔物と戦ったの、あの人だし。僕は……何にも出来なかったし。


「……床で寝よ」


 さっきまでのフワフワとした感触がないから、若干肌寒いかな……風邪とか、ひかないといいけど……。



「……ん……」


 陽の光が、顔を照らした。目を瞑っていた僕はそれに反応して、目を少しずつ開ける。体があったかい……そう思って、体を起こしてみるとフワフワの毛布が僕にかかってる。かけた覚えはないんだけれど……。


「やっと起きたわね」


 布団はキッチリ畳まれて、いつも通り見下すような目でこっちを見てる。……僕がやっぱり、何かやったのかなこれ。それとも、起きるのが遅かったかな。


「……起きるの遅くてごめん……」


「早い方よ。いつもなら、私は起きてないもの」


「いつもならって……」


「ま、どうでもいいか。それよりそろそろ行く?」


 ……突然の疑問形、初めて僕に選択肢が出た。


「え、選んでいいの?」


「あっ、間違えたわ。行くわよ」


「えぇ……」


 アイカさんは、冷静に言い直すと荷物を持って扉を開けて行ってしまう。僕も、早く用意しなくちゃ……そう思って、毛布を畳んでから荷物を持って、この部屋から出ていった。


 外に出ると、人々の声で賑わってた。畑に人が集まり、何やら会議をしていたり、子供たちが元気にそこら中を走り回ってる。……平和な村なんだな……と二度目の村の風景を観て、そう感じたのだった。


「……やっと来たのね」


 アイカさんは、建物の外で村を観ながら言ってくる。


「村の雰囲気が、変わったね」


 口が開けっ放しになって、唖然としていた。やっぱり、最初に観た時とは大違いだ。全然寂れてなんかなくて、全然優しそうな村だ。


「……本当は言いたくないけれど」


 ボソッとアイカさんは、何か呟いていた。それに構わず、僕は村の様子を観ている。


「あ、ありがとう……」


「へ?」


 アイカさんの、お礼の言う声が聞こえた。……正直、なんでお礼を言われるのか分からないし、何に対してだかも分からない。


「い、行くわよ。さっさと!」


「……なんでお礼、言ったんだろ」


 アイカさんはそそくさと先頭を歩き、その後を僕はついて行った。アイカさんの歩く早さが僕よりも早くて、ついて行くのが大変だった。すぐに村の外に出て、僕はアイカさんに質問する。


「それで、これから何処に行くんだっけ……?」


「はぁ……聞いてなかったの?」


 僕の質問に呆れたようにして、アイカさんが言ってくる。……そんな事言ったって……なぁ。


「さっきの村から北東に進んだ場所にある、大都市コロッシオに決まってるじゃない」


「……コロッ……?」


 ……何処だそれ? 地理とか詳しくないし、悪魔で王国の周辺の地図しか見た事ないから分からないなぁ……。一体どういう所なんだろう。


「……まさか、知らないの? ふん……頭の悪さも一人前ね」


「あ、あのね……僕だって傷つくんだよ……そう言われたりするとさ」


 歩きながら項垂れてしまう。確かに馬鹿さ……馬鹿なんだよ……! でもいいじゃん! 興味なかったんだから!!


「……大都市コロッシオは、コロシアムを中心とした貿易都市よ。各国の色んな物を輸出入してるの。分かった?」


「ゆしゅつ……にゅー……」


「……説明しても、理解出来てないのは分かったわ」


 僕が、また分からない単語を口にしたら、アイカさんが額に手を当てていた。……頭痛なのかな。


「大丈夫? 頭痛そうだけど……」


「誰のせいよ!!」


 なんで僕に指をさしたの!? ……うぅ……知らない間に僕が頭を叩いたのかな……。だとしたら酷いことしてたんだな……。


「ご、ごめん……」


「別にいいわよ……面倒だし」


 話が一区切りついた瞬間だった。いきなり、アイカさんはその場に止まり、剣をチャキッと鳴らして構え始めた。


「……」


「え……な、何?」


 アイカさんの代わり具合に、僕はおどおどして周囲を見渡す。……相変わらず、代わり映えのない草原ばかり続いてるように見える。時折ガサガサと音が鳴ったりするけれど。……音?


「……来る」


「へ!?」


 草むらが激しく鳴っていると思ったら、ダムッと何かが飛び出してきた。……耳を生やした、毛玉のような魔物、スライムだった。ソイツは僕らの前に三匹同時に出てきた。


「……ひっ!?」


「数が多いわね。二匹こっちでやるから、そっちでお願いね」


「えっ、待ってよ!?」


 アイカさんは、僕の制止を聞かずに二匹の相手をし始めた。僕はというと、ガタガタと震えながらドンドン近付いてくるスライムに対して叫んでた。


「っく……来るなよ! こっちに……!!」


 僕は頑張って、剣の柄を掴んで……止まった。やっぱり抜けない。それに、抜いたところで叶うわけがないってわかり切ってる。どうしろって言うんだよ……!


「……うっ」


 ドンドン、ドンドン近付いてくる。僕は相手が一歩一歩近付いてくる度に、怯えるハメになっていた。


「……! ……ッ!」


 剣なんて使えない……だ、だって振り回す程度しか使えないしッ! 僕に戦えなんて、出来るわけないんだよ!!


「っくぅ……!」


 ジリジリと詰め寄ってくる。……その時、僕のほうに向かってきたスライムは、何処かへ吹き飛ばされてしまった。……た、助かったの?


「……雑魚ね」


「あ、アイカさん……」


「あなた、なんで戦わないの? 馬鹿なの? 死にたいの?」


 アイカさんは、言いたいことをしっかりと言ってくる。だって、出来るわけないじゃないか……僕みたいなやつになんか。


「……戦えるわけないでしょ……」


「ッ……はぁ?」


 僕の答えに、アイカさんが変な声を上げる。僕はその後に続けて話を続ける。


「だって……僕なんか、戦っても……結果は決まり切ってるし……」


「……流石は弱虫ね……そのまま荷物になるつもりなのかしら?」


「……ごめん」


 荷物になる……確かに、間違ってない。むしろ、本当の事を言ってるんだ。……うぅ……僕に力があればいいんだけれど。

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