Scene8:知らなかった
「……あのさ、僕と友達になってくれないかな?」
僕は、思いついた瞬間に実行した。言葉で伝えなきゃ、伝わらない。態度で表すのはその後でだ。その言葉に、うずくまってたアイカさんが、小さな声で言ってくる。
「……なにがしたいの……」
その言葉をしっかりと聞いて、自分の中で整理する。……えっと、僕がしたい事は……まず、アイカさんを元気にさせる。それで、友達になって……あれ、逆かな? えっと、何がしたいって……友達になりたいからであって……。となると、元気にするのは後回しなのかな?
「……友達になりたいのかな?」
「なんで疑問形なのよ……」
小さな声で、でもしっかりと突っ込んでくれた。
「うん、それだけは間違いない!」
「……余計なお世話よ……私は一人でいいの」
アイカさんはそう言うと、顔を上げて立ち上がる。
「……それで、あなたは何者なの?」
さっきとは打って変わって、初めに出会った頃の声量に変わっていた。少しは元気になつたのかな……と思って胸をなで下ろす。元気になって安心した……でも、友達になってくれないのにはちょっと残念だな。
「何、落ち着いてるのよ。私の質問に答えなさい」
「ご、ごめん……僕の名前はミライで……」
「さっき聞いたわよ!? そういう意味じゃなくて、何処から何をしに来たかって事よ!」
「名前、覚えてくれてたんだ!」
単純に嬉しかった。大体の人はもう一度聞き直したりするのに、いきなり覚えててくれた!
「うるっさいわね! いいから答えなさい!」
「あ、そうだね」
何処から何をしに来たか……か。
「僕は、王国から魔王討伐をしに……来たんだ……」
「魔王討伐!?」
「うわ!?」
僕はアイカさんが身を乗り出して来たので、ビックリして尻餅をついてしまった。……なんで、こんなリアクションしたんだろう。
「魔王討伐……って……あなたみたいな人が!?」
「……う……うん」
自分で思ってる事を他人に言われるのって、ちょっと嫌だな。自覚してる事を再確認させられてるわけだから……なんか、胸にグサッてくる。
「無理よ! あなたなんか、道中で野垂れ死ぬのが関の山よ!!」
「……ぅう……自覚してること……言わないでよ……」
物凄く、傷つく……。そこまで断言されると、僕は胸が苦しくなって、目から涙が溢れ出てきた。
「ひっぐ……えぐ…………うぐ……」
「な、なんで泣くのよ……こんの……弱虫ッ!!」
アイカさんが、追い打ちを掛けてきた。僕はその言葉を聞いてさらに、悲しい気分になった。だって……だって……なんでこんなに言われなきゃならないんだよ……。
「ぞんなに……いわないでよぉ……」
「ふん……アンタみたいなヤツに……私は……ッ! 屈辱……!」
「うぐ……えっぐ……」
僕は目を擦った。涙を全部拭き取るようにして拭った。でも出てきた。どんどん出てきた。擦っても拭っても、涙が出てきた。なんでだろう……。なんで……こんなに出るんだろう……!
「うわぁぁぁああああん!!」
「え……ちょ……ちょっと!?」
「うぐ……えっぐ……うわぁぁあああん!!」
「うるさいから! 分かったわ! 私が悪かったから! 泣き止んで! うるさいから!!」
僕はアイカさんになだめられてるのを感じて、涙を堪える。
「えぐ……ひっぐ……」
……なんで泣いた? 僕は泣くつもりなんか無かったのに。こんなに泣いたことなんか無かったのに。なんで……。
「ほらほら…………はぁ」
「ご、ごめんな……ざい…………なんか……おかしいな……」
簡単に崩壊した涙腺は締まりが悪くて、まだ水が出る。それを必死に止めようとする。……本当……なんで泣いたんだ……?
「……それで、魔王討伐とは行ったものの、一人で?」
アイカさんは、きっと僕が落ち着いたのを見計らったのだろう。そんなタイミングで質問してきた。
「……うん……友達も皆、仕事してるし……その他の友達は……魔王討伐で……」
……魔王討伐に向かった皆は……どんな気持ちで行ったのかな。僕みたいに、どうすればいいか、分からなくなってたのかな……。
「……」
「……一人でなんでも出来ると思ってたのね。生憎、アンタには無理そうだけど」
「違う……違うよ……僕は何も出来なくて……何かをやろうともしてなくて……勝手に決められて……!」
魔王討伐なんか来たくなかったんだってば……! それを……王様がやれって言われたんだから……!
「……はぁ、まぁ、あなたが何者かは少し分かったからいいわ」
「……」
自分の思いを口から言えるって……少しラクになるのかもしれない。……苦しかった胸から、少しだけ突っかかりが消えたというか……。
「……ありがとうございます……話を聞いてくれて」
「はぁああ? あなた、色んな人から変って言われない?」
「べ、別に……言われたこと……あったかな?」
「知らないわよ!」
小さな頃に、あったかもしれない。でも、確信が持てないから言えないか。こんな調子で、二人でギャーギャー喚いていた。話が進んだのは喚いていってちょっと経った頃だ。
「……あなた、行く宛はあるの?」
「行く宛って……」
突然、アイカさんがそんな事を言ってきた。行く宛って……魔王討伐に行くから……そう言うと、アイカさんは深いため息を吐いて、こう言った。
「……魔王のいる場所とか知ってるの?」
「……あっ」
肝心な事を今知った。確かに、魔王を倒せとは言われたけれど、何処にいるかも、分からないんだった。地図の上の方を目指せばいいかと思ってた時期が恐ろしい……!!
「さっばり分からないッ!」
「……終わったわね……あなた」
「うぅ……そうだよ……始まってすらないんだって……!」
頭を抱えた。ああ……考えると、やらなきゃならない事が多すぎるんだよぉ……! 魔王討伐ってどうすれば討伐出来るんだよぉ……! 何すればいいんだよぉ……!
「……ま、あなたがどうなろうと知った事じゃないけど……借りがあるしね……」
「……へ?」
頭を抱えていた僕は、アイカさんの言葉にキョトンとする。……借りって……?
「私と一緒にギルドに来なさい。依頼金の話もあなたがいた方が話しやすいし……それに、魔王の事についても情報が聞けるかもしれないし」
……ギルド……? そこに行けば、何とかなるかもなのかな……? 今みたいな前が何も見えない状況でも、何か見える様になるかな?
「……いいの?」
「あなたに拒否権はないわよ。私も変な事言っちゃったし……はぁ……やってから後悔したわ」
本当に残念そうに俯きながら、アイカさんは言ってた。……その言葉を聞いて、僕に笑顔が生まれた。
情報も何もない中で、僕は確かに一歩を踏み出していた。




