Scene7:気に掛ける
「……ぅっ」
気がつくと、僕は仰向けに眠っていた。さっきまで屋外にいたハズなのに、目の前には藁葺きの屋根……。少なくとも何処かの家の中……ということは分かる。
「……やっと目が覚めたようね。弱虫」
……いきなり棘のある言葉を投げ掛けてきたのは……先程の少女だった。……そうだ、さっきはいきなり少女が攻撃して……僕は気を失って……。
「……きっと、知らない内に傷つけたんだね……ごめん」
僕は自責の念に駆られた。少女が攻撃をしてきたのも、少女の機嫌が悪いのも……全部僕のせいなんだ。そう思って、俯いていた。……でも、
「馬鹿じゃないの!? そういうの……やめて!」
「……え?」
少女の罵声が飛び出し、僕はキョトンとする。……そういうのって……何が?
「ムカつくのよ……! アンタみたいなのを見てると……! なんで謝ってんのかが、理解出来ないのッ!!」
またさっきみたいに怒ってしまった……。なんでなんだろう。
「ご、ごめ――」
「分かんないの!? 理解できないって言ってるの!! 馬鹿なの!?」
「……」
な、なんで怒ってるの……。ごめんと言いそうになるのを必死に抑える。人によって考え方は違うんだし、こんな事もあるんだって……と自分に言い聞かせる。……うん……うん……よし。
「……ふん」
少女は鼻を鳴らすと、そっぽを向いてしまう。……初めから好感度ゼロなんだけれど……というか、会って間もないのに、こんなに怒鳴られたの初めてだ。友達とかは、話したりしたけれど、一方的に言われるなんて……所で、今更なんだけれど、名前はなんていうのかな。少女……としか分からないし、それに少しは関係が柔らかくなるかもしれない、と思って僕は喋り出す。
「あの……君の名――」
「……」
話し掛けた瞬間、プイッと顔を逸らす。目を瞑って、こちらを見ないようにしてる。……何がいけないんだってば。
「……」
……少女の顔の前に手をかざしても反応がない。……僕はそれをいい事に、少女の顔ギリギリの所まで自分の顔を寄せる。……本当に見てない。あの時の……魔物から助けてくれた時のお礼とか言いたいのにな。そう思って、一声かけることにする。
「あの――」
「……んぅ!? ひゃっ!? いっ!?」
「いでッ!?」
僕の顔が真正面にあったから、少女が驚いて頭突きをしてきた。僕の額に丁度当たり、二人で悶絶してしまう。やらなきゃ良かった……そう思って後悔してる。
「いたた……」
「っつぅ……ご、ごめん……」
今のは確実に僕が悪かったし。……そう思って、謝ると額に手をあてながら、少女が涙目で睨んできた。どっちに怒ってるのかな!? 謝った方!? 顔を近づけた方!? それとも両方なの!?
「……何の用よ」
小さな声で、でも確かにハッキリと少女がそう言ってくる。やっと反応してくれた……! これだけで感激だ……いやいや、そうじゃない! 名前を聞いて、お礼言わないと。
「ええと、君の名前って……なんて言うのかな……」
僕は彼女に質問した。答えてくれるかな……そう思っていると、
「……私より先に、あなたから名前を言うのが礼儀じゃないかしら?」
と言われた。……あ、確かに。僕が教えなきゃ感じ悪いよね。彼女の言葉に頷きながら、僕は自分の名前を言った。
「僕はミライ。よろしくね」
いつもの調子で、いつもの声で、いつも通りに自己紹介を行う。ハッキリと言って、印象を悪くしないように。明るく言って、覚えてもらえるように。
「……はぁ」
「もしかして、言うの……嫌?」
僕の名前を言っても返ってきたのがため息だったから心配になってしまった。嫌って言ったら仕方ないけれど、聞くのをやめよう。
「……分かったわ……言うわよ……」
少女は渋々と……でも、ちゃんと自分の名前を言ってくる。
「アイカ。これで満足?」
「アイカさん……アイカ……さん……よし、バッチリ覚えた!」
「……覚えなくていいわよ……」
また深いため息を吐かれた。うーん……そんなに自己紹介とか嫌だったかな……心の奥でごめんなさい。……そうだった……これでお礼が言える!
「あ、あと! アイカさん! さっきはありがとうございました!」
深々と、お辞儀をしながら彼女に話し掛ける。助けて貰ったからちゃんと言わなきゃね。そこはしっかりしないとだし。
「……よ……それ」
「助かりました。あのままだったら僕、魔物に――」
「なによ、それ」
僕が言葉を続けていたら、アイカさんが何か言っていた。……なによ、それって……ええと何がかな……。また僕、駄目な言葉言っちゃったかな……。
「あなた……何がしたいの……!?」
顔を上げると、アイカさんの顔は俯いていて、目を見開いてた。……その様子に少しだけ怯えてしまった自分がいた。なんでだろう……。
「助けて貰ったんですし、お礼は言わなきゃ……」
「…………わけわかんない……わけわかんないよ……!」
アイカさんは、耳を塞いでしまい、座り込んでしまった。僕はその姿を見ても、どうすればいいか分からなかった。こ、こんなこと初めてなんだもん……! 何すればいいの!?
「え、え、え、えっと」
言葉は駄目、触れるのは……いいのかな……。なんでも試さないといけないしね。僕は手を伸ばして、アイカさんの肩に触れる。すると、パシッと手で弾かれてしまった。
「触らないでッ!」
「え、あっ……ごめん」
……見てるしかない……触れることも出来ないし、声を掛けても言葉は届かない。僕は気づいた。アイカさんの顔を見て、一つだけ。ずっと苦しそうな顔をしてる。多分……だけれど……友達が苦しかった時の雰囲気と似てるし。
「……友達」
この人と友達になれば、何か分かるかな。少しでも、ラクに出来るかな。自分のこれからの事なんて全く考えずに、目の前の、アイカという少女の事を僕は気にかけていた。




