Scene6:馬鹿にするのも
「んーんー……んー……んーんーんー」
ボーッとしながら、真っ赤な空を見て鼻歌を歌う。もうすっかり夜だ。真夜中になると、辺りが真っ暗になるから早く泊まるところ捜さないといけない。でも、なんでかな……立ちたくなかった。
「……めんどくさい」
言葉にしてハッキリと分かる。……魔物と遭遇して疲れちゃったからか。
「ここで寝ようかな……」
多分、村のど真ん中であろう場所で一人ぼっちで座ってる。ここで寝たらきっと、村人たちが怒るだろう。……村人がいたらだけど。寝ようと思って僕は顔を伏せる。……一日目……終わりかぁ……。
と思ってた。
「……邪魔よ」
「いっ!?」
いきなり頭部にベシッ! と何かが当たる。感触的に、きっと誰かの手みたいだけど……! 僕は頭をさすって、顔を上げる。見ると……、
「あら、泣いてはないみたいね」
「君は……さっきの……」
魔物を討伐してくれた少女が見下していた。ヒリヒリする頭をなでて、僕は立ち上がる。それで、目を合わせようとすると、逸らされた。……嫌われてるみたいだ……。
「……来なさい」
「い、いきなりどうしたの?」
僕がそう質問すると、少女はため息をついて冷たく言い放った。
「これは命令よ。来なさい」
「え……えぇ……」
結局、少女に嫌われたまま僕はその後に恐る恐るついていく。……なんか、この人怖い。
「……早く来なさい!」
ムッとしながら、少女は命令する。……そんなに言われたら、行きたくなくなっちゃうんだよ……。僕は心の底で嘆いていた。
少女についていくと、村から出ることになった。彼女は何処に行くんだろうと思って、質問してみたところ、
「黙ってて」
と言われた。……僕の扱い酷くない? いや……何か言われるだけだからまだいいけど。
しばらく歩くと、さっきとは別の、賑やかな村に着いた。夜だというのに、子供がそこら辺を楽しそうに走り回っていたり、いい大人が酒を酌み交わしながら過ごしている。……こんな騒がしい村もあるんだなと思いながら少女についていくと、一軒の茅葺きの小屋に連れてこられた。そこにいるのは白い髭を生やした老人と、若者が座っていた。
「連れてきたわ」
少女はそう言って、老人と若者と同じように座る。……連れてきたって……どういうことなんだ……?
「おお……あなたも、村の作物を食らう魔物を……倒すのを、協力してくれたとか……」
「え、えっと」
……作物を食べる魔物……たぶん、さっきの村で少女が倒してくれた魔物かな……?
「ち、ちが……」
「ええ、彼が手伝ってくれました」
「ちょ」
少女は、僕の言葉を遮って、誤った答えを提示してきた。それに僕は戸惑ってしまう。対して、老人と若者は途端に笑顔になって、感謝の言葉を述べてくる。
「ありがたや……あなた達は、村の危機を救ってくれた英雄ですよ……」
「ありがとう。アイツら、村に来て畑を荒らす癖に大人数じゃ手が出せなくてな、困ってたんだ」
……なんで感謝されてるんだ?
「え? 僕はな――」
「それで、報酬なのですが半分をギルドに、もう半分は彼に渡してください」
また遮ってきた。……この頃に来ると、しゅん……と自身を無くしてしまう。僕の発言って無駄なのかな……。
「分かりました。では……」
「これがお礼だ。受け取ってくれ」
若者は、そう言うと僕に硬貨を数十枚渡してきた。……これだけあれば、二週間は食事が取れるじゃないか!?
「いいですって! 僕は何も――」
「ここで遠慮したら、他人の厚意を無駄にするのよ? 分かってるの?」
……何故か少女が僕に対してひそひそ声で言ってきた。……確かにそうなのかもしれない……人の厚意は受け取らなきゃ、その人自身が傷つくし……でも……僕は本当になにもしてないのに……。
「さぁ! 受け取ってくれ!」
「……わ……かりました」
半ば強制的に、僕にお金が支払われる。少女の方にも払われた後、僕らは挨拶をしてこの家から出た。
……出た直後、少女が僕の肩を乱暴に掴んでくる。
「いっ……!」
「あなた……どういうつもりよ……!」
少女の顔は、怒っているように見え、僕の事を睨み殺そうとしているみたいだ。怒りがこもってるように思わせる声で少女は続ける。
「自分は何もしてない? ふざけないで……!」
「え……だって……何も――」
本当に何も出来ていないのだから、しょうがない。僕はもう一度言おうとすると、少女の怒鳴り声に掻き消された。
「ふざけるなぁッ!!」
「……!?」
……何が一体……彼女をこんな怒らせたんだ!? 僕の何に気が触ったんだ……!?
「私を……そんなに惨めにさせたいの!? 私が弱いから!? そうなんでしょう!?」
「え……え?」
言ってる意味が分からない。話が噛み合ってない。
「なんとか言いなさいよッ!!」
「……」
少女の気迫に圧されて、僕は黙り込む。さっきまで周りにいた人はいつの間にか居なくなってたし、この光景を見てる人は誰も居ない。
「な、何が……」
「そんなに私は弱いの!?」
少女が叫んだ瞬間、彼女の瞳から雫が飛び散る。潤っていた目からツー……っと垂れていた。……泣いてる……? え……僕のせい!?
「ね、ねぇ! 僕が何かやったの!? ごめんねって!! だから、泣かないで……」
「私を馬鹿にするのも、いい加減にしろぉおおッ!!」
突如、腹部に衝撃が走る。少女の攻撃は、僕を軽々と吹っ飛ばし、宙を駆ける。……その途中だったろうか。怒ってるのか、悲しんでるのか、悔しいのか分からない、彼女の表情を見たのを最後に……僕の意識は遠のいた。




