Scene4:逃げちゃ駄目だ
「はぁ……はぁ……」
息が切れて、その場にへたり込む僕は、一体どこまで来たんだろう。街道を走って逃げたのは思い出せる。……そうだ、逃げたんだ。魔物相手に。
「……どうしろっていうんだ……僕に……」
魔物なんて倒せる訳ないじゃないか……僕になんか。魔王討伐って言われても……僕以外の誰かがやってくれるに決まってるのに。
「なんで僕が行かなきゃなんないのさ……」
やんなくたっていいじゃん……どうせ誰かが倒してくれるんだから。大体さ……なんで今なのさ。昔からそういうのはいたハズなのに。
「……はぁ、とりあえず村に行こう。ここにいるよりも、絶対に休めるし」
今も街道にいることを思い出して、歩き始める。地図を取りだそうと思って、服のポケットを漁ってみる。
「……あれ?」
ポケットをまんべんなく探す。それでも、何も入ってない。
「おかしいな……!? さっきまで手に持って――」
手に持って……僕は……どうした? 魔物から逃げる時……逃げるのに必死で、落としたんだ! 自分の冒した失敗に項垂れる。最初に行く村の場所は分かってる……でも、これからどうしろっていうのさ……!
「はぁ…………」
大きなため息をつきつつ、僕は歩き出す。
「旅の初日から……ツイてないよ……」
しばらく歩くと、目印の赤い木が見えた。そのまま街道を進む。魔物と遭遇しそうになったら隠れてやり過ごして、辺りを警戒しながら歩いた。
そうそう、道中で母さんから貰ったお弁当を食べる時、箱の中に頑張ってという言葉が書いてあった。……結局、心配されてるのを実感した。
村に着いたのは夕方……城下町から出たのは朝早くだったのに、警戒し過ぎて丸一日潰してしまったんだ。
「ここが……村」
城下町とは全然違った。石造りの建物なんてなくて、全て木や藁で造られたものばかりだし、城下町とは違って歩いている人が全然いない。
「……寂しいな……とにかく、泊まるところを捜さないとね」
持ち金は……多分、宿屋とかで一泊できそうな位はあるかな。手に硬貨をいくつか持ってそう考える。
「それにしても……ホント人がいないなぁ……宿屋の場所とか聞きたいの――」
「何してるの!?」
「えっ!?」
いきなりの怒鳴っているような声にビックリして声を上げてしまう。丁度後ろから聞こえたみたいで、振り返ってみる。そこには……、
「依頼したあなたたちが、私の言う事に従わないってどういうつもりなのかを聞いてるの! あの場所で一夜を明かすようにって言ってたわよね!」
黄色い髪をたなびかせて、こちらに近付いてくるお姉さんがいた。金色の瞳と、赤くしている顔色で、僕に向かって怒っているようだった。……ホント今日は厄日だ!! なんで僕が立て続けにこんな事になってるんだ!?
「言ってる意味が分からないんですけど……」
「村人全員に伝えるように言ってたハズよ!? まさか、聞いていないとか!?」
「え、えっと……何が!?」
お姉さんに問いつめられて、僕は戸惑ってしまう。話が飛躍というか、何を言ってるのか分からなくて、混乱し始めてる。理解しようとしても……この話し方からすると、村の人についてのことみたいだ。
「ああ……もう! 早く着いてきて! あなたがいると邪魔……」
「ニャオオオッ!!」
また急にだ……魔物の鳴き声のようなものが聞こえた。それも、一度だけでなく、二度、三度と鳴き声は続く。
「……っく……! もう来たのね……! 早く建物の中に隠れてッ!」
「え、ええ!?」
半ば強制的に、近くにあった木造建築の中に入れられ、僕は身を潜めることになった。でも、あのお姉さんがどうするのかを知りたかったので、窓から見ることにする。お姉さんは、村の入り口に立って、何かと対峙してる。それは、真っ白い猫……全長1mくらいある大きな魔物で、それが少なくとも五匹はいる。
「……ヒッ……」
いつの間にか口から悲鳴が出ていた。無意識にあの魔物に恐怖を感じていた。あのお姉さんは、何匹もいる魔物相手に、剣を抜いていた。そして、躊躇することなく、その内の一匹に斬り掛かる。するとそれは、力無く項垂れて、倒れたようだ。
「……凄い」
あの猫を一撃で倒した……でも、それ以上に何匹もいる中で、恐れずに行動出来るのが凄い……。だけど、魔物も流石に怒ったようだ。四匹の魔物はそれぞれ違う方向に走り出し、お姉さんを囲む様な配置になった。……そして、
「……!」
一斉に襲いかかり、お姉さんへの攻撃が始まった。三匹が、爪をたてて飛びかかり、お姉さんはそれを受け流している。だけど、残りの一匹がお姉さんに忍び寄り、そして、飛びかかった。
「あ……!」
その攻撃に、お姉さんが倒れ、剣を手放してしまう。残りの魔物は爪を立てて……お姉さんを切りつける。お姉さんはなす術なく、攻撃を受けている。爪は容赦なく襲いかかり、お姉さんは苦痛の表情を見せている。
「……」
怖い……怖い……。僕もああなる……絶対に……! そうならないように、僕は建物から逃げ出す。音を立てないように、ゆっくり扉を開けて、聞いた。
「いや……いた……痛ッ……やめて……!」
悲痛な叫び。助けを呼ぶ声。さっきまでの印象の人とは違った。魔物に襲われて、泣きじゃくりながら攻撃を受けている彼女……。
「……ッ!」
「ぁ……いだぃ……やめてよぉ……! いだ……ぃ……よぉ……!」
声はドンドンと力を失っていく。……逃げたい……逃げたい……逃げたい……逃げたい逃げたい逃げたい……! でも……、
「……だれ……かぁ……! たすけ……」
僕は動いた。走る、駆ける。体は震えてる。ガタガタと震えてる。これは恐怖で震えてる。でも……助けを呼んでるんだ……!!
「やめろぉッ!!」
逃げちゃ……駄目だ……!




