Scene2:旅立ち
王様からの指示を聞いたあと僕はすぐ様、家に帰っていった。母さんからはいつも通り、「お帰り、大丈夫だった?」と言葉を言ってもらい、それに「うん……」とだけ答えて、僕は自室に籠った。いつもの行動なのに、このいつもの事は今日で最後だ。明日の朝には旅立たないといけない。死にたくはない。
だから、しぶしぶ城下町から出ていこうと思ってる。出ていくのに路頭に迷ったら嫌だし、ここら近辺の地図を見てみる事にした。
「……これってどう見るのかな」
……初めて自分から開いた地図は、意味不明だった。自分の今いる場所とか、何処にいけば村や街があるかなんてわかったもんじゃない。あー! もう分からない! 僕は地図を片手に、自室から飛び出して母さんに教えてもらう。
「あら、ミライから教えてって聞いたの久しぶりね」
と言われて、少しだけむず痒くなった。そういえば誰かに頼るのって久しぶりだったかもしれない。最近では友達も何処かにいっちゃったりして、こういう機会が減っただけだと思うけど。
「……ここが……今いて……近場は……ここ……?」
「そうそう、ここにいくには、ほらここにある、赤い木が目印で、ここを右手に歩くと……」
「ああ、道沿いに行けば辿り着けるんだ」
「そうそう」
母さんから教えてもらった地図の見方を、僕は覚えて、ありがとうと感謝の言葉を伝える。これで明日行く場所には迷わないで行ける……かな。
「それにしても、突然どうしたの? 地図の見方を教えてだなんて」
「……そ、それは」
言いにくかった。でも、何も言わないで行くよりはいいと頭の中で結論づけたので、僕は王様から魔王討伐に行ってこいと言われたのを伝える。
「……ってことがあって」
「だ、大丈夫なの!? 無理なら行かなくてもいいのよ!?」
母さんは、僕の耳が千切れそうな程の大声を出してきて、そんなに心配するのか……というのが頭に浮かぶ。……母さんがそんな風に取り乱したのはあまり見たことなかったし。……いいや、いっぱいあった。少し怪我をすれば言われたし、友達とのやり取りで暗くなってたら騒ぎ立てていた。
「し、心配しないでって! 僕だって男なんだし、なんたって母さんの子だからさ!」
……今まで何もやってこなかったけど……と心の奥底で自虐する。でも、これ以上心配させる訳にはいかないと思って、母さんをなだめる。
「で、でも……出発はいつ?」
「明日の朝」
「心配するわよ!」
母さんの怒鳴り声が家に響き渡る。父さんがいたら、どんな反応するんだろう……。母さんは、僕の方を見た後、ギュッと抱きしめてくる。顔が埋まって、上手く息が吸えない。
「か、母さん……ぐる……ぐるじい……」
「ミライは、何やっても上手くいかない子で……心配ばかりかけるんだから……!」
「……!」
……そっか……僕はいつも心配掛けてたんだ……分からなかった……。思えば、家に帰るといつも心配そうに母さんが「大丈夫だった?」と聞いてきてくれた。……ううん、心配そうにじゃなかった。心配してくれてたんだ。今まで……僕がしっかりしてなかったせいで……。
「……心配掛けて……ごめん」
「でもね……ミライに安心して任せる事だってあるのよ」
申し訳なさそうに言った僕の言葉に、母さんは優しく言葉を掛けてくれる。僕はその言葉に耳を傾けながら母さんの抱擁から必死に抜け出そうとしてた。
「ミライが友達といる時が、一番安心するな……だって、あなたはいつだって人に優しくて、誰とでも仲良く出来るから」
「僕が……仲良く……?」
……そういえば、友達と遊ぶ時とか、知らない人連れてよく遊んだなぁ……。思えば、その後決まって仲良くなって、いつもとは言えないけれどかなりの頻度で遊んでたのは覚えてる。名前も顔も覚えてるし、ちょっとした家庭の事情だって覚えてるんだ。
「そうやって、友達ばかり増やしてたから、家が大変になったときとかあったものね」
母さんはクスッと笑って、そんなことを言ってくる。昔の遊んだ光景だ。家で一緒に遊ぼうと言ったら十数人くらい呼んで遊んだっけ。その時は母さんも苦笑いだったなぁ。
「だから、母さんはミライが一人の時よりも、皆といる時の方が安心できるな」
「……そうだね……うん、そうだね」
確かに、その通りだ。でもこの街じゃ僕と一緒に行ってくれる人はいない。誰だって叶えたい夢とかあったし、冒険家になりたいと言ってたアレックスだって、今は家業を引き継いで、立派な道具屋だし。他には、騎士とか、兵士とか、鍛冶屋とか、教授とか……叶えたい夢があったり、家の都合で行ける人はいないんだ。
「……うん……友達作るよ。旅の途中で、作る。だから、心配しないでよ」
友達……いた方がいいもんね……その方が何より楽しいし、出来ることが増えるから。
「それなら安心したわ」
ホッと胸を撫で下ろす母さんを見て、僕は、
「そろそろ離して……魔王討伐の前に死んじゃうから……」
息継ぎが出来なくて窒息しかけていた。
この日の晩御飯は豪華だった。母さんが腕によりをかけて、仕事から帰ってきた父さんが腰を抜かした程に。父さんは、僕に対して「何があっても、諦めるな」その言葉だけ伝えると雑談に入った。僕らの思い出……どんな事にあったかとかで、家族揃って、笑いあってた。
…………そして、日常の終わりがやってくる。
「ハンカチ、持った?」
「大丈夫」
「武器は装備しないと使えんぞ」
「装備してるって」
「お弁当、はい」
「ありがとう」
「防具も装備しないと意味がないぞ」
「装備してるってば」
「いつでも帰ってきていいからね。あなたは私たちの子供なんだから」
家族とのやり取り……これで最後なんて思わなかった。だって、帰ってくるって決めたから。死にたくない。絶対死ねない。そう覚悟を決めて……、
「行ってきます! 父さん、母さん!!」
その言葉に両親は、
「「行ってらっしゃい」」
と言ってくれた。その言葉と共に、僕は家を出た。死にに行くんじゃない。死にたくないから、僕は旅立つんだ。




