Scene12:漆黒の魔物
大都市コロッシオの西口……そこから街道沿いに抜けた先に川があり、橋が架かっている。
そこからずっと僕の体の丈くらいの草が生えてる中を走っていく。
……聞いた話によると、街道の分かれ道とかに看板があるようなので、迷う事なく、アライの村に着きそうだ。
……でも、何だろう……走ってると違和感を覚えてしまう。
魔物に全く遭遇しないのだ。
街道だから……というワケでも無さそうだし、こんな長い草があるから出てこないってワケでも無さそう……。
アイカさんと旅をしていた時には街道でもよく魔物に遭遇したし、魔物はどこでも生息しているとか、聞いたし。
「いや、そんな事より……」
今はそんな違和感より、胸に引っかかるような不安の方が大きい。
アイカさんは大丈夫だろうか……。
悪魔だ……とか、疫病神……とか聞いていて、自分で作った、自分だけの不安……。
そこに、初めて会った時に魔物に襲われてしまった事でより大きくなっていったのかもしれない。
「大丈夫……だといいんだけれど……!」
僕が、アライの村に着いた時……異様な光景が広がった。
人が倒れてる……それだけでも異様なのに、魔物も血塗れになり、倒れていた。
まるで、ここが戦場になってるかのよう……。
「……そうだった! アイカさんは――――」
僕がアイカさんを探そうとした時、突然、悲鳴と雄叫びが同時に聞こえた。
その位置は村の中……だと言うことは分かるのだけど……何処だろう……?
僕はちょっと駆け足になりながら、キョロキョロ見渡して、アイカさんを探す。
……思えば人々もみんな、倒れている。
その周辺や下には血溜まりがあって……死んでしまってるように見える。
……いや!
きっと寝ているだけだ。
そうでも思っていないと、体が震えて動けなくなってしまいそうだった。
人が死んでいる所なんてみたら、グラッと倒れそうだし……。
「考えるな……考えるな……!」
今考えるべきは、最初から一つ。
アイカさんを探し出すことだ!
「アイカさぁぁああんッ!!」
僕は必死にアイカさんを呼ぶ。
「何処にいるのぉぉおおお!!」
叫んだどころでひょっこり出てくるわけないか……僕はそう思いながらも叫び続ける。
「何処に……ッ!」
叫び続けていた時だった。
僕は見た。
倒れている少女の黄色い髪……明らかに見覚えのある服装……。
「……ッ! アイカさん!?」
そう叫んで近づこうとした瞬間、突然視界の天と地が反転した。
「……ぇっ?」
斬られた……殴られた……いや、引っ掻かれた……!?
僕と共に鮮血が舞い、無様に地面に落ちる僕と共に血が降ってくる。
大きな魔物……。
僕よりも全長が五倍くらいありそうな大きな魔物……。
巨大な二本の捻れた黒角、禍々しい闇を纏っているかのような大爪、美しくも不気味な漆黒の剛毛。
フォルムは鹿に近いが、凶暴な牛に近い面。
まるで黒い突風が吹いたかのように、ソイツは現れた。
「イッ……!」
漆黒の魔物から受けた一撃、その痛みで僕は立つのもままならない。
顔を動かして、魔物の姿を見るのが精一杯だった。
……なんだっていうんだ。
「死ね……ないのに……ッ! 僕は……帰らなきゃ……ならないのに……!」
目の前の魔物相手に、僕はすっかり怯えてしまっていた。
背筋が凍りつき、体は震えてしまう。
得体の知れない恐怖……戦ったところで絶対勝つことが出来ない……そんな絶体絶命を絵に描いたような場面だ……。
「……ッ!」
漆黒の魔物の四本足……その前足が持ち上げられて僕は……!
咄嗟に目を瞑る。
死を覚悟して。
「……?」
……。
あれ……?
何も起きない……?
恐る恐ると目を開く。
そこにはさっきのような禍々しい魔物の姿はない。
「助かった…………のかな……?」
危機一髪だった。
でも体の傷は酷く、立ち上がろうにも立ち上がれない。
魔物の心配は無くなったけれど、これからどうしたらいいだろう。
「ど……うしたら……」
徐々に目はかすみ、目の前は真っ暗になる。
意識も朦朧として、僕は微睡んでしまっていた。




