Scene10:友達になれたかな
僕らはコロッシオへ向かうべく、草原の中を歩いている。
アイカさんは、僕が戦力にならないと分かったからか魔物と出くわした時に前に出てくれるようになった。
その度に、「役立たずは下がってて!」と言われる。
でも、その事が嫌な事だとは思ってない。
……役立たずは本当なんだし、アイカさんは僕を守ってくれてるんだ……。
歩いているアイカさんの横顔を見ると……なんだろう、怪訝な表情をしてる気がする。
「どうしたの?」
「うるさいッ!」
「う……ご、ごめん」
なんで怒ったんだろう……僕がまた悪い事したのかな……。
僕は渋々と歩いてついていく。
コロッシオまであとどのくらいだろうと考えながら。
「今日はここで休むわ」
日も暮れてきた草原でアイカさんが言った。
ここで野宿するの……?
「の、野宿?」
「それがどうかした?」
アイカさんが、トゲのあるような言葉で言ってきてる……気がする。
「い、いや……あんなに歩いたのに、野宿するんだなって……その……思って」
すぐに辿り着くと思ってたのに……予想外だった。
一日を殆ど歩きに費したのに……。
「当たり前でしょ。出発した村から大都市コロッシオに行くには二日、三日かかるわ」
「そんなに!?」
歩いてそんなにかかるものなんだ!?
確かに、地形とか魔物とかの問題で街とか作れないんだろうけれど……そんなに遠いとは思わなかった。
「……本当に何も知らないのね」
はぁ……と深いため息をついて、アイカさんが頭を抱えてる。
普通、知ってるものなの!?
分からないよ……勉強とか苦手だったし……。
「うん……勉強苦手だったから」
「苦手とかの問題じゃなくて……一般常識だけれど」
「え、そうなの?」
更にはぁ……とため息をついてる。
「は……はは……常識だったんだね……知らなかった」
「よく生きてこれたわね」
「うん、不自由なく暮らしてた」
「……」
なんでアイカさんは僕を睨みつけてるんだろう。
意味が分からないよ……。
「えっと……」
「……」
僕が何か言おうかと考えていると、アイカさんはどこからか布で出来た袋を持ち出して、そこから光る石を取り出して、その場に置いた。
「……これは?」
「質問しないで。面倒だから」
……まるでゴミを見るような目で見られてた。
うぅ……僕……何も言わない方が良いのかな……。
辺りはすっかり暗くなり、唯一の光がアイカさんの取り出した光る石だけだった。
野宿……か……。
「……あなた先、寝なさい」
光る石をボーッと見ていると、突然アイカさんがそう言った。
「えっ」
「……魔物が出るかもしれないから、交代で見張りよ」
寝ても……いいのかな。
僕が寝て、アイカさんが起きて見張る……って事?
……でもそれじゃ……。
「アイカさんは……?」
「交代って言ったでしょ」
「でも……僕より疲れてるんじゃ……」
「それじゃ、あなたが見張ってくれるの?」
ニヤニヤと馬鹿にしたような顔で、アイカさんは言ってくる。
……甘く見られるのはしょうがない。
馬鹿にされてるのだってしょうがない……。
僕はそうされても文句は言えない。
だから……。
「うん、いいよ。それでアイカさんの疲れがとれるなら」
僕はめいいっぱい微笑んでアイカさんに言う。
……僕の感謝を少しでも伝えられればいいな。
これをしたからってどうなるって訳じゃないけど、せめてアイカさんが少しでもラクになるなら、それでいい。
アイカさんは僕のそんな態度に、少しだけキョトンとしていた。
……僕がこんな事言うとは思わなかったのかも……。
アイカさんは、意地悪くまた微笑んで、
「じゃあ、任せるわ。私はどれだけ眠れるかしら」
と言って、僕に背を向けて横になった。
そして、しばらくすると本当に眠ってしまったようで、すぅすぅと寝息を立て始めた。
「おやすみなさい」
小さな声で、僕は言った。
少しだけきた眠気を振り払うようにして、周囲をキョロキョロと見回す。
……今のところ、魔物はいないみたい。
でも、来たらどうしよう……。
魔物が来るかどうかとビクビクしながら体育座りすること二時間くらい……ガサガサと、明らかに魔物であろう、足音がした。
「……」
怖い……でも、もしかしたら、逃げてくれるかもしれない。
別の方向へ歩いて行くかもしれない。
……そう思ったけれど、どうやらやっぱりコッチに来たみたいだ……。
「ニャォオッ!」
……真っ白い……猫……。
アイカさんが一撃で葬った事のある魔物だ。
「ヒッ……!」
ソイツがそろりそろりとこちらに近づいてくる……。
ガタガタと体は震えて、腰に刺してる剣はやっぱり抜けない。
「……アイ――!」
咄嗟にアイカさんを呼ぼうとした。
……だけど、アイカさんは眠っているんだ。
道中、魔物を一人で倒して、僕なんかよりよっぽど疲れて……。
こんな所で起こしたら疲れもとれないだろうし……!
「……僕……一人で……!」
震える体で……鞘から僕の……剣をスッと抜き出す。
思った以上に剣は重く、一度は剣先を地面に落としてしまったけれど、魔物に剣先を向ける。
魔物は爪を立てて、迷わず僕目掛けて飛びかかってきた。
「……ッ!」
……目を閉じて、振り上げて……振り下ろす。
ザシュッ! ……という音と重い感触が一緒にして、僕の体に伝わった。
ガタガタと体は震えてる……。
……ゆっくりと目を開けてみると、目の前には血溜まりが出来て……その上で、力無く横たわっている魔物の姿があった。
「……うっ」
自分がした残酷な事に少し吐き気がする。
これを、幼い頃、友達がやっていた事なんだ……。
死骸をみて、実感した……。
今、やっと僕は……魔物を倒せるようになった……。
でも、進んでやりたいとは思えない。
出来るだけ、魔物を倒すことは避けたい。
魔物だって、物じゃない。
呼吸だってするし、生きる為に食事をするだろう。
考えて行動するし、さっき見た通り血だって通ってる……。
……生き物を倒してる事に変わりは無い。
それじゃあ、魔王を倒せってやつはどうするんだ?
自分で自分に問いかける。
……魔王だって魔物の一匹だろうし……生き物だろう。
そんな相手を殺す……。
「……駄目だ……もう考えたくない」
魔物だ魔王だって、自分で問答していく内に分からなくなってきた。
自分に問答するのをやめて、見張りをしていく……。
幸い、あれから魔物が出る事はなく、無事に朝日が昇って、次の日が来た。
「もう朝か……」
眠気が、魔物を倒してからというもの全く来なかった。
……なんでだか分からないけれど、目が冴えちゃったんだ。
朝日が僕を照らして、光る石がいらないくらい明るくなった頃だったろうか。
「ふぁぁあ…………」
大きな欠伸をしながら、アイカさんが起きた。
「おはよう」
「おは――――」
僕が言ったおはようを返す前に、いきなりダッと立ち上がり、僕の顔をジッと見始めた。
「……交代は?」
「しなかった……みたいだね」
僕は、ははっと笑ってアイカさんに言う。
「…………ご、ごめん」
「へっ?」
いきなり、アイカさんが俯いてそんな事を言ってきた。
僕はなんで謝られたのか分からなかったから変な声を漏らした。
「……まさか、ずっと見張りをしてたなんて……」
「あ、ああ、いいよ。僕がやらなきゃいけなかったんだし」
お陰で魔物が倒せる様になったんだし……。
「それに、全然眠くないからさ」
「……少し眠ってなさい」
……眠くないって言ってるのに、アイカさんがそう言ってきた。
「え、なんで……」
「いいから眠ってなさい」
なんだろう……アイカさんの口調が優しくなった気がする。
「どうして……」
「……いいから寝なさいッ!」
「なんで怒るの!?」
優しくなったと思ったら、また怒られた……。
「……分かった……うん……寝るよ」
なんでか……アイカさんの気迫に負けて、結局寝る事になった。
今から眠れるかな……。
「……」
……思いの外……眠るのに、そんなに時間はかからなかった。
いつの間にか寝ていたみたい。
肩を揺らされるような感覚を感じて、僕はゆっくりと目を覚ました。
「うぅ……ん……」
「やっと起きた……もう行くわよ」
アイカさんは僕の目の前に立って、そう言ってきた。
「あ……ごめん、いつの間にか眠ってて……」
「その事はいいわ。そろそろ行くわよ」
「うん」
僕も立ち上がり、体を叩いて汚れを落とす。
……まだ朝日が出てから少し経ったくらい……僕が寝てあまり経ってないんだな。
そう思いながら歩き始める。
「そういえば、僕が眠ってる間に魔物は出なかった?」
「……でなかったわ」
「……そっか」
ちょっとだけ、違和感のある返答だった。
さっきの優しいとも違う、怒ってるとも違う……言葉に出来ない、変な何か……。
「ホントなの?」
「な……何……疑ってるの?」
「うーん……」
信じたい……でも、うーん。
ううん……信じよう。
「いや、信じるよ」
「……そ」
素っ気ない返事をして、アイカさんは前を見た。
……前までのアイカさんとはやっぱり態度が違った。
……ちょっとだけ、友達に近づいたかな……そうだといいな。
「……ふふ」
「何よ気持ち悪い」
「ううん、なんでもないや」
爽やかな気持ちになれた。
アイカさんのムッとした横顔、その横で僕がのほほーんと歩いている。
……他人からみれば、本当の友達に見えたから。




