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終焉式世界紀行  作者: 慾
2/5

罪人

クランベリーで染色された朱い幾何学模様のテント群の中、ひと際大きな酋長のテントの中に、アルバは跪いていた。周りを取り囲む狩人たちは一様に目を伏せ、後ろ手に縛られているアルバと目を合わせようとしない。干からびた手で煙管を吹かす大長老は、毛足の長い水牛の皮の上に坐し、目の前の火に色とりどりの石と、黒い角を持った水牛の頭骨をくべた。


「言いたいことは分かっておろうな、アルバ。何か申し開きはあるか?」


「俺は禁忌を犯した。それだけだ」


戦模様をしたままの、隆起した岩のような筋肉を持った立派な上体を惜しげもなく晒していたアルバは、噤んでいた口を重々しく開いた。大蝕の日に血の目を見てはならない。由来は伝っていないが、この部族に古くからある掟だった。それを、アルバは破ってしまったのだった。


「そうか。優秀な戦士を喪うのは惜しいことだが、仕方あるまい。お前は<豹の平原>行だ」


「ですが、彼はまだ若い…」


「豹だって一番多く仕留めている…」


「アルバがいなければ周りの部族がとっくに…」


「黙れッ!!」


口々に騒ぐ壮年の狩人たちを一括し、長老は煤けた水牛の頭骨に煙管を叩きつけた。すると甲高い耳障りな音を一つ鳴らして、頭骨は粉々に砕け散った。


「そんなことは儂が一番分かっておる。だがこやつを追放せなんだら、我々は直にこの骨のように砕かれるだろうよ。掟は絶対じゃ。周辺部族に文句を言わせないためにも、追放は絶対だ」


「しかし<豹の平原>は…」


「じゃが生き残る希望がないわけではない。例えそれが万に一つだとしてもじゃ。儂にできる計らいはそれくらいだ

…明朝、あの豹の仔共々馬で引きずって行け」


そう言ったきり、テントは重苦しい沈黙に包まれた。屈強な狩人たちの中には、肩を震わせて熱くなった眦を抑える者もいた。<豹の平原>はアルバ達が狩りをしていた<赤土の地平>から南西へ下ったところにある盆地だ。疎らに大樹が生えたそこは、腹を空かせた豹たちの縄張りであり、血生臭い獣の吐息で幾分か陰惨な空気が渦巻いている土地だ。アルバの一族の最も勇敢な戦士ですら、足を踏み入れようと思わない場所。<豹の平原>への追放は、彼らにとって死と同義である。


「さあ、やれ」


大長老は火でよく炙った刃を傍らの男に差し出した。受け取った狩人は息を飲み、そして震える刃をアルバの額の左寄りから、心臓のある胸の中央へと滑らせた。暑さと痛みに大粒の汗が浮かび、アルバは只管に歯を食いしばる。3度に渡って付けられた、獣の爪痕のようなこの印は、アルバが罪人であることを示すものだ。どの部族も罪人の印を持ったものは助けてはならない決まりだ。


続いて同じ刃が火で炙られ、次の狩人が立ち上がると、先程の者がつけた印をなぞるように、再度アルバの肌を傷つけた。こうして刃は熱しつつ次の者へ次の者へと渡される。誰もが手をわななかせ、優秀な若い狩人の死を悼んだ。


アルバがもう少し脆弱な育ちならば却って良かったかもしれない。事実、同じ刑を受けた者の中には、破傷風で死んだものも多い。だが残酷なことに、彼らの信奉する<大精霊>(ワカン•タンカ)はアルバに死の解放よりも生の苦しみを与えた。灼熱の痛みに耐える苦渋の夜がやがて訪れた。

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