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第五話 来界村開発戦争

 最初に鈴音達の元に来たのは来界村の駐在所に勤務する金井誠かないまことだった。

 金井は死体を確認すると、またかという顔をして両手を合わした。それから鈴音達を事情聴取、ここでもやはり鈴音が静音の妹だと知ると金井は驚いた。鈴音と沙希から話を聞いた金井は美咲と俊吾からは何も聞こうとしない。鈴音達の話でも充分に分かったし、子供達をあまり巻き込みたくは無かったのだろう。

 それからすぐに警察の一団が到着、現場検証が行われた。

 現場検証が始まってからしばらくして、暇を持て余していた鈴音達の元に一人の中年男性がやってきた。一応鈴音達に警察である事を証明してから男は話を切り出す。

「どうも、平坂署の吉田と申します。京野鈴音さん……ですね」

「はい……そうですけど」

 無残な死体を見たショックからか、鈴音は歯切れがよくなかった。

 そんな鈴音を察したのだろう、吉田は金井を呼び出した。すぐに吉田の元に来る金井。

「金井君、ちょっと駐在所を貸してもらって良いですか?」

「はい、ご自由にお使いください」

「では詳しい話は駐在所でしましょう。あっ、それから子供達は家に送り届けてください」

「分かりました」

 金井は吉田に敬礼をするとすぐに美咲と俊吾の元に向かった。そして吉田は鈴音達を車へと誘う。

「どうぞ、駐在所までは距離がありますから車で行きましょう」

 戸惑うが沙希と一緒に車の後ろに乗る鈴音。そして吉田が自ら運転して車は現場から去っていった。



 車中は無言の空気が流れた。吉田は車の中では何も聞かずに運転に集中しているみたいで、重い空気が車中に充満する。そんな中で鈴音と沙希は互いに手を取り合う、少しでも支えるために。

 そして車は駐在所に到着した。

「どうぞ、中で話しましょう」

 吉田は先に降りると、駐在所の中に入って誰かと話しているようだ。鈴音達も車を降りると吉田は駐在所の中に入るよう手招きする。駐在所に入る鈴音達、そこは交番となんら変わりないところだ。

 そして吉田はというと、机の前に座るとタバコに火をつけて鈴音達を座るように促す。

 机を挟んで吉田と対面しながら座る鈴音と沙希。吉田は何かの書類を用意するわけでもなく、そのまま話し始めた。

「確か、ついさっき来界村に到着したんでしたな」

「ええ」

「驚いたでしょう、いきなりあんな事件と遭遇したんですから」

 正直驚いたでは済まないほどの衝撃が鈴音の中にはあった。そんな鈴音を察したのだろう、吉田は話を切り替えてきた。

「鈴音さん、あなたがこの村に来た理由は……やはりお姉さんの事で?」

「ええ」

「確か……思っていた男性と駆け落ちしたと報告が行っているはずですが」

「そんなので納得しろっていうんですか!」

 思わず声を荒げる鈴音。だが吉田は笑顔で鈴音に返した。

「ですよね、今時駆け落ちと言っても説得力ないですよね」

「えっ?」

 吉田の言葉に驚く鈴音。まさか警察の口からそんな言葉が聞けるとは思ってもみなかったのだろう。

 吉田は急に真面目な顔になると鈴音を見詰める。

「実はですね、私も駆け落ちなんて思っていないんですよ。ですが来界村の現状を見たでしょ。来界村はあのような殺人鬼が横行してるんです。ですから、このような地方の警察ではたかが失踪者を構ってる暇は無かったんです」

「たかがって!」

「お怒りは分かります。ですが上層部がそう判断した物ですから、私にはどうも。ですが静音さんの仕事を見る限り、私はこの事件と関連があると思ってるんですよ」

「姉さんの……仕事?」

「ええ」

 じっと見詰めてくる吉田。その瞳はまるで鈴音に何かを求めているかのようだった。

「静音さんは何か言ってませんでしたか、自分が狙われるような事を?」

 それって、もしかして……

 嫌な考えが鈴音の頭を過ぎる。そんな鈴音を察したのだろう代わりに沙希が口を開いた。

「それは静音さんがこの事件に巻き込まれたといいたいんですか?」

 吉田はタバコを揉み消すと、困った顔で頭を掻いた。

「いや〜、それがそうとも言い切れないんですよ。なにしろ静音さんが巻き込まれたという証拠が無い。それにこの事件の共通点が無いんですよ」

「共通点?」

「ええ、分かりやすく順を追って説明しましょう」

 こうして語り始める来界村での最初の事件。

「事件の発端となった最初の被害者、それは平坂神社の神主夫婦でした。先程見たと思いますが、この事件は必ず首を切り落とされています。その神主夫婦も首無し死体で見つかりました」

「首は見つかったんですか?」

「いえ、何処にも見つかりませんでした。それは神主夫婦だけではなく、殺された者全ての首が未だに見つかっていません」

 そして更に語る吉田の話をまとめるとこうなる。

 神主夫婦を皮切りに始まったこの事件。死因は全て同じ、刀のような物で斬りつけられた出血死。しかも犯人は必ず殺した者の首を切り落として持ち去っている。

 しかも凄い事に犯人は必ず一撃、または二回の攻撃で被害者を死に至らしめている。そのうえ首も一刀の元に斬り落とされている事が分かった。どう見ても刀の扱いに長けた、達人的な技を持つ人物の犯行と見ているが、調べた結果来界村にそんな人物は居ないのだという。

 そして被害者は全て来界村の人間。警察の見解は来界村に恨みを持つ人物の犯行だそうだ。

「そして浮かび上がってきたのが静音さんでした」

「なんで姉さんが!」

「お気持ちは分かります。ですが、来界村での出来事を考えればしかたないと思いますよ。それに静音さんは新陰流という剣術をマスターしていたそうじゃないですか。上層部が静音さんを犯人だと思う気持ちも分かります」

「けど!」

 怒りに任せて立ち上がった鈴音を沙希は止める。

 沙希は鈴音をなだめて座らせると吉田と向き合う。

「一ついいですか?」

「なんでしょう」

「先程の吉田さんの言い様、それは警察の意思であって自分とは違う物だと聞こえましたが」

 吉田は沙希をじっと見詰めると急に笑い出した。そして再び沙希と向かい合う。

「神園……沙希さんでしたな」

「はい」

「なかなか頭が切れますな、実はそのとおりなんですよ」

 えっと、どういうこと?。

 ワケが分からないという顔をしている鈴音。沙希はそんな鈴音に笑いかけながら口を開いた。

「鈴音、警察はどうか分からないけど、はっきりと言える事は吉田さんが私達の味方だって事」

「味方って?」

 笑顔を交わす沙希と吉田。そして吉田は鈴音に自分の考えを打ち明ける。

「実はですね、私も静音さんが犯人だとは思っていません。逆に利用されているのではないかと思ってます」

「利用って、誰が?」

「もちろん、羽入家ですよ」

 吉田の顔が真剣な物に変わり、羽入家の名を持ち出した。

 羽入家って、もしかして七海ちゃんの?

 沙希はやっぱりと呟く。

「あっ!」

 そういえば羽入で思い出したけど。

 急に声を上げた鈴音に二人の視線が集まる。

「そういえば、七海ちゃんはどうしたんですか?」

「羽入家のお嬢さんですか?」

 吉田は嫌な顔をすると、頭を掻いてから七海の事を話し始めた。

「報告によりますと、羽入家のお嬢さんは警察に通報した後はどこかに行ってしまったそうです。まあ、羽入家のお嬢さんなら心配ないでしょう」

「なんで心配ないって分かるんですか?」

「羽入家だからでしょう」

 隣にいる沙希が吉田よりも早く口を開いた。そして沙希の言葉に吉田は笑みを浮かべる。

「沙希さん、あなたも羽入家が怪しいと思っているんですか?」

「いえ、ただ、あの七海って子からは嫌な感じがしました」

「なるほど、そうですか」

「あの、結局羽入家って一体なんなんですか」

 鈴音の問いに吉田は真剣な面持ちで答え始めた。

「羽入家というのはですね。この村で代々権力を持ち続けた一族ですよ。その権限は村長と同様、ですが裏ではトップに立ちます」

「裏?」

「ええ、羽入家の権力というのは来界村だけではないんですよ。村の近隣はともかく、組織の末端は東京、大阪にまで延びてるという噂です」

「えっと、つまり……暴力団ってことですか?」

「そんな可愛い物ではありませんよ、あれは。そうですね……私設軍隊、そう表現するのが一番良いでしょう」

『私設軍隊!』

 予想外、いや、予測不可能な言葉に鈴音と沙希は声を揃えて驚く。

 私設軍隊って、日本って軍隊を持っちゃいけないんじゃなかったっけ? って! そうじゃないか、そもそも軍隊って私設で作れるの?

 それも違うと思うが、鈴音は聞き慣れない言葉にパニックになっているようだが、隣の沙希は冷静に現実を見詰める。

「軍隊と表現するからには、何か理由があるんですか?」

「なかなかいい質問ですね。信じられないかもしれないですがあるんですよ、私が、いや、警察がそう表現する理由が」

「何があったんです?」

「鈴音さんは聞いているかもしれませんが、来界村開発を中止寸前まで追い込んだ事件ですよ」

 だが鈴音は首を傾げる。

「おや、聞いておりませんでしたか?」

「姉さんは仕事の事をあまり話さなかったですから」

「そうですか、それもしかたないでしょう。なにしろあんな後に、静音さんが来界村との交渉人に選ばれたのですから」

 あんな……後。

 不安の過ぎる言葉に鈴音は身を乗り出す。

「何があったんですか?」

 緊張の面持ちで尋ねる鈴音。吉田は鈴音を落ち着かせると順を追って話し始めた。

「まず『セリグテックス』はご存知ですよね」

「姉さんが勤めていた会社です」

「そう、そして来界村の開発を請け負った会社です。事件はいつまでも進展が無い、来界村開発事業に業を煮やしたセリグテックスが強攻策に出たことで始まりました」

 そして吉田は語り始める、来界村で実際に起こった驚愕の事件を。



 来界村との交渉はいつまでたっても進まずに平行線を辿っていました。そんな時です、セリグテックスはとうとう重機を率いて来界村に乗り込んだんですよ。だがそんな物を持ち出せば来界村の住人が黙っているはずがありません。当然、村の入り口で座り込みを始めました。

 そして衝突したセリグテックスと来界村。来界村陣営は村長を筆頭にそこから動こうとはしませんでした。当然、セリグテックスも公共事業を請け負っているわけですから、決して退く事が出来ませんでした。

 最初はその場での話し合いでしたが、それが怒鳴り合いに変わり、とうとう取っ組み合いになるところでした。いや〜、私達も借り出されましてね。何とか取っ組み合いは止めたんですよ。

 そうこうしているうちに夕暮れになりましてね。このまま夜を迎えるんじゃないかと思いましたよ。そこに現れたのが、羽入家の当主、羽入源三郎はにゅうげんざぶろうです。

 源三郎は村長と話し合った後、驚いた事に住人を引かせて重機を村に入れたんですよ。信じられませんでした。源三郎はかたくなに来界村の開発中止を訴えていたのですが、それがこうもすんなり折れるとは。ですが、その時は気付きませんでした。それが源三郎の罠である事に。

 重機が村に入った時には、もう日が暮れて暗くなってました。そうなると作業どころではないので、セリグテックスはその日の作業を諦めて帰って行ったんですよ。重機さえ持ち込めば勝ったも同じと思ったのでしょう。

 ですが事件はその日の夜に起きました。村に置き去りされた重機、それがその日の夜に全て爆破されたのですよ。翌朝、無残にも破壊された重機を見て、それは驚いたものです。まさかここまでやるとは思っていませんでしたから。

 検察の見解では爆破にはC4が使われたのではないかということが分かりました。C4というはプラスチック爆弾でしてね。最近の特殊工作員や自爆テロなんかに使われる爆弾です。

 そんな物をこの村で入手できるのは限られています。もちろん、外部に強力な組織を持つ羽入家です。羽入家の組織力ならC4を手に入れることが出来たでしょう。そして事件は続きます。

 今度はセリグテックスの会長、そのお孫さんが誘拐されそうになったんですよ。こちらの方はあらかじめ警視庁が動いていたようで大事には至りませんでした。

 そんなことが相次いだので、とうとうセリグテックスは来界村からの撤退を検討し始めていた時でした。

 村長が急にセリグテックスにある提案を持ちかけたのですよ。それが来界村ではなく、外れにある平坂とその周辺の開発。そこならば来界村は何も文句を言わないということでした。

 確かにそれならセリグテックスの面目も保たれるし、来界村でも文句は無いというのです。

 ですが、そこで更に問題が起きました。詳しく話をまとめる人物が必要なのですが、来界村での出来事はセリグテックスの社内では知らない者は居ないほど広まってしまいましてね。誰一人として来界村に行きたがらなったんですよ。

 そして白羽の矢が立ったのが、京野静音さんという訳です。静音さんは何度も来界村に足を運びました。それでも、静音さんの前には羽入家という壁が立ちはだかりました。平坂も来界村の一部だから開発は認めないと。

 どうやらこの提案は村長の一存だったそうです。

 その後も静音さんは何度も来界村に足を運んだそうです。静音さんは羽入家を説き続けるのと同時に、村人の説得もしました。そして遂に、羽入家を説き伏せて平坂開発の話をまとめたんですよ。



 吉田はタバコに火をつけると、煙を一気に吸い込んで思いっきり吐き出した。

「これが、来界村で起こった事件です。私達は来界村開発戦争と勝手に名前を付けさせてもらいましたけど」

「来界村……開発戦争」

「その他にも細かい事を上げればキリがありません。そして最後に、話がまとまりかけたその時に」

 姉さんがいなくなった。

 まるで狙っていたタイミングで消えた静音。そこに人為的な作為を感じずにはいられなかった。

「吉田さんは静音さんの失踪に羽入家が関わっていると思っているんですね」

 単刀直入に尋ねる沙希。吉田は上を向いて煙を吐き出すと、そのまま話し出した。

「大きな声でいえないことですよ。ですが、ちょっと妙な事がありましてね」

「妙な事?」

「ええ、その羽入家ですが、今でも静音さんを探しているようなんですよ」

「えっ!」

 驚きの声を上げる沙希。

 確かにそれは沙希と吉田の考えが正しいとすれば、かなり妙な事だった。羽入家が静音の失踪に関わっているのだとすれば、逆に隠そうとするだろう。それが今でも探し続けているとは、かなり妙な事だった。

 だが沙希は自分の思い描いた仮説に添って考えると、羽入家の行動が理解できたと思った。

「もしかして、静音さんは羽入家から逃げてるんじゃないですか?」

「どういうことですか?」

 沙希の言葉がよほど魅力的だったのだろう、吉田は思わず身を乗り出す。

「静音さんは自分が羽入家から狙われていた事を察して、逸早く逃げ出した。そして、その手引きをしたのが静馬さん。そしてまんまと静音さんに逃げられた羽入家は必死で、しかも内密で静音さんを探している。そう考えれば羽入家の行動に筋が通ると思うんですけど」

「なるほど、確かにそう考えれば筋は通りますな。いや〜、沙希さん、将来ウチに欲しいですな」

「いや、そんなことは」

 吉田の言葉に照れる沙希。だが鈴音だけは、その考えに同意できずにいた。

 確かにそう言われれば、そうかもしれないと思うけど。何か違うような気がする。それに、何で羽入家は……。

「何で羽入家は姉さんを狙っているんでしょう?」

 鈴音が呟いた言葉。沙希と吉田は鈴音に目を向けて、沙希は逸早くその答えを出す。

「そんなの決まってるでしょ。羽入家は村の一部とはいえ開発される事が許せなかった。だから開発の決め手となった静音さんを恨んでる。だから静音さんを狙ってる」

「そうですね、羽入家の当主源三郎はこの村に相当愛着があるようですから、そこを踏み荒らさせたことが許せないんでしょう」

「でも、羽生家の力なら裏でいくらでも開発を中止できたんじゃない。それを今更、姉さんだけを逆恨みするとは思えない」

「じゃあ、鈴音はどう思ってるわけ?」

「……分からない」

 でも、羽入家がそれだけ危険なら、なんで姉さんは私に何も言わなかったんだろう。そして無事なら、なんで私に連絡をよこさないんだろう。姉さんが無事に来界村から出れたなら、必ず私に連絡をよこすはずだ。それが無いって事は、姉さんは連絡が取れないところにいる。まだ、来界村にいると思ったほうが納得が行く。……でも、それを確かめるにはどうすれば。……やっぱり、行くしかない。

「……あの」

「どうしました?」

「……私、羽入家に行ってきます」

「なっ!」

 驚きの声を上げる沙希、吉田に至っては思わず立ち上がっている。

「危険です! 今羽入家に行けば、あなたまで狙われる可能性があるんですよ!」

「それでも行かないと何も分からない。だから、私は羽入家に行きます」

 覚悟を視線に込めて吉田を見る鈴音。吉田は溜息を付くと頭を掻きながら座る。

「では、私も行きましょう」

「いえ、警察の方がいては返って警戒されます。だから、私一人で……あきゃん」

 突如机に突っ伏す鈴音。頭を擦りながら起き上がると、涙目で沙希を見る。

「痛いよ〜、沙希」

「バカな事を言うから」

「う〜、確かに羽入家は危険かもしれないけど」

「そうじゃない!」

 今度は沙希が机を叩いて立ち上がる。

「水臭い事を言うから殴ったのよ、そんな危険な所に鈴音一人で行かせられるわけ無いでしょ! だから私も一緒に行く。二人なら危険な所でも何とかなるでしょ」

「沙希〜」

 勝手に話を進める二人に、吉田は頭を抱えて溜息を付く。

「本当に行くつもりなんですか?」

「ええ」

「勝手な事をしてすいません」

「……分かりました。我々も充分警戒しておきましょう。あっ、それから話が跳びましたが、今回の殺人事件、私は羽入家が怪しいと睨んでいます。どうかその事を忘れないでください」

「はい」

「分かりました」

 決意を込めて返事をする鈴音と沙希。そんな二人とは裏腹に吉田は気が気ではなかった。

「あっ」

 何かを思い出した鈴音は声を上げる。

「どうしたの鈴音?」

「殺人事件で思い出したけど、俊吾君ずっと気になる事を呟いてた。まるで犯人を知っているような感じで」

「本当!」

 驚く沙希だが吉田は思いっきり溜息を付いた。

「それは村田俊吾君のことですか?」

「えっと、苗字までは知らないんですけど」

「あなた達と現場にいた男の子ですよね」

「はい」

「またか」

 いい加減にして欲しいという感じで吉田は溜息を付いた。

「えっと、またってどういうことですか」

「……そうですね、一応話しておきましょう」

 吉田は座り直すとゆっくりと口を開いた。

「村田俊吾君のご両親は、今回の事件で殺された被害者なんですよ。そしてその時からでしょうか、ある男が怪しい行動を始めたんですよ」

「ある男って」

秋月夕呉あきづきゆうご、村田夫婦が殺される前に妻を殺された男です。よっぽどショックだったのでしょう、今では廃人寸前で村を彷徨っているんですよ。そして俊吾君は秋月が犯人だと決め付けているようです」

「でも秋月は犯人ではなかった」

「ええ、村田夫婦が殺された時にはしっかりとしたアリバイがあったんですよ。ですが俊吾君は納得していないようで、今でも秋月を尾行しているようです」

「尾行って、そんな危険な事を」

「我々も何度と無く注意したんですが、一向にやめようとせずに手を焼いているんです」

「じゃあ、俊吾君が言っていた事は全部思い込み、ということですか」

「その可能性が高いですね、俊吾君は秋月が犯人で無い限り納得しない感じでしたから」

「なんか、ちょっと複雑だね」

 秋月から見れば完全な逆恨みだし、俊吾としては両親を殺した犯人が分からない以上、誰かを犯人にして怒りのぶつけどころが必要だったのだろう。どちらが悪いわけではないが、どうしようもない事なのだろう。

 それが分かっていても、鈴音は胸が苦しくなるのを感じた。



 そして二人が駐在所を出ようとした頃には、すでに夕暮れ。

 夜になってはますます危険だと、吉田が熱心に忠告したので二人は羽入家に行くのを明日に延期した。

 そして桐生家へと続く田んぼ道、沙希は気になっている事を鈴音に尋ねた。

「そういえば鈴音」

「なに?」

「もしかして、羽入家の事をそんなに危険だと思ってないんじゃない?」

「……たぶん、そうかな」

 あまり危険だと思えないからこそ、鈴音は羽入家に行こうとしているのだろう。

 そんな鈴音に沙希は溜息を付く。

「鈴音、七海ちゃんもそうだけど、もう少し羽入家を警戒した方がいいんじゃない」

「私は沙希と吉田さんが羽入家に敏感になってると思うけど」

「なんでそう思うの?」

「だって、姉さんは一人で羽入家に行ってたんでしょ。だから大丈夫って思うの」

 沙希は思いっきり溜息を付いた。

 そこまで呆れなくてもいいじゃない。

 鈴音は顔を背ける。赤く染まった空と山が目に飛び込んでくる中で、鈴音は改めて静音の事を思う。

 来界村の事もそうだけど、姉さんは私には何も言わなかった。私達はこの世でただ二人の家族。だから、もし危険な事が迫っているなら私に何も言わないはずは無い。

 ……今までもそうだったから。重要な事は必ず話し合って来た。それが今回だけ、何の相談が無いはずが無い。だから考えられる事は一つ、姉さんは突然の事態に巻き込まれたんだ。

 そしてそれが、羽入家の仕業なら必ず気付いていたはず。そうなれば、必ず私に連絡をよこしたはずだ。それが無いって事は、羽入家は姉さんの失踪に関わっていないんじゃ。

 ……どちらにしても、明日にははっきりと分かるはずだ。羽入家と姉さんの間で起こったこと、それを確かめないと。

 その決意を胸に、鈴音達は桐生家へと帰って行った。







 キツイ――――――!!! ……はい、いきなり泣き言から入りました。

 いやね、この断罪の日は殺人事件と静音の失踪を同時に進めていく話ですから、同時に書き進めるのが難しいです。……笑った? 笑いました、うが―――!!!

 はい、被害妄想はここら辺で終えておきます。いや、本当に怨まれると怖いから。

 さてさて、戯言はここで終えといて……最近、頭から離れない事があります。それは……猫鍋がやりてえ―――――――――!!! 本編とまったく関係ないですね。けど! この大いなる野望の前にはどうでもいいこと、猫鍋!!! それは私の夢がたっぷりと詰まった鍋なのです。

 えっと、私の後書きはいつもこんな感じなので、そこ方、お願いだから引かないでください。

 さてさて、そんな訳で、そろそろ終わろうと思います。

 ではでは、ここまで読んでくださりありがとうございました。そしてこれかもよろしくお願いします。更に評価感想、投票もお待ちしております。

 以上、ぐつぐつ、にゃーにゃー、にゃーにゃー、ぐつぐつ、鍋の前に肉球を洗えと注意された葵夢幻でした。

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