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第三話 桐生家

「ただいま〜!」

 美咲の元気な声が家中に響き渡り帰宅を知らせる。そして奥から出てきた美咲の母は何かを言いかけたが鈴音達を見つけて口を止めた。

「美咲、この方々は?」

 冷たい声と目線、明らかに鈴音達を警戒している。

 いや、あの、確かに美咲ちゃんは小学生だし、私達を連れてきた事を怪しむのは分かるんですけど、なんでそんなに敵意を剥き出しに?

 連絡も入れずにいきなり押しかけたのだから警戒されてもしかたない。だが美咲の母は明らかに過剰に警戒している。まるで美咲を守ろうとしてるかのように。

 美咲はそんな母親に明るい声で鈴音達を紹介する。

「鈴音お姉ちゃんは静音お姉ちゃんの妹なんだって」

「えっ!」

 驚きの声を上げる美咲の母。そして顔色も段々と蒼白になっていく。

 えっと、何もそんなに驚かなくても。って、何でフラつくの!

「だ、大丈夫ですか」

 急に足元が怪しくなった美咲の母に鈴音は声をかける。だが手で制されて、鈴音はそれ以上は何も言えなかった。そして美咲の母は鈴音の顔をじっと見詰めてから口を開く。

「あなたが……静音さんの」

「あっ、はい、京野鈴音と言います。っで、こっちは」

「神園沙希です。静音さんとも親交があり、鈴音と一緒にこの来界村に来ました」

「……そう、ですか」

 それから美咲の母は美咲に二人を奥の客間に案内するように言って、奥に戻ってしまった。

 美咲の案内で進む二人は客間に通されると、美咲は自分の部屋に戻ると言って出て行き、二人だけが部屋に取り残される。

「それにしても、どうしたんだろうね美咲ちゃんのお母さん?」

 両足を思いっきり放り出してくつろぐ鈴音はそんなことを沙希に尋ねたが、沙希は呆れた目線を鈴音に送っている。

「鈴音、くつろぎすぎ」

「ちょっとぐらい大丈夫だよ。なんか新鮮〜」

 客間からはそれなりに広い庭が見えるためか、鈴音は田舎の空気を存分に満喫していた。

 う〜ん、やっぱりこれぐらい広い庭があるといいね。なんか、田舎に着たみたい。

 いや、実際に田舎にいるんだが、鈴音はそんな事はまったく気にせずにくつろいでいた。

 そんな鈴音を無視して沙希は部屋の真ん中に置いてあるテーブルに付くと、鈴音はもう一回同じ事を聞いてきた。

「沙希〜、さっきの美咲ちゃんのお母さん、どう思う?」

「そうね。……バスの中で美咲ちゃんが言ってたけど、やっぱり静馬さんも居なくなったからその事が気になってるんじゃない」

「やっぱりそうなのかな?」

「そんな時に私達が来たんだから、そりゃ驚きもするでしょ」

「う〜ん、でもあそこまで驚くかな?」

「……もしかして、何か知ってるんじゃ。静音さんとが居なくなった理由とか」

「それはちょっと違う気がする」

「じゃあ、なんなの?」

 う〜ん、そう言われてもね。

 鈴音は先程の光景を思い出してみる。

 私達が来た事に驚くのはともかく、あそこまで過剰な反応するかな? なんかこう、そう、まるで来て欲しくない悪夢が来たような。そんな感じかな? ……って、私達にそんなに来て欲しくなかったのか! いやいや、それも何か違う感じがする。う〜ん……。

「沙希が怖い顔してたから貧血を起こしたんじゃない」

「こんな時に冗談を言うな」

 鈴音の目にははっきりと沙希の頭に怒りマークが見えた。しかたなく座りなおして沙希と向き合う鈴音。

 そしてテーブルの上で両手を組みながら真剣に話し出す。

「たぶんだけどね、美咲ちゃんのお母さんは私達が知ってはいけない事を知ってるんだと思う。それは私達には決して知られてはいけない事、それなのに私達が現れたから動揺したんだと思う」

「そっか」

 あっさりと納得する沙希。鈴音は沙希に向かって微笑みながら補足する。

「でも、全部私の勘だよ。だから確証は無いよ」

「別に構わないわよ。鈴音はやけに観察力があるから、あてずっぽうでも当たってる時が多いのは経験済み」

 沙希が鈴音に笑いかけた時、部屋に近づく気配を察した二人は会話を止めて姿勢を正した。

 そして美咲の母が入ってくると、二人にお茶を出して改めて挨拶する。

「遠いところからよくお越しになりました。美咲の母、桐生琴菜きりゅうことなと申します」

「こちらこそ」

「ご丁寧な挨拶ありがとうございます」

 琴菜もテーブルに付いて、三人で囲むと琴菜は鈴音に話しかけた。

「それで鈴音さんは……やはり静音さんの事で?」

「はい、こちらに来れば何か分かると思いまして」

「そうすると、静音さんも連絡は無いんですね」

「静音さんもって事は静馬さんも何の連絡も無しに消えたんですか?」

 沙希が口を挟んできたので琴菜は沙希に目を向ける。沙希に向けられた琴菜の瞳はとても悲しい物だ。

「はい、あの子も突然居なくなってしまって」

「二人の失踪に心当たりは?」

 琴菜は黙って首を横に振る。

 やっぱり静馬さんも突然いなくなったんだ。

 なんとなくそうではないかと予想していたのだが、実際に静馬まで消えたとなると鈴音達はこれから何を手がかりにすればいいのか分からなくなってしまう。だから鈴音は琴菜に失踪時の詳しい事を聞いた。

「詳しい事と言われましても、本当に突然いなくなってしまって。私達も驚いているんですよ」

「姉さんは何か残しませんでした」

「荷物ならまだウチにありますけど」

「えっ! 荷物って」

「静音さんから聞いてませんでした? 静音さんは来界村に居る時はウチに泊まってたんですよ」

「えぇ───っ!」

 初耳だったようで鈴音は思いっきり驚く。

 って、ここに泊まってたなんて、という事は静馬さんと一つ屋根の下! って、そうじゃなくて、ここに姉さんの痕跡があるはず。

「あの! 姉さんの荷物を見ていいですか?」

「ええ、警察の人が調べた後ですが。私も後で返そうと思ってたのですが、ついそのままになってしまって」

「構いません!」

 姉さんの荷物を調べれば必ず何か出てくるはず。姉さんの手がかりも絶対。

 鈴音は部屋を出て行こうとするが沙希が止める。

「どうしたの沙希?」

「ちょっと気になる事があってね」

 そう言って沙希は琴菜と向き合う。

「もし聞いてはいけないことだったら謝ります。バスの中で美咲ちゃんに静音さんの写真を見てもらいました。そしたら美咲ちゃん急に泣き出して、美咲ちゃんと静音さんとの間に何かあったんですか?」

 琴菜は沙希から目線を外して伏せる。

「美咲は……未だに気にしてるようですから」

「何をです?」

「実はですね。静馬と美咲は血が繋がっていないんです」

「えっ」

 いきなり切り出された重い話に鈴音と沙希は顔を見合わせる。

 いや、いきなりそんな話をされても……。

 だが琴菜は目を伏せたまま語り続ける。

「静馬は夫の連れ子で、そして美咲は私の連れ子だったんです。それでも静馬は美咲を実の妹のように可愛がり、美咲もよく懐いていました。そして夫が死ぬと静馬は変わりに家を支えてくれて。それで美咲と一緒に居られる時間が少なくなったんですけど、美咲は余計に懐いてしまって。そんな時に現れたのが静音さんでした」

 姉さんと美咲ちゃんとの間に何か確執でもあったのかな? とてもそういう風には見えなかったけど。

「二人の仲は順調で村の誰もが一段落したら二人は結ばれるだろうと思ってました。……美咲を除いては。美咲にしてみれば突然現れた静音さんに静馬を取られると思ってたのでしょう。それで余計に静馬にくっ付くようになってしまって。そんな時に二人は消えてしまった。二人が消えたその日に、美咲は私に泣きつきました。私の所為で二人が消えたと、もう戻ってこないと。それはもう思いっきり泣いて何を言っても聞いてくれませんでした。それから二人が失踪したことが分かったんです」

「えっと、どういう意味?」

 鈴音は沙希に振る。だが沙希に答えられるはずも無く首を横に振るだけだった。

「なんで美咲ちゃんはそんなことを言ったんですか?」

「よくは分かりません。ただ、自分が二人の事を邪魔したから二人とも消えてしまったと思っているようです。美咲も決して静音さんの事が嫌いだったわけではありませんから」

 つまり二人が失踪した原因は自分にあると思ってるんだ。……別に美咲ちゃんの所為じゃないのに。

「姉さんは……美咲ちゃんの事をどう思ってたんですか?」

「美咲としては二人の間に割り込んだつもりだったのですが、静音さんはそんな美咲をよく可愛がってくれました。昔の妹を思い出すと言って」

「そういえば鈴音は昔からお姉ちゃんっ子だったて静音さんが言ってたね」

「うるさいな〜」

 しょうがないでしょ。両親に死なれて姉さんしか頼れる人がいなかったんだから。だから小さい頃は姉さんの傍によく居ただけよ。

 昔を思い出して顔が赤くなる鈴音に対して沙希は意地悪な笑みを浮かべながら更に掘り下げる。

「静音さん、そんなに美咲ちゃんが鈴音とそっくりだったって言ってたんですか?」

「ええ、最近は独り立ちしてきて寂しいけど、美咲を見てるとよく懐いていた妹にそっくりだって」

「鈴音、もう少し静音さんに甘えてもよかったんじゃないの?」

「うるさいな〜、私だっていつまでも姉さんに甘えるわけにはいかなかったのよ。姉さんの仕事は大変そうだし、私も姉さんを支えてあげないといけなかったのよ」

「でも静音さんとしては甘えて欲しかったんじゃないの」

「……それは出来ないよ」

 急に声のトーンが落ちる鈴音。

「たった二人きりの家族だから、だからこれ以上姉さんに迷惑を掛ける訳にはいかない。今まで支えてもらった分、今度は私が姉さんを支えないとだから。今までわがままを言ってた分を、今度は姉さんに返さないとだから」

 さすがにやりすぎたと反省する沙希。そして自ら落ち込んだ空気を壊す。

「じゃあ静音さんの荷物を見せてもらうか、鈴音行こう」

「うん」

 なるべく元気に返事をする鈴音。その返事も空元気だと気付いている沙希は表面だけでも鈴音の合わせる。

「もしかしたら昔の鈴音が写った写真が出てくるかも」

「なんで姉さんがそんな物を持ち歩いてるの」

「いやいや、遠い故郷に残してきた妹を心配するあまり写真を持ち歩いている可能性が」

「そんな可能性無いよ。それよりも私としては沙希が子供の頃の写真がみたい」

「なんで私が出てくるの!」

「あははっ」

 いつものように重い空気を吹き飛ばした二人は琴菜の案内で静音が使っていた部屋へと入る。

 その部屋は六畳ぐらいの部屋で綺麗に片付いている。そして部屋の片隅に置かれている旅行鞄、鈴音は鞄を発見すると真っ先に中身を確認する。

「どお?」

 肩口から覗いてる沙希が聞いてくる。だが鈴音は首を横に振る。

「着替えと日用品だけしかない」

「あっ!」

 琴菜が突然声を出したので二人の目線が琴菜へと向かう。そして琴菜は申し訳なさそうに鈴音に告げる。

「えっと、ごめんなさい。静音さんの荷物で失踪に関係ありそうな物は全部警察が持って行ってしまったんです」

「そう、ですか」

 落ち込む鈴音。沙希は鈴音の代わりに琴菜に尋ねる。

「その中に鈴音に当てた手紙とかメッセージとかありませんでした?」

「さあ、私も確認したわけじゃないから」

「じゃあ警察は何処です?」

「平坂の警察です。村には駐在所しかないから静音さんの荷物は平坂の警察で管理するって言ってました」

「平坂か、どうする鈴音」

「……また平坂まで戻るのも嫌だな〜」

「そうね、じゃあ明日にでも行ってみる?」

「そうしよっか」

「えっ、それじゃあお二人は何処に泊まるつもりなんですか?」

 二人の会話に不思議そうな顔をした琴菜がそんな事を聞いてきた。

「どこって、民宿を見つけてそこに」

「ありませんよ」

「えっ」

 信じられない琴菜の言葉に鈴音は思いっきり変な顔になる。

「民宿、というか宿は無いんですか?」

「ええ、村に宿泊施設はありませんけど」

「……えっ───!」

 なに、なんで、どうして泊まるところが無いの! バスといい宿といいこの村はどこまで人を拒むの!

 想定外の事態に鈴音は頭を抱えると沙希を見上げる。

「沙希〜、どうしよう〜」

「どうしようたって、平坂まで戻るしかないでしょ。確か来る途中にホテルを見かけたからそこに泊まるしかないんじゃない」

「う〜、やっぱり戻るんだ〜」

 よほどあの山道を戻るのが嫌なのか鈴音は情けない声を上げる。

「しょうがないでしょ、他に泊まるところが無いんだから!」

 そんな鈴音を叱咤する沙希。そして二人の会話を聞いていた琴菜が静かにある提案を持ちかけた。

「あの〜、なんでしたらここに泊まってもらっても構いませんが」

 鈴音と沙希は目を光らせながら、もの凄い勢いで琴菜に振り向く。

『いいんですか!』

 同時に同じ事を聞く二人の気迫に押されて琴菜は首を何度か縦に振る事しか出来なかった。

「ありがとうございます」

「助かりました」

「構いません。静音さんもそうしてましたから」

「そういえば、姉さんはどうしてここにお世話になってたんですか?」

「あぁ、そのことですか。実は静音さん開発会社を代表して村に来てたんですけど、先程言いましたように村には泊まる場所はございません。そして静馬は村の青年団を代表していたんです。そこで話が速く進むようにと静音さんにはここに泊まってもらってたんです」

「はぁ〜、やっぱり静音さんて凄かったんだ」

 そう……だね。というか姉さんは会社を代表するほど偉かったかな? よく上司の愚痴を言ってた事は覚えてるんだけど。

 何かが腑に落ちない鈴音は琴菜に直接聞いてみる事にした。

「あの、姉さんの他に偉い人が来界村に来る事は無かったんですか?」

 その質問に琴菜は思わず目線を外してしまう。

「いろいろと、ありましたから。それで静音さんに白羽の矢が立ったのだと思いますよ」

「いろいろ?」

「ええ、いろいろです」

 それ以上は話したくないのだろう、琴菜は鈴音と目線を合わせる事はしなかった。そしてその事が鈴音の疑念を大きく深める事になった。

 やっぱり来界村で何かあったんだ。だから姉さんは……。

 それ以上は考えない事にした、どうせ考えても嫌な事しか思い浮かばないのは分かっていたから。

 話が一段落した所で沙希が鈴音に尋ねてきた。

「それで鈴音、これからどうする?」

「う〜ん、どうしようっかな。泊まるところも確保できたし、村を見て周りたいかな」

「それなら美咲に案内させましょう。あなた達と一緒なら安全でしょうから」

 えっ?

 鈴音が聞くよりも早く、琴菜は部屋から出ると美咲を呼びに行った。

「鈴音」

 沙希の方が先に口を開いたので鈴音はそっちに目を向ける。

「安全だからってなに?」

「私もそれを聞こうとした」

 結局首をかしげる二人はそのまま美咲が来るのを待つことにした。

 そして静音が使っていた部屋を自分達も使えることにしてもらった鈴音達は、荷物を部屋に運び込むと美咲の案内で来界村を見て周る事になった。

 こうして鈴音達は迎える事になる。惨劇の第一幕を……。







 やばっ!!! 思っていた以上に長くなった。予定なら今回の最後に惨劇の幕が上がるはずだったのに。……そんな訳で次回ですね。次回には惨劇の幕が上がる……はずです。たぶん、いや、きっとそうだと信じてる!!! さて、戯言はこの辺にしときますか。

 えっと、そんな訳でこの断罪の日、二部構成になります。まず問題編の断罪の日、そして解答編の断罪の日 LAST DAY の二つに分ける予定です。……いや、プロット書いてたら思ってた以上に長くなってきたから。というか、解答編だけでも問題編と同じぐらいの長さになる予定。

 そして更に思ったことが一つ。……ジャンルは本当にホラーでいいのだろうか? いや、なんかプロット書いてて「これってミステリーっぽくね」とか思ったもので。……でも気にしない! 気にせずこれはホラーで行く!!!

 さて、無駄に固い決意を固めたところで締めますか。

 ではでは、ここまで読んでくださりありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします。更に評価感想もお待ちしております。

 以上、アカツキガ○ダムもそろそろ完成させないとな、と思った葵夢幻でした。

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