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第二十一話 御神刀の模造刀

「失礼します」

 中に声を掛けてから障子を開く香村。香村が入ってきた事で怒鳴り声は消えたが、その代わりに香村がバツの悪そうな顔で中に声を掛ける。

「美咲ちゃんと鈴音さん達が来られましたが」

 一応鈴音達の事を告げる香村。最初の話では美咲だけが来る事になっていたからだろう。なにしろ鈴音と沙希が美咲に付き合うことが決まったのは昨日の夜だ。だからそこまで話が通ってなかったのだろう。

 部屋の中は少しの間だけ静まり返ると、静かに香村に告げる声が響く。

「奥の間へ案内して下さい」

 村長の声がそう香村に告げる。

 香村は返事を返すと静かに障子を閉めた。そして再び開始される怒鳴り声。

「父さん! 今日こそ答えてもらいます! なぜ御神刀の模造刀を作ったんですか! いったい何を隠してるんですか」

 御神刀の模造刀?

 その言葉に何か引っ掛かる鈴音。

「学、客人がまだそこにいる。それぐらい察したらどうだ」

 どうやら村長は息子の学と話をしているようだ。とは言っても一方的に怒鳴られているようだが。

 香村は急いで鈴音達を奥へと案内した。そして鈴音達が遠ざかるのを察したのだろう、その部屋から再び怒鳴り声が響いた。



「なにかあったんですか?」

 先程の事が気になるのだろう、沙希は香村に尋ねた。香村は溜息を付くと歩きながら話し始めた。

「それがですね、最近の村長さんが少しおかしくて。以前は皆の話を聞いたり、相談してたんですがね。最近では誰にも相談せずにいろいろとやってるみたいなんですね。それで一言も相談が無い事を学さんが怒ってしまって」

 学は村長が黙っていろいろとやっている事が気に食わないようだ。

「学さんも次の村長を狙ってますからね。いろいろと事態を把握しておきたいのだと思いますよ。けど、村長さんは私達にも何も話さずに何かを準備しているみたいなんですよ」

 この村でも村長選挙は行われる。だからこそ、学としては現状を把握して次の選挙に繋げたい。

 だが村長は何も言わない。何かしらの秘密を持っていることは確かだ。そしてその秘密が選挙に影響するようなら、学としては今のうちに手を打ちたいのだろう。

「親子ですものね。村長さんに何かあったら学さんにも影響しますね」

 沙希には学の気持ちが分ったのだろう。だが、そんな沙希とは対照的に鈴音は別の事を考えていた。

 御神刀の模造刀。なんで村長さんはそんな物を作ったんだろう? 何かの意味があるのかな? ……模造刀か、見てみないと分らないけど、模造刀なら刃は無いよね。そうなると凶器……ということもないか。

 来界村で起きた連続殺人事件。その事件に使われた凶器は未だに見つかっていない。鈴音は刀が存在するなら、それが凶器と思ったのだが。もし本当に模造刀で刃が付いていないなら、それは凶器になりえない。

 じゃあ、別の理由で作ったのかな?。御神刀……なんで御神刀なんだろう。御神刀の模造刀と言うぐらいだから御神刀にそっくりなのかな? ……ちょっと見てみたいかな。

 鈴音がそんな事を考えてると部屋に着いたのか香村が障子を開ける。

「どうぞ」

 笑顔で中に促す香村。そこは書斎のようで両脇には壁一杯に本棚が並んでおり、中央の奥には小さな机がある。

 部屋の中に入る鈴音達。香村は飲み物を持って来ると言って出て行き、書斎には鈴音達だけが残った。

「うわ〜、凄い」

 美咲は書斎に並ぶ本に驚きと関心の声を上げて本棚に並んでる本を見て回っている。沙希に至っては勝手に本棚から目に付いた本を手に取っている。

 さて、私はどうしようかな……。

 すっかり手持ち無沙な鈴音。どうやら本棚に並んでいる本には興味が無さそうだ。

 鈴音は辺りを見回すと奥にある机に目を止める。

 机の上にあるノートは何だろう?

 机の上には黒いノートが置かれている。鈴音は机に近づくと膝を付いてノートを手に取ろうとするが、その前に机の下に何かがあることに気付いた。

 あれっ、なんだろう、これ?

 今度は机の下に興味を示す鈴音。それを引っ張り出すと上質な風呂敷に包まれた長い箱だった。

「沙希、これなんだろう。少し重いけど」

 箱を手に取りながら沙希に見せる鈴音。沙希はそんな鈴音に呆れた目線を送る。

「……鈴音、一応村長さんの私室なんだから勝手にいじらない」

 ……怒られてしまった。自分だけが言われたのが癪なのか、鈴音は沙希に言葉を返す。

「沙希だって勝手に本棚から本を取り出してるじゃない」

「本棚の本は見られるためにあるの。それに村長さんが来る前に戻しておけば分らないでしょ」

 卑怯だ!

 何が卑怯なのかは分らないが、鈴音は箱を戻すと拗ねたような不機嫌な眼差しを沙希に送る。当然のように沙希はそれをあっさりと無視している。

 それから沙希は本棚を見回しながら鈴音に声を掛けてきた。

「鈴音」

「なに?」

 不機嫌な声で答える鈴音。どうやら先程の事で未だに拗ねているようだが、沙希はそんな鈴音の不機嫌を気にする事無く口を開く。

「ここにある本、ほとんどが村の歴史に関することばかりなのよ」

「だから」

 鈴音には本棚など、どうでもいいのかぶっきら棒に答えるだけだ。そして沙希もそんな鈴音の機嫌を取る事無く話を進める。

「普通の本だけじゃなくて古い文献や手書きのノートまであるのよ」

「それがどうかしたの」

 やはりぶっきら棒に答える鈴音。沙希は始めて鈴音に振り返り、自分の意見をぶつける。

「つまり村長は村の歴史について調べてたのよ」

「村長さんだからそれぐらいはするんじゃない?」

 鈴音としては疑問を感じないのだろう。まあ、村長が村について調べていても不思議は無いだろう。だがあることが沙希に疑問を抱かせるようだ。

 本棚から文献を手に取る沙希。それを鈴音に見せながら話を続ける。

「ほら鈴音、この文献はあまり埃を被ってない。この本棚ならある程度の埃を被っていても不思議は無いのに」

 確かに本棚には埃避けのガラス戸などは付いていない。だから埃が付いても不思議は無いのだが、その文献には埃を被った跡は無い。

 文献を手に取る鈴音。かなり古い物だが、あまり傷んではいないようだ。

「つまり、これは」

「そう、ここに移されてからはあまり時間が経っていないという事。つまり村長さんが村の歴史について調べ始めたのは、つい最近って事」

 確かにこの文献を見ればそれぐらいの事は分るだろう。だがそれが何だと言う感じで鈴音は沙希に文献を返す。

 それだけで鈴音の言いたい事が分ったのか、沙希は文献を手に取ると自分の考えを話し始める。

「さっきの話を鈴音も聞いたでしょ。最近の村長は少しおかしいって、皆に黙って何かをやってるって」

 確かに香村が先程そのような事を言っていたが、それが何かの関係があるのだろうか。そう思いながら鈴音は沙希を見詰め返す。

 それだけで鈴音の言いたい事が分ったのだろう。沙希は話を進める。

「私が気にしてるのは、村長がいつからそういう事を始めたという事。もしその最近が……静音さんの失踪後だとしたら、これは何かの関係があるとは思えない」

 ……なるほど、確かにそうかもしれないけど……何で村の歴史について調べたんだろう。

 やはりそこに行き着く鈴音。

「沙希、村の歴史と姉さんについてどんな関係があるの?」

 沙希に尋ねる鈴音。沙希は鈴音の問い掛けに胸を張って答える。

「分らない!」

 ……言い切ったね〜。ある意味では凄いよ〜、沙希〜。

 鈴音の暖かい視線と決して目を合わせようとしない沙希。鈴音はそんな沙希から視線を外すと美咲に視線を移す。

 美咲は沙希と同じように本棚から本を手に取るが、どうやら達筆で書かれているらしく難しい顔で本とにらめっこをしていた。

 鈴音は美咲に声を掛けようか迷ったが、邪魔するのもどうかと思い視線を沙希に戻した。……まあ、声を掛けても邪魔にはならなかっただろうが、鈴音としてはためらう物だったらしい。

 視線を戻した鈴音は先程の話を再開させる。

「でもさ、沙希がそう思うには他にも理由があるんでしょ」

 さすがは親友と言ったところだろう。鈴音も沙希の事は良く分かっているようだ。

 沙希は頷くと口を開く。

「確かに村の歴史と静音さんとの関係は分らないけど、村長さんがこういう事を始めた時が静音さんの失踪と同じ時期なら」

「同じ時期なら?」

 言葉を繰り返す鈴音に沙希は真面目な顔で頷くと話を続ける。

「村長さんが私達に冷たい理由がここに在るんじゃないかと思う」

 本棚を指差す沙希。そこに在るかどうかは分らないが、鈴音としても村長が鈴音達に冷たい理由は気になっていた。

 村長さんは姉さんがこの村で一番信頼してた人物だと思う。けど……私達には冷たかった。う〜ん、でも、何か憎めないんだよね。確かにこの前会った時には私達は村長さんの態度に怒ったけど、今に思えば……村長さんは私達にこの事に首を突っ込んで欲しくなかったのかな?

 そんな事を思う鈴音。

 確かにこの前は助六の事で鈴音達は冷静さを欠いていたかもしれない。なにしろ事件の翌日にここに乗り込んできたのだから、しょうがないと言えばしょうがないだろう。

 だがあの時も村長宅を出た後に思ったのだが、村長は鈴音達をワザと怒らせようとしていたように思える。

 再び本棚に目を向ける鈴音。

 う〜ん、でも、やっぱりこれが姉さんと結び付くとは思えないな。

 村の歴史と静音とは無関係だと思う鈴音。だが沙希はそうは思っていないのだろう。期待に満ちた目を鈴音に向けている。

 そんな時、障子の外から声が響いた。どうやら香村が来たらしい。沙希が答えると障子が開いて香村が入ってきた。そして麦茶が乗っているお盆を机の上に置くと部屋の隅から折りたたみのテーブルを持ち出して部屋の中央に設置する。

 そのテーブルの上に麦茶を並べる香村。それぞれがテーブルに付き、美咲が手にした難しい本とにらめっこをしているのを確認すると沙希は香村に尋ねる。

「そういえば香村さん、少し聞きたい事があるんですが」

「はいはい、なんでしょう?」

 沙希の質問に答える気が満々の香村。どうやら沙希が尋ねる事に興味があるらしい。……まあ、香村としても沙希が聞きたいことには分る上に、この手の話がすきなのだろう。

「最近の村長さんがおかしな行動をしてるって、どういう事ですか?」

 やっぱりという顔をする香村。香村としてもその話を誰かにしたかったのだろう。だが村長の事だけに気軽には言えない。

 だがここに鈴音が居るという事が香村の口を軽くしているようだ。声の音量を抑えながら、しかも嬉しそうに香村は話し始めた。

「実はですね。以前までの村長さんなら私にもいろいろな事を話してくれたんですがね。最近では秘密主義といいましょうか、いろいろな事を隠しながら何かをやってるみたいなんですよ」

 つまり以前の村長は周りの人にはいろいろな事を聞き、いろいろな事を話したのだろう。それが急に黙り込んでしまったものだから、先程は学が怒っていたのだろう。

 まあ、学さんの気持ちも分からなくは無いと思う。今まで相談してくれてたのが、急に勝手にやれると自分が信用されていないように感じるよね。

 鈴音はそんな事を思いながら沙希と香村の会話に耳を傾ける。

「村長さんはいつ頃からそんな風になったんですか?」

「そうね……確か……そうそう、静音さんが失踪してからよ。急に村にオブジェを建てるって言って、すぐにあのセリグテックスに話を持ち込んだぐらいですから」

 姉さんの失踪後……村長さんはそんな時期に話を持ち出したんだ。

 そこには何かしらの関係が在りそうに思える。何しろ静音の失踪で平坂開発は一時中断したぐらいだ。その混乱は大きかっただろう。なのに村長はそんな話を持ち出している。ここに何かあると鈴音は思うが、それが何かは分からない。

 そうなると自分の思い過ごしだとも思えてくる。

 う〜ん、なんだろうな〜? 私達には重要な情報が欠けてるのかな? 村長さんは……素直に話してくれないよね。そうなると……源三郎さんに頼るしかないかな?

 だが羽入家に頼れば沙希や吉田が黙っていないだろう。それに警察も大した情報を持っているとは思えない。やっぱり村の事は羽入家に聞いた方が早いのかもしれない。

 そう結論を出すと鈴音は再開された沙希と香村の話を聞く。

「ところで、なんでセリグテックスに話を持ち込んだんですかね。他の建設会社ならすんなりと進んだんじゃないですか?」

 そんな沙希の問い掛けに香村は首を傾げながら口を開く。

「そうなんですよね。実際に嫌がらせや、酷い時には工事を中断したぐらいまで至ったぐらいですからね。けど村長さんはそれで満足のような、そんな気がしたんですよ」

 工事の妨害が満足? ……う〜ん、もしかしてそれが目的だったのかな?

 発想の転換というやつだろう。来界村開発戦争でセリグテックスの印象は最悪な物になっている。そこにまたセリグテックスがやってくれば、村人の妨害は目に見えてる。

村長は村人に工事を妨害させて楽しんでいるのではないかと鈴音は考えたのだが、すぐにその考えを払いのけた。

 村長さんはそこまで器の小さな人間じゃないよね。なにしろ村長はあの羽入家と対立しないといけないんだから、器が小さいとやっていけないよ。

 来界村の均衡は羽入家と村長、そして平坂神社が並び立つ事で保たれている。だから村長は羽入家と対等に立てる器を持っていないと勤められない。

 そう考えると鈴音は村長がそのような事を企むとは思えなかった。

「そういえば、先程学さんが言ってた御神刀の模造刀とはなんですか?」

 その話になると少しだけ身を乗り出す鈴音。どうやらかなり気になるらしい。

 だが香村は簡単に答えるだけだった。

「あぁ、村長さんが御神刀を勝手に持ち出してね。型を取って模造刀を作ったんですよ。ですがね、私達にはなんでそんな事をしたのかは話してくれないんです。だから学さんが怒ってしまって」

「だから先程はあそこで怒鳴っていたわけですか」

「ええ、どうやら今もやってるみたいですがね」

 いい迷惑だと言わんばかりに顔をしかめる香村。だが鈴音の関心は別な場所へと向かう。

 わざわざ型を取った? それって御神刀をもう一本作ったって事? なんでわざわざそんな事をしたんだろう?

 よほど気になるのか鈴音は模造刀の事を香村に尋ねた。

「あの、なんで御神刀なんですかね。わざわざ型を取るぐらいですから、御神刀でないといけない理由があったんでしょうか?」

 鈴音の問い掛けに香村は溜息を付いてから答える。

「それも話してくれないんですよ。それに変な噂も起きてしまいましたからね」

「変な噂?」

 言葉を繰り返す鈴音。まあ、村長の事だから村人も鈴音達には話さないようにしてたのかもしれない。余所者にあまり村の悪い所は話したくないのだろう。

 だが鈴音に聞かれると話さざる得ないのか香村はその事を話し始めた。

「まあ噂ですから実際はどうか知りませんがね。模造刀を作る時に祈祷師を呼んで霊力を込めて霊刀にしたって話がどこからか広まったんですよ。私はその噂を聞いた時には村長さんがおかしくなったと思ったぐらいですから。まあ、大方セリグテックス辺りが流した噂だと思いますよ。静音さんの事もありましたし」

 ……霊刀?

 鈴音も剣術をやっていたから刀には詳しいが、今まで霊刀という物に出会ったことはない。それだけではなく鈴音は今まで幽霊という存在にも出会ったことが無い。霊感という物が無いのだろうと思ってる。だから霊刀という言葉が出てきても困るばかりだ。

 鈴音はどう反応してよいのか迷っていると香村が笑いながら口を開く。

「だから噂ですよ、実際に霊刀なんてあるわけないじゃないですか。まあ、村長さんは模造刀を作る時にかなりお金を出しているのは確かですからね」

 あぁ、それでそんな噂が出たんだ。

 型を取っての模造刀だから、そんなに金額は行かないはずだが、かなりの大金が動いている以上はそこに何かがあったのだろう。その使途不明金がそんな噂を生み出したようだ。

 納得した鈴音だが、それ以上に模造刀に興味をそそられた。鈴音としても、その霊刀を見てみたいのだろう。

 その模造刀がどこにあるか聞きたかったが、横から沙希が話を振ってきたので聞くタイミングを逃してしまった。

「そういえば、村長さんはいつから来界村の歴史を調べるようになったのですか? どうやらここにあるのは最近手に入れたばかりの物が多いようですが?」

 沙希の質問にも香村は溜息を付くと迷惑そうな顔を沙希に向ける。

「静音さんの失踪後からやり始めたみたいですね。それも村長さんの秘め事みたいですから」

 つまり香村さんも詳しい事は知らないって事か。……う〜ん、村長さんの秘め事……別な事を想像しちゃった。

 鈴音がなにを想像したかは置いておいて、沙希は村長の秘密が気になるようだ。

「つまり、静音さんの失踪から村長さんの秘密が始まっているわけですか」

「まあ……そうですね」

 鈴音と沙希、美咲、村長。共通するのは静音の失踪。全ての始まりはそこに在るのではないかと鈴音は思う。

 鈴音達が来界村に着たのは静音の失踪を知る事になったから。美咲にしても何かしらを隠している節がある。そしてその時から村長は人が変わったような行動を取り始めている。

 鈴音は静音が自分達だけしか影響を与えていないと思っていたが、この村に着てからというもの、静音がいろいろな人に関わってたのを始めて知った。

 姉さんは私の知らないところで……いろいろな人達と関わってた。そして中心には姉さんが居る。たぶん……皆が姉さんの事が好きだったと思う。だからこそ、この来界村に受け入れられたんだ。

 けど……私は……。

 鈴音が村の人達や吉田などに親切にしてもらっているのは静音の妹だから、というのが大きいだろう。だからこそ、鈴音は静音を近くに感じられたうえに、どこかに居るとも思うことが出来た。

 だが今は少しだけ違う。

 静音の失踪が村長に奇妙な行動を取らせてる。そこには静音の意思があるのではないかと鈴音は考えている。

 それは鈴音にはまったく関係なく、どこか遠くで起こっている出来事のように感じた。だからこそ、鈴音は静音が遠のいていくような感覚を覚える。

 頭を振って、その感覚を忘れようとした鈴音は沙希達の話に耳を傾ける。

「村の歴史と言ってもいろいろありますよね。村長さんは何を調べていたんでしょうか?」

「静音さんの失踪後から……村長さんは人が変わったように口が堅くなりましたから、私にも何を調べていたかは分らないんですよ。それに、こんな村でも掘り返せばいろいろと出てきますからね。美咲ちゃんもそれを調べに着たんでしょ?」

「うん!」

 元気良く答える美咲。それで手にした本に飽きたのか、その本を本棚に戻すと次の標的を探すために本棚を見て回る。

 香村はそれ以上、静音の事も村長の事も話題に出ずに世間話を始めた。香村の話に相槌を打つ沙希。



 それからしばらくして香村は自分の仕事を行うために部屋を出て行き、再び鈴音達だけとなる。

 鈴音は誰も来ない事を確認すると机の下に手を突っ込む。どうやら先程発見した箱が気になるようだ。

 再び取り出した風呂敷に包まれた箱。鈴音はちゅうちょする事無く風呂敷を解いていく。

「ちょ、鈴音」

 沙希が横から口を出してくる。

「あっ、空耳がする」

 わざわざ聞こえないフリをして無視する鈴音に沙希は溜息を付いて見守る。

 風呂敷包みを解いて鈴音は嬉しそうに箱を開けた。

「あれっ、これって」

 そこに入っていたのは刀。白木の鞘と柄のためパッと見は棒のように見えるが、反りと鞘と柄の切れ目から、鈴音はそれが刀だと分った。

 刀を手に取り抜いてみる。光で輝く刀身が姿を現し始め、完全に抜くと切っ先を天井に向ける。

「やっぱり刀だったんだ」

 沙希がそんな事を口にする。どうやら沙希にもそれが刀だという事は想像できたようだ。

 だが鈴音は違うところに気になる点を発見する。

「この刀……どこかで見たような気がする」

「どこで?」

「でもそんな事はありえないよ」

 沙希の問い掛けに答える事無く鈴音は呟く。

 鈴音がそう言うにはちゃんとした理由が在る。刀という物は職人が一つ一つ作る物でまったく同じ物は存在しないはずだ。だから初見で見たことがある刀など存在しない。

 そのうえ、この刀は白木に納まっていた。だから古い物なら大事に保存されていた可能性が在り、あるいは新たに作られた物なら鈴音が目にするわけが無い。

 だがそれでも鈴音はその刀に見覚えがあった。

「う〜ん、なんだろうな、このデジャビュー」

「デジャヴュでしょ」

 横から突っ込んできた沙希にすねた視線を送る鈴音。沙希もそんな鈴音の視線を無視して口を開く。

「でも鈴音が何かを感じたらな何かあるはず。直感だけが鈴音のいいところなんだから」

「……そうかな」

 何故か嬉しそうに答える鈴音。どうやら沙希の言葉をよく聞いていなかったようだ。

 沙希にそう言われたので鈴音は記憶をほじくり返す。

 う〜ん、確かにどこかで見たような気がするんだけど……どこで見たんだろう? ……ここ……って事は無いし。そうなると刀に触れた場所かな。けど、今まで数え切れないぐらい刀に触れてきたからな。どこで触れた物なんて覚えてないよ。

 剣術をやっていた鈴音は木刀だけでなく居合刀や真剣にまで触れる機会があった。だから触れてきた刀は数え切れないぐらい存在した。その中の一つに見覚えがあるのかもしれないが、それがどれだかは分かるはずが無い。

「う〜ん」

 唸りながら必死に思い出そうとする鈴音。必死な鈴音は唸るだけでは飽き足らず、頭を抱えて振ってみたり、テーブルに突っ伏してみたりといろいろな方法で思い出そうとするが都合良く思い出すことが出来ない。

 そんな鈴音を美咲は心配そうに声を掛けるが鈴音は気付かない。そんな美咲に沙希は心配無い事を告げるとある事を思い出した。

「そう言えば鈴音。さっきの話で村長さんが御神刀の模造刀を作ったって言ってたじゃない。もしかして、それがそうなんじゃ」

「……」

 えっと、それは……。

「……それだ!」

 突如として大声を出す鈴音。その声の大きさに美咲などは手にした本を落としそうになったほどだ。

 だが鈴音はそんな美咲に気付く事無く、興奮しながら刀を手にして沙希に詰め寄る。

「そうだよ御神刀だよ、御神刀! たぶんこれが御神刀の模造刀なんだよ!」

「たぶん?」

 鈴音とは違って冷静な沙希はそんな突っ込みを入れる。

「いや、だって、まだ確かめたわけじゃないし」

「なら確かめろよ」

 冷たい沙希の一言に鈴音の興奮は一気に収まるだけでなくマイナス方向まで突き抜けて、いつもと同じように沙希にすねた視線を送る。

「う〜、これから確かめようと思ってたんだもん」

 そんな言い訳を口にしながら刀を観察する鈴音。

 御神刀は一度しか見たことは無いが、その代わりにじっくりと観察している。そして、そんな時にだけは鈴音の記憶力が倍増されるようで、鈴音は御神刀の姿形をはっきりと思い出せた。

 まず長さと反りを見てみる鈴音。

 長さは……同じか。反りも……似ているような気がする。う〜ん、長さはともかく反りまでも判断するのは難しいな。……並べてみれば早いけど。

 当たり前だ、比べる対象が隣あれば鈴音で無くとも判断できる。けど実際に御神刀を持ってくるわけにはいかないので鈴音は自分の記憶にある御神刀と比較する。

 ……さすがに刃紋までは再現できないか。それでも……姿形は御神刀とまったく一緒……だと思う。少なくともまったく違う刀では無い事は確かかな。

 そんな事を言い出せばきりが無いだろう。鈴音としてもそう思ったのか、刀を鞘に戻すと顔を沙希に向ける。

「はっきりと瓜二つ……とは言えないけど、似てるのは確かだよ」

「けど、似てるって事はそう考えていいみたいね」

「そうだね」

 警察の調べでこの村には御神刀の他には刀が存在していない事になっている。だがここに刀があるという事は、村長が警察が調査した後にこの刀を造った可能性が高い。そして、その刀こそ、先程香村が言っていた御神刀の模造刀なのだろう。

 だが鈴音にはやはり気になる事があるようだ。

 ……というか、こんなに簡単にも見つけちゃっていいのかな?

 どうやら鈴音は村長がどこかに隠して厳重に封じられているのを見つけたかったのだろう。だが実際は机の下に無造作に置いてあった。

 う〜ん、そんなに大事じゃないのかな? でも村長さんはこれを作るために大金を出してるし、だから大事って事は無いと思うけど……。

 だが大事な物ならもう少しちゃんとした場所に保管して置くだろう。それがまるで、すぐに取り出せるように机の下に置いてあった。それに何かしらの理由が在るのではないかと鈴音は考えているようだ。

「……沙希、これってどう思う?」

 だが結局は何も答えが出ない鈴音は沙希の意見を聞いてみる。

「う〜ん、確かそれって、村長さんが大金を出して作らせた物でしょ」

「香村さんの話どおりなら、そうだよね」

「私としてはその存在より、何故そんな物を作ったのかが気になる」

 まあ、そうだけど。

 沙希はこの刀がここにある理由より、作られた理由を知りたいようだ。

 それは鈴音も気にしていたのだが、村長がこれを何のために使うのかが気になっていた。

「確かにこれを作った理由も気になるけど、これを使う理由も気にならない?」

 そんな事を口にする鈴音に沙希は呆れた視線を送る。

「鈴音……それは同じ事じゃないか」

「えっ、えっ、なんで?」

「何かしらの利用目的があったからこそ、それを作る理由が生まれたんだろ。要するにその刀を何かに利用するから作った、ってことでしょ」

「……おおっ」

 手を叩いて納得する鈴音。どうやら完全に分かっていなかったようだ。利用目的があったからこそ作成目的も生まれる。どちらも大元の理由が在ったからこそ生まれる理由だ。つまり根源は一緒。

 鈴音が納得したのを見た沙希は溜息を付くと、もう一度鈴音の手にある刀に目を向けて再び溜息を付く。

「それにしても……またワケの分らない物が出てきたわね」

「うん、これも結構……謎だよね」

 ……あぁ、姉さんの事は一向に分らないのに、なんでこんな物はどんどんと出てくるのかな〜。

 沙希に釣られたように鈴音も溜息を付く。

「というかさ沙希」

「うん?」

「この村に着てから姉さんの事はほとんど分らないのに、余計な物はどんどんと分っていくよね」

「……言うな」

 来界村開発戦争、そして羽入家を始めとする村の統治、更には殺人事件に至るまで鈴音達が知った情報は多い。どれも静音と結び付きそうだが、どうも途中で途切れてしまう。

 鈴音も沙希も一向に出てこない静音の情報に飽き飽きしていた。だから今日は美咲に付き合うという事になったのだが、どうしても静音と結び付きそうな事に話が行ってしまう。

 鈴音は美咲に悪いと感じていながらも、どうしても聞き出したいことは聞いておきたかった。

 鈴音は一応美咲に謝るが、美咲はあまり気にしていないようだ。

 う〜ん、でも悪い気がするからな〜。……まあ、姉さんの事が終わったら、その時にゆっくり遊ぼう。

 そう思う鈴音。

そんな時だった。障子の外にある廊下から歩く音が聞こえた。

「鈴音、それそれ!」

 慌てて鈴音が手にしている刀を指差して仕舞うように指示する沙希。確かに鈴音が刀を手にしている姿を村長に見られたら大事だろう。

 沙希も手伝って急いで刀を箱に戻す鈴音。どうにかして蓋を閉めて風呂敷で包み、ようやく縛り終えた時だった。

 障子が開いて鈴音と沙希は刀の入った箱を手に固まってしまった。







 ……え〜、そんな訳でやっと更新が出来ました。……とりあえず、ごめんなさい!!!

 なんか、一ヶ月以上も空いてしまいましたからね。う〜ん、悪いとは思ってるんですが、しょうがない物なんです!!! だって……頭痛い、喉が痛い……はい、風邪です。一向に治りません。

 ……どないせいと!!!

 そんな訳で更新がかなり遅れた事をお詫びしておきます。

 さてさて、今までテンポ良く進んできた断罪ですが、最近ではいろいろと出てきますね。まあ、余計な物だったり、必要な物だったりしますからね。

 ……まあ、時には余計な物も必要という事で……見捨てないで!!! 

 さてさて、懇願したところで締めますか。

 ではでは、ここまで読んでくださりありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします。更に評価感想もお待ちしております。

 以上、……現実逃避もほどほどにしないとな、と反省している葵夢幻でした。

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