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第二十話 九番目のオブジェ

「んっ、なんだ、お前達かよ」

 振り返った俊吾は美咲達を見るなり、そう言い放つ。鈴音としてはあまり気にしない一言だが、どうやら美咲には許せない一言だったらしい。

「お前達って、お姉ちゃん達に失礼でしょ!」

「そんなこと美咲に言われる筋合いは無いだろ!」

「とにかく、お姉ちゃん達に謝って!」

「だから、何で美咲が偉そうに言うんだよ!」

 こうして始まるいつもの口喧嘩。まあ、いつもの事みたいだから沙希はあえて止めるような事はしないが、鈴音は期待の視線で辺りを見回しているようだ。

「どうしたの鈴音?」

「んっ、いやね」

 そこまで言って照れ臭そうに頭を掻く鈴音。

「今回も都合よく七海ちゃんが現れないかと思って」

「そう思うんだったらお前が止めろよ」

 こちらもいつものように冷たい沙希の突っ込みに鈴音は頬を膨らませる。

「う〜、じゃあ止めるから沙希も手伝ってよ」

「嫌」

「なんでっ!」

 わざわざオーバーリアクションをする鈴音に沙希は冷たい視線を送りながら答える。

「第一に、二人の口喧嘩はいつもの事だから自然に止まるのを待った方が良い。第二に、私達の介入で収集が付かなくなる可能性がある。第三に、めんどくさい」

「第三の理由が本音?」

「ご想像にお任せします」

 どちらにしても沙希は二人の口喧嘩を止める気は無いようだ。

 はぁ〜、しかたないな。

 まあ、このまま待っていても自然と止まるかもしれないが、鈴音はずっと気に掛けていることがあるため、二人の仲裁に入る。

「は〜い、ストップストップ」

 二人の間に入り、両手を広げて二人に距離を開けさせる鈴音。

「お、お姉ちゃ〜ん」

「なっ、なんだよ」

 仲裁に入った鈴音に二人は不満の声を上げる。だが鈴音は美咲に笑顔を向けて、静かに諭すと今度は俊吾に顔を向ける。

「だからなんだよ!」

 それでも俊吾は鈴音に文句を言ってくるが、鈴音はそんな俊吾の頭を撫でる。

「元気そうで良かったよ、俊吾君。あれから詳しい話が出来なくて心配してたんだよ。あの後、俊吾君は元気が無かったみたいだから」

 あの後とは秋月の家に踏み込んだ後の事だろう。吉田にこってりと絞られた三人は帰宅を許される。だが秋月の犯行現場を目にした後だ。俊吾を送って行った鈴音達だが、その帰り道で俊吾は一言も発する事無く無言で帰宅していった。

 だからだろう、鈴音が心配していると言ったのは。その鈴音の心配に俊吾も気付いており、どこかバツの悪い感じで顔を背ける。

「大丈夫だよ、第一、俺はあいつが怪しいと思ってたから尾行をしてたんだぜ。それをやっと見つけたんだから大丈夫に決まってるだろ」

「そう、なら良かったよ」

 優しい笑顔でそう応える鈴音に俊吾は背中を向けると、どこか居心地が悪そうに頬を掻きながら小さな声で言葉を紡ぐ。

「……その、姉ちゃん達のおかげであいつを見つけることが出来た。だから……ありがとう」

「そんなことないよ、今回は俊吾君の手柄だよ」

 更に優しい言葉を掛ける鈴音に俊吾は居心地の悪さを倍増させるが、どこか安心するような気もしていた。

 そしてそんな二人のやり取りを見ていた美咲は不機嫌そうに頬を膨らめると、鈴音の元に駆け寄って手を取った。

「鈴音お姉ちゃん。俊吾君はもういいよ、だから次に行こうよ」

 どこか面白くない美咲は鈴音の手を引っ張り急かすが、俊吾は美咲の一言が気に入らなかったらしい。

「なんだよ美咲、用があるな一人で先に行けよ!」

「そんな事を俊吾君に言われる筋合いはないもん。それにお姉ちゃん達は私に付き合ってここに居るんだから!」

 再開される口喧嘩、その中ですっかり間に立たされた鈴音は沙希に顔を向ける。

 沙希〜、どうにかして。

(自業自得だ、自分で何とかしろ!)

 アイコンタクトでそんなやり取りをする鈴音と沙希。ある意味、凄い特技になっているが、今は二人の喧嘩を仲裁する方が鈴音にとっては大事だった。



 結局、二人の喧嘩はそれから一〇数分後にやっと収まった。鈴音は必死になって二人の間に入ったが、沙希が手伝う事は決してなかったという。

 それから俊吾の目的地が途中まで美咲達の道のりが一緒なので、四人揃って一見すれば仲良く歩いていた。

「そういえば俊吾君はどこに行く予定だったの」

 まだ予定地を聞いたいなかったのか、鈴音がそんなことを俊吾に尋ねた。

「うん、村の真ん中にあるオブジェがそろそろ完成するから見に行こうと思って」

「オブジェ? そういえば来界村には九つのオブジェがあるんだよね」

 オブジェという言葉に興味を示した沙希がそんな事を言って来た。もちろん、その事は鈴音も知っているはずなのだが。

 へぇ〜、そうなんだ。

 と、すっかり忘れていた。

「そう、村を囲むように八つのオブジェが建ってて、村の真ん中に九つ目のオブジェが完成する予定なんだ」

「完成する予定? という事はまだ出来てないって事?」

「そう、けどさ、数日中には完成するみたいだから、それで建ててるところを見に行こうと思ったんだ」

「へぇ〜」

(というか、この前に聞いた吉田さんの言い方だと全部完成してる物だと思ってたけど、まだ全部出来てないんだ。……そういえばこの前見せてもらったのも村の隅に有った。まあ、吉田さんも完成する物だと思ってたから、そう言ったのかな?)

 数日前、初めて羽入家を後にした時、鈴音達は吉田の案内でオブジェを見に行っている。確かにその時に言った吉田の言い方だと村には全てのオブジェが完成しているように聞こえる。

 まあ、すでに建設中だったのだし、完成する事が分っていたからこそ吉田はそう言ったのだろう。

 それに村の中心と言っても羽入家と村長宅、そして平坂神社からはかなり離れている。だからこそ、鈴音達も今まで見る機会がなかった。まあ、見ても沙希は面白くない物だからまったく気にしなかったのだろう。……ちなみに、鈴音はオブジェの存在すら忘れているようだ。

(まあ、そんな物を見ても面白くはないけど……)

 そう思っている沙希は鈴音に目を向ける。

 オブジェか、一体どんなのだろうね、楽しみだな。

 明らかに楽しそうな鈴音。どうやら完璧に俊吾と一緒に見に行くつもりらしい。沙希は溜息を付くと鈴音を呼ぶ。

「鈴音」

「んっ、どうしたの沙希?」

 後ろに居る沙希と並ぶ鈴音。そんな鈴音に一応聞いてみる。

「それで、俊吾君と一緒にオブジェを見に行くの?」

「うん、行くよ」

「え〜っ」

 はっきりと答える鈴音に不満の声を上げる美咲。どうやら美咲としては俊吾と同行する事が嫌らしい。

「いいじゃない美咲ちゃん、せっかくだから見に行こうよ」

「でも……課題が」

「見に行くだけだから、そんなに時間は掛からないよ。それにちょっとぐらい寄り道しても時間は充分にあるでしょ」

「う〜、そうだけど」

 思いっきり不満を態度で表す美咲に俊吾も耐えられなくなったのだろう。

「だったら、美咲は勝手に行けよ。俺は姉ちゃん達とオブジェを見に行くから」

(姉ちゃん達って、いつの間にか私も入ってるんだ)

 あまり乗り気でもない沙希もいつの間にか俊吾の頭数に加えられていた。まあ、鈴音の行くところには、いつも沙希が一緒に行ってるから二人でセットに見られてもしょうがないだろう。

 それでも美咲は不満の声を上げる。

「だいたいお姉ちゃん達は私に付き合ってくれるって約束したんだよ! それを何で俊吾君に付き合わないといけないの!」

「鈴音姉ちゃんがいいって言ったからいいんだよ!」

「ダメ!」

「なんで美咲にそんな事を言えるんだよ! 姉ちゃん達は美咲の物じゃないだろう!」

「鈴音お姉ちゃんは静音お姉ちゃんの妹だから私のお姉ちゃんなの! だからお姉ちゃん達は美咲の物なの!」

 ……いつの間にか私達が物扱いになってる。

(んっ! 美咲ちゃんが静音さんの事を口にした。という事は、少しは静音さん達の事を吹っ切れたのかな。……いや、違う。今は鈴音がいるから静音さんの代わりとして鈴音に甘えてるのかな? でも、そうなると、やっぱり美咲ちゃんに静音さんの事を聞かない方がいいか)

 鈴音達が初めて美咲に静音の事を聞いた時、美咲は謝り続けて泣くだけだった。だからこそ、二人とも美咲の前では静音の事を話さないようにした。

 その理由を美咲の母である琴菜に聞いてみたら、兄である静馬を静音に取られる気がしたから素直になれなかった事を悔やんでるそうだ。

(まあ、美咲ちゃんも本心では静音さんに甘えたかったのかもしれない。それが出来なかったから、鈴音を静音さんに見立てて甘えてるのか。……まあ、それ以上に鈴音が面白い事もあるけど)

 結局は最後に酷い事を思ったりもする沙希。まあ、それはいつもの事だし、沙希にとって鈴音が面白い事に代わりはない。

 そしてその鈴音は二人の間に入り、仲裁する。

「はいはい、そこまで。美咲ちゃん、昨日約束したように今日はちゃんと美咲ちゃんに付き合ってあげるよ。だから、私にもちょっと付き合って欲しいな。それじゃあ、ダメ?」

「うっ、うん、分った」

 鈴音に諭されてしぶしぶ納得する美咲、そして俊吾は鈴音の後ろに隠れて勝ち誇った顔をしているが、そんな俊吾にも鈴音は真面目な顔を向ける。

「俊吾君、自分の思い通りなったからといってそれは勝ちじゃない。それよりも、なんで美咲ちゃんが反対したのか、それを考えて理解する方が大事だよ。それに女の子に優しく出来ないと、七海ちゃんに嫌われるよ」

「なっ、なっ、なっ、七海姉ちゃんは関係ねえだろ!」

「あらら、そんな事を言ってると、七海ちゃんに告げ口しちゃうよ」

「ぐっ!」

 さすがに七海の名前を出されると俊吾も口を閉じるしかないようだ。そして鈴音はそれをいい事に一気に言い包める。

「俊吾君、俊吾君はあの秋月に対抗できる勇気を持った強い子だよ。だから、今度はその勇気を誰かを守るために使って欲しいな。美咲ちゃんや年下の子を守るのが俊吾君の役目なんだから」

「……わっ、分ったよ」

 結局は鈴音に言い包められる俊吾。そして二人を納得させた鈴音は美咲と俊吾に仲直りの握手をさせる。その様子を傍らで見ていた沙希。

(鈴音……すっかり手馴れたね。それにしても、二人をそんな風に諭すなんて、やっぱりあの静音さんの妹か。というか鈴音……普段からそんな風には出来ないの? そうしてくれたら私的には凄く楽なんだけど)

 と、勝手な事を思う沙希。まあ、それだけ普段の鈴音が危なっかしいという事だろう。そして沙希は……二人の間に入る事は決してなかった。

「それじゃあ、行こうっか」

 二人の喧嘩を仲裁した鈴音は美咲と俊吾の間に入って二人の手を取って歩き出す。その後ろを微笑を浮かべながら付いて行く沙希。

 それから四人は村長の家に向かう道から外れて村の中心へと向かう。途中で駐在所を通り過ぎて村の中心に辿り着く四人。

 そこは大きく開けており、更に中心点には立ち入り禁止のロープが張られいた。更にその向こうにはオブジェを置くであろう土台を作っているようだ。

「沙希! なんか大きいよ!」

「いや、見れば分かるから」

 土台の大きさに素直に驚く鈴音。それに冷静に突っ込む沙希だが、沙希もその大きさには驚いていた。

(これって、他のオブジェよりもかなり大きい。他のオブジェはここまで大きな土台は使ってなかった。そうなると、相当大きなオブジェをここに置くって事か)

 確かに、他のオブジェは二人の身長から半分ほどの大きさしかなかったが、ここに置かれるであろうオブジェはそれをはるかにしのいでいる。

「へっへ〜っ、驚いただろ」

 何故か得意げに話す俊吾だが、鈴音の興味はすっかり建設中の土台に向いていた。

 それにしても大きいな、これだけ大きいと村の名物になるね。……んっ?

 ふと鈴音が視線を向けた先には工事の時期と建設会社などが書かれた看板だった。

 ……嘘っ! なんで?

「沙希、あれ!」

 建設工事現場看板を指差して沙希をそちらに向かせる。

「どうしたの?」

「業者名のところ……」

 鈴音に言われて沙希もそこに注目して読み上げる。

「建設業者……セリグテックス!」

 さすがに驚きを隠せない沙希。

 セリグテックス、以前に来界村の開発を巡って村の住人達と対峙した業者だ。結局は羽入家の力によって開発は中止にまで追い込まれたが、村長の和解して来界村の外れにある平坂開発に乗り出した。

 そんな経緯があり、セリグテックスは来界村から完全に手を引いたと思っていた鈴音達だが、まさかこんな所で再びその名前を見ることになるとは思ってもいなかった。

「なんで……セリグテックスが?」

「……鈴音、ちょっと工事の人に聞いてくるから、ここで待ってて」

「えっ、沙希?」

 鈴音が呼ぶ前に走り出した沙希は、そのまま休憩中の作業員がいるところまで走っていった。それから何かを話しているようだが、もちろん鈴音達から離れているため聞くことは出来ない。

 その間に両脇にいる美咲と俊吾の存在を忘れて、鈴音は思考を巡らす。

 セリグテックス……姉さんが勤めていた会社。来界村開発戦争で重機を持ち込んだけど、たったの一晩で全ての重機を爆破されてから羽入家を恐れるようになった。って聞いてたんだけど……いつの間にかまた来界村開発に乗り出したのかな?

 ……そんな訳はないか。羽入家の力はセリグテックスが良く分かってるし、源三郎さんが認めたのは姉さんであってセリグテックスじゃない。だから、姉さんが居ない今、セリグテックスがこんなにも堂々と工事をしているなんて、ちょっと考えられないよね。

 それでも工事をしている事は確かだし……そうだ! 確かこのオブジェって。

「俊吾君!」

 突然、隣にいる俊吾に呼び掛ける鈴音。

「えっ、な、なに?」

 鈴音の剣幕に思わず言葉に詰まる俊吾。そんな俊吾を気にする事無く鈴音は俊吾に尋ねる。

「確かこのオブジェって、村長さんが建てさせてるんだよね?」

「う、うん、そうだけど」

 そうなると、セリグテックスを使ってオブジェを建てさせているのは村長さん。……でも、なんでセリグテックスなんだろう。建設会社は他にもあるし、村人や羽入家が遺恨を持たない建設会社の方が工事が進め易いと思うんだけど。

 それにセリグテックスが村に入り込んでる事を知られれば、何かしらの事件が起こっても不思議じゃないよね。村長さんならそれぐらい分ってると思うけど、それでも村長さんはセリグテックスを村に招き入れた。

 ……なんだろう、何か引っ掛かるんだよね。

 鈴音は腕を組んで、唸りながら思考を巡らす。それでも答えが出る前に沙希が戻ってきた。

「お待たせ」

「あっ、沙希、何か分かった?」

 だが沙希は首を横に振る。

「ダメ、セリグテックスの人は一切この村に足を踏み入れようとしないんだって。だから工事は現場に任せっきりみたい」

「まあ、羽入家の怖さはセリグテックスの人が一番良く分かってるからね。……あっ、そうだ。こんな所にセリグテックスの看板を出してるんだから、何かあったとか、そんな話はなかった?」

「嫌がらせはかなりの数があったみたいで現場の人が愚痴ってた。まあ、それだけであまり大きなことはなかったみたい」

 そうなると……これが原因で何かがあった訳じゃないんだ。

「……そういえば、オブジェの建設は村長さんが頼んだんでしょ。それについては何か言ってなかった?」

「それも聞いてみたんだけどね。そういう話は上の方だけで決まったみたいだから、現場の人達はよく知らないみたい。ただ注意して工事を行うようにとしか指示は下りてないみたい」

 そうなると、これ以上現場の人達に話を聞いてみても無駄よね。う〜ん、セリグテックスの人が来てれば話が聞けたんだけどな。まあ、羽入家を恐れているセリグテックスの人間が直接来る事はないかな。

 結局は何も掴めないまま、鈴音は視線を泳がせると俊吾が目に映る。

「そういえば俊吾君、セリグテックスについて何か聞いた事はない?」

「鈴音姉ちゃん、セリグテックスってなに?」

「……」

 思いがけない質問返しに鈴音は言葉を失うと反対にいる美咲に視線を移すが、美咲も首を横に振るだけだった。

 そんな鈴音の行動を見ていた沙希が思いっきり溜息を付く。

「鈴音、反対運動は村の人達が総出で行ったとしても、子供達をそれに巻き込むはずが無いでしょ」

 ……そうだね。

 だが反対運動と聞いて俊吾はやっと鈴音達が何に付いて話しているのか分った。

「もしかして姉ちゃん達、開発戦争の事を話してるのか?」

「へっ、村の人達も開発戦争って言ってるの?」

「そうだよ〜」

 開発戦争という言葉で美咲も分ったみたいで、そんな相づちを打ってきた。

「えっと、俊吾君と美咲ちゃんはどれぐらい開発戦争の事を知ってるの?」

「確か、皆の家が壊されていろいろな物を建てるって、最初は聞いてたんだけど。そうだよな、美咲」

「うん、それで羽入家の人が追っ払ってくれた後に静音お姉ちゃんが、それは違うよって教えてくれたの」

「他には?」

 鈴音が聞くと二人とも首を傾げる。

 う〜ん、やっぱり二人とも詳しい事は知らずに概要だけ知ってる感じか。まあ、村の人達も子供まで巻き込まなかったら良いのかな。……あっ、そういえば。

「そういえば、七海ちゃんは何か知ってるかな?」

 鈴音が何気なく口にしてみた言葉に、美咲と俊吾はどこか答え難いような、そんな顔をする。それでも俊吾は鈴音達に恩を感じているのか、一応知っている事を口にしてみる。

「七海姉ちゃんは羽入家だから、それなりの事を知ってると思うけど……それでも羽入家の人だから秘密を教えてはくれないよ」

 俊吾の言葉に頷いてみせる美咲。どうやら美咲も同じ意見らしい。それでも、あまり羽入家の事を悪く言う事が出来ないのか、二人ともそれ以上は何も言わなかった。

 ……やっぱり羽入家の事になるとあまり良くは知らないみたいね。それに、俊吾君も美咲ちゃんも七海ちゃんに好意を抱いてるから、やっぱり羽入家の悪口は言いたくないんだろうな。

 結局は羽入家とは関係無しに七海に対する二人の気持ちを理解して、そう結論付ける鈴音。だが沙希は鈴音とは間逆な考えを持っていた。

(やっぱりこの村には羽入家の権力が根付いてる。確かに羽入家は村にとっては英雄かもしれない。だけど、見方を変えればただの犯罪集団だ。それをあっさりと受け入れるという事は、それだけ羽入家が村人に信頼されて受け入れられている事になる。しかも、美咲ちゃん達のような子供達にまで根付いてるという事は、それだけ村が羽入家によって洗脳されてると言っても過言じゃないか)

 どこまでも羽入家を疑う沙希。だが沙希の考えが分らないわけじゃない。

 確かに村の外から来た者にとっては、羽入家は権力と暴力を笠に着た犯罪集団に思えてもしかたないだろう。それに羽入家はセリグテックスに対して爆弾テロのような物をやっている。それだけ見ても、村の外から来た者は羽入家が犯罪集団と思っても不思議は無い。

 だからこそ、羽入家の影響を受けていない沙希や吉田などは羽入家を疑って掛かっているのだろう。逆に鈴音のように羽入家を疑わない方が珍しい。



「鈴音お姉ちゃん〜、沙希お姉ちゃん〜」

 いつの間にかすっかり考え込んでいる鈴音と沙希。それに待ち疲れたのか美咲が二人の間に立って服を引っ張っている。

 ……あっ、すっかり忘れてた。いつもの癖ですっかり考え込んじゃったよ。

 鈴音は慌てて笑顔を作ると美咲の頭を撫でながら目線を合わせる。

「あははっ、ごめんね。今日は付き合うって言ったのに、すっかり考え込んじゃったよ」

「ううん、いいけど。なんか、お姉ちゃん達が困ったような顔をしてたから」

 ……まあ、困っている事は確かだね。それでも、今日は美咲ちゃんに付き合うって約束したし、セリグテックスの事が分ったぐらいで進展するわけでもないか。

 そう結論を出すと鈴音は沙希を呼び掛ける。

「沙希」

「んっ、どうしたの鈴音?」

「そろそろ行くよ」

「どこに?」

 沙希の言葉に思いっきり溜息を付いて見せる鈴音。

「決まってるでしょ、次よ、次。今日はお休みして美咲ちゃんに付き合うって約束したじゃない」

「けど鈴音」

 沙希としてはこれを機に少し調査をしてみたいのだろう。なにしろセリグテックスの事は新しく出てきた情報だ。ここから何かに広がる可能性だってある。

 それは鈴音も分っているのだが、それでも鈴音は美咲を裏切るような事は出来ないのだろう。

「沙希、約束は約束だよ。まだ時間は沢山あるんだから、少しゆっくりしてもいいんじゃない。それに姉さんが言ってたでしょ。大変な時こそ、冷静になって周りを見ろって。最近の沙希はいろいろと力を入れすぎだよ、たまには力を抜かないと大切な事を見落とすよ」

「……」

 さすがに鈴音がそこまで言うと反論する事が出来ないのか、沙希は黙って少し考えると大きく息を吐く。

「次は村長のところだっけ」

「うん、そうだよ〜」

 沙希の言葉に嬉しそうに答える美咲。やはり沙希にも美咲は裏切れないらしい。

 そんな二人のやり取りを笑みを浮かべながら見ていた鈴音は俊吾に顔を向ける。

「そういえば俊吾君はこれからどうするの?」

「んっ、俺は用があるから」

「そっか」

 それから、鈴音達は俊吾と別れて村長の家へと向かう。



「ごめんくださ〜い!」

 大きな門に向かって叫ぶ美咲。それから程なくして門が開いて香村が姿を現した。

「あらっ、美咲ちゃん、いらっしゃい。話は聞いてるから入って、どうぞ鈴音さん達も」

「はい、お邪魔しま〜す」

「失礼します」

 美咲を先頭に沙希と鈴音の順で村長の門を跨ぐ。鈴音達を迎え入れると香村は再び門を閉ざした。

 ……あれっ、いつもこんなに厳重だっけ? 確か、この前着た時は門は開けっ放しだったような気もするけど。

 そんな事を感じる鈴音だが、香村が話しかけてきたので鈴音の思考が中断される。

「今日は鈴音さん達と一緒に着たのね」

「うん、昨日話したら手伝ってくれるって言ったから」

「そう、よかったね。鈴音さんも沙希さんも今日はゆっくりして行って下さいね」

「はい、ありがとうございます」

「では、お言葉に甘えて」

 それぞれ返事を返してから、香村は三人を母屋へと案内する。

 その途中で鈴音は奥の蔵に目を向ける。その視線に気付いたのか、香村が鈴音に声を掛けてきた。

「もう大丈夫ですよ、あそこには誰も居ませんから」

「あっ、いえ、そういう意味じゃ」

「まあ、死んでしまえばあんな奴でも仏ですからね。だからあまり悪口は言いたくないんですけどね。それでも、あいつが死んでからはやっとここが静かになりましたよ」

 ……いや、誰もそんな事は聞いてないんだけど。

 以前、あの蔵には鈴音を襲った助六が住んでいた。よほど迷惑な奴だったらしく、その死を悼んでいる者は居ないんじゃないんだろうかと、鈴音達が思うほど評判が悪い男だった。

 それでも、香村が言ったとおり、死んでしまえば皆仏であるから、鈴音としては助六の悪口を言う気にはなれなかった。

 それよりも鈴音には気になっていた事があるからだ。

 う〜ん、あの時の事は……今思い出しても気分が悪くなるんだけどな。……それでも、私を助けてくれたのは来界村で連続殺人をしていた秋月なのかな? ……何か違うような気がする。たぶん、別の何かがあるんだと思うけど……後であの蔵を見せてもらおうかな。もしかしたら何か分かるかもしれない。

 それから鈴音達は村長宅の玄関をくぐる。

「それにしても、村長さんはどんな話をしてくれるのかな?」

 玄関を上がった鈴音が突然そんな事を言い出した。どうやら、それも鈴音にとっては気になる事の一つらしい。

「う〜ん、出来れば面白い話がいいな」

 美咲がそんな要望を口にすると香村は笑みを浮かべて、少し笑った後に答えた。

「大丈夫ですよ、なんか村長さんも美咲ちゃんの話を聞いてからなにか意気込んじゃって、いろいろな資料を持ち出してきたみたいですよ」

「へぇ〜、そうなんだ〜」

 ……ちょっと意外。

 鈴音達は何故か自分達には冷たい村長しか会った事が無い。会う前までは静音の話から優しい人だと聞いていたのだが、実際に会ってみると鈴音達は何故だか冷たかった。

 だからだろう、鈴音が村長に対してそんな風に思ったのは。

「でも、わざわざ資料を用意してくれてるんだから期待していいんじゃないかな。ねえ、美咲ちゃん」

「うん!」

 鈴音の言葉に元気良く返事をする美咲。その光景を沙希と香村は微笑みながら見ていたが、全員の用意が出来ると鈴音達を奥へと案内し始める。

 そして鈴音達が奥へと向かっているときだった。突如、奥の部屋から怒鳴り声が聞こえてきた。

「父さんはいったいなにを考えてるんですか!」

 突然聞こえてきた怒鳴り声に怖くなったのか、美咲は鈴音にすがり付く。香村はそんな美咲に小さな声で謝ると、怒鳴り声がした部屋に声を掛けてゆっくりと障子を開いた。







 さてさて、そんな訳でお送りしました断罪の日はいかがでしたでしょうか。……まあ、何と言いましょうか。もう数話ほどこんな感じで進みます。

 ……でも、実はこの時点で凄い事が起きてたりして、でも、それが出てくるのが数話後なんですよね。そんな訳で、もう少し気長にお付き合い下さい。

 さてさて、そんな訳で出てきましたね、九番目のオブジェ。だけど未だに未完成。これが意味する物は一体なんなんでしょうね。でも……実はまったく関係なかったりして。まあ、そんな訳で、そこいら辺は皆さんの推理にお任せします。

 さてさて、そんな訳で断罪の日も確実に終わりが近づいてますね。たぶん……三十話ぐらいには終わる……のかな? 正直、後どれぐらいで終わるか見えてませんが、それぐらいには問題編が終わると思います。

 そんな訳で、これからも断罪の日をよろしくお願いします。

 ではでは、ここまで読んでくださりありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします。更に評価感想もお待ちしております。

 以上、ボカロいいな、そのうちボカロ欲しいな、とか思ってる葵夢幻でした。

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