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第二話 来界村到着

「はぁ〜、意外と賑やかだね」

 平坂の駅から出た鈴音はそんな感想を口にする。

 平坂、正確には来界村平坂、来界村の端にある地名であるが、昨今開発が進み来界村よりも平坂の名が知られるようになってきた。

 そんな平坂の駅前で鈴音は物珍しげに辺りを見回し、沙希はそんな鈴音から少し距離を置いていた。

「鈴音、どんなのを想像してたのよ」

 沙希がそんな事を言って来たので、鈴音はそっちに目を向けると沙希は呆れた顔で何かを手に持っている。

「どんなって、なんかこう無人駅みたいな」

「どこの寒村、というか平坂は開発が進んでるって自分で言ってたでしょ」

「でもここまで都会的だとは思って無かったよ」

「そお? というかここも充分田舎って感じがするけど」

「えぇ〜、そう?」

 鈴音は改めて辺りを見回してみる。小さいけど駅ビルも立っているし、周りにはそれなりに高い建物も立っている。それは鈴音が想像していた田舎とはまるでかけ離れた物だった。

「なんか私のイメージと違う」

「開発が進んでる田舎なんてこんなもんよ」

 鈴音とは対象的に無感動な沙希。鈴音はつまらなそうな顔を向けるが、沙希は手にした紙を見ているようでそんな鈴音にはまったく気付かない。鈴音は溜息を付くと、ふと疑問に思った事を聞いてみる。

「そういえば沙希って何処の出身だっけ?」

「埼玉の西」

「……そこもこんな感じ?」

「だいたい」

「……」

 つまり沙希はこういう風景を見慣れてるんだ。

 変に納得した鈴音は沙希が手にしてる紙を覗き込む。

「なにこれ?」

「バスの時刻表」

「どこにあったの?」

「改札」

 ……なんで駅の改札にバスの時刻表が!

 どうやら鈴音は本気で知らなかったらしいが、沙希は手馴れた様子で現在の時間と時刻表を見合わせる。

「鈴音、後三〇分ぐらいあるみたい」

「なんでそんなに待つの!」

「田舎なんてこんなもんよ。文句を言ったってしょうがないから、大人しく待ってなさい」

「はぁ〜、一体何時ごろに来界村に付くんだろう?」

「お姉ちゃん達来界村に行くの?」

 二人に声を掛けてきたのは赤いランドセルを背負った女の子。女の子は無邪気な笑顔を向けながら鈴音達を見詰めていた。鈴音は膝を折ると女の子と目線を合わせる。

「君は来界村の子?」

「そうだよ、美咲っていうの」

「へぇ〜、美咲ちゃんか。私は京野鈴音」

「鈴音お姉ちゃん?」

「そう、それでこっちが神園沙希、私の友達」

 鈴音は美咲と目線を合わせながら沙希を紹介する。沙希も美咲に軽く微笑んで挨拶をして、鈴音が気になってる事を尋ねる。

「ねえ美咲ちゃん、手っ取り早く来界村に行く方法はない?」

「ならタクシーで行けよ」

 冷たく言い放つ沙希を鈴音はすねた目線で見上げる。

「タクシーがあるなら先に言ってよ」

「かなりお金が掛かりそうだから私は嫌、行くなら一人で行って」

「よっぽど急いでる人しかタクシーは使わないってお母さんが言ってたよ」

「じゃあ鈴音、私は後で行くから」

「待ってよ、バスにします、バスで行きますから〜」

 一人でバス停に向かう沙希を鈴音は慌てて追いかけて、その後ろを美咲が楽しそうに付いてきた。

 そしてバス停の時刻表と現在の時刻を見合わせて改めてげんなりする鈴音。しかたなく備え付けてあるベンチに三人並んで座る。

「そういえば沙希、さっきから冷たいよ、何で?」

 その質問に沙希は大きく溜息を付く。

「鈴音、その答えは簡単。こんな田舎を物珍しげに見て周ってた鈴音と一緒だと思われたくなかったから」

「失礼な!」

「まったく、始めて来たからって浮かれすぎ、恥ずかしいのは一人だけにして」

「そんなに人がいないから少しぐらいいいじゃない」

「そういう問題じゃない」

 二人の会話を聞いていた美咲が楽しそうに笑い出す。美咲に笑われたと思い沙希は顔を赤くしてそっぽを向くが、鈴音は美咲に合わせて笑顔を向けた。

「そういえば美咲ちゃんって何歳?」

「一〇歳だよ」

「そっか、じゃあ小学五年生?」

「うん」

「でも小学生がなんでここに居るの?」

「来界村には学校が無いんだよ。だから平坂の学校まで来てるの」

「へぇ〜、そうなんだ。じゃあ今は学校帰りなんだ」

「うん、来界村の子は皆平坂の学校に通ってるの」

「そうなんだ」

 そして鈴音と美咲の二人は取り留めの無い会話を続ける。その様子を温かく見守る沙希は。

(鈴音は小学校の先生に向いてるのか? いや、鈴音の頭じゃダメか)

 などと失礼な事を考えてした。



 バスが来て乗り込む三人は一番後ろの長い席に座る。バスが走り出してから数分。沙希は何かを思い出したようで、鈴音と美咲の会話に割り込む。

「鈴音」

「んっ、どうしたの沙希?」

「美咲ちゃん来界村の子なんでしょ。なら写真を見せて聞いてみたら?」

「写真って?」

 首をかしげる美咲に鈴音は荷物を漁りながら答える。

「私達ね、私のお姉ちゃんを探しに来界村に行くの。だから美咲ちゃんにも写真を見て、何か知ってたら教えて欲しいんだ」

「うん、いいよ」

「ありがとう、って、あれ、どこにいったんだろ? ……あっ、あったあった」

 鈴音は写真を取り出すと美咲に手渡す。

 写真には髪の長い女性がこちらに向かって微笑んでる。どことなく鈴音に似ているが写真の方が明らかに美人だ。

「やっぱり静音さんの方が美人ね」

「うるさいな〜、今更言わなくても分かってるよ」

 確かに姉さんは昔から綺麗だし、優しかった。だから私はそんな姉さんにずっと憧れてた。大きくなったらいつか姉さんのようになるんだと。……ああっ、ダメだ、姉さんの写真を見たら思い出しちゃった。

 鈴音は振り切るように美咲に話しかける。

「どう、みさ……って! なんで泣いてるの!」

 写真を持つ美咲の手は震えており、目からは大粒の涙が零れている。そして静かに写真に写ってる人の名を呟く。

「静音……お姉ちゃん」

「美咲ちゃん知ってるの!」

 いきなりの当たりに驚く鈴音と沙希だが、今の美咲にはどんな言葉も届かない。

「……ごめんなさい」

「えっ、どうし」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 って、ちょっと、どうなってんのよ。

 いきなり泣き出した美咲にあたふたする鈴音と沙希。数少ない乗客の目線が集まる中で沙希は謝り、鈴音はなんとか美咲を泣き止ませようとするが美咲は泣き続けた。

 結局、鈴音は美咲を抱きしめて少しでも声が迷惑にならないようにして、そのまま美咲が泣き止むのを待つしかなかった。



 はぁ〜、びっくりした。

 美咲はなんかと泣き止んだが、未だに写真と鈴音の服を掴んでいる。鈴音もそんな美咲を包み込むように軽く抱きしめながら落ち着きを取り戻していた。

 いきなり泣き出すんだもんな〜、どうしていいか分からなかった。でも、やっと落ち着いてくれたから、もう大丈夫かな?

「美咲ちゃん、大丈夫?」

 美咲は言葉を出さずに鈴音に掴まりながら首を縦に振るだけ。それでも泣かれるよりかはだいぶマシだった。

「美咲ちゃん、この写真の人を知ってるの?」

 美咲は頭を上げて鈴音を見上げる。

「静音お姉ちゃん……鈴音お姉ちゃんのお姉さん?」

「そうだよ」

 再び泣き出しそうに美咲の顔が崩れる。

「だ、大丈夫だよ美咲ちゃん、ほら、美咲ちゃん良い子だから大丈夫だよ」

「そう、包丁を持った変な鬼が強盗まがいに家に入り込んでこないから」

 こういうことに慣れていない二人は意味不明な事を口にする。それでも美咲の心は落ち着いたのか泣き出す事は無く、写真を鈴音に返して思いっきり鈴音に抱きつく。

「静音お姉ちゃん……静馬お兄ちゃんといなくなちゃった」

『えっ』

 顔を見合わせる鈴音と沙希。沙希はなるべく美咲を刺激しないように訪ねる。

「美咲ちゃんは静馬さんの事を知ってるの?」

「お兄ちゃん」

「えっと、それって美咲ちゃんのお兄さん?」

「うん」

 再び顔を見合わせる鈴音と沙希。

 まさか、こんなに早く出会わせるなんて思ってなかった。

 静馬は来界村で一番静音と縁があった人物。二人の関係性と失踪時期がまったく同じという事が、二人が駆け落ちしたという結論になった。そもそも今時駆け落ちという発想自体が鈴音達には納得できない物だったが、それでも静馬を当たれば静音に辿り着くだろうと、その考えが二人に来界村へ足を運ばせた。

 偶然なのか因果なのか、どちらにしろ鈴音達は目的の人物に近づいたのだが。

「ごめんなさい」

 再び謝りながら泣き出す美咲。二人はバスの中で美咲をあやすのに必死になった。



 結局、鈴音はこれ以上美咲に静音の事を聞かなかった。また泣かれては大変だし、美咲より家族に話を聞いた方が良いと判断したらしい。だから美咲の家に行く事に了承をもらいそれ以上は聞かなかった。

 そしてバスが来界村に付く時には美咲の機嫌はすっかり直っていた。

 子供って切り替えが早いね。

 変な事に感心しながらバスを降りる鈴音。終点の為かバスに乗っていた全員がその場所で下りる。と言っても鈴音達を含めても七人ぐらいしかない。

 鈴音はバスを見送ると辺りを見回す。

「なんか、木ばっかりだね」

「山の中だからでしょ」

「……なんで終点が山の中?」

「私に聞くな」

 鈴音達が今立っている場所は峠の中腹、後ろは開けているが目の前は木ばかりだ。

 なに? なんでこれ以上はバスが行かないの? というかどこまで閉鎖的なの!

 心の中で愚痴る鈴音。沙希もこれには驚き、嫌気がさしているようだ。そんな二人に後ろから美咲が呼びかける。

 二人が美咲の元へ行くと思わず声を上げる。

「へぇ〜、すごいねここ」

「これが、来界村」

 そこは来界村が一望できる場所。周りは山に囲まれており、土地の大半は田んぼと畑が占めており民家はまばらだ。その風景がかなり遠くまで続いている。

「どこまでが来界村?」

「あの山までだよ」

 沙希の質問に美咲は一番遠くの山を示す。

「鈴音、意外と広いみたい」

 うんざりしながら鈴音に言う沙希。だがその言葉は鈴音に届いていない。

 ……とうとう来た。ここに、この広い場所のどこかに姉さんは居るはず。待っててね姉さん、絶対に見つけるから。

 手を強く握り締めながら来界村を見詰める鈴音。沙希はそれ以上鈴音に話しかけることはせずに美咲からいろいろと聞く。

「美咲ちゃんの家は何処?」

「あそこだよ」

 村の奥を示す美咲。

「……遠そうだね」

「歩けばすぐだよ」

「じゃあ村長さんの家は?」

 またしても村の奥、その右側を示す。

 美咲はそのまま指を左側に寄せて説明する。

「そしてこっちが羽入家はにゅうけだよ」

「羽入家?」

「うん」

 初めて聞く単語だが村では有名なのか美咲はそれ以上は言わなかった。

「そして一番奥が平坂神社だよ」

「えっ、なんで来界村に平坂?」

「こっちの平坂神社は昔からあるんだよ。それで平坂にある平坂神社は後から作ったんだって」

「なんでわざわざ?」

「知らない。でもこっちの平坂神社が本物なんだって」

「いや、本物って……」

(神社に本物も偽物もあるのか?)

 そんなツッコミを呟く沙希。そして沙希の視界に異様な物が飛び込んできた。

「美咲ちゃん、何あれ?」

 それはバス停の近くに立っていた。

「えっと……おぷしぇ?」

「おぷしぇ?」

 沙希はもう一度それに目を向ける。それはグニグニと所々曲がった中心の柱から所々枝が出ており、枝の先には丸い物が付いている。木のつもりなのだろうか、もしそうだとしたら確実に異様である。

「一体なんでこんな物が?」

「村長さんが村に芸術を持ち込んだの」

「芸術? ……ああっ、これオブジェなんだ」

「そう、それ!」

 オブジェという言葉を思い出したのか嬉しいのか美咲は楽しそうな声を上げるが、沙希は疑いの眼差しをオブジェに向けていた。

(芸術ね〜、私には理解できん)

 確かにこれが芸術品といわれても沙希には木の出来損ないにしか見えなかった。

 そして鈴音が決意を固めて二人に向き直る。

「それじゃあ行こうっか」

「うん!」

 元気良く返事をする美咲。沙希は鈴音にそっと近寄ると美咲に聞こえないように小声で話す。

「鈴音、大丈夫?」

「なにが?」

「……大丈夫ならいいや」

「どうしたの沙希?」

「別に」

「……ありがとね、沙希」

 顔を鈴音とは反対方向へ向ける沙希。そんな沙希に鈴音は軽く笑う。

 沙希としては来界村を目の前にした鈴音を心配したつもりだったが、鈴音は思っていたよりも平気そうで逆に心配した沙希が照れてしまった。

 こうして鈴音と沙希は来界村に足を踏み入れる。



 ……え〜、昔から都会っ子が田舎に来たら信じてはいけないものがあります。それは田舎の人が言う「ちょっと」または「あと少し」である。

「ねぇ〜、まだ〜」

「あと少しだよ」

「それ、もう何回も聞いたよ〜」

「これぐらいで根を上げるな、情けない」

「だって沙希〜、ずっと山道を歩いてるんだよ〜」

 来界村に初めて来た二人は美咲の案内で進んでるわけだが、美咲はこう見えても何年も来界村で暮らしてきたのだから当然裏道、近道を知っているのだが、こういう田舎でのそういう道はどうしても山道になってしまうようだ。

 前を平地をあまり変わらないスピードで歩く沙希と美咲。鈴音はというとそこら辺に転がっていた木を杖代わりにして二人の後を何とか付いて行く。

「ねえ、沙希」

 息も絶え絶え鈴音は前に居る沙希に声をかける。

「なに? 休憩ならしないよ」

「……ケチ、というか何で沙希まで普通に歩けるの?」

「ああっ、私の地元は小学校の時から遠足で山道を歩いてるから慣れてるの」

「ここでもそうだよ」

 要するに沙希と美咲は山道に慣れている。そして一人山道に慣れていない鈴音が根を上げているというわけだ。

「やっぱり休憩して行こうよ〜」

「後ちょっとだから頑張って鈴音お姉ちゃん」

「……美咲ちゃん、後何分ぐらい?」

「う〜んと……二〇分」

「……沙希」

「何?」

「来界村は時空が違うの?」

「バカな事を言ってないで歩く歩く」

「は〜い」

 というか絶対に時間の進むスピードが違う!

 季節は初夏、日が出ている時間が長くなっているとはいえ太陽はまだ真上に有る。お昼は平坂に着くちょっと前に食べたが、鈴音の感覚では太陽が上にあること事態信じられなかった。というかただ単に慣れてない事をやっているので時間が長く感じてるだけ。

 それでも鈴音は田舎は時間の流れがゆっくりだと感じていた。

 そして歩く事一〇分、やっと山道を抜けたが待っていたのは何も無い田んぼ道だった。それから歩く事一〇分、鈴音達はようやく美咲の家に到着した。

 ここが美咲ちゃんの家か。

 それは変哲も無い普通の一軒家だが、鈴音にとっては特別な意味がある家。

 ここに静馬さんが……姉さんも来たことがあるのかな? まあいいや、ここに姉さんの痕跡があるはずだから。

 鈴音はやっと静音の足跡に手を触れる事が出来るが、それが惨劇の始まりだとは知る由も無い。







 そんな訳で第二話です。相変わらずホラーとは無縁の展開ですね。まあ、まだ始まったばかりですからホラーな展開は……そのうちなると思います。

 いや、これはホラーミステリーとしての色が濃いですから、それに前半はミステリーに力を入れてしまいましたから。

 さて、言い訳はここまでにして少し本編に触れますか。

 そんな訳で今回、静音ともっとも縁が深かった静馬の妹、美咲が出てきました。突然泣き出しましたね、さてさてどんな意味があったんでしょ。……いや、ちゃんと考えてありますよ。

 そして羽入家、美咲が村長の次に紹介した家。詳しくは二三話後になると思います。

 最後に平坂神社。この平坂は鈴音達が最初に着いた平坂とは違うようです。さてさて平坂の本当の意味とは……。

 まあ、こんなところですかね。

 ではではここまで読んでくださりありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします。更に評価感想もお待ちしております。

 以上、にゅあーにゅあーにゅあ―――――――――――――――――――――――――!!! な葵夢幻でした。

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