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第十五話 七並べ

「ただいま戻りました〜」

 間の抜けた鈴音の声に真っ先に反応した琴菜が置くから慌てて飛び出してきて、鈴音達に軽く抱きつくように無事を確認した。

「あぁ、大丈夫だったの? どこも怪我は無い?」

「えっ、あっ、はい」

 過敏すぎる琴菜の反応に鈴音は少し考えるとその理由が分った。

 そういえば、昨日あれから琴菜さんに連絡してなかったっけ。たぶん警察の人が連絡してくれたと思うけど、私達からは何も言ってなかったから、だからか。

 そう思うと琴菜にすまない気持ちになり、鈴音達は琴菜に自分達が無事な事をちゃんと報告すると、やっと落ち着いてくれたようだ。

 まあ、昨日の事態が事態だからしょうがない。琴菜はやっと一息付くのだった。

「よかった。鈴音さんが殺人事件に巻き込まれたって、聞いたときにはどうしようかと思ったんですよ」

「ご迷惑をお掛けしてすいませんでした」

「いいんですよ」

 それから琴菜は申し訳なさそうな顔を俯ける。

「静音さんの事は守ってあげられなかったのだから」

「えっ!」

「静音さんには静馬が付いてたから安心していましたが、それがあんなことに」

 つまり二人が失踪した事を行っているのだろう。

「そのうえ鈴音さん達まで何かあったらどう静音さんにお詫びしたらよいか」

 どうやら琴菜は未だに静音の事を引きずっているようだ。まあ、それもしかたない。なにしろ村長の頼みで静音を預かっていたのに、失踪なんてことになったのだから未だに気にしていてもおかしくは無い。

「まあ、どちらにしても私達は無事だったんですから安心してください」

「それはそうだけど、あまり危険な事はしないでね。今回の事は私の不注意でもありましたが、あまり心配かけないで下さいね」

「はい、申し訳ありませんでした」

 素直に頭を下げる鈴音達。まあ、今回の事はしょうがないとは言え琴菜に心配をかけたことは事実だ。そのことだけは謝っておいたのだろう。



 それから鈴音達は美咲と一緒に琴菜が用意しておいた夕食にありつき、お風呂も頂いた後だった。

 部屋に戻った鈴音はやっと帰ってきたと大きく伸びをする。まあ、昨日の晩から今まであれだけのことがあったのだから、ゆっくりしたい気持ちもあるのだろう。

 そして横になりながら天井を見上げるように仰向けに寝転がると今までことが勝手に頭を過ぎっていく。

 それにしても、犯人が秋月さんだったとはね。でもそうすると秋月さんは相当の腕を持ってることになるよね。なにしろ助六だけの首を切り落としたんだから。しかも私に傷一つ付けることなく。う〜ん、そうなるとかなりの達人技なんだけど、本当にあの秋月さんがやったのかな。

 昼間、俊吾が追っている秋月の後姿を思い出すだけで、それほどの腕を持つ達人には見えなかったようだ。

 けど、昼間私達が見たのは確かに秋月さんだし、確かに犯行現場の後を見てる。……あれっ? そういえば、私達が見たのは秋月さんが殺した人の首を持っているところだけだよね。実際に殺害した現場は見てないよね。

 だが、それだけの物的証拠と鈴音達という目撃者がいる以上、秋月が犯人としか考えられない。

 ……でも、どうして今回だけは俊吾君が立ち会えたんだろう。今まで俊吾君が追っているのは秋月さんも気付いてたと思うんだけど。……なんか、まるで私達に犯人の犯行を見せつけてるような気がする。

 だがそんな事をして犯人にどんな得があるというのだろう。自分の犯行現場を他人に見せるなんて、もう正気ではなく狂気に至っているように思えてくるのも確かだ。

 秋月さん……もう正常じゃなくなったのかな? だからもう、なりふり構わずあんな事をしたのかな。……でも、そう考えてもおかしくないよね。

 確かに、秋月は妻を殺されてから村を徘徊するようになった。それも廃人のようにだ。もし妻を殺されたショックが大きいのなら秋月が廃人同様になるのも分る気がする。

 なにしろ秋月さんは自分の奥さんが殺されたんだもんね。

 秋月が犯人だとなるとそう考えるのが普通だろう。

 でも、そうなるとなんで奥さんを殺されたんだろ。それだけじゃなくて平坂神社の夫婦を殺した後に奥さんが殺されてるわけがあったのかな? あっ! もしかして順番が違うんじゃないかな。

 秋月さんは奥さんを殺したショックで廃人同様になったんじゃなくて、その前から何かしらのきっかけで廃人同様になった。そしてどこかしらにしまってあった日本刀で神主夫婦を殺した後に自分の奥さんも殺した……でも。

 そうなると当然の疑問が出てくる。どうして神主夫婦を殺さなければいけなかったということだ。秋月には神主夫婦を殺す理由は無い。それに動機をあげるなら他の人たちだってそうだ。なんで秋月は殺人を繰り返しているのだろう。

 う〜ん、もう秋月さんは正気を保てないのかな。だから村の人達を殺しまくってるんじゃないかな。

 まあ、確かにそう考えられない事も無いし、筋も通っている。否定する要素も無いが、肯定する要素も無いのも確かだ。

 う〜ん、結局どうなってるんだろう。

 結局答えが出ないままそのままゴロゴロ転がりながら悶える鈴音。そんな鈴音が転がっている時だった。お風呂から上がった沙希が部屋に戻ってきたのは。

「……あんたは何をやってんのよ」

 部屋を転がっている鈴音を見て沙希の冷たい一言が突き刺さるが、鈴音はそれを引っこ抜くとすぐに座りなおした。

「なんかさ、いろいろと考えてるとワケが分からなくなってきて」

「まあ、気持ちは分らなくも無いけどさ。あの現場を見た以上は犯人が秋月で決まりでしょ。後は警察に任せればいいじゃない」

「そうなんだけどさ、何か引っ掛かるだよね」

 そう言って再び考え込む鈴音。そんな鈴音を沙希は横目で見ると部屋においてあるお茶を入れてすするのだった。どうやら鈴音がこうなる事にはもう慣れているらしい。

 そして更に鈴音が考え込んでいる時だった。突如部屋に琴菜がやってきた。

「まだ起きてますか?」

 一応断りを入れてから部屋には言って来る琴菜。そんな琴菜を沙希はちゃんとして迎え入れるが鈴音は未だに悶えたままだ。どうやら相当気になっているらしい。

 そして沙希は琴菜に鈴音のことは気にしないでと伝えると琴菜から来訪客が来た事が伝えられた。

「こんな時間に誰が来たんですか?」

「確か、平坂署の吉田さんとかいう人ですけど」

「吉田さんが?」

 さすがにこれには鈴音も一旦悶えるのを中断させると改めて座りなおす。

「お二人にどうしても言っておきたいことがあるんですって」

「なんだろう」

 顔を見合わせる沙希と鈴音。とりあえずこれ以上待たせてはいけないだろうと、鈴音達は玄関に向かった。



 そして玄関に着いた鈴音達は玄関の外に何台ものパトカーを引き連れて、これからまるで山にでも入るような格好をしている吉田が待っていた。

「いやいや、わざわざすいませんね。どうしても言っておきたいことがありましてね」

「いえ、それは構わないんですが、どうしたんですか、その格好は?」

 確かに吉田の格好を見ればそう聞きたくなってくるだろう。そして吉田は嫌そうに笑うとこの事を話した。

「いや〜、それがこれから山狩りでしてね。秋月が山の中に入った可能性が高い以上は探さないといけませんからね。朝になるとより遠くに逃げられる可能性がありますからね」

「というか、その前に遭難しそうですけど」

 さすがにこの一言には笑う一同。まあ、鈴音も笑いをとるために言ったわけではなく、率直な感想を言っただけに過ぎない。だからだろう鈴音一人だけが呆けているのは。

 そしてその場が再び元の空気に戻ると、吉田は本題を切り出してきた。

「そんな訳で我々も含めて青年団と共に山狩りに出るわけですよ。そこで」

 吉田は鈴音を思いっきり指差す。

「昨日のような軽率な行動は絶対にしないで下さいね。我々が本腰を入れたことは伝わっているはずですから、そんな中でうろうろされたら迷惑ですからね」

「えっと、あっ、はい」

 つまり鈴音達には今日は外に出るなと言いたいのだろう。昨日の出来事といい、先程の出来事いい、鈴音の向かう先には事件が勃発しているのも確かだ。そんなことが続いたものだから、吉田は自ら鈴音に警告に来たのだろう。

「まあ、山の中に逃げ込んだ事は確かみたいですから、決して探偵の真似事なんてしないで下さいね」

 さすがにこの発言には鈴音も笑顔で返す。

「大丈夫ですよ。そんな物に興味はありませんから。私達は姉さんを探しに来たんですよ。連続殺人犯を追うつもりはありません」

 確かに鈴音達の目的は静音を見つけることで秋月を捕まえる事ではない。だからだろう、鈴音自身もそれ以上の興味を示さなかったのは。

 その言葉で鈴音の真意を察したのだろう。吉田はやっと一安心すると出かける準備に取り掛かった。

「それでは、我々は山狩りに出かけてきます。くれぐれも言っていおきますが、今晩は決して表に出ないで下さいね」

 念を押してくる吉田に鈴音は気軽な返事で返す。

「ええ、さすがに夜中に山の中を捜索したいとは思いませんよ。だから大丈夫です」

 その言葉に一応安心した素振りを見せる吉田は準備が整えると、もう一度だけ鈴音に注意してから山狩りに出かけた。

 そして鈴音達はいつまでも玄関にいてもしょうがないので部屋に戻る事になった。



 部屋に戻った鈴音達を待っていたのは、何故か美咲だった。美咲はつまらそうに手に何かを持ちながら転がしていたのだが、鈴音達を見つけるとそれをテーブルの上において駆け寄ってきた。

「刑事さん達は帰ったの?」

「うん、今日は表に出るなって注意してくれただけだから、もう山狩りに行ってるんじゃないかな。そういう美咲ちゃんはどうしたの?」

 鈴音が聞くと美咲は一旦テーブルに戻ると先程まで手に持っていた物を鈴音達に見せ付けた。

「……これって、トランプ?」

 聞くまでも無く、それは長方形の形をした箱に入ったトランプだ。それを持ちながら美咲は嬉しそうに頷く。

「あのね、今日の事件で明日は学校が休みになっちゃたの。それで暇だからお姉ちゃん達と遊ぼうと思って」

「いいね、私達も丁度暇だし、やろうか」

 乗り気の鈴音、その隣では溜息を付く沙希がいた。

「あのさ鈴音」

「どうしたの沙希?」

「私としては一応事件の整理をしたいんだけど、静音さんが絡んでいる可能性だってあるわけだし、のんきに遊んでる暇があるの」

 その言葉に美咲はシュンとなるが、それでも鈴音は美咲の頭を撫でながら沙希に反論する。

「でもさ、結局は秋月が犯人て事になってる以上、姉さんがこの連続殺人に絡んでる可能性はほとんど無いんじゃない」

「そうかもしれないけど、一応事件を整理した方が静音さんを見つけやすいでしょ」

 それでも鈴音は首を横に振る。

「それは違うよ沙希。これで秋月が捕まって殺人事件が解決すれば、そっちの方が情報も集まりやすくなるはずだよ。だから現状で事件を整理しても無駄になる可能性が高いよ」

 確かにその可能性が高い。現在の地点で状況を整理してもそれが静音に繋がるとは思えない。それは連続殺人と静音の失踪を別問題として考えた鈴音の答えなのだろう。

 沙希は溜息を付くと少しだけ考えた。

(まあ、確かにこの殺人事件と静音さんの失踪は別問題かもしれない。だから現在の状況を整理しても無駄なのかな。……まっ、いいか、どちらにしろ情報が少ないのは確かだし、この殺人事件を追ってても静音さんに辿り着くとは思えない)

 そう結論を出した沙希はしかたなく鈴音達に付き合うことになった。

 まあ、この時点で議論しても静音に辿り着く事はないと最終的に判断したのだから、別に不思議でも無いだろう。

 だがそれでも、やはりのんきな鈴音に沙希は溜息を付くのだった。



「それで、何をやるの?」

 結局、美咲と遊ぶ事になった鈴音達。そして鈴音は真っ先に何をやるのかを聞いてきた。

「う〜んと……七並べ」

 と、美咲の提案で七並べで遊ぶ事に決定した。そしてそれぞれに配られるトランプ。そして七並べをやりながら鈴音は美咲に話しかける。

「そういえば美咲ちゃん、学校では今は何をやってるの」

「う〜んとね、村の歴史について調べるよ」

「村の歴史?」

 鈴音は答えながらもトランプを一枚並べる。

「村の歴史って、どんなの?」

「郷土の歴史とか、村に残る話を集めるとかそんなのじゃないの」

 美咲の変わりに沙希が勝手に答えるとトランプを一枚並べる。

「うん、そうだよ。なんか、村に残る話を調べるんだって」

「へぇ〜、そうなんだ」

「うん、でも明日は学校が休みだからやらなくてもいいんだよ」

 よほど明日の休みが嬉しいのか、楽しそうに美咲もトランプを一枚並べる。

「それでも、少しは調べておいた方が後で楽よ」

「そうそう」

「いつもレポートを出し遅れるあんたが言うな」

 沙希の一言に笑いながら答える鈴音がトランプを一枚並べる。

「それで美咲ちゃんは何について調べるの?」

「うんとね、平坂神社とか、村に伝わる話とか」

「もしかして玉虫様も?」

「うん、そうだよ」

「そうなんだ。というか鈴音、いい加減に止めてないで出しなさい」

 もう出せるトランプが限られてきている沙希は、その主犯格であろう鈴音に文句を言うが、鈴音は笑って流すだけだ。

「そんなの知らないよ〜。それより玉虫様って結局何なのかな?」

 しかたなくパスをした沙希の次に美咲がトランプを並べた。

「う〜んと、確か、村が食事に困ったときにひとみごくうになった人だよ」

「そういえば吉田さんもそんな事を言ってたね」

 そう言って鈴音は記憶をほじくり返す。

 確か、吉田さんの話だと生贄になって、それで祀られるようになったんだっけ。というか、未だに引っ掛かるんだよね。なんで生贄に介錯が必要だったのかな。

 どうやら鈴音は未だに御神刀が祀られている事に疑念を抱いているようだ。

 ただ生贄にされただけならその人だけを祀ればいいのに、なんで刀までも祀ってあるんだろう。

「鈴音の番だよ」

 沙希の言葉に思考を中断させると鈴音はゲームに思考を切り替えた。

「そういえば、玉虫様が祀られるようになってからは何事も無かったのかな」

「ううん、なんかいろいろとあったみたいだからそれを調べるの」

「そうなんだ」

 そう言って鈴音はやっと沙希が待っていたトランプを出した。

「いろいろあったって、一体何があったんだろうね」

「なんか村に厄災が時々あったんだって」

「まあ、こんな村でもいろいろな事件があったってことでしょ」

 そういいながら沙希はやっとトランプを出した。

「うん、それで村の人達が必ず死んでるんだって」

 美咲にしては何気ない一言だろうが、この一言が鈴音と沙希には引っ掛かった。

 ちょっと待って、この村は時々厄災に見舞われて、その度に人が死んでるの。だったら今回の事もそれと繋がってる。だからあんな噂が流れているのかな。

 鈴音が思い出した噂は今回の連続殺人事件が玉虫様の祟りと言われているということだ。まあ、実際にそんなことなく、犯人と思われる秋月は逃亡中。そのために現在山狩りが行われているだから。

「けどさ、必ず人が死んでるて言っても必ずしも玉虫様の祟りってワケじゃないんでしょ」

 鈴音の言葉に考えながらも美咲はトランプを出して並べる。

「良く分からないけど、この村で時々そういうことがあったことは確かだよ。だって、そこまで調べたもん」

「そうなんだ。それも全部玉虫様の祟り?」

「ううん、二個ほどそういわれてるものあったけど、後は全部違うみたい」

「そうなんだ」

 頷きながらトランプを出す鈴音。どうやら今回の事件があまりにも謎めていいたから、そんな噂が流れるようになったのだろう。

「けど、今回のは秋月が犯人で決まりでしょ」

 そう言いながら沙希はトランプを出す。

「良く分からないけど、皆必至で探してるね」

「けど美咲ちゃん、これで秋月さんが捕まってくれれば安全な村に戻るんだよ」

「うん、それは学校の先生からも聞いたよ」

 トランプを並べて一応学校でも今回の事件について、いろいろな注意事項が発せられた事までも美咲は話してくれた。

「村の一大事だからね。そりゃ学校でも細心の注意を払うでしょ」

「沙希の言うとおりだけど、これで秋月さんが捕まれば全部丸く収まるわけでしょ」

 そう言いながら手札からトランプを一枚並べる鈴音。

「うん、先生もそう言ってたよ。だからこの事件が終わったら社会実習をまたやらないとなの」

「また村の歴史を調べるの?」

「そうだよ」

「まあ、秋月さえ捕まれば安心して村の中を歩けるからね」

 沙希はトランプを並べると話題は美咲の課題に移り変わった。

「それにしても、こんな村でもいろいろな歴史があるもんだね」

「鈴音、その言い方は限りなく失礼だと思うけど」

「あははっ、まあいいじゃない。美咲ちゃんだってそんなに大変じゃないんでしょ」

 更にトランプを並べていく鈴音。だが美咲は首を横に振る。

「なんか村に伝わる言い伝えが多くて集めるだけで大変だよ」

「そんなに言い伝えがあるんだ」

「うん、そうだよ」

「まあ、この来界村も古くから存続している村だからね。逸話が残ってても何も不思議は無いでしょ」

 そう言ってトランプを並べる沙希。だが手元にあるトランプの枚数に少しだけしかめっ面になる。

「それも全部、玉虫様が関わってるの?」

「ううん、玉虫様が出てくるのは本当に何個かだよ。例えば村が水浸しになったとか、お米が取れなくなったとか。そんな時に玉虫様の祟りだって言われてるみたい」

 つまり地形の関係で発生する水害や、その年の雨量の関係で飢饉に見舞われたときなどに玉虫様という物にすがるために祟りだと言い伝えられているのだろう。

 まあ、確かにそういった自然災害を昔の人は祟りにして玉虫様にすがってたんだろうな。けど、そうなると玉虫様って単なる村の守り神みたいなものなのかな?

「要するに、悪い事が起きると玉虫様の祟りって言われるんだ」

「う〜ん、もしかしたらそうなのかもしれない」

 美咲はそう言いながら少なくなった手札からトランプを一枚出す。

「じゃあ、今回の祟りってなんだろう」

「たぶんだけど、秋月のアリバイトリックが巧妙で事件が謎めいてたからそうなったんじゃないの?」

「そうかな?」

 何か引っ掛かる鈴音は手札からトランプを出して並べる。

 今回の事件、本当に秋月さんが犯人なのかな。確かに私達は犯行現場を見ているわけだけど、……なんだろう。その他に何か深い物があるような気がする。

「そういえばさ」

 沙希が口を開いたので鈴音は一旦思考を中断させて耳を傾ける。

「あの羽入家っていつ頃からあんな権力を持つようになったのかな?」

 どうやら沙希としては静音の失踪に羽入家が絡んでいるという考えを捨ててないようだ。

 そんな沙希の質問に美咲は顎に指を当てながら考え、そして思い出したようで話し始めた。

「確か、村長さんの遠縁で分家って聞いたことがあるよ」

「つまり、昔の分家が力をつけた、という事かな」

 美咲に尋ねながらも沙希はトランプを一枚出す。

「う〜ん、良く分からないけど、たぶんそうなのかな?」

「あぁ、ごめんね、難しい事を聞いちゃって」

 美咲はまだ小学生だ。そんな年齢で村の複雑な事情を知っているはずも無かった。改めて質問する相手を間違えた事を反省する沙希。

(やっぱり美咲ちゃんだとわからないか。……となると、後で吉田さんに詳しく調べてもらおうかな。もしかしたら静音さんの手がかりに繋がるかもしれないし)

「でも、源三郎さんもそんなに悪い人には見えなかったけどな」

「ええっ! 私はあのおじいちゃんは怖いよ」

 トランプを出して更に手札を少なくする美咲。だが鈴音は自分なりの意見を美咲に話してみる。

「確かに怖そうな人だけどさ、怖そうな人だから怖い人だとは限らないよ。もしかしたら優しいかもしれないじゃない」

「でも怖い者は怖いよ」

「あははっ、美咲ちゃんだとまだあのおじいちゃんの良さが分らないか」

 手札からトランプを出して鈴音は笑いながら美咲の頭を撫でる。だがそれに反論するように沙希はトランプを出すと鈴音に反論する。

「私にも羽入家の良さなんて分からないんだけど」

「沙希は偏見を持ちすぎだよ。確かに悪い事をしてるかもしれないけど、自分対して悪い事をされるとは限らないよ」

「罪を憎んで人を憎まずってか」

「沙希、私は真面目に話してるんだけど」

「私にはあの源三郎を信じすぎてるようにしか見えないだけ」

「だから沙希、それが偏見だよ」

 どうやら鈴音は完全に源三郎を信用しているようだが、沙希はそれが危ないように思えてならないようだ。

 そんな二人が口論染みた会話をしたのだから、その場の空気は重くなりかけたときだった。

「はい、あがりだよ!」

 美咲が最後の一枚を並べて終了を宣言する。これによってゲームは終わりだが、沙希の手札はかなり残っている。これも鈴音の所為と睨みつけてくるが、鈴音はそんな沙希の視線を逸らしながら話題を振る。

「そういえば、美咲ちゃんは明後日は学校に行くの?」

 だが美咲は首を横に振る。

「ううん、まだ分らない。先生の話だと悪い人が捕まったら学校も再開するって言ってた」

 つまり、秋月がどこに潜んでいるか分らない以上は学校を閉鎖していた方が安全という事だろう。

 そっか、秋月さんが捕まらないと今回の事件は終わらないんだ。

 改めてその事を実感する鈴音だが、どうしても引っ掛かる事があるのも確かだ。

 そういえば日本刀。秋月さんの家にあったかな、まあ本人が持ってるなら無くて当然だけど。昨日のような技を秋月さんは持っているのかな。二人重なった人間の上にいる人だけを斬るなんてこと。しかも首をだけを切り落とすなんてこと秋月さんに出来たのかな? とてもそんなことが出来る雰囲気じゃなかったけど。

 確かに鈴音は秋月と接した事は無い。後姿と犯行現場で見たきりだ。だがこれは鈴音の直感に近い物が何かを鈴音に訴えているようだ。

 一体なんなんだろう、この胸の奥にある違和感。どうしてそんな物を感じるんだろう。

 だがその答えが出ることなく。美咲は二回戦目を提案してくる。どうやら明日が休みで夜更かししても良いと思っているのだろう。

 しかたなく美咲に付き合う鈴音達。こうして鈴音達がまったりとしている間にも山狩りは行われている。

 鈴音はそっと外をに目を向ける。

 あの山の中で一体何が起こっているんだろう。

 そこでは鈴音達が想像も出来ない出来事が起こっていた。そしてその結末は誰もが予想し得なかったものになるとは、その時は誰も思わなかっただろう。

 そして更に夜は更けて、日時が変わる。



                   ─断罪の日まで……後四日─







 そんな訳で今回は事件とはまったく関係なくまったりとした話となりましたが、いかがでしたでしょうか。

 まあ、鈴音達は普通の大学生だし、特別な推理力があるわけではありませんからね。こんな時に特別な推理力で真犯人を言い当てる。……なんてことは出来ませんよ。

 まあ、確かに秋月には不可思議な点が幾つかありますが、現場を見ちゃってますからね。その時点でもう犯人扱いですよ。

 さてさて、これで連続殺人事件は終わり、静音は見つかるのでしょうか? まあ、それは今後のお楽しみという事で。はい、そこの方、次まで待てない! というのでしたら自ら事件を推理してみてください。ひょっとしたら真相に行き着くかもしれませんよ。

 だが、そこは私の作品。真相はかなり卑怯になってますので、まあ、いろいろと考えてみるのも良いかもしれませんね。

 ではではこの辺で、ここまで読んでくださりありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします。更に評価感想、投票もお待ちしております。

 以上、巫女萌え―――!!! と最近巫女に付いていろいろと話題が尽きない葵夢幻でした。

 

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