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第十四話 遭遇

「結局何も分からなかったね」

「うん」

 村長の家からの帰り道で、沙希の問いかけに鈴音は力なく答えるのだった。

(はぁ〜、どうしたものやら)

 何も進展が無い状況に沙希も嫌気がさしている時だった。

 沙希は見慣れた後姿を見つけた。

「ねえ鈴音、あれ」

 沙希に袖を引っ張られて指差す方向を見ると、そこには以前に見た光景と同じような光景が広がっていた。

「あれって、俊吾君だよね」

「まだやってるんだ」

 そう、鈴音達が見つけたのは物陰に隠れてる(本人はそう思っているらしい)俊吾の後姿だった。そして目線を先に延ばすとやはり村を徘徊する秋月の姿があった。

 まだ俊吾君は秋月さんを犯人だと思っているらしい。

「やっぱりまだ秋月さんを犯人だと思っているんだね」

「俊吾もしつこいですからね」

「そうなんだって、うわっ、……って、七海ちゃん、いったいどこから?」

 突然現れた七海に驚く鈴音と沙希。七海はそんな二人の反応がおかしかったのか、軽く笑いながら事情を説明した。

「昨日の騒ぎで中学校は休校になったんです。それでバイトにでも行こうとしたら、水夏霞さんが今日はいいと言うので帰るところだったんです」

「そう、だったんだ」

 未だに驚いているのか、言葉が途切れる鈴音に対して沙希は容赦なく言葉を放つ。

「それでこんなところにいるとは、お嬢様は楽でいいですね」

 やはり羽入家が絡んでいると思っているだけで沙希は少しトゲのある言葉を放つが、七海はうっすらと笑みを浮かべて答えるだけだった。

「それが羽入家ですから」

 七海の答えに思わず首をかしげる鈴音は沙希の方へ顔を向けるが、沙希も同じようで七海の言葉が何を意味しているのかが分からないようだ。

 そんな二人を察したのだろう。七海は言葉を付け加える。

「羽入家だからこそ、知っている事がある。そういった方が分かりやすいですか?」

「それはつまり、私達に隠し事をしてるという事かしら」

「さあ、それはどうでしょう。お爺様が何を考えてらっしゃるのかは私には分かりません」

 そのまま視線を交わし続ける沙希と七海。そして空気はどんどんと重くなっていく。そんな空気に耐えられなくなった鈴音は話題を切り替えてきた。

「そういえば七海ちゃん今日も巫女服なんだね」

「ええ、時折巫女服でバイトに行く事もありますから」

「へぇ〜、なんで?」

「着替えるのがめんどくさいからですよ」

「……」

 思いがけない言葉に鈴音は言葉を失った。

 というか、そんな理由で巫女服で村を歩き回ってるの!

 思わず突っ込みたくなるが、七海がそれを制して俊吾が動き出した事を告げる。

「どうしますか?」

 これからの行動を聞いてくる七海。そして鈴音は即答した。

「俊吾君を追おう。犯人が秋月じゃないなら俊吾君がやってることは無駄だよ。説得してやめさせよう」

「そうですね……なら、私もお手伝いします。このまま帰っても暇ですから」

 七海の申し出に頷くと、沙希は思いっきり溜息をついてから鈴音達と一緒に俊吾の後を追うことにした。

 だが鈴音達が俊吾に追いつこうとした時だった。突如俊吾の悲鳴が聞こえた。

 この声、間違いない。

 鈴音達はお互いに顔を見合わせて頷くと、俊吾の元へと走り出した。

 この前といい、なんで俊吾君を追ってると悲鳴が聞こえてくるのよ!

 そんなツッコミを思いながら鈴音達は悲鳴が聞こえてきた民家へと入る。だがこの前と違って廃屋ではなく、未だに生活感が残っている家だ。

 非常事態だからいいか。

 そんな事を思いながらも土足で家に駆け上がると俊吾の名を叫びながら探し続ける。

「……な、ななみ、ねえ、ちゃん」

 微かに聞こえる俊吾の声。鈴音達は声が聞こえた部屋に突入すると思いがけない光景を目にすることとなった。

 嘘! これって、たった今起きた事なの?

 生活観とはまったく違う臭いが充満して、部屋に扉や壁には血が少しだけ飛び散っている。それより以前とまったく違うのは……この家の住人だろうか。その首を持った血まみれの男がそこに立っていたことだ。

 こいつが……連続殺人の犯人。

 そして犯人はゆっくりと顔を上げると鈴音達に目を向ける。

 嘘! 俊吾君が言ってた事は本当だったの!

 そう、血まみれになり、片手には日本刀、もう一方には先程殺した住人の首を二つ。その正体は俊吾が追っていた秋月夕呉だ。

その異様な光景に鈴音は目の前の真実が受け入れがたく、ただその場に固まるばかりだった。だが相手は目撃者をこのままにしておくわけが無い。首を離すことなく、日本刀だけを振り上げると鈴音達に向かって襲い掛かってきた。

「俊吾!」

 咄嗟に俊吾を庇うようにその場から移動させようとする七海。そして沙希は襲い掛かってくる秋月に対して真っ向から立ち向かう。

 沙希を斬ろうと乱雑に振り回される日本刀。だがこんな狭い室内ではいくら沙希でも避けるだけが精一杯だった。

 ……あっ、そうだ、私も何とかしないと。

 やっと自分を取り戻した鈴音は何か武器になるよな物がないか辺りを見回すと、何故か丁度いいことに木刀があった。どうやらお土産品のようだが、今はそんな事は関係ない。

 鈴音は沙希を相手にしている秋月の隙を突くと一気に胴に一撃を入れる。だがそこは剣術の経験者。その攻撃は完璧に入ったため、秋月はそのまま転げるように吹き飛んでしまった。

 あっ、やりすぎちゃったかな。

 咄嗟の事で手加減が出来なかったとはいえ、先程の攻撃は完全に入り、もしかしたらあばらの二、三本は折れた可能性がある。

 そしてその秋月は、鈴音の攻撃で吹き飛ばされたため、障子と襖を破り外にまで転げ落ちてしまっていた。

 そして秋月はゆっくりと立ち上がると、このままでは勝てないと思ったのだろう。そのまま逃走していった。

「待て!」

 七海に揺り動かされて自分を取り戻していた俊吾が、秋月の後を追って飛び出していってしまった。

「俊吾君!」

 咄嗟に呼び止める鈴音だが、そんなことで止まる俊吾ではなかった。

 どうしよう。

 これからどうするか、ゆっくりと考えてる時間は無い。だからこそ鈴音はその場で一気に皆に指示を出した。

「私と沙希で俊吾君を追おう。七海ちゃんは警察への連絡をお願い。それから犯人が秋月だって事と逃走中だって事を伝えて、そうすれば平坂の警察も動いてくれるだろうから」

「分かりました」

 七海は頷くと真っ先に駐在所に向かって走り始め、鈴音達も俊吾を見失わないうちに追いかけ始めた。

 そして走っている最中、突然沙希が笑顔を浮かべるのを鈴音は見逃さなかった。

「なに、どうしたのよ沙希?」

 だが沙希は首を横に振るだけだ。

「いや、なんでもない。ただやっぱり姉妹なんだなって思っただけ?」

 ワケが分からないという顔をする鈴音。だが沙希にはそう思うだけの根拠があった。

 それが静音だ。静音は学生の頃から学級委員を務めるほど優秀だったらしい。それはそれなりの判断力や決断力があったからだろう。

 先程の鈴音もそうだ。その場の状況から的確に判断して決行している。それは静音と重なる部分であり、沙希はそういう能力を持っている鈴音と静音を重ねてみたら凄い差があったので笑っただけに過ぎない。

 そんな沙希とは反対に鈴音は真剣に俊吾を心配しながら走っている。

 大丈夫かな俊吾君、相手は連続殺人犯なのにそれを一人で追ってるんだから、急いで追いつかないと俊吾君が危ない。

 そんな事を考えながら鈴音は必至で俊吾の後を追って走り続けるのだった。



 そして俊吾が立ち止まると、そこには一軒の家が建っていた。

 その前で荒い息を整える俊吾、そこに合流する鈴音達は俊吾の呼吸が正常に戻ると、とりあえず事情を聞く事した。

「俊吾君、この家は」

「あいつの……秋月の家だ」

 ぶっきらぼうに答える俊吾。どうやら完全に秋月を追い詰めたと思っているのだろう。

 そのまま中に入ろうとする俊吾を鈴音は制止させる。

「ちょっと待って、このまま中に入るのは危険だよ。せめてこっちも準備を万端にしないと。それに、さっきの光景といい、やっぱりあの秋月さんが犯人なの」

「そうだよ!」

 両親が殺された時の事を思い出したのだろう。俊吾は思わず声を荒げる。

「あいつは、僕がいない時にお父さんとお母さんを殺したんだ。それだけじゃない、その上お父さんとお母さんの首まで持って行くのを見たんだ!」

 まるでその現場を見たかのように話す俊吾。いや、俊吾の物言いは現場を隠れながら見ていたのかもしれない。だからこそ、今まで秋月を追っていたし、そこまではっきりと言い切れるのだろう。

 ……とにかく、俊吾君の意見が正しいにしろ。私達が秋月さんの犯行現場を見たことは確かだから。ここは慎重に動かないと。……警察が来るのを待ってってもいいけど、それだと秋月に逃げられる可能性がある。やっぱりここは危険でも突入しないといけないかもしれない。

 俊吾君には沙希に付いてもらって、私は別に探した方が効率がいいかな? ここは二手に分かれて探した方が早いかもしれない。もし発見して襲い掛かってきたとしても、私と沙希なら対応できる。

 うん、これで行こう!

 方針を決めた鈴音は沙希達にこれからの行動を告げる。

「とにかく家の中に入ってみよう。それから二手に分かれる。私は単独で探すから、沙希は俊吾君と一緒に中を探って」

 確かにそれが現状では最善策かもしれないが沙希は心配そうな顔を鈴音に向ける。それを鈴音も察したのだろう、あえて笑みを浮かべるのだった。

「大丈夫、さっき持ってきてた木刀も持ってるし、危なかったから叫ぶから。だから心配しないで大丈夫だよ」

 だか心配なものは心配なのだろう、沙希の顔は未だに鈴音を心配そうに見ているが、それでも鈴音を信頼している事も確かだ。ここは鈴音を信じる事にしたようで、頷いてみせる。

「じゃあ行くよ」

 鈴音は静かに合図を出すと慎重に玄関の扉を開ける。もちろん、物陰に隠れながら開けていく。いきなり襲われたものではどうする事も出来ないからだ。

 そして完全に開かれる玄関。だが中は静かで物音一つしなかった。

 鈴音と沙希は互いに視線を交わすと頷き、鈴音から中に入っていく。

 うわっ、なにこれ、まるでゴミ屋敷じゃない。

 中は乱雑というより、まったく片付けておらずにゴミもそのままになっていて、様々な異臭が漂っていた。

 そんな中で鈴音は木刀を下段に構えながら進むと、その後を沙希と俊吾も付いてくる。

 そして更に進むと二階に上がる階段と別の部屋に進む道へと分かれた。

 どうしようか、……私が二階に上がるかな。下なら俊吾君も逃げやすいし、沙希なら何とかしてくれるでしょう。

「じゃあ私が二階に行くから、二人はそっちをお願い」

 鈴音の指示に頷く沙希。そして俊吾はというと、さすがに怖いのか沙希の後ろに隠れたままで一応頷いて見せた。

 そして二手に分かれて進むことになった。

 二階へと続く階段を少しずつ進む鈴音。さすがの鈴音もこの状況では緊張もするし、不安もある。だが行かない訳には行かない。

 階段の途中でなにも無い事を祈りつつ鈴音は階段を上がり、二階へと到着した。どうやら階段にはなにも無かったらしい。

 そのまま二階の捜索に入ろうとした鈴音だが、急に下から悲鳴が聞こえてきた。

 この声、沙希と俊吾君。

 二人の悲鳴を確認すると鈴音は一気に階段を駆け下りた。そして悲鳴が聞こえた方を探るように部屋を確認していくと、沙希と俊吾がいる部屋に到達した。

 よかった。無事だったんだ。

 とりあえず二人の無事を確認した鈴音は沙希に声を掛ける。

「沙希、どうしたの?」

 ゆっくりと振り返る沙希、そして鈴音を確認すると今まで見ていた物を指差した。

 そして鈴音も沙希が指差した物を目にする。

 こ、これって、さっきの人達の……首だよね。

 そう、そこにはテーブルの上に置かれた先程秋月に殺された人達の首がおかれていた。

「うっ」

 さすがに耐えられなくなったのだろう。沙希はその部屋から出ると餌付く、一方の俊吾は目の前の真実が何なのか分からないように固まったままだ。

 ……なに、これ、こんなの見て、私にどうしろって言うの?

 さすがの鈴音もこれにはパニック寸前にまで陥っていた。

 そんな時だった。突如家の中に走り鈴音達に迫ってくる足音が聞こえたのが。

 まさか、戻ってきた。まずい、何とかしないと。

 危険を感じた鈴音は真っ先に飛び出すと迫ってきた足音に木刀を振り下ろすが、それは紙一重でかわされるのと同時に相手を確認して驚いた。

「その様子だと大丈夫みたいですね」

「……千坂さん」

「ええ、七海お嬢様から連絡を受けたので真っ先に飛んで来ました。お二人ともお怪我はありませんか」

 千坂は全員の安全を確認すると、鈴音は部屋の奥にある物を千坂に話す。

 その話を聞いた千坂はそれを確認すると全員に家から出るように言った。それから警察もすでに動き出しているらしく、もうすぐここに到着するらしい。

 未だに呆然としている俊吾を優しく包むように誘導する鈴音となんとか自力で歩ける沙希を伴って千坂を先頭に鈴音達は家から出た。

 そして丁度良く、そこに警察が到着する。何台ものパトカーが家の前に到着して、鈴音達を通り越して家の中に警官が突入していく。

 そしてその中に混じっていた吉田は真っ先に鈴音達の元へと辿り着くのだった。

「いや〜、驚きましたよ。まさかこのような危険な事をなさっているとは思いませんでした」

 多少言葉に怒気を混ぜながらそう言って来る吉田に鈴音は素直に頭を下げる。そして千坂は当主に報告しに行くといってその場を後にした。

「すいませんでした。現場に丁度立ち会ったから追わないとって思って。それに俊吾君が先に駆け出してしまったものでつい」

「ついでこのような事をしないで下さい」

「はい、すいませんでした」

 怒られてうな垂れる鈴音、それは沙希も俊吾も同じだった。特に俊吾はまだ子供だ。それなのにこんな危険な事をしたものだから、その叱られようは尋常ではない。

 そして一通り叱った吉田は詳しく話を聞くことにした。

「それで、あなた達が見た人は本当に秋月さんだったんですか?」

「はい、それは間違いないです」

 はっきりと返答する鈴音に吉田は少し考え込む。確かに警官が来て吉田に報告して行ったが、それは鈴音達の話と一致した。

「確かに先程、殺された方の首と遺体現場にあった首の持ち主は一致しました。そしてあなた達の証言が確かなら、秋月が連続殺人の犯人となります」

「だから言ったんだ、あいつがお父さんとお母さんを殺したんだって!」

 抑えきれない衝動のままに俊吾は怒りをそのまま吉田にぶつける。そして吉田はというと困った顔になってしまった。

 確かに俊吾の両親が殺された時には秋月にアリバイがあった。だが今現在では鈴音達が秋月の殺害現場を見ている。そうなってくると考えられる事は一つしかないだろう。

「どうやら秋月はどうにかしてアリバイを作ったようですね」

「そうですね。しかも何通りかのアリバイ作りをしていると見て間違いないでしょう。だからこそ、今まで警察の目を誤魔化してきた」

 沙希の推理に吉田は同意した。

 確かに沙希の言うとおりなら筋は通る。ただ一体どうやってアリバイを作ってきたのかはまだ分らない。

 だが鈴音達というはっきりとした目撃者がいる以上、警察は秋月を連続殺人犯として追うことになる。

「だが、この家にはおらず、首だけを残していった」

「そういえば、他の人達の首も見つかったんですか」

 鈴音の質問に吉田は首を横に振る。

「どうやら秋月は一時的に首をここに置いただけで、本来の置き場所は別な場所にあると思っていいでしょう」

 つまり被害者達の首はここではなく別な場所に置かれていると言うのだろう。

 吉田は少し乱暴にライターに火をつけると、そのままタバコにも火をつける。

「まあ、どちらにしろ秋月を見つけないといけないですね。ここにいない以上、どこかに逃亡した恐れがあります」

「そうですね、たぶん私達に現場を見られたから急いで逃げていると思っていいでしょう」

 沙希の言葉に素直に頷く吉田。

「でしょうね。となると、平坂方面か、それとも山の中か。どちらにしろ平坂方面にはもう検問が布かれてますので平坂に逃げ出すのは無理でしょう」

「そうなると残りは」

 鈴音達は黙って来界村を囲む山々に目を向ける。

「どこかの山の中」

「これは山狩りでもしないといけませんね」

 かったるそうに吉田はタバコの煙を吐き出すと嫌な顔になる。

「まあ、どちらにしてもこれからは私達の仕事です。あなた達は一応駐在所で事情聴取しますのでご同行願います」

 そして吉田は車へと鈴音達を誘う。



「いや〜、災難でしたね。まさか殺人現場に巡り合って、しかも犯人を追いかけるなんて、とてもじゃないけど凄い危険な事ですよ」

 駐在所の住人である金井は叱るわけでもなく、気軽な感じでそんな事を言ってきた。

「まったく、こっちとしても肝が冷えましたよ」

 そう言いながら吉田はタバコに火をつける。

「まあ、とにかく無事でよかった。後の事は警察と青年団でやりますので、皆さんは自宅で犯人が捕まるのを待っていてくれればいいだけですよ」

 なんとも緊張感が無い言葉でそんな事を言って来る金井を無視して、吉田は本題へと入る。

「さて、では私と別れた後から話してもらいましょうか」

「そうですね。村長の家を後にした私達は俊吾君を見つけたんですよ」

「この悪ガキめが、まだそんな危険な事を」

 俊吾を叱ろうとする金井を止めると吉田はその続きを促した。

「それから七海ちゃんと合流して、俊吾君を止めようとしたら悲鳴が聞こえて」

「丁度殺害現場に居合わせることになった、ということですか」

「ええ、そんな感じです」

 それからは鈴音の判断で七海を警察に、自分達は俊吾を追うことにした事を話し終えると、吉田は再びタバコの煙を吐き出した。

「そして秋月の家に到着したという事ですか」

「はい、そうです」

「その時に秋月が家にいる様子は無かったんですか? なにか物音がしたとか、どこかに逃げ出そうとしてたとか」

「う〜ん、私達が到着した時には凄く静かで、中に誰かいるとは思えないほどでした」

「なるほど、そうなると鈴音さん達が到着する前に逃げ出した可能性が高いですね」

 そう、確かに鈴音達が秋月の家に突入した時には静寂がその場を支配していた。だからこそ、あそこまで怖かったのだろう。

 それから鈴音は秋月の家をそれぞれ探した事を吉田に話した。

「そして沙希さんと俊吾君が首を見つけた。という訳ですか」

「はい」

「よくもまあ、それでご無事で」

「すぐに千坂さんが来てくれましたから」

「となると、七海さんは警察だけでなく、羽入家にもその事を伝えている。という事になりますね」

 確かにそうだ。七海からの連絡があったからこそ、千坂は鈴音達の元に来られたのだ。

 ……あれ、でもなんでだろう?

 突如鈴音の頭を過ぎる疑問。

 なんで千坂さんは真っ先に秋月の家に来たんだろう。七海ちゃんは私達が秋月を追っていることは知っているけど、秋月の家に行くなんて一言も言ってない。なのになんで千坂さんは真っ先に秋月の家に来られたんだろう。

 考え込む鈴音。そんな鈴音に気付いたのだろう。吉田が声を掛けてきた。

「なにか思い当たる事でも?」

 だが鈴音ははっきりとは答えなかった。

「いや、なにか引っ掛かるような事がある気がするんですよね」

 正直に言うと鈴音は千坂を疑いたくなかった。そう鈴音にとっては千坂がそこまで酷い人には見えなかったのだろう。

 だからこそ、この事は鈴音の胸に仕舞う事にしたが、やはり引っ掛かる事は引っ掛かるようだ。

 千坂さんが真っ先に秋月の家に来た理由……って、ちょっと待って、これって、逆に考えればいいんじゃないかな。千坂さんが秋月の家に向かったんじゃなくて、秋月の家に向かえと指示されたなら、そうすれば千坂さんが真っ先に千坂さんが秋月の家に着いた理由が説明できる。

 ……でも

 まだ何か引っ掛かる事があるのだろう、鈴音は更に考え込む。

 誰が千坂さんにそう指示したんだろう。……源三郎さん、いや、この時点で源三郎さんが介入している事実は無い。となると、残るは……七海ちゃん。七海ちゃんが千坂さんに秋月の家に向かえって指示したのかな?

 けど何を根拠に秋月が家に戻るって分ったのかな? 首を持った秋月がそのまま家に戻る可能性が無かったわけじゃないけど、絶対に行くと決まっていたわけじゃない。それなのに千坂さんは真っ先に秋月の家に来た。いや、たぶん、七海ちゃんがそう指示したんだと思う。

 けど……なんで。確かに七海ちゃんも一緒に殺害現場に立ち会っていて、秋月が犯人だと分っている。それなのに秋月の逃亡先まで分る物なのかな?

 更に考え込みたい鈴音だが時間切れのようだ。

 沙希と修吾からも一通りの事を聞いて事情ははっきりとしたようだ。だから鈴音達は帰っていいと吉田は言って、それから駐在所を後にした。

 その後姿を見送った金井も嫌な顔をする。

「こりゃあ、今夜は山狩りだな」

「山狩りって?」

 鈴音が聞くと金井は肩をすくめてから答えた。

「秋月が平坂に逃げてない以上は山の中に逃げ込んだ可能性が高いからね。だから青年団と警察で今夜中に山の中に逃げ込んだ秋月を探さないといけないんだ。明日になると、更に逃亡される危険性があるからね」

 そう言って金井は大きく溜息をつくと山狩りの準備をするために駐在所の奥へと戻っていった。

 残された鈴音達。いつまでもこうしていてもしかたないと鈴音達も帰る事にした。

 一応俊吾君を送ると言う鈴音だが、俊吾は拒む。一人で帰れるといいたいのだろう。だが俊吾を一人にさせる事は危険に違いない。鈴音は適当に理由をつけると俊吾を説得する。

 そんな鈴音の説得に負けた俊吾は渋々と鈴音達と家に帰る事になった。

 そして俊吾を送り届けた鈴音達も桐生家へと帰る事にした。

「なんか、今日はいろいろとあったね」

「どれも経験したくない事ばかりだけどね」

 確かに警察の取調べといい、殺害現場に遭遇するといい。普段の生活とは無縁の世界のような出来事のようだ。

 それでもはっきりとした現実感が残っている。どれも実際に体験した事だ。

 今までの生活とはまるで違う別の精界のような、そんな感覚にもとらわれそうな、そんな気に鈴音はなっていた。

 それは沙希も同じだろう。

 空はすでに赤みをつけている。そんな中で今までの現実とはまったく違った現実を体験したのだから、どこか別の世界にいるようなそんな気がするように、沙希は大きく空に向かって伸びをした。

「さて、じゃあ帰りますか」

「そうだね、美咲ちゃんが待っているしね」

「それにこれで秋月が捕まってくれれば静音さん探しに専念できるしね」

「……そうだね」

 確かに鈴音達は秋月の犯行現場を目撃した。だが鈴音には何かが引っ掛かっていた。

 本当にこれで姉さんに専念できるのかな? まだなにか、なんていうか、大きな何かが邪魔しているような気がする。

 はっきりとは分かっていない。だが鈴音はこれで全てを終わるわけではないと思っているようだ。

 だが現実は鈴音の考えとは反対に次々と動いていく。

 警察が秋月を犯人と断定した以上は、このまま泳がしておくわけには行かない。そんなことをすれば再び被害者が出る。

 だからこそ、鈴音達が桐生家に帰る間にも警官やパトカーとすれ違った。

 そして準備が整えば山狩りが始まるだろう。鈴音の意思など関係なく、そこにはもう用意された真実があるだけなのだから。







 そんな訳で一気に進展した今回の話はどうだったのでしょか。さてさて、このまま秋月は捕まり静音は見つかるのでしょうか。

 とまあ、そんな前置きはさて置き、なんか今回の話は一気に進みましたね。なんか犯人らしき人物まで出てきちゃって、本当にまあ、このまま終わるんでしょうか。

 けどまあ、私の作品ですからね、このまま終わるわけがありません。どうしてかというと、答えは簡単です。それは……私が書いてるから。はいそこ方、突っ込まないように、突っ込んでも落ちませんよ。

 まあ、そんな訳でいろいろな展開を示してきた断罪の日、次回はたぶんほのぼのとした話になると思います。あれだけ急展開しながら次はほのぼのと、本当にワケが分からない話ですねえ。

 ではでは、そういうことで、ここまで読んでくださりありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします。更に評価感想、そして投票をお待ちしております。

 以上、急展開が続くなと思った葵夢幻でした。

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