表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/31

第十三話 混乱

 吉田の運転で来界村に帰る事になった鈴音達。ついでということで平坂神社での現場検証に付き合うことになった。

 う〜ん、現場検証って言われてもな。私はあの時パニックになってたから覚えてる事はほとんどないんだよね。

 車の外を山が流れていく中で鈴音はそんな事を考えていた。まあ、吉田としては何か一つでも情報が欲しいのだろう。今回の事件は今までとは違いすぎる。

 まず第一に鈴音が生きている事。不吉な事かもしれないが、それが一番不思議な事に間違いない。

 確かに今までの事件でも村の人間しか殺されていない。だからと言って目撃者になりえる鈴音を生かしたままでいるだろうか。一緒に殺した方が犯人としては良いはずだ。明らかに変だ。それはやはり鈴音が特別であり、何かしらの意味がありえるのかもしれない。

 そして殺害現場。今までは誰にも見られない場所で殺害されてきたが、それなのに今回は鈴音のピンチを救うかのように殺害がなされている。更に首を持ち出されていない。まあ、あの状況では持ち出せなかったのかもしれないが。

 更に言うなら殺害方法まで今まで違ってくる。首を斬られるのは同じだが、斬られ方が違っている。なぜそんな事をしたのかは分からないが、鈴音を傷つけないためとしか今のところ説明のしようがない。

 けれども警察にとって利点があるのも確かだ。

 上記二点をを知っている者、つまり鈴音が神社へ向かう事を知っている者が犯人である可能性が高くなる。

 そうなってくると疑いたくないが神社を管理している者が怪しく思えてくる。つまり、水夏霞だ。水夏霞のアリバイはないし、鈴音の悲鳴を聞いて本殿に行ったと言っているが、それが嘘で助六を殺した後に名に知らぬ顔を出したとも考えられるのだが。

 犯行現場に着いた水夏霞の行動を見る限りそれはありえない。もし自分がやったならあそこまで動揺するだろうか。確かにあの本殿は水夏霞の両親が殺された場所で、それが無意識のうちに思い出されて動揺した。となれば説明が付く。つまり、水夏霞が犯人だという説も怪しくなってくるのだ。

 結局、なにもわからないままか〜。

 いくら考えても何も思い当たらない鈴音は思いっきり溜息を付く。そして車は平坂神社の参道へと到着する。



 ……いつも思うんだけど、なんでここの神社は階段が短いのかな?

 これまたいつもと同じような事を思う鈴音。鳥居潜るとあたりを見回した。未だに本殿には立ち入り禁止のテープが張られている。まあ、昨日の夜だし、しかたないだろう。

 吉田は警備をしている警官に事情だけを説明すると鈴音達を中へ誘う。

 ううっ、嫌だな〜、あそこに入るの。

 まあ、鈴音がそう思うのもしょうがないだろう。なにしろ昨日は散々な目に遭っているのだから。

 それでも吉田が来いと言うのだから行かなくてはいけないのだろう。

 おずおずと立ち入り禁止のテープを潜る鈴音。

 なんか、息苦しい。

 昨日のこともある。鈴音は胸に苦しさを感じるが我慢できないほどじゃない。それを沙希も察してくれたのだろう、背中を擦ってくれたおかげで少しだけ楽になった。

「どうですかな、何か思い出しませんかね?」

 そう言われても……

 現場には鈴音が倒れてた後に白いテープと助六の遺体があった場所に重なるようにテープが張られており、助六の首があった場所にも白いテープが張られている。

 うっ!

 昨日の事を思い出してしまったのだろう、思わず目を逸らす鈴音。そして鈴音の目に飛び込んできたのは玉虫様の像と御神刀だ。

 ……あれっ! ちょっとまって。

「ねえ、沙希」

 何か違和感を感じた鈴音は沙希の裾を引っ張る。

「どうしたの?」

 心配そうな顔で聞いてきた沙希に鈴音は御神刀を指し示した。

「あの御神刀、位置がずれてない?」

「はぁ?」

 像の前に置いてある御神刀が動かしてあると鈴音は言いたいのだろうが、沙希も吉田もそこまで綿密に御神刀の位置まで見ていなかったため、鈴音がそう言ってもよく分からなかった。

 確かに鈴音自身も確信があって言っているワケではないが、そう感じるのは確かだ。

「なんていうかな、一番最初に見たときと今だと御神刀の位置が微妙にズレてる気がするんだよ」

 それはつまり事件の前後で御神刀を誰かが動かしたということになる。だが沙希が異論を唱えてきた。

「あれ、鈴音が御神刀を調べた時に動かしたんじゃないの?」

「違うよ、私が言ってるのは……昨日の事件の時に見た御神刀と今の御神刀の位置がズレてるって言ってるんだよ」

「う〜ん、そう言われましてもねえ」

 鈴音と助六がもみ合っている中で御神刀を持ち出すのは不可能だ。どうやっても二人に見つかってしまう。なにしろ御神刀の目の前で起こった事件なのだから。

「なら一応後で調べておきましょうか。まあ、これで何か出てくればいいんですがね」

 たぶん出て来ないだろうと沙希も吉田も思ってる。あの時の鈴音はパニックになっていたのだから、それぐらいの勘違いが合っても不思議はないからだ。それでも吉田が調べると言ったのは鈴音の心を少しでも安定させて何かを思い出しやすくするためだ。

「あっ、そういえば」

 鈴音は何かを思い出したかのように吉田に尋ねる。

「水夏霞さんはどうしてるんですか、聞いた話だと相当ショックを受けてるみたいですから」

「今はお住まいである神社のふもとにある家に戻ってますよ。まあ、話によると少しは平静を取り戻したそうですが」

「そうですか……」

「鈴音、何か思い当たる事が有るの?」

 沙希が尋ねると鈴音は頬を掻いて目線を逸らしながら口を開いた。

「いや、あの、別に事件と関係ないかもしれないんだけど」

「思いついたことは全部話してくれませんかねえ」

 吉田がそう言って来たので鈴音は思い出しながら話し始めた。

「えっと、確か水夏霞さんは普段神社の下にある家に住んでるんですよね」

「ええ、そうですよ」

「それがなんで私の悲鳴が聞こえたのかなって? ただそう思っただけですよ」

 確かにこの本殿から水夏霞の家まではかなりの距離がある。それを悲鳴が聞こえたから駆けつけた。家にいたなら鈴音の悲鳴は聞こえはしない。じゃあ、その時水夏霞はどこにいたか、となってくる。

 だが吉田は手帳をめくるとある証言が書かれたメモを見つけた。

「水夏霞さん自身の証言だと、本殿から離れた社務所に居たのは忘れ物を取りに戻ったからだそうです。そして鈴音さんの悲鳴が聞こえたそうですよ」

「それに私がここに付いた時にも水夏霞さんは巫女服を着てたから間違いないと思う。もし自宅にいたなら巫女服を着ている意味がないし」

「そっか……でもさ」

 それでも鈴音は疑問に思うことがあるのだろう。更に質問をぶつけてきた。

「助六さんは社務所に水夏霞さんがいる事を知りながらあんな事をしたのかな?」

 この質問には吉田はしっかりと答えた。

「この本殿と社務所はかなり離れてますから、かなり大声を出さないと声なんて届きませんよ」

「でも助六さんは私が大声を出す事を想定していなかったのかな?」

「……」

 そう言われるとそうである。もし水夏霞の証言どおりなら助六はそんな事を実行しようとしただろうか。大声を出されれば社務所にいる水夏霞に聞こえてしまう。そうなれば水夏霞が来て全ておしまいだ。なのになんで助六はこんな事を実行したのだろう。

 社務所に水夏霞さんがいなかったから、というなら分かるけど。社務所に水夏霞さんがいる状態で、私が大声を出すと聞こえてしまう状態であんな事をしようとするかな?

 どうも鈴音はそこに引っ掛かるようだ。

 少し整理してみようかな。

 いろいろな情報が飛び交った物だから、鈴音は情報の整理を開始した。

 まずは助六さんの行動から追ってみようかな。助六さんは本殿に来た時には……いや、ちょっとまって、本殿の鍵って確か社務所に保管してあるんだよね。なのにどうして持ち出せたんだろう。……となると答えは一つしかない。その時に社務所には水夏霞さんはいなかったからだ。だから助六さんは本殿の鍵を持ち出すことが出来た。もしかしたら水夏霞さんは何かの用があって社務所をあけていた可能性もあるわね。

 まあ、どちらにしろ助六さんは本殿を開けて物陰に隠れて私が来るのを待った。もちろんこの時には私を縛り付けるロープとかは用意してあったと思う。縛り付けてしまえば後は助六さんの思うがままなんだから……なんか気持ち悪くなってきた。

 そこまで考えて急に昨日の事を思い出したのだろう。鈴音は急に背筋に悪寒が走った。

 まあ、それは置いておいて。

 とりあえず考えない事にしたようだ。

 次は水夏霞さんだ。確実にいえるのは助六が本殿の鍵を盗み出した時には社務所にいなかった。そして私が襲われた時には社務所にいた。つまり水夏霞さんには空白の時間がある。社務所を開けてどこかに行っていた時間がある。

 ここからは私の推理になるかな。たぶんだけど、水夏霞さんは何かのようで社務所を開けえいた。しかも電気まで消してすでに帰ったように。だからこそ助六は社務所から鍵を盗み出して本殿を開けることが出来て物陰に隠れた。そしてその間に用事を済ませた水夏霞さんが戻ってきた。もちろんちょっと用事で出かけたつもりだったからそんなに用心していなかったのだろう。まあ、普段から用心しているように思えないけど。

 そして助六は私を襲い、水夏霞さんは私の悲鳴を聞いた。……まあ、こんなところかな。

 確かにそれなら筋は通っているが何かが足りないような気がする。もちろん、それは決まってる。

 とりあえず水夏霞さんに会わないとかな。

「あの、吉田さん」

「どうしました」

 吉田も今まで考え込んでいたのだろう、鈴音が声をかけると少しだけびっくりした顔になった。

「水夏霞さんと話がしたいんですけど、今どこにいるか分かりますか」

「おや、鈴音さんもそう思いますか」

「どうやら皆同じことを考えてたみたいね」

 水夏霞さんが残した空白の時間。それを埋めないとこの事件は何も分からないようだ。

「確か、今は社務所にいるはずですよ。行ってみますか?」

「はい」

 鈴音の答えに沙希も頷く。こうして吉田達は本殿を後にして社務所に向かった。



「失礼しますよ」

「……えっ! あっ、はい」

 鈴音達が社務所に入ると水夏霞は今まで呆然としていたらしく、驚いたような顔で鈴音達を迎え入れた。

 それから鈴音達はとりあえず客間ではないが、仕切られた場所にソファーとテーブルが置いてある場所に案内された。どうやら応接室らしい。

 それから水夏霞はお茶を全員に配ると自分もソファーに腰を下ろした。

「すいませんね、突然お邪魔してしまって」

「いえ、構いません。昨日あんな事がありましたから、今日は誰もこないと思ってましたから」

 暗く重く話す水夏霞に鈴音達も影響を受けそうになるが、鈴音はとりあえず話題を逸らそうとした。

「そういえば、昨日はありがとうございました。水夏霞さんが来てくれたおかげで私は無事でいられたんですから」

「いえ、昨日は私が駆けつけた時には全部終わってましたから」

 余計に重くなる空気。隣にいる沙希の痛い視線を感じる鈴音は大人しくお茶をすする事にした。

「そういえば水夏霞さん、昨日はずっと社務所にいたんですか?」

 さりげなく質問をぶつける吉田。ここはさすがに刑事というところだろう。

 だが水夏霞からは思いがけない答えが返ってきた。

「いえ、昨日は仕事が終わった後に帰ろうとしたんですけど、途中で忘れ物をした事に気付いて社務所に戻ったら鈴音さんの悲鳴が聞こえたんです」

「それで本殿に駆けつけたワケですか。そういえば社務所の鍵はどうなっているんですか」

「それが、今は壊れててそのままなんですよね」

 照れ隠すように笑う水夏霞。だがそうなると状況が変わってくる。

「鍵が壊れてるのを知っている人はどのぐらいいるんですか」

「う〜ん、長い間放置してあるからな。たぶん村中の人が知っているんじゃないですか」

「なんで直さなかったんですか?」

 鈴音の質問に水夏霞は笑って答える。

「いや〜、お父さんがまあ、このままでもいいかって。別に盗まれて困るものなんてないし。お金は手持ちの金庫でいつも持ち歩いてるから、それで直さなかったの」

 なんてずぼらな。というか、のんきなの! 田舎ってこんなにのんきなの!

 今更ながら無用心な水夏霞に突っ込みたくなる鈴音だが、そんなことを今更言ってもしょうがないとあきらめる事にした。

 だがこれで状況は変わってきた。

 以前の話で本殿の鍵がここにあるのは村中の人間が知っている事は分かっている。そのうえ、鍵まで掛かってないのだから本殿には誰もが出入り自由だ。

 そうなってくると結局また振り出しに戻るというワケだ。

 今回の件で犯人が特定できると思いきや、誰もが出入り自由な場所で行われた犯行となると結局容疑者は絞りきれなくなってしまった。

 なにしろ本殿の鍵が社務所にあるのは村中の人間が知っており、社務所には水夏霞さえいなければ出入りは自由。こうなってくると誰を疑ってよいのか分からなくなってきた。

 ……あっ、そうだ! まだ手がかりはあったんだ。

 何かを思い出したかのように鈴音は立ち上がると吉田と向き合う。

「そういえば私宛に来た手紙、あれはどうなったんですか?」

「あぁ、あれですか、結局助六と桐生琴菜さん、そしてあなた達の指紋しか検出されませんでしたよ。まあ、助六が書いてあなたに渡したのだから当然といえば当然でしょう」

「けど、犯人は確実に手紙の内容を知ってたはずです。だから神社の本殿に来れたんですから」

「ッ!」

 盲点だった。今回の犯行は事前に助六の行動を知っておかないと出来ない事だ。それを知っているという事は、犯人は助六に近い人物という事になってくる。

 つまり助六の犯行を知っていたから助六を殺す事が出来た。しかも鈴音にも気付かれずに。そうなると助六自身を洗った方が早いかもしれない。

「村長さんの家にってみましょう。助六さんのことなら会ってくれるかもしれない」

「そうだね、もうそこしか残ってないし」

 先日は静音の事で門前払いを食らったが助六の事となれば、それは出来ないだろう。そう確信した鈴音達は水夏霞に礼を言ってから社務所を後にした。



 結局、村長の家までも吉田は付いてくる事になった。まあ、吉田は仕事がらどうしても助六の事を聞いておきたいし、鈴音にとってはついでに静音の事を聞けるチャンスなのだから。

 そんな思惑を抱いて村長の家にあるチャイムを押すと香村が顔を出した。

「おや、刑事さんに鈴音さん」

「えっ、あっ、はい」

「どうも、今日は助六さんの事でいろいろと聞かせてもらいにきました。もちろん、村長さんにもですけど」

 吉田がそれだけを告げると香村は一応村長に話を通してくるために中に入って行った。

 これでやっと村長さんに会える。昨日は門前払いを喰らったからな。でも今日は助六さんのことがあるから、そうはさせない。姉さんの事も聞きだしてやる。

 だが鈴音はふと疑問に思った。

 そういえば、姉さんは村長さんの悪口を言った事は一度も無かったような気がするけど、それどころか逆に良くしてくれるって喜んでたっけ。それなのになんで私にだけは姉さんのとは違う態度を取るんだろう。

 鈴音がそんな事を考えてると香村が出てきて中に入るように促した。どうやら話をする気はあるみたいだ。助六の事があるから断るわけには行かないのだろう。それに吉田もいるの追い返す事は出来ないのだろう。

 そして鈴音達は客間に通されて村長が言うには香村から話を聞けとの事らしい。まあ、事情聴取には違いないのだから。それをされる側が順番を指名してきたと珍しい展開になっているようだ。

 だが吉田にも断る理由はない。だからまず香村から話を聞くことにした。

「それじゃあまず、助六さんがいつごろからここにいるのか話してくれますか」

 だが香村は困ったような顔をする。

「そう言われてもね。私がここで働くようになった時からいたから、いつからいるなんて知りませんよ」

「そうですか、それではなにかおかしなところはありませんでしたか?」

 その質問には香村はそれはもう困ったような顔をする。

「そんな事を上げて言ったらキリがないですよ。なにしろここのろくでなしなんですから、いろいろと変な噂なんかもありましたよ」

「そうなんですか」

「ええ、特に若い女性には嫌われてましたよ。なにしろ根っからのスケベでしたからね。少しでも色気が出てきた女の子にもスケベな目で見るぐらいですから」

「つまり女好きと」

「そんな可愛い物じゃないですよ。あれはもう変体ですよ。私としても消えてくれてホッとしているぐらいですからね。たぶん村中の若い娘はそう思ってますよ」

 つまり助六は村の女達にとっては厄介者どころか変質者でしかなかったのだろう。その裏は取れてるのか知っているのか分からないが、吉田はそれ以上香村を疑う事はなかった。

「それでですね。助六さん昨日手紙を書いてませんでしたか?」

 またしても香村は困った顔になる。

「そう言われてもね。あいつの部屋はこの母屋じゃなくて、蔵のような離れだからね。中で何をやってるかなんて分かりませんよ」

「そうですか」

 つまりあの手紙の内容を知っているのはここでは助六だけとなる。それに助六は昨日鈴音とも会っているのだから、その事情も盗み聞きしていたのだろう。だからこそ、あの犯行を思いついた。そんなところだろう。

 だがそうなると、あの手紙の内容を知っているのは……琴菜だけってことになる。けど、昨日はしっかりとしたアリバイがある。手紙を見て真っ先に飛び出していた沙希を見送った後に、沙希よりも神社に到着するのは不可能だ。

 ああっ、もう、結局何も分からないじゃない。こうなったらもう村長さんに聞くしかない。

 吉田もそう思ったのだろう。鈴音が言うより早く、次は村長と話が聞きたいと言い出した。

 そして香村は一旦置くに下がると村長を呼びに向かった。

「そういえばさ、鈴音」

 香村が村長を呼びに行っている間に沙希は鈴音に話しかけてきた。

「静音さんは村長さんの事をどう言ってたの?」

「とっても良くしてくるって言ってたよ。けど、なんか私達には冷たくない?」

「そういえば、そうでしたね」

 昨日の事を思い出したのだろう。

「珍しいですね。あの村長さんがそのような事を言うなんて」

「そうなんですか?」

「ええ、昨日も言ったと思いますが、結構温厚な人で有名なんですがね」

 そんな会話をしていると近づいてくる足音が聞こえてきたので話は中断された。そして障子が開かれて鈴音達の前に座ったのは、六〇を過ぎているであろう老人で、確かに温厚そうな顔つきをしているが、その目は確かに鈴音達を敵視する物だった。

「それでご用件は」

 やけに冷たさが感じられる声で尋ねてくる村長。そんな村長に戸惑いながら吉田は話を切り出した。どうやら吉田もこんな村長を見るのは初めてらしい。

「助六さんの事でいろいろと聞きたいのですよ」

「なら、そのお隣のお嬢さん方は何故ここにいるのですか?」

 まるで出て行けと言わんばかりの言葉に鈴音達はムッとするが、それをなんとか表に出すことはなかった。

「いや〜、こちらのお嬢さんは昨日助六さんに襲われましてね。それで一緒に助六さんのことについて調べているわけですよ。一緒に聞けば何か思い出すかもしれませんからね」

 上手く切り返す吉田。そう言われては村長も鈴音達に対して何も言えなくなる。

「それで、何が知りたいのですか?」

 鈴音達のことは諦めたのだろう。村長は話を戻してきた。

「助六さんのことはもうご存知ですよね?」

「ええ、明日にでも火葬の予定が入ってます」

「そういえば、なぜ助六さんは村長さんが面倒を見ていたんですか」

 村長は顔を伏せると大きくため息を付いた。

「ああ見えても私の遠縁に当たりましてね。あまりの素行の悪さに私が監視役に選ばれた、それだけですよ」

 つまりは助六を押し付けられたと言いたいのだろう。それでも親類には変わりないから村長は今まで助六に庭師という仕事を与えていたらしいが、ろくに仕事をしないで飲んだくれていたらしい。

 だから最初に会った時はあんなに酒臭かったんだ。あれっ、ちょっとまって、助六さんが私を襲った時はそんなに酒臭くなかったような気がするんだけど。

「あの……」

 疑問をぶつけるべく鈴音は声を上げるが村長は敵意を込めて鈴音に目を向ける。

「助六さんは素行が悪かったって言ってましたけど、一体何をやったんですか」

 だが村長はすぐに答えずに深く溜息を付いた。

「あれでも悪知恵はあるみたいで、いろいろやったんですよ、そう、いろいろとね」

 あちゃ〜、聞いちゃ悪かったかな?

 気疲れをしたかのようにうな垂れる村長に鈴音はそんな事を思った。だがその思いはすぐに覆る事になった。

「どうせ助六の悪さは知っていたのでしょう。だからあなた方が助六を始末したんじゃないんですか」

「なっ!」

 さすがにこれには怒りを隠しきれない鈴音達。

 村長の物言いはまるで鈴音達が助六を殺したように聞こえたからだ。いや、実際に村長はそう言っているのかもしれない。

「こっちは被害者ですよ! 大体監視役ならもっとちゃんと監視したらどうなんですか!」

 さすがに怒り出す沙希。だが村長はそんな沙希に不敵な笑みを向ける。

「私とて四六時中、助六を見張るわけには行かないんですよ。いろいろと村長としての仕事がありますからね。暇なあなた方とは違うのですよ」

「なんですって!」

 怒り心頭で立ち上がろうとする沙希を吉田と鈴音は抑えつけた。だが村長はそんな沙希に追い討ちを掛けてくる。

「大体、あのような手紙を信用する方が間違ってると思いませんか。聞いた話だと誰からの手紙だか分からなかったのでしょう。こんな時期に、そんな手紙を信用する方が間違ってるとは思いませんか?」

「いい加減にして!」

 さすがに抑えきれなくなった沙希は村長に向かって怒鳴りつけた。

「こっちはあんたの監視不足で酷い目に遭った! それをまるで鈴音が悪いように」

「沙希!」

「あっ」

 怒鳴り散らす沙希は鈴音の一喝で自分を取り戻したようだ。だが村長の方はそうは行かない。

「最近の娘は礼儀という物を知らないようですな。人のウチに入り込んで怒鳴り散らすなど、謙虚さがまるでない」

「なっ!」

 再び立ち上がりそうになった沙希を鈴音は抑え付けると、今度は鈴音が口を開いた。

「確かにそのとおりかもしれません。けれど、あなたにも責任があるのではないですか。あなたは助六さんの監視役に選ばれたと先程もうしましたけど、今回の件は明らかにその役目を果たしてませんよね。それについての責任はどう取るつもりなのですか?」

 そう言って睨み付ける鈴音。だが村長は平然としている。いや、微かだが動揺しているようだ。

「なるほど、言われて見れば確かにそうだ。その件に関してだけは謝るとしましょう。ご迷惑をお掛けしました。どうかお許しください」

 テーブルから少し離れて土下座をする村長。さすがにそこまでするとは思ってなかった鈴音はすぐに頭を上げるように言った。

 それから再び向かい合う鈴音達と村長。だが村長は先程とは違い、視線に敵意がなくなっており、まるで懐かしい物を見るような視線を鈴音に送っていた。

 それから村長は咳払いすると再び威厳を取り戻したかのように話し始めた。

「とにかく、私が言えることは助六の行動は把握していなかった。ただそれだけです。では、私は用事がありますのでこの辺でよろしいでしょうか」

 勝手に話を切り上げようとする村長は立ち上がろうとするが、鈴音はすぐに呼び止めた。

「待って下さい。姉さんの事、少しでもいいんです。知っている事を教えてください」

 だが村長は席を立つと障子開き、そのまま立ち尽くした。

「このまま静音さんを探そうとするなら今すぐ村を立ち去りなさい。それが一番良い」

「そうは行きません、姉さんの手がかりを見つけるまで私はこの村にいます!」

 村長は振り返ると睨みつけてくる鈴音を少しだけ見ると、再び視線を外に戻してしまった。

「なるほど、確かにあの静音さんの妹さんだ。良く似ている」

「姉さんの事を知っているんですよね。なら教えてください」

「ならば早く村を出ることだ。静音さんならそう言うはずだ」

「何を勝手な!」

 立ち上がる沙希は村長に詰め寄ろうとするが、吉田はそれを制した。ここで村長と問題を起こしては捜査の邪魔になるし、それは鈴音にも良い景況を与えないだろう。

 目線でそれを訴えてきた吉田の意思を感じ取ると、沙希は黙ってその場に立ち尽くすしかなかった。

「では、私はこれで失礼します。あと聞きたいことがあるなら香村から聞いてください」

 それだけを言い残して村長は去ってしまった。

「くっ」

 沙希は手を打って悔しがる。それもしかたない、全ては村長の手の平で踊っていた事に気付いたのだから。

 そしてそれは鈴音も感じているが、逆に疑問に思えてしょうがなかった。

 村長さん、なんでわざわざ私達を怒らすような事を言ったんだろう。それにまるでここに私達にいて欲しくないような、そんな感じがした。

 私達がこの村にいるとよくないことが起こるのかな? それとも姉さんと繋がっているとか。どちらにしても村長さんは私達に協力的でないのは確かみたい。

 結局、こちらでも何一つ手がかりを得られないまま村長の家を後にするしかなかった。

 それから吉田は一応報告書をまとめないといけないという事で、警察署に帰ってしまった。まあ、帰り道が分かるから大丈夫だと思ったのだろう。

 だがそれが間違いだった。もし吉田がもう少し鈴音達に付き合っていれば、事件は別な展開を迎えていたかもしれない。だが今更言っても後の祭り、鈴音達はこれから思いもかけない展開を目の当たりにすることになるのだから。







 そんな訳でお送りしまた第十三話。……なんか、私の方が混乱してそうな話になってしまったような気がします。ですので、あまり深く突っ込まないように、そんな事をされれば……私が困るじゃないですか。

 さてさて、そんな訳で迷走する事件と鈴音達。これからどうなっていくんでしょうね。まあ、最後にも書きましたが、次回は急展開を予定しております。

 ……ちなみにこんな言葉を知っておりますか。予定は未定と……。

 まあ、そんな訳で次回はどうなるんでしょうね。それは私にも分かりません。いつもの様にですね。

 ではでは、ここまで読んでくださりありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします。更に評価感想、そして投票もお待ちしております。

 以上、頭の混乱がいつまでも取れない葵夢幻でした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ