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第十話 平坂神社

「そういえば、平坂神社って玉虫様を祀っているんですよね」

 平坂神社へ向かう途中で沙希は吉田に詳しいことを尋ねたが、吉田も良くは分からないようだ。それでも、たどたどしく知っている事を話し始めた。

「ええ、確かかなり昔、人身御供となったからというので祀っているらしいのですよ。なんで生贄にされたのかは知りませんし、それがなんで祀られる事になったのこかも知らないんですよ。ですがね、前に申し上げたかもしれませんが御神体は日本刀なんですよ。これも由来は知りませんが」

「でも……」

 そこまで聞いていた鈴音が何かを思いついたかのように口を開いた。

「平坂神社の人に聞けば、その辺の事を詳しく教えてくれるんじゃない?」

 同時に溜息を付く吉田と沙希。

 えっ、どうしてそんな反応をされるの!

 本気で分らない鈴音に吉田はもう一度説明する事にした。

「いいですか。来界村連続殺人事件の被害者で最初に殺されたのは平坂神社の神主夫婦なんですよ。娘さんがいるらしいですが、詳しい事をまで知っているかどうかは分りません」

 あっ、そうか。

 どうやら鈴音もやっと事態を理解したようだ。

 それから吉田は更に平坂神社の跡取りである娘について教えてくれた。

「歳は一九、どうやら学校には行かずに神社を継いだようですね。まあ、こんな田舎ですから都会に出るより神社を継いだほうが気楽だったんでしょう。そして名前は平坂水夏霞ひらさかみかげ変わった名前ですよね。まあ、名前はともかく今では一人で神社を切り盛りしているようですよ」

 そこまでの話を聞いて鈴音は溜息を付いた。

「はぁ〜、一人で神社を経営するなんて大変だね」

「まあ、田舎の神社ですからね。神主なんて、いてもいなくても同じなんでしょう」

 確かにこんな田舎にある神社に参拝客が多いとは思えない。だが神社は神社である。例え放置に近い状態でもちゃんと存在できるのだろう。

「ということは、小さい神社なんですか?」

「いえ、規模的で言えばかなり大きいですよ。まあ、羽入家や村長、それから青年団が時々神社の手伝いをしているので維持できてるみたいです。それにお祭りとかもやりますからね。けど今は大変な時ですからいろいろと手伝いは多いみたいですよ」

「へぇ〜、そうなんだ」

 そんな会話を続けながら田んぼ道から山道へと道は変わり、話を続けながら歩いていると大きな鳥居が見えてきて、吉田がそれを指差す。

「あれが平坂神社ですよ」

 ひっそりと建っている神社に鈴音達は妙な安心感を感じる。まあ、周りが森だから森林浴効果でもあるのだろう。

 短い石段を登り、鳥居を潜る三人。境内には拝殿がなく奥には大きな本殿が建っている。

「へぇ〜、意外と広いですね」

 鈴音の感想に吉田は笑顔で答える。

「まあ、祭りはこの村では最大のイベントですからね、それなりの場所が必要なのでしょ。それに時々集会所にも使われますから、それなりの施設も揃っているんですよ」

「へぇ〜、そうなんだ」

 妙に感心する鈴音。鳥居の近くで境内を見回しているときだった。離れた場所で箒を持った一人の巫女が鈴音達に近づいてきた。そして第一声を発する。

「はいはい、参拝客ですね。素敵な賽銭箱はあちらなのでご遠慮なく入れて行ってください」

「……」

 思わず言葉をなくす鈴音と沙希。

 第一声がそれですか。というか、巫女が賽銭をねだっていいの?

 巫女の言葉に固まる鈴音と沙希だが、吉田は二人の前にでる。

「やあやあ、水夏霞さん。ご無沙汰しています」

 そして思いっきりがっかりする水夏霞。

「なんだ吉田さんか、はぁ〜、もう話すことなんて無いですよ」

「いえいえ、今日は事件の事で窺ったわけではないんですよ。こちらの方の案内をしていましてね」

 そうして吉田は鈴音達を指し示す。それと同時に水夏霞も目を輝かせるのだった。

「そうなんですか、では賽銭箱はあっちですよ。もうお賽銭次第では願い事なんて、なんでもかないますから。もう、世界征服でもおちょこちょいです」

 いや、世界征服って、というかおっちょこちょいはまずいんじゃないの?

 鈴音がそんな感想を感じていると、隣の沙希が今まで気になっていた事を尋ねた。

「そういえば、なんでここは平坂神社って言うんですか? 一応、来界村の一部ですよね」

 沙希の質問に水夏霞は思いっきりがっかりする。どうやら二人ともお賽銭を入れる気配が無いからだ。

 それを察したのだろう。沙希は賽銭箱に向かうと適当に小銭を取り出し、お賽銭を入れて二礼二拍手一拝と正しいお参りの仕方をしてから、再び水夏霞と向き合う。

 どうやら沙希がお賽銭を入れたことが大満足のようで、水夏霞は平坂神社の由来を楽しそうに話し始めた。

「というかね、元々平坂っていうのは地名じゃなくて、ここを示していたの。あっちの平坂は後で出来たからね。地名を決めるときに平坂でいいやってことで、別の場所に平坂って地名が出来たんだよね」

「つまり平坂っていうのは地名ではなく、場所の名前?」

「そう、この奥にさ平坂洞窟っていうのがあってね。それからこの場所を平坂っていうようになったの」

「平坂洞窟……」

 思いがけない物が出て来た事に沙希の心が乱れる。だが鈴音はいつもどおりのようだ。

「そういえばさ、ここは何か売ってないの? お饅頭とか煎餅とか」

「普通はお守りとかお札だろ」

 沙希の突っ込みに鈴音は膨れるが、水夏霞はよほど鈴音の発想が面白かったようで思いっきり笑った。

「残念だけど今はやってないんだよね。あんな事件が遭ったし、だからお祭りの時だけにしようって事になったんだ」

 途中で暗い顔になる水夏霞。どうやら嫌な事まで思い出してしまったみたいだ。

 そこで鈴音は話を変えようと、とおうか本来の目的を聞こうと話を変える。

「そういえば自己紹介がまだでしたね。私は京野鈴音、そしてこっち神園沙希です。一週間ほど村にいますのでよろしくお願いしますね」

「こちらこそよろしくね」

 再び元気に返事を返すが、急に何かを考え込む水夏霞。

「……あれ、京野って?」

「はい、私は京野静音の妹で姉さんの事で村に来たんですよ」

「あぁ〜、そうだったんだ。確かに静音さんも大変だったみたいだけどね、うちはあくまでも中立の立場を保たないといけなかったから静音さんはあまり来なかったんだよね」

「中立の立場?」

 首をかしげる鈴音。どうやらよく分からないようだ。そして隣にいる沙希も同じような仕草をしている。

 そんな二人を察したのだろう。水夏霞は詳しく説明を開始する。

「あぁ、村には羽入家と村長って強い権力者が二人いるでしょ。だから平坂神社の者は中立の立場に立って仲介に入るのが役目なんだよ。もちろん、両者の意見が一致した時には黙っているんだけどね」

 あぁ、つまり羽入家と村長さんの仲が悪くなった時に仲良くさせるのが目的なんだ。

 まあ、確かにそのとおりなんだが、鈴音、もうちょっと国語を勉強しよう。

 やっと平坂神社の事を理解した鈴音と沙希。そんな二人が完全に平坂神社を理解したと思ったのだろう、吉田が隣から口を出してきた。

「確かに平坂神社は中立を保ってましたが、静音さんが何度も来た事は確かでしょ」

「そうなんですか?」

 思わず驚きの声を上げる鈴音。

「そうか、あのことで」

 そして沙希はあのことを思い出したので納得する。

 そう、平坂神社の役割は羽入家と村長の仲介。つまり両者が対立しなければ役目が無いのだが、来界村開発戦争の時に両者が対立した時があった。

 それが静音が介入した理由。平坂開発である。

 これは村長が提案で羽入家が猛反対した。つまり両者は対立したのだ。それに平坂神社が黙っているはずが無い。

 当然介入してくるはずだ。そしてその両者の仲を取り持つ人物がもう一人、それが静音。つまり二人の目的は一致しており協力しないはずが無い。

「じゃあ、姉さんはここにも来てるんですよね?」

 鈴音の質問に水夏霞は困った顔になる。

「それがごめんね。対応はほとんどお父さんがしてたから、私は詳しいことは知らないんだよね」

「そうなんですか……」

 がっかりする鈴音。いつもそうだったから、やっと見えた静音の影をいつもすぐに見失ってしまう。

 そんな鈴音を察して沙希は話題を変える。

「そういえば、村のあちこちで聞いたんですけど、ここでは玉虫様を祀ってるって。玉虫様って一体なんなんですか?」

 沙希の質問に水夏霞は難しい顔をする。

「う〜ん、話せば長くなるんだけどね。簡単に言うと昔ね、村が飢饉に襲われたときに人身御供として生贄になった人。でもその後の扱いが酷くてね。それで村を祟っちゃって、それでその魂を沈めるために作られたのがこの平坂神社なんだよ」

「つまり、生贄になったけど納得が行かず、祟りを起こし始めて、それを沈めるために平坂神社が作られたと?」

「そうだよ」

(でも、そうなるとなんであれがそうなんだろう)

 何か納得が行かない事があるんだろう。沙希はその事を水夏霞に尋ねる。

「それから、ここの御神体って日本刀ですよね。なんでそんな物を祀ってるんですか?」

「ああ、ちょっと残酷な話なるけどね。死ぬって結構悔いるしいみたいなの。だから生贄の時に楽に死ねるように御神体の日本刀が使われたらしいの。それ以来あの日本刀には玉虫様の魂が宿ってるってされてね。だから御神体として祀ってるの」

(なるほど、そういうわけか)

 つまり、生贄として簡単に死ねるように介錯の役割をしたのが御神刀ということなのだろう。

 でも、そうなると玉虫様ってどんな死に方をしたのかな。

 武士では有るまいし、生贄である。わざわざ死に方にそこまでこだわるだろうか? 鈴音はそこに疑問を感じるようだ。

 確かにそう思えば変である。生贄といえば普通苦しめながら殺すか、一気に突き落としたりするかだと思うけど、わざわざ介錯をして楽に死なせるだろうか。

 それに命を捧げるという意味で死ぬのであるから、死ねばいいのだろうけど。昔はそこまで単純な考えが出来たのだろうか。掟とか手段とかいろいろと規制があったはずだ。それを楽に死ねるようにと考えるだろうか。

 まあ、その時の権力者が犠牲者の事を考えてやったのなら分かるが、そこまでしてくれたのに祟るほど怨むだろうか。

 どう考えても矛盾だらけなような気がするのは鈴音だけだろうか。

 何かがひっかかる鈴音。だがこれはもうかなり昔の事で調べようがないし、静音とはあまり関係なさそうだ。とりあえず、頭の隅に置いておく事にした。

「あっ、そういえば」

 沙希がなにやら思い出したようで、申し訳なさそうに水夏霞に尋ねる。

「この村にある日本刀って御神体だけですよね」

 どうやら連続殺人の凶器について尋ねているようだ。それは水夏霞も分っているのだろう。嫌な顔一つせずに答える。

「ああ、誰かが隠してなければそうだよ。それに、なんなら見てみる?」

「いいんですか!」

 思わず水夏霞の発言に沙希は驚くが、水夏霞はどうということはないようだ。

「そうですね、見せてもらえるなら見せてもらいましょう」

 隣から吉田が口を挟む。どうやら事件の事で一度は調べてみたいようだ。

「じゃあ、ちょっと待ってて、鍵を取ってくるから」

 それから水夏霞は社務所だろうか、別の建物へ向かって走り去って行ってしまった。



 錠の開く音がしてから古臭い蝶番がきしむ音を立てながら扉を開けていく。どうやら本殿はほとんど使っていないというのは本当らしい。

 本殿の中は暗く、欄間のような天井の下から空の明り取りしかなく、水夏霞は明かりのスイッチを入れた。一応古い建物でも電灯は入れているらしい。

 そしてはっきりと見える本殿。両脇にはなにかワケの分からない彫刻のような物が並んでいるが、その一番奥にしっかいと天板が付いており、周りの布で覆われている。明らかにもそこれが一番大事なものだと分る。

 そこの一番奥には大きな彫刻があり、どうやら巫女を彫ったようだ。そしてその前には例の御神刀がしっかりと供えられていた。

 埃は被っていないものの、しっかりとした作りをした鞘だというのは分る。どうやら値が張るものらしい。

「これが御神刀ですか?」

 事件の凶器は今のところこれしか思い当たらない。吉田は真っ先に御神刀に近づいた。

「刀の扱いに長けているなら触っても構わないけど、素人だと壊しちゃうから触らないで」

 さすがにそう言われると吉田は触れるわけには行かない。どうやら刀の扱いには長けていないようだ。

 代わりにというわけではないが鈴音が前に進み出ると御神刀を手に取ってみる。そしてそのまま鞘から引き抜く。

 ……これ、凄い名刀っぽいんだけど。

 鑑定士でないからどういうものかは分からないが、刀の作りははっきりとしており刃こぼれも無いうえに反りが強く人を切りやすくなっている。

「これ、ちょっと刃を取り外していいですか?」

 水夏霞に確認する鈴音。吉田と沙希はワケが分からないような顔をしているようだ。そして水夏霞は機嫌良く了承する。

「いいよ、見て驚くなよ」

 まず柄から止め釘言える気の棒を二本ほど外すと、刃を上に上げてから柄を軽くたたく。そうすると柄から刃が取り外せるようだ。

 水夏霞からハンカチを借りて刃を汚さないように取り外すと今まで柄の中には行っていた部分を見る。

 って! えっ! 嘘!

「水夏霞さん! これって!」

「おっ、やっぱり分かる人には分かるみたいだね」

 そこには刀匠の名前と切れ味を示す物が書かれていた。刀匠名は備前長船長光、かの佐々木小次郎の刀を作った刀匠である。そして切れ味は五ツ胴。

 昔は刀の切れ味を試すために死刑囚の体を重ねてどれくらい斬れるかを試したようだ。そしてこれは五ツ胴、つまり五つの体を切り裂けるほどの切れ味を持っている。

 まさか、こんな五ツ胴を見れるなんて。三ツ胴自体珍しいのに、その上の五ツ胴が存在するなんて思わなかったよ。でも、この刀なら確かに人の首を簡単に切り落とせるかもしれない。

 とりあえず、刃の状態を確認する鈴音。どうみても人を斬った後は無い。昔はあったかもしれないけど、最近使われた様子は無いようだ。

「確かに使われた様子は無いみたいだね」

 鈴音は刀を戻しながら刃の状態を報告した。

「でしょ、それに本殿には私ぐらいしか入れないから、他の人が持ち出すのは無理無理。それから私は刀の手入れぐらいしか出来ないよ。お父さんから大事にするように手入れはできるんだど、斬るのは無理だよ」

「やはり、他の刀ですか」

「けど、これなら人の首ぐらい簡単に落とせる名刀だよ」

 鈴音の感想に吉田は一応確認する。

「けど、使われた形跡は無いんですよね」

「といっても水夏霞さんが手入れしてるし、もしかしたらそれで消されてるかもしれない」

「あぁ、確かに私も刀が使われたなんて分らないからね。血でも付いてたら分るけど。でも、ここに入れるのは私だけだよ」

 確かにここの管理をしてるのは水夏霞だけ。けど、鍵の場所を知っているのは水夏霞だけとは限らない。

「鍵の保管場所を知っている人は他に居るんですか」

「う〜ん、ウチは時々出入りが多いからね。知ってる人は知ってるんじゃない」

「なんで言わなかったんですか!」

 思わぬ情報に吉田は声を荒げてしまうが、水夏霞は笑って誤魔化す。

「あははっ、でもさ私だって四六時中見張ってるわけじゃないし、誰かが持ち出しても分らないよ」

「なら神社に出入りする人を洗ってみる必要がありそうですね」

 そう言って吉田は考え込むが、沙希が口を挟んできた。

「でも、この村でそこまで刀を使える人はいないんですよね?」

「……」

 確かにそう言われればそうだった。吉田さんもそう言ってたし、いくら名刀でもあそこまで綺麗に首を落とすなんて不可能だよ。

 だが吉田には心当たりがあるのだろう。沙希に向かって笑みを浮かべる。

「それがですね。実はいるかもしれないんですよ」

「そうなんですか!」

 新事実に驚く沙希。

「ええ、あの千坂氷河ですよ。つい最近まで村を離れていたようですが、来界村開発戦争の時に戻ってきたようです。それで千坂の素性なのですがまったく分らないんですよ。どんな経歴を持っており、どんな特技を持っているのか」

「あっ、でも千坂さんの事なら少し聞きましたよ」

「えっ!」

 驚きの声を上げる吉田。今まで警察が調べても分らなかった事を鈴音があっさりと答えたものだから驚いているのだろう。

 だが鈴音が千坂の事を知っているのも納得が行く。なにしろ今朝、羽入家に向かう途中で千坂と仲良く話していたのだから。

「それでどんなことを知ってるんですか!」

 思わず鈴音に食いついてくる吉田。そんな吉田に動揺しながらも先程聞いた千坂の経歴を簡単に話した。

「えっと、何でも昔東京の方で暴力団関係者らしくて裏切られたらしいんですよ。そして逃げ回っているうちに源三郎さんに救われたって言ってました」

「その暴力団の名前は分りますか?」

「えっと、そこまでは」

「では、ちょっと失礼します」

 吉田は携帯を取り出すとそのまま外に出てしまった。まあ、民間人に聞かせる話でもないだろうし、極秘事項も入っているのだろう。

 そして暇になった鈴音が刀を戻して奥にある玉虫様の像を見たときだった。急に鈴音のお腹が空腹を訴えた。

「あっ」

 思わず赤くなる鈴音。そんな鈴音を無視して沙希は時計を確認する。

「気付かなかったけど、もう二時なんだ。それに散々歩き回ったからいい加減に疲れたかな」

「なら、ウチで昼食でも食べていく?」

「いいんですか」

「お一人様九〇〇円になります」

 ……しっかりと商売するんですね。というか、水夏霞さん巫女さんですよね。



 結局、水夏霞のところで昼食を頂く事にした三人。それから吉田は急ぎ調べたい事があると言って警察署に戻ってしまった。

 そして鈴音達というとのんきにお茶をすすりながら、これからのことを考えていた。

「これからどうしようか?」

 鈴音の問に沙希は指を当てて考える。

「う〜ん、静音さんの事は分からなかったからね。どこか分るような場所を探さないと」

「お父さんが生きてれば教えられていたんだけどね」

 食器を片付け終わったのか水夏霞がその場に座った。

「そういえば、水夏霞さんは姉さんと仲は良くなかったの?」

「とういか、ほとんどお父さんと話に来てただけだったからね。私は顔見知りぐらい程度の仲かな?」

「そうなんだ」

「あの〜、これ聞いちゃ悪い事なら謝りますけど」

 申し訳なさそうに沙希が口を挟んできた。

「なんですか?」

 首を傾げながら水夏霞は沙希に尋ね返す。

「静音さん、水夏霞さんのお父さんとトラブルなんかありませんでした?」

 確かに普通何か有ったら聞いてはまずい雰囲気にあるのだろうが、水夏霞は何かを思い出すかような仕草をすると、あっけらかんに答える。

「特に何も無かったよ。別にもめてたわけではないし、お父さんも静音さんには協力していたみたいだから。まあ、あまり力にはなれなかったみたいだけど」

「そっか」

(平坂神社の役目は羽入家と村長の仲介、そして静音さんも同じ役目を背負っている。そこの協力関係が生まれても不思議は無いか)

「でも、なにもトラブルが無いんでしょ。なんで一番最初に殺されちゃったんだろ?」

 確かにそれも引っ掛かる。だが鈴音、それはおおっぴらに聞いてはいけないことだろ。

 そして思ったとおりに水夏霞は俯いて沈んだ表情になっていた。

「あの、ごめんなさい。鈴音が失礼な事を言って」

 慌てて謝る沙希。それでやっと鈴音も自分の発言がどういうものなのか気付いたようだ。

 だがそれでも水夏霞は両親が殺された時の状況を話してくれた。

「確かにお父さん達が殺される理由は無いんです。でも私が、いや、私の目の前でお父さん達が死んでいたんです」

 えっ、それってどういう意味?

 顔を見合わせる鈴音と沙希。どうやら二人とも状況が分からないようだ。しかたなく鈴音はもう少し突っ込んで聞いてみる。

「申し訳ないんですけど、もっと詳しく聞かせてもらっていいですか?」

 だが水夏霞は困った顔になる。

「それが、私もよく分からないの? 気付いたらお父さん達が血まみれで倒れてて、私どうしていいか分からなくて。それからしばらくしてから警察に電話したの?」

「気付いたらご両親は死んでいた? ということですか?」

「そう、なるのかな」

 どうやら水夏霞自身も事件当時のことは良く覚えてないらしい。まあ、しかたないだろう、もし目の前で両親が殺されたらそのショックで記憶を封印する事もあるらしいから。

「あっ!」

 沙希が何かを思いついたのだろう。申し訳なさそうに水夏霞に尋ねた。

「あの、ご両親を見つけたときに首は?」

 なるべく言葉を濁して聞く沙希。だが水夏霞には、はっきりと伝わったのだろう、首を横に振った。

「もう無かった。誰かが切り落として持ち去ったんだと思う」

 更に沈み水夏霞。

 もうこれ以上聞くことはないし、聞かないほうがよいだろうと判断した二人は話題を切り替えることにした。

「そういえば、さっき本殿に入った時に思ったんだけど、玉虫様って巫女なんだね」

 先程に入った時に本殿にあった玉虫の像は巫女装束で彫られていた。

「ああっ、それ」

 話題が切り替わった事で元気を取り戻したのだろう。水夏霞は先程のテンションで答える。なんとも切り替えが早い人だ。

「一応玉虫様は生贄だったからね。だから神聖さを出すために巫女装束で生贄にされたんだって。それでかな、それ以来は玉虫様を表す時は巫女装束で表す事が多いいの」

「へぇ〜、そうなんだ」

「あっ、そういえば」

 古来から女性というものは世間話が好きなようで、それからしばらく間は三人で他愛も無い話を続けた。



 そして夕暮れになるときだった。突如来訪者がやってきた。

「お疲れ様です」

 何故か巫女装束で身を固めた七海が入ってきた。

「あっ、七海ちゃん。今日は学校は終わり?」

「いえ、今日は用がありましたので学校はお休みしました。……おや、またお会いしましたね」

 鈴音達を見つけた七海は丁寧に頭を下げる。慌てて挨拶する鈴音と冷静に対処する沙希。

 それで挨拶が終わった鈴音は七海に尋ねる。

「七海ちゃんはなんでここに、というかその格好は何?」

 一気に質問してくる鈴音に七海は一つずつ答えていく。

「世間勉強といいましょうか。お爺様の命でここでアルバイトをしているのです、それで巫女をやっているので先程そこにある更衣室で着替えてきました」

「へぇ〜、七海ちゃん巫女なんてやってるんだ」

「はい、これも勉強です」

 一応七海は中学生なのだが、これも羽入家の力なのだろう。七海はバイトが許されていた。まあこんな田舎だし、うるさく言う者もいないのだろう。

 それから七海は鈴音達と軽く話してから水夏霞に指示を仰いだ。

「では、まず何からしましょう?」

「そうだね、境内の掃除は終わってるから。社務所で伝票整理を頼めるかな」

「はい、分りました」

 一応羽入家の人間だからだろう。水夏霞はそれなりの態度を持って七海と接していた。

「それにしても七海ちゃんも働いてるんだね」

「まあ、羽入家の人間を雇ってるこっちも大変なんだけどね」

 まあ、確かに平坂神社とはいえ羽入家と事を構えるのは大変なのだろう。しかも今は水夏霞だけで切り盛りしているのだから事は起こしたくないのだろう。

 七海が来た事で沙希は時間を確認すると、すでに五時近くになっていた。

「もう、こんな時間なんだ」

「なんか、すっかりお邪魔しちゃったね」

「まあ、いつも暇だからちょうどよかったよ。よかったらまたおいで」

「はい、ありがとうございます」

 七海が来たからちょうと良い機会なのだろう。鈴音達は平坂神社を後にしようとした。

 それから水夏霞はよっぽど暇なのだろう。二人を鳥居のところまで見送る。

「そういえば、二人はどこに泊まってるんだい?」

「桐生家にお世話になってますよ」

「あぁ、琴菜さんのところか。あそこは静音さんもお世話になってたし丁度良かったのか」

 勝手な感想をいう水夏霞に鈴音達は乾いた笑いを浮かべる。

「じゃあ、あまり役には立てないけど暇な時はおいでよ。歓迎するからさ」

「うん、ありがとう水夏霞さん」

 それから二人は平坂神社を後にした。

 再び歩く山道を適当に話しながら桐生家に帰る二人。そして今日はこれで終わりだと思っているのだろうが、鈴音にはこれからとんでもない災難が待っていることは誰にも予測は出来なかっただろう。







 え〜、……風邪ひいたウワァァァァァァヽ(`Д´)ノァァァァァァン!

 おかげでかなりつらい状態が続いております。おかげで断罪を上げるのがかなり長引いてしまいました。

 そんな訳でそろそろ飯でも食って寝ようかなと思ってます。

 というか、最近の後書は寂しくなってきたな。まあ、ブログではっちゃけてるからしょうがないか。

 ではでは、ここまで読んでくださりありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします。更に評価感想、そして投票もお待ちしております。

 以上、いつも以上にリンパ腺が腫れ上がった葵夢幻でした。

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