プロローグ 2度目の異世界
帰ってきたら3年が立っていた。いや、違うな。目を覚ましたら3年が立っていた。
俺、東照凱人は去年までの3年間――異世界で勇者をしていた一般人だ。
そう、その異世界に呼び出された時が中学2年が終わる3月下旬――そしてあろうことかフィクションのような体験をさせておいて時間経過はフィクションじゃなかった。
帰ってきた時には、異世界の3年がきっかりすぎていた――帰ってきた2月、俺は半ば絶望しながら高校受験をして今年で18になる年でありながら高校1年という立場にいた。
この3年の間、俺は行方不明という扱いになっていたらしい。が、両親はすでにこの世を去っているため俺の生還を喜んでくれる知り合いなどの数は少なかった。
ちなみに捨てられたとかそういうのではなく、父は病死で母は俺を産んだ数カ月後に亡くなったそうだ。だから当時の俺は父の死に泣きまくりはしたが抗えない現実でもあるわけで同情されるようなことでもない――しかたのないことだ。
詳しい旅ややってきたことの内容は説明しないが父がなくなった1年後に異世界に呼ばれたのだ。
それで、何故こんなに嫌そうなのか……元の世界に帰還できたんだぞと思う人間も多数いるだろう。俺自身もその一人だ。
簡単にいえばあっちの世界についてすぐに言われていたことが原因だ――帰還の保証があるかということを聞いてみた。
そしてその声がこれだ。
『今まで帰還したという伝承は残っていない……だがこの世界での暮らしや生活はこちらが保証しよう』
だった気がする――ようするに帰れないという考えのもとあちらでも過ごしていたのだ。
そして帰ってきた理由も事故みたいなものだと思うせいもあって――かなりこの世界で過ごすことに抵抗や葛藤がある。
現在はすでに高1になってから数ヶ月が立って初夏になっていた。
俺はその数ヶ月でどうにかこうにか――あれは夢だったんだ、現実だったかもしれないが夢だったということにした。
そして今、何をしているかというと昼休みにパシリを終えた後の昼休憩だ。
年齢のこともあるが生気を若干失ってる目もあって俺はサンドバックにされたりなんだりしていた――最近の若い奴らは血気盛んなことだ。
ちなみに年齢のことというのもあるが言わなければいいだろうと考えて俺は言わなかったが、そもそも実年齢じゃなくて見た目年齢が若干老けていたのが理由だと最近になって気づいて諦めた。
そして俺は断じてマゾだとかそういうことじゃない。さっきも言ったがファンタジー世界にいたという夢を3年分も見ていたせいで体がどんな状態でも刺激を求めてしまう。戦い的な刺激を――その結果、俺にデメリットがない刺激としてはいじめはちょうどよかったのだ。現代では手を出した方は罰せられるがやられる側はまあなんとかなるからな。
そして、とりあえず現状の目的は高卒と大卒――あわよくば将来公務員にでもなれればいいと思っている。左遷先とかに選ばれそうな公民館とかに立候補できるなら自ら立候補して働いて安定した暮らしを送りたい。
そんなことを考えていた昼休みも終わり現在は午後の授業だ。黒板を機械のように俺は板書していたわけなのだが、なにか空気というのか雰囲気に違和感を感じる。
一体これは何だったか――。
「地震?」
俺の前の席の女子生徒、名前は確か……大久保だったな。大久保がふと気づいたように小さくつぶやいた。
俺はそういうのには鈍感なほうで言われてからやっと徐々に強くなってきている揺れに気づく。
教室の中がざわつきはじめる中、俺は冷静を保っている――こういう時に慌てたらそれこそパニックになるからだ。
そしてこの時にやっと先ほどまでの疑問の答えがわかったわけだ。
この空気の感じは魔力だと――異世界にいたころの。
一体全体どういうことだと思った矢先だ――教室の男の誰かが声を上げた。
「お、おい。足元、光ってねえか? どういうことだよ!」
足元が光っている。まるで俺があの世界に召喚された時みたいじゃないか――なんてことを思っていると教室全体は光に包み込まれていった――そして、
「よく来てくださいました!! 勇者の皆様!」
前にも一度聞いたことがある声で前にも一度聞いたことのあるセリフを前にも見たことのある少女に言われた――どうやら俺はあの世界、《ディーアルド》に戻ってきたようだ。