過去「たくや」
男の名前はたくや。
皆からは小さな頃から呼ばれてきた「たっくん」という、あだ名がある。
山の中にある、小さな田舎の家で育ってきた。
田舎だけに庭が広い。
たくやの家族は両親、姉、祖母の5人家族であった。
家族皆仲良く、たくやは恵まれて育ってきた。
「おはよう」
たくやの父親の一言から1日がはじまる。
「おはよう!」
家族皆たくやの父親が大好きだ。
自慢じゃないが、たくやの父親はとにかく全てがすごい。
昔ながらの父親の威厳もあり、また肉体も自衛隊仕込みで完璧だ。
性格は男気が強く、誰よりも家族に優しい。
そんな父親の背中に憧れて、たくやは育ってきた。
母親はいわゆる「教育ママ」だ。
習字、そろばん、英語、ピアノ、野球、塾。
一週間のうちにたくやの予定は常に毎日が埋まっていた。
習い事は嫌いではなかった。
姉は嫌っていたが、たくやは下の子だけに上を見ていたから容量がよかったのだ。
どのようにすればうまくできる。
その事が幼いながらも理解していた。
父親はとにかく仕事で忙しい。
自衛隊を引退し、長距離トラック運転手だったので、3日か4日に一度帰ってくるくらいであった。
帰ってきたときのその時間はたくやにとってはすごく貴重な時間だった。
伝えたいことが沢山ある!
遊びたいことが山ほどたまっている!
父親の帰りはたくやにとって特別なイベントだったのだ。
父親もたくやにつきあってくれる。
眠たいであろう体にムチを打ちながら遊んでくれるのだ。
「たっくん、今日は釣りに行こう」
月に3回は父親と釣りに出かけていた。
母親は呆れ顔で
「たまには野球とかにしなさいよ、釣りばかりであきないの?」
毎度の事ではあるが、たくやにとって父親と過ごすことは何でもよかったのだ。
釣りでも、野球でも。
父親と一緒にあそべるなら何でもいい。
そんな日々を楽しんでいた。
小学校低学年から続いてきたこの日課がある日突然終わりを迎えるとは思いもしなかった。