猫の子
猫が子を孕んでいる。
けっして叙情的でないその結末。
闇の中に消えていくことを孕む、
残酷な膨らみ。
流麗でなく
飛び石のような断絶。
辿り着かない いのちの岸辺を
叶える夢を信じて眠る母猫。
飼われた悲しみを
まだ知らぬひと時を。
いずれくる赤いドレスの時は、
眺められる死と死と死と……
愚かさはいのちか。
それともニンゲンの我儘か。
その和毛の下で息づく
複数の鼓動は、
やがて消えてしまう。
劇的な旋律は進みつつあるのに、
お前の食む食餌は何て旨そうなのだ。
その時、芸術は何の役にも立たない。
ただ、流れるのみ。
その時のわたしは、
息の途絶える苦しみを、
虚無に呑まれる暗闇を、
もう知ることのない悲しみを、
静まっていくだけの結末を、
止まるように胸の詰まる感覚を、
ただわたしの想像の中で味わうだけだ。
*
猫が子を孕んでいます。このままいけば初産ですが、叶わないのです。もっと早く処置すればよかったのでしょうけれど、間に合わず何時の間にか大きくなっていくお腹に、残酷な結末が待っているのです。季節はただ過ぎるのではなく、いのちにとって何がしかの形を残します。それが例え辿り着かぬ夢であっても。生まれ落ちる悲しみを知ることはなく、そのいのちが消える時をわたしは見ることはありません。しかし、味わうのです。その結末を、その断絶を。許されぬ事なのかも知れませんが、それでも人間の我儘は猫に死を強いるのです。その愚かさはニンゲンであるわたしに飼われた故なのかもしれません。完全な野良猫ならば勝手気ままに生き死に出来るのかも知れません。それでも、もう避けられないことなのです。この結末を、自戒を込めて詩にしています。
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