6「今日も一日、何時も通り」
6「今日も一日、何時も通り」
軽く地面を蹴ってやれば、体は自然と宙に舞う。
ひゅうひゅうという音が鼓膜を震わせ、風が目に吹き付ける。
(何もない、何もない)
少女はぎゅっと目を瞑って、雲の海を突き抜けた。
(何もない、何もない)
「何もない」
少女が懇願にも似た呟きを漏らし、更なる高みへと自身を進める。そこに何も無いことを信じて。
「ほらね。やっぱり何も無いじゃないか」
真っ暗な世界で、少女は溜息をつく。
そして遥高みから、自分のいた世界を眺望する。
「綺麗だねェ」
思わず言葉が零れてしまう。
「君はこんなのじゃぁ、満足しないだろうけど」
少女は自分を追う陰に気が付き、一気に高度を下げる。
人の容のままではなく、手にすら触れることの叶わない状態へと変わって。
「ふわぁぁぁあぁ」
豪快な欠伸をしながら、懐かしい道を通る。
どうやら、引っ越し前と戸田さんの家の場所は変わってなかったようだ。
(なんだって、俺がこんな目に・・・・)
ズボンのポケットに両手を突っ込み、機械的に溜息をつきながら戸田さんの家を目指す。どうせそんな不満を言ったところで、人外のアイツらにそんな小言が通じる訳がない。それを俺は昨日の戸田さんとのメールのやり取りで学んでいる。
先に言っておこうか。今は朝の六時だ。
「まてまてまてまて!!」
あー。うるせぇなあ。因みに今の声は男のものではあるが俺ではない。ったく。朝っぱらから威勢のいい奴だな。
「請等候!!」
全く。人様の迷惑を考えてほしい。大声で、何を叫んでいるのやら。
そんなことをぼーっと考えていると、この間みた蛇もどきみたいなのが俺の頭上を・・・こほん。蛇もどきが、少年の手によってふっとばされていた。いつみても慣れないな・・・この光景。
勿論、瞬きした瞬間に、蛇もどきは俺の視界から消えていた。
森田か・・・?なんて思ったが、そうではないみたいだ。
「そちも一応神官だろうに、妖気も探れないのかえ?」
さっきの声が、俺の後ろにいた。明らかに機嫌が悪そうだ。
(妖気も何も、俺は昨日の今日神官とやらに任命されたんだよ!!)
心の中で、精一杯叫んだ。一体何人いるんだよ、神の代理人とやらは・・・。
俺の肌を、ひやりとした汗が伝った。
「対、対。それは可哀想に。右も左も分からぬのならば、自分の部屋でじっとしておればよいものを。そちの人生はこの先も難儀なものになると見た。しかし、朕が思うに神官というのもなかなかいい物だえ」
何にそう言ったのか理解するのに少し時間を要したが、どうやら俺の思っていることを見透かしていたらしい。
「油断するでない、雰囲気に出ておるぞ」
何がぁ!!と言おうとして、後ろを向いた。
そこにいたのは色白の好青年だ。艶やかな黒髪を弁髪の様に後ろで三つ編みにしている。声色からしてもっと歳がいってると思ったのに、どうやら外見は俺とそう歳は変わらないようだ。
「どうせ、そちは立春の所へ行くのだろう。朕も今向かっていたところだ」
ぽかんとしている俺を余所にべらべらと喋る男。しかも口調がおかしいぞ。
これは110番モノじゃないか(そんな事しても取り合ってもらえなさそうだ)
あ、そういえば・・・・。
「・・・あれはいいのか」
俺は壁に埋まった蛇もどき。そんなもの気にも留めない様子で男は口を動かす。
「ん?いや、あれはの駆除は朕の担当では・・・・」
「おい!!馬鹿野郎!!!」
男が言い終わらない内に、上からまた男が降ってきた。
「ん・・・・。なんだ、‘絶滅’か」
男は俺の方をちらりと見やったあと、皇帝口調の男に視線を戻した。というか「なんだ」とはなんだ!!コラ!!
(また新しいのが出てきたぞ・・・・・・)
もうこの人達の言葉の意味が分からない。要所要所に、日本語じゃないもの持ってこないで欲しい。
そいうえば、この人が降ってきたあたりから蛇もどきの姿が見当たらない。
俺がきょろきょろしているのに気が付いたのか、二人目の男のほうも、蛇もどきの不在に勘付いたようだ。
「おい、なにボーっとしてやがる。さっさとしねぇと四肢をズタズタに切り裂くぞチョンル」
ふーん、皇帝口調のほうは、チョンルっていうんだな。
中国人・・・・・か?
「朕に指図るすでない!!・・・・・それでは、そち・・・まっつんといったか。立春の家で待っておるぞ」
よく分からないけど、二人は蛇もどきを片づけに空へと消えてしまった。
「リーチュンって誰だ?」
~人物紹介~
紅 誠安 (ホン チョンアン)
・誕生日 6月5日
・身長 175cm
・体重 ???
・年齢不詳
・好きな物 饅頭、時代劇
・苦手な物 胡坐、飛行機
・得意技 皇帝口調の毒舌
【日本語になると皇帝口調な中国人。自慢は弁髪のように結った髪。よく、チョンル(誠児)と呼ばれている。たまに間抜けな発言もするが、本人曰く、「アメリカンジョーク」らしい】