2「始めるのはいいが、終わらせるのが大変だ~夢だと思ってたい~」
2「始めるのはいいが、終わらせるのが大変だ~夢だと思ってたい~」
ひゅうひゅうと風をきって、上昇していくのが、目をつむっていても分かった。
「大丈夫?」
戸田さんはケロッとした顔で俺を抱えて空を飛ぶ。
「大・・・・じょうぶ・・・・」
「じゃあよかった」
そういって、にっこと笑った戸田さん。
首を捻らせて下を見ると、さっきの龍みたいなのが追ってきていた。
「よく見ておいてよ」
速度を緩め、空中で静止した戸田さん。
龍はよろよろとこちらに飛んできて、時折空に向かって咆哮をしていた。
「これが君を取り巻く世界の姿さ」
といったとき、山の方から、何かきらきらとしたものが飛んできた。
「お見事!!」
戸田さんの歓声と共に、龍は吠えて悶えて、最後は静止してしまった。
「死んだのか・・・?」
重力に任せて地上へと落下していく龍。
「彼等に死などない。ただ、闇を彷徨うだけ」
龍は地上すれすれのところで人間の姿になると、こちらを睨んだ。
「あ~。怖い怖い。でも彼の相手は私じゃないから。安心してね、まっつん」
そう言ってる間に、山の方からはどこか見覚えのある制服をきっちりと着こなした少年が飛んできた。あれ?こいつら本当に人間なの??
少年は俺達に見向きもせず、龍の方へ直行した。
龍も負けじと、少年の方へ飛んでいく。
しかし、少年は無情にも龍の胸ぐらを掴み、こちらへと投げてきた。
「おいおい!!やめてくれよ!!!」
それを間一髪でよけた戸田さん。すると直ぐに少年が飛んできて、俺に舌打ちをお見舞いしてから、飛んで行った龍の方へといそいだ。
「ん~。もういいかな。それじゃあ屋上に戻るね」
今の状況が現実とかけ離れていて、理解が不能な俺。
戸田さんは俺を抱えたまま、学校の屋上に「とうちゃーく!」とか言って降り立って、俺を下した。
「あの龍?蛇?みたいなのは怪物と呼んでもらっても構わないよ。まあ本来は龍神様なんだけどね」
ぽかんとしている俺の頬を一二回ぺちぺちと叩いてから、戸田さんは説明を進めた。
「要は煩悩に堕ちた神様さ。おなかの中真っ黒。もう人間の願いなんて聞いてらんないって神社を抜け出しちゃったのがあれ」
うんうんと、取りあえず話に合わせて相槌を打っておく。
「でね。そんなんが辺りをうろついてたらいけないなぁ、っていう訳でおなかを真っ白にする・・・・まぁ、要は・・・う~ん。更生施設?みたいなのにそいういう怪物を届けるのが私達の役目」
「そんな危険人物が普通に学校に通っていいのか?さっきのとか思いっきりみんなに見られてたじゃねぇか」
「いいんだよ。そこのところは問題なし。何にも使わず空を飛べる種族のいる世界に、他人の記憶をコントロールできる技術がないことのほうがオカシイ」
その定義はよく分からないが、どうやらこのことは皆の頭からはこの後、完璧に消え去ってしまうそう。
「んでね。本題」
戸田さんはさっきまでぺたんと座り込んでいた俺に立つように促した。
「いいかい?まっつん。これから起こることは誰にも話してはいけないよ」
そう言って、戸田さんは俺に向かって跪いた。
「汝、松谷楸を護り抜くことをここに誓います」
しばしの静寂。それに終止符を打ったのは俺の声。
「はい!?」
「いや、だから私が生きてる限り君を護るってことだから」
「いやいや。そんなことわかってるし!というか、はい?新手のプロポーズですか!?」
「別に結婚したって構わないんだけど?」
もういろいろ違い過ぎて怖い。
俺の背筋を色んな意味で冷や汗が伝った。
「君を護る為ならなんだってするよ。何人殺したって構わない。どれだけ私が迫害されたって構わない。君さえ幸せでいてくれるならね」
イキナリのすごい発言で俺の背中は更に大量の冷や汗が伝う。
「それは・・・・強ち冗談ではないみたいだな」
「勿論さ。さっきの見たろ?」
「知ってるか?そういうの俗にヤンデレっていうんだぜ」
「知ってるよ。昔よく言われてた」
「というか何で俺なんだよ」
「君じゃなきゃダメだからに決まってるじゃないか」
それならお前と同じクラスにイケメン副会長がいるだろうが。というか返事になってない、と言葉を発しようとした瞬間、俺の傍を風が抜けた。
「ちょっとお前、立春に近づきすぎ」
俺と戸田さんの間には、さっき俺に舌打ちした少年がいた。
「おいおい。森田。学校に帰らなくてもいいの?」
手をひらひらとさせて、少年(以下森田)に帰る様に促す戸田さん。
あ、思い出した。この制服、超進学校で有名な私学のだ。なんて思ってたら、森田は俺のほうに人差し指をぐっと突き出した。
「おい、お前。どうして立春がお前のことを気に掛けているかは知らないが、早めに逃げておくのをおススメするぞ。俺達の世界は人間がいていい程甘くない」
お前らも人間・・・・・。ではなさそうだな。
俺は反論するのをあきらめた。
「失礼な。彼は私専属の神官様だぞ!!」
「いつからそうなった!!」
「さっきだよ!!」
森田と戸田さんはよく分からない言い争いをしていた。というか本当に俺っていつから神官になったのさ。
「・・・・・ひとまず状況をまとめてもらってもいですか」
俺は仕方なく挙手をして、状況整理を提案した。