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小説になりきれない小説群  作者: ちゅうか
7/20

魔法の木

娘は皆を救うため、「魔法の木」を求めてひたすら北を目指した…

ある村に結婚を間近に控えた若い恋人達がた。

二人は家族思いで大変優しく信心深いので、

周囲の人も二人が結婚するのを楽しみにしていた。

しかし二人がいる村は貧しく、土地もあまり肥えていなかった。

その年は日照りがひどく実りがほとんど無かったので皆が飢えてしまった。

二人ももちろん飢えて、どうしたらいいだろうかと話し合った。

しかし、話し合っても何ともならない。

何故なら飢えに困っていたのは二人が住んでいる村だけではなかったから。

若者は前から考えていた事を娘に打ち明けた。

「少し前に、旅の占い師が来た事を覚えているかい?

こっそり村を豊かにする方法はないかって相談したら、北へ行って、

魔法の木を貰って来いと言われたんだ。

その木には大地を豊かに甦らせる力があるから、

それを植えたらこの村だけでなく他の村も助かるって。

僕は皆を助けたい、離れるのは辛いけど、お前は分かってくれるね」

娘はひどく驚いたが、若者の決心を知るとそれを隠して

「分かりました、貴方は私の誇りです。

私は貴方が帰って来るのをいつまでも待っていますから」

と若者を励ました。

しかし出発の前日、若者は病に倒れた。

若者はどんどん悪くなっていく。娘は何とかならないかと考えた。

『私が、彼の代わりに北へ行って魔法の木を取って来よう』

こう思うと、娘は、若者や家族には、

薬草を探して来ると言って僅かな荷物を持って出かけた。

娘は道中、雇われて働いたり物乞いをしながら北へ北へと歩き続けた。

だんだんと寒くなり、歩けば歩くほど雪が深くなっていく。

娘は通りすがりの村人からこれ以上先に進まない方がいい、

と止められた。

「何故ですか?」

村人は声を潜めて話した。

「知らないのか、ここから先にもう村は無いんだよ。

あるのは雪野原と深い森や高い険しい山だけさ。

悪い事は言わない、戻りなさい」

「親切に教えて下さってありがとう。

でも私、どうしても魔法の木をとって来なくてはならないの」

「何、魔法の木だって!?」

村人は驚いた。

「おじさん、魔法の木について知っているなら教えて下さい!」

娘はどうしてここまでやって来たかを話した。

村人はしばらく黙っていたが、静かに話し始めた。

「お前さんの気持ちはよく分かるがね…

この村から先は恐ろしい雪の王が支配している土地でな、

獣はもちろん魔物までいる。

魔法の木と言うのは王の宮殿に生えている木の事だそうだ。

だが、宮殿がどこにあるかは分からない。

ずーっと昔には、

木を取って来る事に成功した人がいたって聞いた事はあるがね…」

娘の目が輝いた。

「ありがとうおじさん、私は行きます」

「そうか、ならばもう何も言うまい…無事でな」

娘は村人に丁寧に御礼を言った。

娘はひたすら『王の宮殿へ』と念じながら歩き続けた。

雪は厚くなり、これ以上進めなくなった。もちろん引き返す体力もない。

娘は半分気を失った状態で覚悟を決めた。

その時、雪王の娘イフィンヌ姫は雪に埋もれるように倒れている娘を見つけた。

娘の頬を伝う涙を見なかったら姫は何も思わなかっただろう。

姫は娘に近づいた。

「人間?何故このような所に?」

姫は呟いた。

「これはこれはイフィンヌ姫」

背後から死神の声がした。だが姫は死神に見向きもしなかった。

「それもう少しだ、もう少しで魂が取れる。

ほぉれ、あの青白い顔を見てみなされ」

イフィンヌは何も言わなかった。死神は続ける。

「この娘はな、お前の父に頼み事をしに来たのさ。親も恋人も捨ててねぇ」

姫は死神に一泡吹かせてやろうと思った。

「死神よ、幾ら見つめても貴様なんぞにこの娘はやらん、諦めろ」

死神の態度が急変した。

「何だと!!!」

「とりあえず、死神様にはお帰り願おう」

姫は狼になると倒れている少女にぴったり寄り添い、見事な尾で少女を覆う。

「ふんっ…」

死神は悪態をつきながら消えた。

体が温まり、間もなく娘は意識を取り戻した。

狼が側にいてギョッとしたが、

自分に危害を与える気配が無いので気を落ち着けた。

「お前が助けてくれたの?ありがとう…」

不意に、狼が遠吠えをした。

すると青みがかった灰色の2匹の狼が姿を現し、一頭が娘に背を向けた。

「乗れ…って言ってるのかしら?」

娘が恐る恐る一頭の背にまたがると、

狼達は素晴らしい速さで走り始め、あっと言う間に雪の王が住む城についた。

城はとても白く美しく大層立派で、

大理石の階段や、大広間には絹のカーテンや、

壁にはキラキラ光る美しい宝石がはめこまれていた。

中でも素晴らしいのは大広間にある水晶のシャンデリアで、

綺麗な光の粉が舞い降りて来ていた。

雪の王は王座で物思いにふけっていた。

「お前は?」

「娘をお忘れですか?」

声がした方へ振り向くと、狼はいつの間にか美しい姫になっていた。

「お前に言ったのではないわ、イフィンヌ。

それと、だ。また、死神の邪魔をしたそうだな。どうしてお前はそう…」

王は苦りきった顔をした。イフィンヌは澄ました顔で

「この娘は貴方にお会いしたい一心で、遠い国からやって来たのですよ」

と言った。

「小娘、お前がどのような用で来たか、儂には分かっておる」

雪王は娘を見た。

「魔法の木か…お前は、魔法の木がどのようなものか知っておるのか?」

「は、はい。王様の宮殿に生えている木だとお聞きしました。

それに、その木が生えている一帯の大地を豊かに甦らせる力があると…

一枝だけでも賜りたいのですが…」

王は不気味な声で笑い始めた。娘は驚いて震えた。

「ふむ…だが、この宮殿に生えている木は元は人間だ。

この森に迷い込んで死んだ人間のな。

儂が人間に魔法をかけたら木に変わるのだ。

あの木々は命を欲しておる。触れたらお前はたちまち命を奪われるぞ」

娘の顔は真っ青になった。

「で、ですが…木を取ってくる事に成功した人がいると…」

「確かにいる。ただし、己の身と引き換えに、だ。

だが、一度木になると、もう人間の姿に戻る事は出来ぬ。

それでもいいんだな?」

「はい」

娘は震えていたがきっぱり言った。

すると王は娘に手をかざし、何かを呟いた。

「これでよい。

お前が根を生やしたい場所に立ち、天に向かい手を差し延べれば、

お前の望み通りになる。」

「おぉ、ありがとうございます!!」

娘はひれ伏した。

「用は済んだようですね」

イフィンヌの声がした。

「イフィンヌ様」

「私の部下にお前を送らせよう。フギム、ゲフレク」

たちまち青みがかった灰色の、二頭の狼が現れた。

「お呼びですか、王女」

青みが強いフギムが問うと、片方のゲフレクが

「何なりと」

と頭をたれた。

「この娘を村へ送り届けよ」

王女が命じる。娘は王女に向かい深く頭を下げ御礼を言うと、

フギムの背に乗った。

娘の荷物はゲフレクがくわえた。

二匹の狼はあっと言う間に娘の故郷へついた。

娘は走るようにして我が家へ向かった。

「お父さん!お母さん!」

心配の余り半病人のようになっていた両親は泣き崩れた。

娘は両親と強く抱き合った。

そして娘は傍らに立つ、顔色のよい恋人に気づいた。

「あぁ、あなた!」

恋人とも長く抱き合った。

「あなたがいなくなってから色々とよくしてくれたのよ」

母が横から言った。娘は両親と恋人に今までの話を聞かせた。

だが、雪王の話を聞いた途端、

喜びに満ちていた両親と恋人の顔が急に青ざめた。

「そんな、どうして…」

父親の呟きが聞こえた。その声は暗かった。

「いいの、これで皆助かるんですもの。私、とても嬉しいのよ。

それに声が聞こえるの。『早く』って…」

娘はそう言って外へ飛び出した。両親と恋人が慌てて後を追う。

「ここよ!ここでいいんだわ!」

娘が選んだのは余りに乾きすぎてひび割れている大地だった。

両親と恋人の目の前で天に向かい両手を伸ばす。

すると彼女の体は見る見るうちに柔らかい木の皮で包まれ始め、

手足や髪の毛は枝となり、足もしっかりと地面に埋もれ、根となった。

両親はもちろん、恋人も嘆いた。

「優しいお前、私のせいでお前をこんな目に…本当にすまない…

たとえ木となってしまっても、お前は私の大切な妻だ、

お前が寂しくないよう、私はお前の側で暮らすよ」

娘は恋人に向かい、返事がわりに枝を揺らした。

娘が木になったかと言うように雨が降り、人も大地も、

獣も家畜も全てのものが甦った。

イフィンヌは、気高い娘の事を忘れていなかった。

ある日、イフィンヌはフギムとゲフレクを連れ、娘の村を訪ねた。

両親と恋人亡き後もイフィンヌは木の元にたびたび訪れたと言う。

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