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小説になりきれない小説群  作者: ちゅうか
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闇に溶けた悪夢

命の恩人を守る為、魔女と戦う梟の話


魔物が住むと恐れられている森があった。

深い森だから、森の中に日の光はほとんど届かない。

この森には魔物以外に様々な動物が住んでいたが、梟は一羽だけだった。

親鳥と同じく魔法使いの元で生まれ、育ち、しばらくお使いをしていたけれど、

その魔法使いが死んでしまったので自由となった。

ある日の事、梟は森の魔物に襲われ深手を負いながらも逃げた。

しかしとうとう力尽き、森から少し離れた所にある大きな家の前に落ちた。

梟の毛は白くつやつやしていて、目の色は左が金で右がルビーのような赤と、

普通の梟とは少し違うもののとても美しい鳥だった。

梟を見つけた少女は可哀相に思い血を拭いてやり、寝床を作ってやった。

梟は歩く元気も無いほど衰弱していたが、

少女や両親が優しく世話をしたのでぐんぐん回復した。

「あぁ嬉しいっまた元気になれた。優しい人達よ、ありがとう」

梟は心の中で御礼を言った。

元気になった梟は丹念に毛繕いをして羽毛をふかふかにして、

羽を片方ずつ広げてうーんと伸びをし、それが終わると少女の肩にとまった。

「まぁ、マリランが1番看病してたのを知ってるのかしら」

「ふふっ肩がちょっと重いわ」

梟はマリランに向かって頭を下げました。

「あら、お辞儀したわ。可愛いわねぇ」

お母さんが言いました。

「マリラン、頭を撫でてやってごらん。

母さん、もしかしたら肉をねだってるのかもしれないぞ」

「そうね、お腹空いてるにちがいないわ」

お母さんが余った肉の塊を皿に乗せて持って来て床に置くと

梟はすぐ床に下りてがつがつと食べた。

すっかり食べ終わると近くのソファーにとまって部屋を見回した。

「お腹もいっぱいになったし、もう大丈夫だ」

その時。

梟は部屋の隅から怪しげな黒い塊が少しずつ浮かび上がるのを見た。

梟がじっと様子を伺うとそれは人の形をした黒い影になった。

影はマリランの方に2、3歩いてスッと消えた。

「何だ、あいつは」

梟は緊張しながら言いました。

「よくわからないが、あまりいい奴ではないようだ」

この日、梟はマリランによりルビィと命名された。

理由は片方の目が宝石のルビーのようだったからだ。

さて、何日かするうち、ルビィは黒い影が敵だとはっきり認識した。

影がマリランにつきまとう度にマリランは気分が悪くなったりひどい時には倒れるからだ。

「マリランに近づくな!」

ルビィは出来る限りマリランから離れないようにした。

不思議とルビィに近づこうとはして来ないのだ。

ある日のこと、天井に潜んでいた黒い影が再びマリランにまとわりつこうとするのを見て

ルビィはカッと嘴と翼を開き威嚇した。

「ルビィ?どこを見て怒ってるの?」

「動物には人間に見えないものが見えると言うしな、

梟は特に賢いから、何か見えてるのかもしれないね」

「やだわ父さんたら…」

家族は話し合っていた。

「さぁ、部屋に行きましょ」

マリランはルビィを肩に乗せて部屋に入った。

ルビィはマリランのベッドの枕元にある止まり木にとまる。

すると暗闇の中、天井付近でまたしても何かが動く気配がした。

同時にうろこが擦れる音がしました。

「ふん、ヘビを連れて来たか」

ルビィが構えたとたん、天井の隅から毒ヘビが落ちて来た。

ルビィは狙いを定めると矢のように噛み付き、あっさりと胴体を引き千切った。

翌朝、部屋にやって来たお母さんは引き裂かれたヘビを見て真っ青になった。

「あなた!ヘビが!」

その声でマリランは目を覚まし、

駆けつけたお父さんは、ヘビが死んでいるのを確認し、捨てながら言う。

「危なかったな、こいつは毒ヘビだ。ルビィに感謝しなくては」

「ルビィ、ありがとうね。マリランを守ってくれたのね」

お母さんが言う。

「ありがとう、私のルビィ」

事情が分かったマリランはいやと言うほどルビィを抱きしめ、撫でた。

しかしルビィの心は重かった。幾ら影を追い払ってもどうしようも無い。

マリランが日に日に弱って行くのが分かるからだ。

「何とかしなくては」

考えた挙句、ルビィは嘴でコツコツと窓を叩いた。

「ルビィ?外に出たいの?」

マリランはきょとんとして聞いた。

「きっと外が恋しいのよ。

出してあげたら?この子は賢いから、外で遊んだら帰ってくるわよ」

お母さんが言います。

「そうね、狭い家よりは外で遊びたいわよね」

マリランが窓を開くと、ルビィは外に出て飛び回ってからまた窓に戻って来る、

を繰り返して見せた。マリランは安心したように

「気をつけて遊んで来るのよ、でも早く帰って来てね」

と言った。

ルビィは風のように飛んだ。向かったのは、かつて自分の主人だった魔法使いの家だった。

魔法使いは椅子に座って死んだ時のまま、腐る事もなくミイラになっている。

「ご主人!ご主人!!」

と叫んだ。

「何だ、何故戻ってきたのだ?」

と、魔法使いの霊が現れて答えた。

「ご主人、マリランを助けて。悪い影を追い払って!」

魔法使いはルビィから話を聞き、渋い顔をした。

「その影は魔女の使いだな。

お前がこれからその家に戻るとしたら、いつ頃着く?」

「急いで帰っても日が落ちます」

「影が恐れていたお前が離れてしまったから、

お前が戻る頃にはもう娘の魂は奪われているだろう。諦めろ」

「そんな!!」

ルビィは後も見ずに家に戻った。着いたのは夜だった。

巨大な黒い影が家を覆っているのを見てルビィは血相を変えた。

「きゃあーーー!!」

マリランの魂の声だ。それに続いて、不気味な笑い声がする。

両親はぐったりしているマリランを囲んで泣いていた。

毒ヘビに咬まれ意識を失ったのだそうだ。

ルビィは疲れた体に鞭打って魔法使いの家へ戻った。

「ご主人、マリランが攫われた!!」

「もはや手遅れだ、諦めろ」

「嘘を言わないで、ご主人は悪魔だってやっつけてたじゃないですか!」

「それは悪魔より私の力が上だった場合だ。

だが私には体が無い、力もほとんど失ってしまった。諦めて早く帰れ」

「諦められません!」

「…一つ方法が無い事も無いが…」

「何ですか、それ?」

「お前も魂の状態になって、その魔女の城へ行くのだ」

「やります!」

梟の体から出てきたルビィの魂は、人間の姿になった。

魔法使いはにっこりして

「この帯をつけて行け」

と、綺麗な帯を貸してくれた。

「その帯をつけていれば奴らに見つかる心配は無い。

影や魔女なんぞ、お前の鋭い爪で引き裂いてやれ」

それから魔女の居所を教えてくれた。

「さぁ行け。お前の体は荒らされないよう私が見ていよう」

「ありがとう、ご主人!」

ルビィは魔女の家へ向かった。主人に言われた場所へ行くと汚い沼があった。

意を決して片方の足を前に踏み出すと、足は沼に沈む。

思い切ってもう片方の足を踏み出すと息を止め目を瞑った。

ルビィはとうとう沼の中に沈んだ。ルビィがたどり着いたのは、沼の底にある家だった。

用心深く近付いて、大きな窓から中をのぞくとおばあさんが影に何かを話しかけている。

「今度の置物はいいね、気に入ったよ」

見ると白い冷たい石膏像にされ、細い蜘蛛の糸で幾重にも固定されたマリランが。

他にも同じような像がたくさんあった。

「梟のせいで手に入れるのに時間を喰っちまったが…まぁいい」

ルビィは完全に頭に来ていた。

怒りに任せていきなり窓を蹴破り、影に躍りかかると、

足を梟の脚に変化させあっという間に鋭い爪で細かく引き裂いた。

次に手近な蜘蛛の糸を引き千切り、素早く魔女を縛り上げ、

鋭い爪が魔女に食い込むのも構わず脚でしっかり押さえつけた。

ほんの一瞬の出来事だった。ルビィは帯を外すと

「私を覚えているか!」

と怒鳴った。

「あっその目…お前はあの娘の梟!」

魔女は痛さと驚きのあまり気を失いかけた。

「そうだ。このままお前を死ぬまでゆっくりちぎってやるから覚悟しろ!」

「まっ待っておくれ、お前、あの娘を助けに来たんだろう?

私が死んだらあの娘は永遠に元に戻らないよ?それでもいいのかい?

私を殺さないと約束してくれるなら元に戻す方法を教えてあげるよ」

「騙されるものか」

「嘘なんかじゃありませんよ、絶対に本当ですから…」

「とりあえず聞こう、話せ」

「それを言えば殺さないでくれるかね」

ルビィは少し考えて

「よし、いいだろう」

と言った。

「はいっではまず家を出てすぐに井戸がありますから、

その水を汲んでかけてやればよいのです。あれは不思議な水で、

病気や怪我を治せますし、姿を変えた者を元に戻す事が出来ます。

更に鉄や宝石を混ぜて振り掛けると、

振り掛けられた物の姿を鉄や宝石に変える事も出来ます」

「そうか。ならこれからやってみよう。だが嘘だったらさっき言った通りお前を引き裂く」

ルビィはきっぱり言った。

魔女を縛って床に転がした状態のままルビィは井戸で水を汲み、皮袋に入れて家へ戻った。

「これがお前の言った通りの水か試してみよう」

ルビィはそう言うと、床の上に転がっている魔女の体を爪で深くえぐった。魔女は

「ぎゃぁっ!」

と叫んだ。

「い、痛い!痛いじゃないか!何をするんです!」

「だから、水が本物か試すのさ」

そう言って皮袋の水を傷口にふりかけた。するとたちまち傷口は塞がった。

「成る程、これはすごい」

「でしょう?私は嘘をつきませんでしたよ、お願いですから糸を…」

「そうだったな」

ルビィはこっそり蝋燭の蝋の欠片を皮袋に入れ、魔女に再びふりかけた。

魔女はたちまち蝋人形となる。ルビィは魔女を隅へ押しやるともう一度水を汲んで来た。

そして、まず始めにマリアンの像に水を振り掛けた。

像は溶けるように動き始め、白く冷たい石の体は人間の姿に戻っていた。

「あぁ、私、どうしていたのかしら…あら、貴女は?」

「マリラン!」

と、ルビィは飛び付いて喜んだ。

ルビィから話しを聞いたマリランは感心して何度もお礼を言い、改めてルビィを見た。

白い短髪にワンピース。

宝石のような、左右で色の違う美しい目に透き通るような白い肌。

見れば見る程可愛らしい人間の少女に見えた。マリランは

「嬉しいわ、こんな風に話せるなんて」

と言った。

それから二人は辺りの像を全て元に戻すと、沼の外へ出て一旦別れた。

魔法使いにお別れをして梟の姿に戻ったルビィが家へ帰ると、

ルビィの帰りを待ちわびていたマリランと両親がいた。

マリランはルビィを優しく撫で、しっかり胸に抱きしめた。

それから一人と一羽は仲良く幸せに暮らしたのだが、

マリランは時々、この子がもう一度人間の姿になって、

自由に話せたらな、と言う気持ちになるのだった。

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