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小説になりきれない小説群  作者: ちゅうか
20/20

人工竜の行き先は…?

絆を具現化した鎖がその力を発揮する

清らかな水に恵まれた土地で、晶樹生い茂るヘーテシュ国に、ヌアエーと言う老人がいた。

彼には不思議な力があった。

普通の人間には見えないものが見えたり、精霊のお告げを聞く力だ。

彼は小さい頃から不思議に思う事があった。

それは彼の全身に巻き付いている、彼だけに見える鎖だった。

全身に巻き付いている金や銀の鎖は、それぞれ太さも長さも違う。

息苦しいと感じるが、実際は無害で手で触る事も出来ない。

(一体、この鎖には何の意味があるのだろう)

と考えていた。

歳を重ねるごとに、いつの間にか増えているのだ。

ある日、ヌアエーの所に目が赤く光る不気味な老人が現れた。

その老人は、彼を見ると表情を緩めた。

「鎖を切る手伝いをしてやろう。その代わり、切り離した鎖は私におくれ」

と言って、どす黒く、異臭のする火のついた松明を差し出した。

「この火で鎖をあぶるのだ」

「金の鎖は」

「なぁに、心配ない。試しにその火に触ってみてごらん」

熱くない。

「鎖を切ってはならぬ」

どこからともなく声がして、

「何故だ?」

と、ヌアエーが聞き返した瞬間、目の前に今度は鷲の形をした大きな影が現れた。

時折見える内部には星の様な光が煌めいている。

「金の鎖はお前の魂と肉体を結び付ける。銀の鎖はお前を大事に思っている人を結び付ける。その鎖は絆だ、鎖は多ければ多いほどよい」

すると、

「お前はそんな話しをしに来たわけではないじゃろう!!ヌアエーよ、騙されるなっ」

不気味な老人が怒鳴る。

自分はとんでもない事をさせられそうになっているのでは、と言う不安を見透かされているようで怖かった。

「お主に鎖を切る資格は無い、さっさと火を消せ」

「まだ言うか!!」

不気味な老人が、影に向かい地団駄を踏む。

「去ね」

上方から女の声がして、老人は絶叫しながら消えた。

鷲の影も消えたが、女の声だけは残った。

「あらゆる絆を具現化した鎖、その鎖を見る力があるとは…」

ヌアエーはその女の声から魔法を学んだ。

学び終えると声は消えた。

得意な魔法は、自らが作った作品に命火を込めるヨイロイの魔法で、人形等を動かして子供を喜ばせたり、いい音をひとりでに鳴らす楽器を作って、疲れた大人に安らぎを与えたりする優しい人だった。

彼の噂を聞きつけたセネファリ王は、彼に精巧で巨大な竜像を造らせ、命火を吹き込め、と命令した。

竜の鱗は硬い宝石や翡翠、鬣は不死鳥の羽、角は海の魔力を秘めた珊瑚、目には深海の闇を封じた黒真珠と、どんな鋭い武器も効かない。

つまりこの竜に命を吹き込んで、城を守らせようとしたのである。

王の命令では嫌とは言えない。

長い時間をかけ、ヌアエーは竜像を完成させ命火を吹き込んだ。

彼は王に、

「時が来れば竜は目を覚まします。どうか王様、竜を大事にして下さい」

と、王に竜を操る方法や、万が一の時は命火を消す方法を教えつつ頼んだ。

ヌアエーは力を使い果たし、竜が起きる所を見ずに亡くなった。

王は重臣と、竜の為に造らせた神殿の中で、目を覚ますのを待っていた。

数日後、鱗と爪が神殿の大理石の床に擦れる音がして、竜は澄んだ黒目で周囲を見渡した。

「目覚めたな」

王は笑顔で竜を眺めた。

「我、ラーファーン…」

竜は自らの名を口にした。

最初は神殿の中で、学者により勉強を教えられた。

竜は覚えが早く、未熟だった振る舞いや言葉も日に日に立派になった。

しかし、いざ竜に城を守らせようと外へ出すと、困った事が起きた。

太陽や月を始め、電気など様々な光を反射する竜が想像していたよりずっと眩しくて、誰も目を開けられないのだ。

これでは敵も味方も困ってしまう。

王は竜を操り、神殿へ閉じ込めてしまった。

宮殿では、連日竜をどうするか、と言う会議が開かれていた。

ある日、竜の番人を務めるアピピが青い顔をしてやって来た。

彼は竜に向かい

「大変な事になった!」

と言い、王達が竜の命火を消そうとしている事を伝えた。

彼は、竜が命火を吹き込まれていない頃から見張りをしていて、目覚めてからは自らの命を疑問視したり退屈する竜に

「いいか、自然な生物の命と、何かの故意が原因の命がある。全て命の行方は、あの夜の海にいる夜の女王が決めると言われる」

と、教えたり、

「会話が出来るんだから、お前さんにも心がある。見る事は出来ないが確かに存在する不思議なものだ。で、ここだけの話、人間の心を見る方法がある。この町から六つ程山を越えた所に魔法使いの婆さんがいる。心が見たいって頼めばその婆さんが特殊な杖を頼んだ奴の胸に差し込んで、見せてくれるんだぜ。え?どんな杖かって?確か全体が水晶で出来た杖とか言ってたな…その杖の先は丸い玉になってて、婆さんは呪文を唱えながら玉の部分を人の体にそっと入れて出すそうだ。すると水晶の玉の中にこれまた水晶みたいにな綺麗な形をしたものが入っているって案配だ。だが気をつけな、魔女は気に入った結晶は奪って返さないもんだからそのまま死んでしまうそうだ。それから…」

などと、気を紛らわしてくれた親切な番人だった。

アピピは竜に逃げ方を教えた後、

「今だから言う、私は身体が弱かった。だがある時夜の女王の使いと名乗る人物像が現れて、君に似た竜の幻を見せてその竜を守るよう言われた。その日から身体が丈夫になって、俺は、女王の存在を信じるようになったんだ。さぁお行き!」

竜は頷くと、彼に言われた通りに神殿を壊し、夜の海を目指す。

夜の海の中心に、奇妙な歪みを見た。

異質な時間と世界を繋ぐいびつな穴だ。

竜が穴に飛び込むと、穴は暗くなり、また光ると消えた。

盲目の夜の女王は、夜の海に侵入した何者かの気配を感じ、十二体いる配下の内、特に信頼厚い鷲の星像リャノトゥに命じてそれを引き上げさせた。

「造竜か…」

女王が、竜の体から感じた幾つもの傷。

夜の海の深部に巣喰う怪物との、壮絶な戦いの証だ。

「中々の闘いぶりでした…見込みがありますな」

と、リャノトゥ。

女王が竜の背を撫でると、気絶していた竜は、驚いたように頭を上げた。

「こちらは、大いなる夜の女王、ルナアパメ様ですぞ」

リャノトゥが厳かに言った。

「お前に、命火を吹き込んだのはヌアエー…なのだな」

竜は頷いて肯定した。

「魔法を教えた際に、様々な条件を加えたものよの」

「懐かしい。ルリーンナネル(大いなる女王の、十一人の愛弟子)のお一人ですな」

と、リャノトゥ。

「短いこれは、お前の過去の鎖じゃ」

そう言うと、ラーファーンに向かいどこからともなく銅の鎖を差し出して来た。

「途切れておりませぬか」

リャノトゥの言葉に、女王は首を横に振る。

「未来であろう鎖も見えておる。そして喜びや…悲しみや…死…」

女王は鎖を一旦消すと同時に、ヌアエーの死を悟った。

「お前…ラーファーンか。お前に、リャノと共に夜の海を守れ、と命じる。リャノ、この竜は成長しきれていない。育てておやり、お前なら安心して任せられる」

「御意」

「さぁ、お行き」

竜が大喜びでのびのびと夜の海で体を翻す度に、夜空に美しい波紋が広がる。

女王は、見る機会が無いのもあり、その心は余程の事が無い限り平坦で何も響かない。

だが竜の気配が思った以上に心地よく、その変化の原因は愛弟子から贈られた…と言っていいだろうか…の、価値がある命によると考えた。

ある時、リャノトゥは女王にラーファーンの近況を告げた。

「女王様。私はラーファーンに、幾つか私の炎を贈りました」

「ほう。それはいい」

女王は満足そうに頷く。

「ラーファーンの命火に合わせて踊るリャノの炎、か。伝わって来る…揺らめく感じが中々いいな」

一言

何人もの人から様々なものを貰いながら成長していく竜。

最終的にはどんな能力を持つ竜に育つのでしょうか。

少し気になります。

投稿者: 夕立

投稿日:2019年 12月22日 21時24分

____________


神話のようなあじわいの物語でした。

鎖という響きからどこか重たいものを感じていたのですが、なるほど他者との絆なのですね。確かに一歩間違えばがんじがらめになってしまうものですし、完全に重しとなるものがなければ人はみな風の吹くまま気の向くままの風来坊となりそうです。鎖という表現はまさに絶妙な表現だなあと感じました。


人間たちの勝手な理由で産み出され、また勝手な理由で不要とされた竜。居場所を見つけた竜はこれからたくさんの鎖を得ていくのでしょう。傲慢な王様が治める国は、神様たちの不興を買って(自業自得でしょうが)これから衰退していくのかなあとも思いました。

投稿者:石河 翠

投稿日:2019年 12月23日 18時26分

____________

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