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ニートだけどハロワにいったら異世界につれてかれた【書籍12巻、コミック12巻まで発売中】  作者: 桂かすが
第二章

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40話 森へ

 数日は特にすることもなかったので訓練と勉強と、あとアンジェラが午後からやってきたり、泊まって行ったり。3人でちょっといちゃついてみたり。


 3人でいいのか?と思ったが別にいいらしい。いや、こっちはとてもいいんですが。いいのかなあ。


 そこんところサティにも聞いてみたんだが、自分は奴隷だからアンジェラ様の次でいいのですと可愛いことを言ってくれた。可愛いなもう!


 アンジェラも前にもましてサティと仲がいい。ティリカちゃんと並べて3人姉妹みたいだ。でもティリカちゃんはどう考えてるんだろうな。まさかティリカちゃんにまで全部話してないよな?ティリカちゃんがいるときは2人とも自重してるし、ティリカちゃんはあんまり話さないし、感情も表にださないからわからない。


 ちなみにサティには外の人には家のことを話さないようにとしっかり言ってある。まあアンジェラやティリカちゃんに関しては仕方ない。もう半分家族みたいなもんだから。




 ようやくサティの鎧ができたので取りに行く。サティの準備はこれで万全だと思う。教官たちにも弓ではそこら辺のやつじゃ誰も敵わないとお墨付きももらっている。いよいよ森デビューをする時が来たのだ。


 念の為に遺書もしたためてティリカちゃんに託してある。もしおれが死んでサティが残ってもティリカちゃんと副ギルド長に任せれば安心だと思う。サティは解放されて自由になる。もう既にどこででもやっていけるだけの戦闘力はあるから、生活には困らないだろう。まあおれが死んだらサティも一緒に死にそうな感じがひしひしとするんだけど。あの時も逃げろって言ったのに逃げなかったしな……


「もしおれが死んだら」


「助けます」


「いや、死んでたとしたら」


「助けるんです!」


「サティが一人で逃げたほうがいいっていう状況がね」


「一緒に逃げましょう!」


 あまり言うとサティが涙目になってきたので諦めた。


 奴隷なのに逃げろって命令を拒否するくらいだから、心底嫌なんだろうな。愛されてるな、おれ。なるべくそういう状況にならないようにがんばろう。サティのためにも。


 本当なら森なんか行かずに野うさぎでも狩って生活したいところだが、世界の破滅が難物だ。どうやっても戦闘力を手に入れなければならない。なんだって伊藤神はもっと安全な世界に送ってくれなかったんだろうか。今日はそのあたりの苦情を書いてみるか。




 門を抜けるときいつもの門番の兵士と少し話す。


「ほう。今日は2人で森へ行くのか。ふむ。3,4時間ね。まあおまえなら大丈夫とは思うが気をつけろよ。もし戻りが遅かったら救助隊を出してやるよ」


「いやいや。危険には近寄らないようにしますから」


「そうだな。だが森では何が起こるかわからん。ドラゴンが突然住み着いたりな。何かおかしいと思ったらすぐに戻るんだぞ。森は最初の慣れないうちが一番危ない」


「ええ。まだまだ死ぬ気はないし大丈夫ですよ。用心に用心を重ねます」


「お嬢ちゃんもこいつをしっかり見ててやれよ。どうにも不安だ」


 アンジェラも言ってたが、おれってそんなに頼りなく見えるんだろうか。そしてサティにお守りを頼むのか。ちょっと腑に落ちないものがある。


「はい、お任せください!」


 サティはこっちの思いにも気が付かず元気に答えている。


「よし。じゃあ行くか、サティ」




 森の入口でまずは周辺の安全を確認する。隊列はサティが前、おれが後ろ。


 サティの聴覚探知のほうが探知範囲が広いからだ。おれの気配察知は範囲が狭い分、精密だ。あまり音を立てない小動物や昆虫系のでも取りこぼさない。


 サティの探知を逃れるようなのに危険なのはほとんどいない。毒を持ってたりするのもいるが、そういうのは大抵群れないし。危険なのは大型種やオークの集団など。そういう危険さえ回避すれば、森もそれほど危なくはないとおれは考えている。


 もし危険そうなのがいたらすばやく逃げる。もし敵が追ってくるようならサティを抱えてフライで逃げる。倒せそうな敵ならサティの弓で狙撃。接近されるようならおれの魔法も使う。状況によって攻撃してもいいし、土壁などで防御してもいい。当面の目標はサティの強化だ。サティのレベルを上げて生存確率をあげる。


 一通り、作戦を確認した。


「よし。サティ頼むぞ」


「はい」


 サティはがさがさと森に踏み入っていく。それほど大きな音ではないが、静かな森では少々響く気がする。サティにも隠密と忍び足をとらせるべきだな。2人で音もなく近づいて奇襲する。中々よさそうなプランだ。




 しばらくは何もなかった。鳥や小動物なんか探知に引っかかるものの、森の浅い位置はモンスターは少ない。今日はもう戻るか?そんなことを考え始めた頃、サティが急に立ち止まった。


「何かいます。1匹だけ」


「大きさはわかるか?」


「音からするとそれほど大きくはないみたいです」


「よし、近づいてみよう。もし当てられるならいつでも撃て」


「はい」


 少し進むと気配察知にも引っかかった。サイズはたぶんオークくらい。トロールではないだろう。


 この気配察知、理屈はわからないがどうも生命力のようなものを感知しているらしい。小さい生物は気配も小さいし、大きいものは気配も大きい。だからサイズがだいたいではあるが把握できる。


 サティが止まって弓を構えた。構えた方向を見たが、敵の姿は見えない。サティが弓を放つ。お?なんか倒れたのが見えたぞ。


「命中しました」


「用心しながら見に行くぞ」


「はい」


 やはりオークだった。矢が頭に刺さって死んでいる。


「よくやったサティ」


 オークはおいしい獲物だ。肉は単価が安いがサイズがあるので高く売れる。


 サティの頭をぽんぽんしてやる。ほんとうはなでなでしたいが、ヘルムを被ってるからね。


 しかし本当に腕がいいな。おれの目じゃ倒れるまでいるのがわからなかったくらいだし、この距離で急所に命中とか半端ない。魔法より射程が長いし戦闘がずいぶん楽になりそうだ。

 

「よし、引き返そう。ただ来た道を戻るんじゃなくて、街道のほうに抜けてみよう」


 帰り道も獲物が見つかるならそれに越したことはない。




 今度はおれの気配察知が先に反応した。


「サティ。あっちのほうに何かいる。オークの半分くらいのサイズだ」


 サティはおれが指をさした方を見て、耳をぴくぴく鼻をくんくんしているがわからないようだ。


 先頭を入れ替えてゆっくり近寄る。


「いました。大きい蜘蛛です」


 鷹の目効果か。見つけるのが早い。おれも取ってみようかな。 


「やれるか?」


「はい」


 弓を放つ。ドサッ、がさがさっと音がした。だがまだ動いている音がする。サティが第二射を放つ。ようやく森は静寂を取り戻した。


 剣を構えて慎重に確認にいく。蜘蛛は毒が怖い。


 大蜘蛛は矢を2本受けて息絶えていた。矢と死体をアイテムに収納する。


「偉いぞ、サティ」


 これなら数匹程度なら相手できそうな気がしてきた。森も言うほど危険じゃないな。広範囲の探知と遠距離攻撃での奇襲は効果抜群のようだ。

  

 


 そのあとは街道に出るまで何にも出会わなかった。それにたった2匹じゃレベルも上がらなかったみたいだ。


 


「へえ、オークに大蜘蛛か」


 サティのギルドカードを門番の兵士に見せてやった。


「遠距離から弓で急所を一撃ですよ。ちょっとびびって損しました」


「まあ油断はするなよ?森って本当に危ないんだから。あと夜は絶対戻れ」


 夜はおれも怖い。探知能力があるとは言え、見えなくなるし。そのうち暗視も取らなきゃなあ。


「お嬢ちゃんもハーピーのときも活躍したらしいし、もう冒険者見習いじゃないな」


 そういえば見習いとかそんなこと言ってたな。


「そうだな。サティはもう立派な冒険者でおれのパーティーメンバーだ」


「ほんとですか!うれしいです!」


 サティは大喜びだ。実際もうおれよりも強いんじゃないか?って思う。火力はおれのほうが上だが、戦ったら負けそうだ。神様にもらったチートって本当にすげーな。




 ギルドで報酬をもらって商店街に向かった。ティリカちゃんは仕事で不在だった。


「サティ、今日の報酬だ」と、銀貨を数枚渡す。


「え、でもこんなに……」


 今までも買い食いする程度のお小遣いは渡していたが、ここまでの大金は初めてだ。と言っても銀貨数枚なんだけど。


「サティが稼いだ金だ。ハーピーのときのは装備買っちゃって使えなかったしな。好きに使っていいぞ」


 言わば初任給みたいなものだし、今日は特別だ。


 サティはちょっと考えると服屋に入っていった。服か。無難なとこだな。あれだけあれば2,3着はいいのが買えるだろう。


 後をついていくと服の間を抜けて奥に入っていく。布?どうやら裁縫道具がお目当てのようだ。


 サティがちらりと心配そうにこっちを見るから、うんうんとうなずいてやる。好きに使っていいんじゃよ。


 布とひと通りの裁縫道具を買い込んでサティは満足気だ。自作の服か。セーラー服とか作ってくれないかな。サティにすごく似合うと思う。


「サティ、服とかの作り方は知ってるの?」


 ぴたっと立ち止まるサティ。こちらを困ったような顔で見る。


「知りませんでした。どうしましょう……?マサル様は知ってますか?」


「奇遇だな。おれも知らないぞ」


 サティが泣きそうだ。


「そうだ!アンジェラだ。アンジェラに聞いてみよう」


「そうですね!アンジェラ様ならきっと知ってますよ!」




 昼前なのでアンジェラは治療院は終わって昼食の準備をしていた。


「ごめん、裁縫苦手なんだよ……」


 露骨にがっかりするサティ。


「あああ、ほら、シスターマチルダが得意だから!シスターマチルダに教えてもらおう」


 ついでにお昼をご馳走になった。お土産に今日帰り道に獲ってきた野うさぎを3匹差し出す。


 シスターマチルダには午後から少し教えてもらえることになった。今日のところはその間、おれが治療院の手伝いをする。


 次からは午前に来れば教えてくれるということとなった。



 サティは家に帰るとさっそく裁縫の練習だ。教本みたいなのを借りてそれを見ながらちくちくと何かを縫っている。集中してるから今日はお相手してもらえそうにないな……本でも読んでおこう。ティリカちゃんに借りた歴史の本があったな。




 だいたい300年ほど前、この王国、元々は帝国の一部で王国の祖である辺境伯が反乱して独立したんだそうだ。魔境に接していて色々不満が溜まっていたらしい。で、魔境で鍛えた精強な兵士達と、獣人やエルフなどの亜人を味方につけて帝国と互角の戦いをし、独立を勝ち取った。当時帝国では亜人の地位は低く、そこを上手くついたのだ。その後は多少ごたついたものの、帝国とは和解。帝国としては北の国境が魔境と接しなくなるのはメリットが大きいと考えた。今では魔境の産物が帝国に輸出され、帝国からは食物や生産品が輸入される。王家同士も何度も婚姻を重ね、今では親戚同士となり帝国との関係は非常に良好である。

 



 読み終わる頃にはティリカちゃんとアンジェラがやってきて夕食。いつものお風呂タイム。


 風呂あがり、サティとティリカちゃんは食堂に行って裁縫の続きである。ティリカちゃんまで一緒になってやってる。まあ趣味を持つのはいいことですし。


 さっきお風呂で可愛がったから満足なんだけど、ちょっとさみしかったのでアンジェラと居間のソファーでいちゃいちゃしてやった。アンジェラまた泊まっていかないかなー。


 そんなことを考えてたら「明日泊まってもいい?」だって。もちろんですとも!




 森へ行く日。訓練の日。交互にする。どちらの日も朝一にシスターマチルダに1時間ほど裁縫を習う。その時間おれは暇なのでアンジェラのところに行って治療のお手伝いをする。アンジェラは時々うちにお泊りしていくから、それくらいはやっておかないとね。


 どちらも午前で終わり、午後は休息する。おれは訓練は3回に1回くらいにして家で本を読んだりしてたけど。訓練場で軍曹どのに相手をしてもらうと、毎回ぼっこぼこにされてすごくつらいんだぜ。森へは一日置きで出動してるから訓練はほどほどでいいと思うんだ。これでも日本でニート生活を送っていた頃と比べれば大した進歩だと思う。人間無理はいけないのだ。


 森も特に危ないことはなく、実に順調である。敵はほとんどサティの弓で始末し、経験値を稼がせた。トロールなどは弓くらいじゃ平気で突っ込んでくるが、土魔法で足止めして余裕でした。


 サティの3レベルアップ分のポイントは隠密と忍び足につぎ込んで、レベル2ずつにしたのでますます安全度は上がった。弓の腕もあがって3連射なんて技も使いこなす。全く頼りになる子である。


 おれがやることと言えば、行き帰りに野うさぎを狩ることくらいだったんだが、それすら隠密を覚えたサティがこなすようになった。なんかおれいらない子?


 こうしてしばらくの間は平穏に時間が過ぎていった――


心の傷を癒したマサルはほんの束の間の日常を楽しむ


次回、明日公開予定

第二章最終話 41話 平穏なる日常


誤字脱字、変な表現などありましたらご指摘ください。

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