338話 エルフの里、新兵器
「なんだか暖かいな?」
帝都のエルフレストランでの昼食後、エルフの里の王城二階テラスへと転移したところ、クルックが言う。今は十二月末。場所によってはすでに雪が積もるくらいの寒さがあって、当然みんな冬用の装備となっている。
「エルフの里はたくさんいる精霊の力で夏は涼しくて冬は暖かいんだ。見ての通り、高い壁で囲まれて風もあまり吹き込まないしな」
お陰でここで育てている稲の生育は順調だ。そしてクルックたちの泊まりの手配と魔力開発のことを頼んだところ、ちょうどランチ前だと言うので一時間後くらいに施術者たちに集まってもらうことになった。もちろん俺が言えばすぐに集まってくれるのだが、お昼抜きにしてまで急ぐような用件でもない。
時間ができたのでまたクルックたちに空からの景色を披露して降りたところで、千年計画の関係者に捕まった。先ほど双発プロペラ機のテスト飛行をしたらしいのだが、あまりいい結果ではなかったようだ。それで開発を担当しているランディーズ殿が一度見に来てほしいとのことだ。本日は休暇だと知らせてあったはずだが、いまひとつ周知されていないようだ。まあ航空機の開発状況は俺も気になるからいいんだけど。
「お前らにも見せてやろう。ミズホでも関係してくるしな」
ミズホ攻略では最初に砦用の場所を二カ所制圧するのだが、その最初の移動を電動航空機でやる予定なのだ。現地かその近辺まで空からひっそりと移動して俺たち転移持ちが降下すれば、あとは転移で人員なり物資なりを輸送すればいい。だからもし性能のいい新型があればそちらを使いたい。
それから広い場所が必要な研究施設をミズホに作る予定だ。航空機の開発ではエルフの里は狭いし周囲は森だらけで魔境にも近い。帝都は都市部だし航空機のテストなんて危険すぎる。広くて安全な場所。そして将来的にはロケット開発もするなら周囲は無人が望ましいとミズホにしたのだ。
「この航空機というのは名前の通り、空を移動するための乗り物だ。ドラゴンより早くて、しかも魔法を使わない」
駐機して整備中の双発機の近くへと移動して、そう説明する。
「は? こんなのが魔法もなしでどうやってだ?」
クルックが当然の疑問を口にする。
「鳥だって魔法なしで空を飛ぶだろう?」
「そりゃそうだけど……」
鳥というには双発機は巨体だし、鉄製でいかにも重そうだ。装甲を重視しすぎたな。きちんと設計段階から強度や重量を計算できればいいのだが、現状は簡単な図面を作るくらいで、いきなり作ってしまっている。
納得がいかない様子のクルックたちに足元の小石を拾ってぶん投げて見せる。
「ほら飛んだ。空を飛ぶなんて案外簡単だろ? フライは魔力で風を起こし、鳥やドラゴンは翼の羽ばたきで飛ぶ。だからそれを他のもので代用できればいい」
そう言って手をパタパタと振ってみせる。それだけで風は発生するのだ。
「この部分が回転して風を起こすんだ」
整備作業の邪魔にならないよう翼の前方に回ってプロペラを見せる。それでも怪訝な顔をしている。この世界に扇風機なんかないし、実際に動いて風が起こっているのを見なければよくわからないだろう。
「問題は速度と距離なんだ。あのでかいのをどうやって飛ばすか。そして力を継続するか? たとえばシオリイから王都だと、魔法でも一気に飛べるのはエルフの精霊魔法くらいなんだけど、普通の人間には出せない大量の魔力が必要となる」
馬は全速力なら六〇キロくらいは出るがそれも短距離だけだ。一日走ることを考えると時速一〇キロか無理をさせて二〇キロがせいぜいだろう。魔法のフライなら安定して六〇キロほどは出るが、魔力酔いによる制限で俺でも一〇分ほどしか飛んでいられないし、普通の魔法使いだと基本個人用で人員輸送などは無理がある。
それでなぜ航空機が飛ぶのかと言う話だ。
「火の力を水に加えて、それを電気に変換して貯めて、プロペラを回している」
うむ。この短い説明じゃさっぱりわからんよな。そうなると火力発電の説明からになるのだが……やはりこのあたりの説明は手間取るな。そのために基礎科学教本を作ったんだし、こいつらにも勉強しておいてもらおうか。
「飛べる機体は? ある? じゃあ一度乗ってみたいから準備を頼む」
手近なエルフに声をかけてそう頼む。実は俺も乗ったことがないからいい機会だ。それで実際に飛ぶのを見れば理論も理屈も関係なくなる。
当初、千年計画の真価を理解したのはほんの数人の天才だけだった。しかし計画から様々な品が作られるに至って、その価値を多くの者が実感するようになった。そして計画に懐疑的だったりよく分からないからと距離を置いていた多くのエルフから、元々の職人や生産畑の者だけでなく軍人や戦士たちからの受けも良く、協力者は続々と増えている。
ランディーズ殿は違和感なくエルフやドワーフたちに混じって作業をしていたが、二機のモーターを降ろし終わって俺たちのほうへとやって来た。
電動モーターもプロペラへ動力を伝達する機構もシンプルな構成になっているが、すべて試作品だ。手作りで品質は安定しないし強度にも不安がある。動かした時に問題がないように見えても毎回のチェックは必須だし、今回は飛行が不調だったからモーターを完全に外してなんらかの改良でも加えるのだろう。
「やはり電動モーターの出力不足だろう?」
声をかけた俺の言葉にランディーズ殿が頷く。動きやすく汚れても良いような作業着で、顔まで煤まみれ油まみれになっていて次期帝王にはまったく見えない。ほんと何やってんだか。
「ではミズホ攻略はどうする?」
「三日で改良は無理だろう? ミズホは予定通り単発機を使うことにする」
すでに運用している単発プロペラ機は軽量化のため防御面がまったく考慮されていない。下手したら普通の鳥がぶつかったくらいで壊れかねないくらいだ。そこで鉄製の頑丈な戦闘用航空機をつくるため、双発の電動モーターで飛ばすことを提案したのだが、今回の試験飛行で飛んだことは飛んだのだが自力での離陸はできないし、飛行自体も非常に不安定なものだったそうだ。
機体強度を優先するあまり、重量が重くなりすぎた。二個の電動モーターでも重量に対してまったくパワーが足りなかった。こんこんと機体を叩きながら言う。
「装甲をもっと薄くして、それと必要な部分だけ鉄にして重量軽減してもいいかもしれないな」
実際の開発には俺はほとんど関与していない。見なければいけない部署が多すぎるし、俺よりみんな有能で、任せたほうが良いものができるからだ。というか航空機開発に限らず、専門的な話をされてもほとんどわからないと答えるしかない。俺にできるのは一般的なアドバイスらしきものくらいだ。
「たしかに機体の強度は上げたいけど、それで速度が出ないことのほうが問題だぞ」
ドラゴンやハーピーを速度で引き離せれば、強度は控えめでも問題はない。速度的に目視でもまだ十分回避できるはずだし、魔法での防御もできるのだ。要はバランス、優先順位付けだと、ランディーズ殿に話す。
「離陸はまだ自力でできないとしても、最高速度が単発機の八割か九割くらいは出るようにならないとな」
魔法の補助を活用しているのもあるが、ドワーフがやってきてから開発スピードが加速している。現段階で飛行ができたのなら近日中に実用化はできるだろう。
「案にあった三発機か四発機ならなんとかなるのではないか?」
そうランディーズ殿が食い下がる。三発機なら今日明日中に改造ができるかもしれないが……装甲航空機、戦闘もできる航空機にこだわるのには理由がある。ランディーズ殿は爆撃機を作りたい。そして実戦に兵器を投入してみたいのだ。
「飛べても航続距離がこれ以上短くなるのは運用上問題だぞ?」
そうだなと、ランディーズ殿が頷く。単発機でも無補給なら一時間程度しか飛べないのだ。現地への輸送は俺がアイテムボックスに入れて運んでいるのだが、単発機以下となると運用は厳しいと言わざる得ない。
「ではこいつも見てくれ。ちゃんと動くぞ」
連れて行かれたのは整備場の建物の外。そこにごつい六本タイヤの鉄の槽が鎮座していた。
「装甲蒸気車だ」
ドヤァとランディーズ殿が指し示すのは夫婦で住めそうな家サイズの鉄の塊で、タイヤがなければなにかのタンクにしか見えない。戦車のことも資料にしたから、それを見て蒸気戦車を作っちゃったのか。実用になるのか?
「これに魔法使いを乗せて戦場を走らせれば敵なしではないか?」
こいつを試しにミズホに持っていけということらしい。なんなら自分で現地に赴いて運用までしたそうだ。速度も馬くらいまで出るらしい。
もともとは俺が輸送車がほしくて蒸気駆動のトラックのようなものの開発を頼んでいたのだ。むろん蒸気では効率が悪いが、電動モーターではまだ大きな重量は扱えないし、とりあえず輸送車のモデルを作って、エンジンができたら載せ替えて動かせるといいなくらいに思って頼んでいたのだ。これで蒸気機関車はもう作れそうだし、蒸気船もいける。ノウハウを積み重ねれば次が楽になるのだ。
物資の輸送が大きな課題だった。特に石油の輸送だ。石油は発電量が増えるに従って、消費が増え、必要な輸送回数が増えつつあった。今のところ俺たちで分担してそう大きな負担でもないが、それでも俺たち頼りになってしまうのは懸念がある。エネルギー需要が増えることを考えれば、独立した輸送システムの構築は必須だろう。
「できなくもないが一台じゃ厳しいぞ。足を狙われたら終わるし、稼働時間も少ないだろ? 使えてもせいぜい拠点防衛用だな」
火砲や迫撃砲が作れれば移動砲台として運用もできるだろうが、今はまだ遠距離攻撃といえば弓か魔法くらいしかない。
「どうしても使いたいなら複数台作って徒歩の兵士と一緒に進める感じになるな」
こちらの人間からするとどれも大した新兵器に見えるのだろうが、俺からすれば未完成の欠陥だらけの乗り物にしか見えない。命を預けるには信頼性が低すぎる。
魔法使いを最前線に押し出して安全に運用できるなら利点は多いが、信頼性が低い試作戦車に貴重な魔法使いを何人も乗せたくはない。巨大で威圧感のある鉄のタンクだ。単独でも敵陣に突っ込ませれば大混乱だろうが、タイヤを狙われて擱座してしまえばそこで終わりだ。
そう説明する俺の言葉にランディーズ殿は諦めたようだ。このサイズでは複数作るには、蒸気機関も装甲も資材を食いすぎる。制作時間も相応なものとなるだろう。
いやダメだわ。内部を見てみれば一〇人くらいは乗れそうだが、蒸気機関と同室である。密閉構造で居住性は皆無だし熱すぎて死ぬ。たぶん魔法で無理やり冷やしてたんだろうが、燃え盛る蒸気機関と戦闘しながらの同室はどう考えてもリスクがありすぎる。
「だけど考え方は間違ってない。装甲車はいずれ戦場での主力を担うことになる。改良案があるなら試作は続けてもらってもいい」
せめて半分のサイズに小型化するのと装甲の改良。あとは無限軌道の採用ができればだが……蒸気じゃどうやっても無理だろう。実用的になるのはガソリンエンジンができてからだな。
「本当にこんなのが動くのか?」
一緒に見に来たクルックが言うので俺も聞いてみる。動いているところを見てみたい。
「すぐに動かせるか?」
「火を落としたから時間はかかるが……」
「だそうだ。見せてもらうのは今度にしよう」
今日は単発機に乗るだけで十分だろう。
「ん? それは新しい護衛か?」
ランディーズ殿はようやく俺の周りをちょろちょろしているクルックとシルバーに注意を向けた。まあ格好が冒険者だしな。
「それ? 俺は勇者マサルの友人だぞ、おっさん!」
そう偉そうにクルックが言う。おっさん!? それ呼ばわりされたからってクルックは命知らずだなー。
しかし俺が何か言おうとする前にラザード殿のゲンコツがクルックに下った。ゴツンとかなりな音がして、クルックが痛みで倒れ、地面をのたうち回る。
「うちのが失礼な態度を。あとでちゃんと言い聞かせておきますので」
そう頭を下げるラザード殿に、ランディーズ殿は気にすることはないとクルックを面白そうに見ている。
「しかしおっさんか。そんな呼ばれ方は初めてだな」
蒸気機関を弄っていたせいだろう。顔も手も真っ黒に汚して、やっていることも相まってなにかの職人にしか見えない。
「そんなに汚すから職人にしか見えないぞ?」
そう言って浄化を詠唱してやり、さっぱりした装いに直してから言う。
「今後も顔を合わせる機会があるかもしれないから紹介しておこう。冒険者時代に世話になったラザード殿。ミズホで領民軍のトップになってもらおうと思っている。後の二人は倒れているほうがクルックで、もう一人がシルバー。俺の友だちでこいつらにもミズホでなにかやらせようと思っているんだが、今のところ見習いだな」
「ランディーズ・ガレイだ。計画で航空機の開発を担当している。軍に関しては詳しいから、困ったことがあったら相談くらいには乗ろう」
そう言って差し出した手を握ろうとしてラザード殿が固まる。
「ランディーズ、ガレイ……帝国軍総司令閣下?」
ランディーズ殿はそのまま気にせず握手をして続ける。
「ここでは一人の職人でマサル殿の部下だ。謝罪ももう受けたから気にしないでも良い。本人も報いは十分に受けたようだしな」
身綺麗にして威儀を正せば、作業着でもちゃんと帝国軍総司令に見えるから不思議だ。そして立ち上がったところで話が聞こえていたクルックが青い顔で震えている。
「良かったな。ランディーズ閣下が寛大で」
そうクルックに言いながら三人を引っ張って、準備ができて滑走路へと引き出された単発機のほうへと向かう。
「ランディーズ閣下のことは本当に気にしなくてもいい。本人も気にしてないだろうし、ここでは俺の部下だっていうのも本当だから」
「しかしなんでまたこんなところで……」
あんなに油まみれになっているのか。そうラザード殿は聞きたいのだろう。
「航空機にはそれだけの価値があるんだ。見ればわかる」
単発機は飛ぶ前に機体のチェックが入るようだ。
「こいつで王都から帝都まで丸一日でいけるとしたら? 速度はフライの数倍だ。今のところ運べるのは六人が限度だけど、ランディーズ殿が作っている機体が完成すれば一〇人以上でも乗り込めるようになる」
ほうほうとラザード殿も興味深げに聞いている。
「魔法使いは不要。そして馬車みたいに何台でも作ることができる」
今のところ量産や販売の予定はないが、馬車が馬の維持が必要なことも考えれば、コスト的にも悪くはないはずだ。
「なるほど。それなら商人なら欲しがるでしょうな」
少しは納得いった様子でラザード殿が言う。
「マサル様、いつでもいけます」
パイロット役のエルフからそう報告が入る。脚立から翼を足場に、風防など一切ないオープンな後部座席に苦労して乗り込む。これはちょっと不便だな。乗り込む専用のハシゴかなにかを作るように言っておこう。
パイロットが先頭の座席。その後ろにバッテリーが積んであって、バッテリーの管理役が乗り込む。その後ろに客席があって二、一、一列となっている。その最後尾に乗り込むと、俺が小柄なのもあるが結構広い。これならもう一人いけるだろうと、サティも呼んで膝に乗せてみた。
「五人になるけど、大丈夫か?」
「航続距離や動きは多少落ちてしまいますが、余裕は持たせてありますし飛行自体にはなんら問題ありません」
そうして前方の座席にパイロットとバッテリー係と俺たち五人を乗せて、モーターが動き出した。プロペラからの風も強まり、機体が動き始める。内壁と外壁の間は、農業でもしようと広く作ってあって滑走路に使うにも十分だ。農業は今のところそれどころじゃないと、計画中止になっていたが。
「おお、動いた」
滑走路上を順調に加速していき、やがてふわりと離陸をする。
「浮いた? 飛んだ? 飛んでる!」
そうクルックが一人騒いでいる。すぐに高度は森の高さを超え、さらに高く上っていく。吹き込む風がかなりきつい。後部席にも風防をつけたほうがいいな。
「この後はどうしますか!」
高度が安定したところでパイロットが後ろを向いて叫ぶように言う。
「旋回と上昇と下降を見せてくれ!」
そう指示すると即座に機体が旋回に入った。ゆっくりと機体が傾き、大きな弧を描いていく。半周ほどしたところで反対側に旋回しつつ機体が上向き、上昇に移った。
実用化した最初の航空機だ。戦闘向きではない鈍重な動きではあるが、ちゃんと操作できているだけすごいことなのだろう。
「これより下降に移ります! 座席前の手すりをしっかりと握っていてください!」
そういえばシートベルトもないな。パラシュートもない。パラシュートは確か話してあったはずだが、乗員もつけている様子はない。まあ落ちても魔法で落下は防げるから問題ないんだが、今後のこともあるし開発は頼んでおこう。
そんなことをのんびり考えていると、機体が前へと傾き、急激な浮遊感がやってきた。膝のサティが身を固くし、前のほうでは悲鳴が上がった。懐かしい、ジェットコースターが下降したときの浮遊感。しかし数秒ほどで機体が引き起こされ水平飛行に移った。
「このまま戻って城の上を通過してくれ! 俺はそこで飛び降りる!」
ミズホに行く前に降下の練習が必要だろうと今思いついた。
エルフの里がすぐに見えてきたので、サティを前に座席から慎重に這い出る。後ろや上に飛ぶと機体の後部にぶつかりそうなので、一旦翼に出る。
「俺が出たら、着陸してくれ! じゃあサティ、いくぞ」
そう言って横方向に機体から離れるように軽く体を押し出し、サティを抱えて落下状態に入った。自力で飛べて落ちることはないと言っても飛び出す時は怖いし、落下も結構怖いな。
そして目指す城のテラスは思ったより速度が出ていて通り過ぎてしまった。降下用の小型のパラセールでも作るか? 降下速度も落ちるし、降下地点のコントロールもできる。そうでなくとも普通のパラシュートの装備は考えておくべきだろう。
狙いが外れたので、城の尖塔の一つに向けて落下をコントロールして着地した。かなり体が流れるし、レビテーションの発動タイミングももっと遅くても良さそうだ。
当日は俺とサティ、ウィルとリリアでやる予定で降下のコントロールはリリアの担当となるのだが、できれば事前に一回は降下テストをやっておいたほうが良さそうだ。
「マサル様、突然危険なことをするのはお止めください」
尖塔から地面に降りたところで、文字通り飛んでやってきた三姉妹長女のマルグリットに叱られた。
「悪い。降下のテストをしておくべきだと上がってから気がついたんだ」
護衛対象がいきなり飛行機から飛び降りたら、そりゃ気が気でないだろう。悪いことをした。
「降下はリリア様が一緒でしょう?」
単独降下の練習は必要はないが、思いついたらやってみたかったんだよ……
最近エルフたちは俺に対して過保護になっている気がする。もちろん前からその傾向はあったが、ここのところそれが強化された感じだ。千年計画の重要性に気がついたからなのだろう。
もっとも俺の知識はほぼ出し終えた。むろん細かい情報はまだまだあるのだが、千年計画は走り始めた。仮に突然俺が何もかも嫌になってヤマノス村に引き篭もって外部との一切の交渉を断ったとしても、千年計画は間違いなく続行される。貴重ではあれど絶対に必要といった存在では俺はもはやないはずだ。
むしろエルフのほうが今後は重要になってくると俺は思っている。俺一人よりエルフに育ちつつある科学者や技術者たちのほうが絶対に貴重だし有用だ。
俺の魔法使いとしての力にしても今後魔法使いは増えるし、エルフの空間魔法使いも生まれていくはずだし、剣士としての腕も源流の中でも五番手か六番手。俺しか無理なのは新規の加護持ちの追加くらいだろうか。
「まあまあ。サティも居たし、危険なことなんてなかったから」
そうマルグリットを宥める。
「夕食まで時間ができそうだから大浴場でゆっくりしないか? ああ、その前にアンたちを迎えに行かなきゃだな」
あとはクルックたちを拾って魔力開発に送り込んだらゆっくりできる。
「ではアンジェラ様とティリカ様は我々がお迎えにあがりましょう」
そう言ってすぐに三人で転移していく。みんなでお風呂に入って、そのあとは夕食までゴロゴロできるかな。
末っ子のシャルレンシアに加護が付いて以来、イオン以外に加護持ちが増えていない状況だ。三姉妹とはなし崩しに何度か仲良くしているし、護衛のみんなも付き合いが長くなってきた。誘えばお風呂にも普通に付いてくる。
リリアによれば護衛から何人か加護が付く日も近いのではということで、これも必要な仕事だ。特にエッチなことをするつもりもないが、洗いっこくらいはするし、単に一緒にお風呂に入って裸を晒し合うだけでも仲良くなるものなのだ。




