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208話 再会とか

前回のあらすじ

・ヒラギス奪還作戦四日目、新しい加護持ちの誕生とエルド将軍との会合


「軍曹殿がラクナの町に着いている?」


 ティリカがこくりと頷いたのはゆっくりお風呂でほどよい運動をして、まったりと休憩していた時のことだ。


「リシュラ王国の軍と冒険者の部隊が昨日遅くに到着してたみたい」


「ふうむ。ちょっとだけなら抜け出して会いに行っても大丈夫だよな?」


 今日は襲来する魔物が少なく、俺にまで出番が回ってくる様子が全く無い。

 さっと行って戻れば……考えているところにティリカがくいくいっと袖を引いてくる。


「それならほーくをこっちに置けばいい」


「ああ、それはいいアイデアだな」


 召喚獣(ほーく)をコームに持ってきて俺たちがラクナへ行けば、コームの状況は常時把握出来る。

 すぐに出発の準備をした。リリアには留守番を頼んで、移動するのは俺とサティとティリカ、見学エルフちゃん姉妹。ミリアムはそのままオレンジ隊と一緒に城門で防衛のお手伝いだ。

 エリーたちも拠点で休息中ということで、すぐに飛んで召喚獣を回収。また戻ってコームに設置。それからまたラクナに移動した。面倒だけどこうしないといきなり召喚獣が消えてエリーたちが心配するだろうし、次から何か合図を決めてやればいい。


「知らせたばかりなのに早いわね」


「ほら、もともとヒラギスに来たのってギルドからの依頼だろ。一度ちゃんと話しておかないとって思って」


「あー、そういえばそうだったわね」


 事の起こりは冒険者ギルドからの依頼で、ブルムダール砦への物資の輸送とヒラギス奪還作戦への参加だ。それが三ヶ月ほど前のことだが、ずいぶんと前のことのように思われる。

 それを今は好き勝手にやってる状況で、また依頼をすっぽかしたのかと怒られかねない。

 まあ冒険者ギルドに顔を出して、何か面倒になっても困ると避けてたのもあるし、そもそもギルドのあるブルムダール砦に戻って何かする暇がなかったというのもある。なるべく早く状況を是正しておくべきだろう。

 

「エリーのほうは休んでても大丈夫なのか?」


「ビエルスの剣士隊が出ててね。あの人たち敵に突っ込んでいくから出番がないのよね」


 魔物の数が増えてきたら呼ぶように言って、いまは休憩中らしい。


「南のほうも静かなんでしょ? 魔物もようやく弾切れなのかしらね」


 それとも再攻に備えて戦力の補充をしてるのか。何にせよみんな頑張って戦ってきたものな。ここらでゆっくりしても罰は当たらないだろう。


「アンは?」


「壊れた神殿の再建よ。魔物にボロボロにされてたのをさっき新しい建物を作ってあげてね」


 末っ子ちゃんの話を聞いて信仰心が刺激でもされたのだろうかね。


「馬鹿ね。怪我人が出るでしょう? それに人もずいぶん集まってきたし、治療のための拠点よ」


 ああ、そうか。戦いでの怪我人はむろん軍で面倒を見るのだがあまり大量だと手に余るし、商売目当ての一般人や治癒術師を連れてない冒険者なんかもいる。

 この世界の神殿はかなり実用本位なところがある。人の世の役に立つことが信仰にも繋がるのだそうだ。この状況でお祈りのために神殿設置なんかしないよな。

 しかしせっかくエルフと一緒に行動して姿を隠してたのに、ここでも聖女様ムーブか。決して悪いことではないんだろうけど。


 シラーちゃんはアンの護衛で、ルチアーナはオレンジ隊とともに城壁に詰めて経験値稼ぎ。ウィルはエリーの護衛として一緒に戻ってきてて別室で休憩中とのことだ。

 出かけるのにエリーも誘ってみたけど、建物作りで一働きしたので休憩したいようだ。ソファーですでにうとうとしている。


 軍曹殿は宿舎からもそう遠くない元冒険者ギルドにいるらしいという情報で訪ねてみると、すぐに見つけて会うことが出来た。


「ずいぶんと派手にやっているようだな」


 久方ぶりの軍曹殿に会うなり言われた。本日の俺の装備は数日ぶりの顔出し冒険者スタイルである。サティとティリカも通常装備で付いてきている。もちろん見学エルフちゃんも同伴してるのだが、オレンジ隊の焦げ茶ローブは目立ち過ぎるので、普通のローブに着替えて貰った。顔を出すとエルフと丸わかりなので顔を見せない怪しい一団になってしまったが、無駄に目立つよりいい。

 

「それはエルフがですよね。俺はしがない冒険者ですから」


 軍曹殿がおかしそうに笑った。軍曹殿はかなり俺の事情に通じていて、リリアがエルフの王女だということも把握しているし、エルフが暴れていると聞けば俺との関連は疑う余地はないだろう。


「修行はどうだった?」


「いやあ、さすがに時間が足りなくて」


「ほう。ならば時間さえあればどうにかなるのだな?」


「まあそうですね」


 奥義の習得は不完全だし師匠にはしょっちゅうダメ出しを食らうが、あとは時間をかけて地道に修行をして、経験を積めばなんらかの完成形に近づくだろうとのことだ。

 はっきりしないのは俺は実戦だと魔法メインのオリジナリティの高い戦い方をするから、師匠ですらその戦技の完成形は見通せないし、またそれは余人があれこれ言うべきことではない事柄だからだ。


「別れて三カ月か。修行の成果、見せてもらおうか」


 そう言うや軍曹殿がすらりと腰の剣を抜いた。ギルドの訓練場に誘われた時から薄々わかってはいたが、やはりやるのか……


 軍曹殿がスペースを開けるよう周囲の冒険者に言うと、賑わっていた訓練場がすっと静まる。


「なんだ? あれ真剣だぞ」「片方はリシュラのギルド付きの教官だな。実戦稽古だろう」

「もうひとりは?」「知らん顔だ」


 ものすごく目立ってしまっているが今更だな。ここでは無名だがビエルスではもはや知らぬ者が居ないほどなのだ。見学エルフちゃんの手前もある。堂々としてればいい。


「ちゃんと避けるか受けるかしてくださいよ?」


 そう言って俺も剣を構える。真剣同士ではあるが、今回は何もやりあって勝敗を付けようって話でもない。成果を見せられればそれでいい。


 ゆっくりと剣を大上段に構える。一歩踏み出す。奥義――烈火剣――真剣が唸りを上げて振り下ろされる。

 フェイントも工夫も何もない一撃だ。簡単に躱された。そこから流れるように雷光剣に繋げ――それも受けられる。追撃は不動剣。一撃、二撃。

 全力の重い打ち込みに、ついに軍曹殿が膝をついた。

 

「見事だ」


 一旦剣を引いた俺に、立ち上がりつつ満足そうに言う。やはり壊れた膝に十分な力が入らないようだ。良くぞ以前の俺たちとの修行で一度も故障した素振りを見せなかったものだ。


「いいえ、まだです」


 いま見せたのは劣化奥義に過ぎない。軍曹殿から十分な距離を取る。この一撃は見せるだけだ。寸止めするようなコントロールは出来ない。

 ギリギリと剣に力を込める。リミッターを外す、限界を超える感覚。


「雷光」


 全力での一閃を軍曹殿の目前に放ち、剣を収めた。


「これが王都で見せて貰った技の返礼です」


 無理をした腕と肩が軋む。だが変に抑えようとすると劣化になってしまうし、そうでなくとも三回に一回くらいはまだ失敗するのだ。力は抜けない。

 その力が変に入るから腕や肩を痛めるのだと師匠は言う。全身から満遍なく、バランスよく力を引き出せれば、全力の奥義とてそうそう体にダメージは入らないはずだというのだが、なかなか難しいわ。


「見事だ。やはりマサルは俺を超えたか」


「まだまだです」


 言いながら痛む体にヒールをかける。再び訓練場がざわめきを取り戻す。


「なんだ、もう終わりか?」「いいものが見れたな」

「いいもの? 今のがか?」「お前じゃわからんか。恐らく若い方はビエルスの、それも相当高位の剣士だぞ。いいか、まず最初の技だが――」


 それなりに有名になったとは思ってたが、まだビエルスだけのことだったようだ。技は有名でも俺のことは全然知られていない。

 まあ剣士としては特に何の活躍もしてないからな。戦場ではエルフの守護者としてだし、大きな大会には出るつもりはない。ビエルスでも表舞台で戦った回数はそう多くない。もしかするとこのままいい感じに無名で過ごせるんじゃないだろうか。


「サティはどうだ?」


「もう完全に俺以上ですよ」


「これ以上か……お前たちはいつも俺を驚かせてくれるな」


 俺個人としてはまだまだ足りない部分はあるにせよ、修行全体に関しては上々の成果だったと言っていい。やはり軍曹殿の指示には間違いがない。


「お師匠様は? こちらに来ていると聞いていたが」


「今エルド将軍のところです。そのうちこっちに戻ってくるんじゃないですかね」


 居たら居たで誘おうとは思ったんだが、わざわざ探してまでのことでもないし師匠は置いてきた。


「時間はあるか? ビエルスでのことを聞かせてくれ」


 むろん時間はある。軍曹殿のほうも、到着してすぐということで今日明日は休息なんだそうだ。俺たちが働いているお陰でここの防衛はずいぶんと余裕があるのだ。


「近くに酒場が開いてましたからそこにしましょう」


 酒はなしで、ちょっと早めの昼食にしよう。


「高いぞ?」


 そこらで話そうにも到着した冒険者でギルドはごった返している。


「むろんおごりますよ。実はエリーのお兄さんの領地で、街道を通すのを手伝ったんですけど、ちょっと山を削ってみたら鉱山が出まして。その分け前で懐はかなり暖かいんですよ」


「王都で儲けたお金はどうしたのだ?」


「そのお金はですね――」


 王都を出てから本当に色々あったな。ヒラギス居留地からビエルスでの辛い修行の日々。そしてヒラギスでのここ数日。軍曹殿に聞いてほしい話はたくさんある。





「聖女殿にエルフ。それにソードマスターとはな」


 聖女様の業績はかなり広く知れ渡ってるし、オレンジ隊に協力してるという話は軍曹殿から見ても不自然な部分はない。ビエルスの修行に関しても特に隠すようなこともない。まあ無論ここでの話は基本内密にして貰っている。

 食事をしながらサティも修行のこと話したし、ティリカも聖女様の話は同行してただけあって、俺の知らないことも知っていた。そして見学エルフちゃんたちがそれをふんふんと興味深げに聞く。


「だいたい軍曹殿もひどいですよ。紹介状も何も持たせてくれないんですから」


「俺もビエルスを離れて長いからな。紹介状など書いてもどれほどの力があるか。それにお前らなら問題なく師匠に会えると思っていた」

 

 別に厳しくしようと思って送り出したのではなかったようだ。


「しかし着いてその日のうちに試練を抜けて師匠とやり合うとはな」


 師匠との遭遇戦はあんまり笑い事じゃなかったんだけどな。下手したら殺し合いになっていた。


「軍曹殿の時ははどうだったんです?」


「俺は普通に道場からで、師匠に会うまで一年以上かかった」


 驚いたのは軍曹殿がソードマスターですらなかったということだった。


「奥義を習得した時点で自分の力を試したくてな。帝都の剣闘士大会で優勝した後は王国に戻ったのだ」


 元々冒険者だったそうで、それから数年。Aランクになったところで怪我で引退。パーティごと壊滅したという話でそのあたりのことは余り話したくはないようだ。


「自分の力を過信しすぎていたのだろうな。お前はそうなるなよ?」


「サティたちが居ますし、俺は絶対に生き延びて幸せな家庭を作るんです」


 これからだ。修行だ戦争だの殺伐とした日々を抜けて、これから俺は幸せになるんだ。


「まあそう言う訳で俺たちは独自に……」


 言いかけたところで誰かが急に俺たちのテーブルに割り込んできた。


「野ウサギじゃないか!」


 どこかで聞いたアダ名とどこかで聞いた声。


「その呼び方は辞めてもらえませんかね……」


 確かこいつはシオリイの冒険者で、エルフの里へも俺と同時期に行っていて、エルフの里の防衛戦の終盤に救援に来た冒険者たちの一人で、名前は確か……


「ポルガ」


「パルガだ、マサル。お前もこっちに来てたんだな! ヴォークト殿に、サティちゃん。それと……」


「ああ。そっちの娘らは人見知りで恥ずかしがり屋さんなんで気にしないでくれ」


 そうそうパルガだ。もう既に飲んでいるらしい。断りもせず空いてる椅子に座りやがった。まあいいけどさ。ほんとは個室を頼んだんだけど、開店したばかりでさすがに建物の中まで手が回ってなくて、今はオープンテラスのみでの営業と言われたのだ。

 パルガが高級店並の料金でも飲めるのはエルフから貰った報酬がまだ残っているのだろう。


「知ってるか? エルフが大活躍しているそうだぜ」


「へ、へー」


 眼の前に座っているのがそのエルフなんだけど、こいつは俺たちのことをどこまで知ってたっけ? たぶん冒険者としての俺たちしか知らないはずだったが。


「俺はいつかやってくれると思ってたよ。エルフの活躍が評判になっていて王国民としては鼻が高いな! な!」


 そのエルフはパルガの言葉を聞いてくすくすと笑いあっている。


「そういえばお前もエルフとは……」


「あー、ここにはギルドの依頼で先に来ててね。もちろん交流があるぞ」


「マサルはアイテムボックス持ちだろう? 物資の輸送を頼んでおったのだ」


 そう軍曹殿が補足してくれる。


「それなら剣聖とその配下が来てることも知ってるな?」


「そうみたいだな」


「剣聖だぞ、剣聖! 伝説の世界最強の剣士! おい、マサル。どこにいるか知らないか? 一緒に見に行こうぜ」


「いまビエルスの部隊は外で戦っているぞ」


 そんなのに誘われても対応に困る。


「ならここでしばらく待ってれば通るかね?」


 酒場は大通りに面している。でもいくら待っても剣聖は見れんだろうなあ。


「さあな。パルガはどうしてヒラギスに来たんだ? 報酬は期待出来ないって聞いてるだろ」


「おお、それな。ここで活躍すれば騎士に取り立てられることもあるって話じゃないか。領地持ちになれるかもしれないんだぞ! それにヒラギスでは戦士が減って戦える者が貴重になるだろ? 当分ヒラギスは荒れるだろうし、何にせよ腕のいい冒険者はたっぷり稼げるって寸法よ。ギルドの依頼で来ればここまでの旅費はいらんしな! マサルは……」


 その時周囲がざわめき始めた。


「お? ビエルスの部隊か?」


 んー、どうしようかな。話すべきことはもう話したし、そろそろ戻るか。サティたちも食事をそれなりに楽しんでたようだが、ほとんど俺と軍曹殿ばっかり話してていい加減退屈だろう。北方方面軍に参加する部隊は当分ここで防衛戦だから、軍曹殿とはまたいつでも会える。


 大通りでは歓声が上がっていた。きっと大きな戦果をあげたのだろう。剣聖不在とはいえ師範代が二人にソードマスターもいる。剣士たちも選りすぐりの実力者揃いだ。

 ああ、やっぱりブルーブルーとホーネットさんはずいぶんと目立つな。ブルーブルーが遠巻きにされているのはいつものことなのだろうか。


「あれが剣聖の高弟のブルーブルーと、その隣が血まみれホーネットか。すげえ美人だな! ソードマスターのデランダルとか二刀のアーマンドってのはどれだろう?」


 ブルーブルーはアダマンタイトのフル装備だし、ホーネットさんは戦場に似つかわしくない、まるで踊り子のような軽装で、よく見てみると所々返り血を浴びていて、その美貌も相まって凄みが増している。目立つなー。アーマンドは南方だし、デランダルは見当たらないな。サボりか。

 あ、やべ。ホーネットさんと目が合った。ずんずんとこっちに来る。


「ちょっとマサル。お師匠様はどこなの?」


 来るやいなやバンとテーブルを叩いてホーネットさんが詰問してきた。


「お、おい、知り合いなのか?」


 こそこそとパルガが俺に聞いてくる。


「知り合い? 弟弟子よ。お師匠様を連れていったまま、全然戻ってこないし!」


 全然ってまだたった一日じゃないか。戦場から戻ったばかりだからだろうか。いつもののんびりとした様子がない。


「師匠って……弟子? マサルお前……」


「あー、ビエルスで剣聖に認められてね?」


「そうよー。その子はお師匠様のお気に入りなんだから。それでお師匠様は?」


「まだエルド将軍のところです」


「ええ? 貴方だけ戻ってきちゃったの!?」


「またすぐにあっちに行くんで」


「そう。じゃあ早めに戻るように言っといてね。お師匠様が居ないとブルーブルーが抑えられなくて、もう大変なのよー」


 ああ、ブルーブルーのアダ名が狂戦士っていって戦場で大暴れするんだっけか。


「今日はどうにか戻ってきたけど、暴走して魔物を追いかけてそのまま戻ってこないとか、敵味方区別なくひたすら戦い続けるとか……だから! はやく師匠を連れ戻してくるのよ?」


「はい、なるべく早く」


 ホーネットさんはちょっと怖い。なにせブルーブルーと互角に戦える実力があるのだ。絡め手を使うしブルーブルーみたいに待ち受けてくれるなんてこともないので、魔法を使っても一度も勝てたことがない。きっと相性が悪いんだな。それに綺麗な女性相手に殺人クラスの魔法をぽんぽんと打てないのもあるし、スタンボルトなんかも詠唱自体を妨害されては全く意味がないし、砂嵐で視界を奪ってみても普通に反撃されたし。

 そのホーネットさんでもブルーブルーは抑えられないのか。


「頼んだわよ」


 そう言うとホーネットさんは去っていった。軍曹殿とは面識がないのか。ホーネットさんそこそこ若いしな。


「あれが剣聖の高弟?」「最近新しいソードマスターが二人続けて誕生したって話だが」

「それはデランダル・カプランってお貴族様とサティっていう獣人で、恐らくあれはマサル・ヤマノスって魔法戦士だろう。無双リュックスを倒して剣聖に認められたんだそうだ」「そりゃあすげえ」


 むう。無名で心安らかに過ごす計画が、小一時間もしないうちに破綻だよ。見学エルフちゃんの手前、あんまりこそこそするのもどうかと思ってたのだが、俺もローブで顔を隠して来れば良かったな。今度からそうしよう。


「剣聖の弟子……そうか。確かヴォークト殿も剣聖の弟子で……」


「そのうち機会があれば会わせるよ」


「そうか! 持つべき物はやはり友達だな!」


 誰が友達だ、誰が。だがまあそれくらいはいいだろう。たくさんの冒険者の中の一人だが、こいつにはピンチを救って貰った恩がある。


「では軍曹殿、俺はそろそろ」


 また変なのに絡まれても困る。そのうちまた顔を見せに来ますと行って宿舎に戻った。

 宿舎ではエリーが起きていて、オレンジ隊の送り迎えをしていたようだ。そこでまた見た顔だ。


お義父さん(エルフ王)、何してらっしゃるんですか……」


「ほらー、やっぱり怒られたじゃないですか」


 お義母さん(女王様)もいる。


「お前もノリノリだったではないか」


 エルフ王夫妻がオレンジ隊の制服を着て、何してるんだかってオレンジ隊に参加しに来たのだろう。二次募集でめっちゃ張り切ってたものな。


「私もどうかと思ったんだけど、ちょうどマサルもいることだし、とりあえず連れてきたのよ」


 そうエリーが説明してくれた。俺が判断しろってか。


「ここは最前線ですよ?」


「エルフの里とそう変わらん」


「いやまあそうですけど、その里をほっぽってどうするんですか」


「里は息子(アルス)に任せてある。あやつもそろそろ統治を学んでもいい頃合いだ」


 ここはそう危なくはないし、王様も精霊持ちでなかなかの魔法の使い手だというし……


「いずれこのダークオレンジのローブが畏怖を持って語られ、それが終生の誇りとなろう。エルフを統べる者としても一度くらいは参加しておかんとな」


 まあわからないでもないが。


「さすがに王様がいるってのはまずい気もするんで、そこは内緒にしておいてくださいよ?」


 王様夫妻に何かあればと考えると少々恐ろしいが、そこは年経たエルフだ。言わずもがなだろう。リリアに話してもし反対するようなら、適当に満足したあたりで早めに帰って貰おう。


「無論無論。おお、そこにいるのが我らがハイエルフ。新たなるエルフの希望じゃな!」


「はい。妹のシャルレンシア・セーラシールにございます、王よ」


 そう長女ちゃんが末っ子ちゃんを紹介した。


「シャルレンシア、です」


 緊張しているのか、ずいぶんと堅苦しい口調だ。


「うむうむ。シャルレンシア・セーラシール。事が落ち着いたらエルフの里で盛大にお披露目をせねばな」


 ルチアーナの時も何かやったらしい。エルフにとってまたとない慶事なのだろう。


「じゃあ俺はコームに戻ります。晩ご飯の時にもう一度来るよ、エリー」


「リリによろしくと、マサル殿」


「あら、貴方。せっかく後で会えるんだから驚かせましょうよ。それとも今から一緒に行こうかしら?」


 確かに女王様ノリノリだな……


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