表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

205/351

204話 エルフの守護者

これまでのあらすじ

・ヒラギス奪還作戦三日目、朝。南方軍を偵察に行ったら剣聖の弟子のエルド将軍の軍が苦戦していたので即突入、魔物を殲滅した。

「ラクナの町へ魔物が近づいている。かなりの数」


 南方の町はコームという名らしい。その周囲を粗方掃討し、接近しつつあった増援も大雑把であるが殲滅し終えたところでティリカがそう報告してきた。

 ラクナの町の防衛は問題ない。加護持ち(ハイエルフ)を一人加えたオレンジ隊もいるし、ビエルスの剣士隊もいる。むろん帝国軍を始めとする諸国連合軍も健在だ。


「戻る必要はあるかな?」


 ティリカからさらに詳しい情報を聞いて皆にそう尋ねる。


「守り切るだけなら問題ないでしょうね」


 だが損害は出るだろうとエリーが言う。ラクナの町へと移動中の部隊と物資の輸送を襲われると少々やっかいだ。万一また峠方面を占拠されてしまうとラクナの町が孤立してしまう。それを防ぐには打って出るしかない。

 ていうかあそこは町の場所が悪いんだよな。だだっ広い平野部に建設された町は、交通の便もよく、平時には農地も近くて便利なのだろうが、攻められると弱い。

 コームの町なんかは背後が川で、町自体も少し小高い場所に立っていて多少は守りやすくなっているようだ。


 そのコームの町と川向うの拠点が分断された橋はすでに再建され、軍の本隊が続々と町へと移動しつつあった。魔物の殲滅と回収に手間取りすぎたようだ。まあ今は緊急を要することもないし、回収は出来る時にやっておかないと、魔物が邪魔で簡単に出来ないことも多い。実際増援の主力だけは壊滅させたはずだが見えている範囲だけでも完全には殲滅しきれていないし、まだまだ追加がありそうな気配もある。


 どうすべきか? 空から周囲の状況を確認しつつ考える。予定ではこの後ヒラギス南部を軽く回って魔物が居たら殲滅するはずだった。だがラクナもコームもすぐに危機になることはないだろうが、俺たちの助力が不要なほど楽な状況でもなさそうだ。魔物の動きが良くわからないのが問題だな。こちらの予想を超える数が来襲すればあっという間にピンチになりかねない。

 偵察したところで根本的な疑問として、本拠地にどのくらいの魔物が居て、どの程度の数を動員できるのかがわからないと偵察する意義が薄い。魔境深く踏み込むのは危険も多いし、むしろその時間で魔物を殲滅して回ったほうが確実だろう。


「パーティを分けましょう」


 俺が考え込んでいるとエリーが言った。出来れば戦力の分散はしたくなかったが……

 これは稼ぎ時でもある。いつもの狩りの数日分の経験値が向こうから何度も何度もやって来るのだ。分ければそれが倍の効率になる。

 ヒラギス奪還軍は助かる。俺たちは経験値がたっぷり。ウィンウィンである。幸いどちらも拠点防衛で、軍の戦力も十分ある。合流したければすぐに出来るし、ティリカの召喚でリアルタイムでの連絡もつく。多少のリスクは受け入れるべきだろう。


「それがいいだろうな」


 しぶしぶ賛成しておく。


「ティリカと俺がこっちで、護衛がサティとミリアムでどうだ?」


 半々くらいの戦力比がいいだろうか。どちらかに魔物が集中するようならその都度調整すればいい。俺とエリーは入れ替えてもいいのだが、師匠が迷子中だし俺がこっちのほうがいいだろう。


「妾もこっちじゃな。エルフが一人は居たほうが良いじゃろう」


 ラクナの町がエリーとアンとルチアーナ。護衛がウィルとシラーちゃんか。オレンジ隊にビエルスの剣士隊もいるが、こうやって分けてしまうとやはり陣容が薄い。ラクナの町のほうは出撃も必要になるかもしれないし、不測の事態に十分に対応出来るか不安が残る。


「町から打って出る時は慎重にな?」


「マサルこそあんまり無茶しちゃダメよ?」


「そうそう。一番無茶をするのがマサルよね」

 

 反対に俺のほうがアンとエリーに釘を刺された。


「大丈夫じゃ。妾もサティたちも付いておるしの」


 なぜ俺ばっかり毎度注意されるのかと思わないでもないが、一番無理して倒れたり怪我をするのが俺である。俺はこんなにも平和を愛していて、むしろ農業でもしてスローライフを送りたい人間で、無理とか怪我とか大嫌いなのに。不思議だ。


「決めたぞ。俺は今回絶対倒れないし、傷一つ負わずに済ませるぞ!」


「ほんとに頼むわよ? マサルが怪我するたびにこっちは寿命が縮みそうになるんだからね」


 アンにガチで心配されつつ、とりあえず何事もなければお昼に一度合流することを約束してエリーたちはすぐさま転移していった。すでにラクナの町の包囲は避けられそうもない情勢のようだ。


「こっちも移動するか。まずは師匠を探さないとな」


 まずは師匠を拾って当初の目的通り、南方軍の司令官だというエルド将軍に紹介してもらおう。

 現在の状況は町の南側の川に近い方の魔物はほぼ駆逐されているが、町の北側では殲滅しきれなかった魔物との小競り合いがまだ続いている。師匠は川のほうにいるはずだが、そちらはそちらで多数の部隊が入り乱れていて、鷹の目で見るような距離では師匠の居場所はさすがにわからない。


「魔物の排除をして正面から乗り込んで、先にエルド将軍を探してみよう」

 

 すでにかなり派手に動いたし裏からこそこそも今更だろうし、直接エルド将軍に会いに行くほうが早そうだ。そのまま空から町中へ侵入しても良かったのだが、残った魔物を殲滅して入り口のほうから入って兵士に将軍の居場所を聞くほうが穏当だろう。


 頷いたリリアは城壁周辺の魔物を射程に収める距離まで移動すると、任せろと【霹靂】の詠唱を始めた。


「ちょっと近くないか?」


 突如空に現れた禍々しい黒雲に城壁の防衛兵が右往左往しだした。ここまで魔物を掃討しているのは見ていただろうし、位置的にも町への攻撃と誤認はしないだろうが、リリアは城壁を攻めている魔物を殲滅すべくぎりぎりの場所を狙ったのだろう。やけに近い。

 ここのところ気軽に連打しているが雷系最上級の呪文で、しかもレベルアップによるステータス強化により、意識して魔力を込めなくとも魔法の威力は相当に上がっている。


「当てるようなヘマはせん」


 それは信用しているが、まかり間違ってかすりでもしただけでただでは済まない威力である。俺ほどリリアを信用してない防衛兵は、持ち場を放棄して退避することにしたようだ。

 周囲にリリアの強大な魔力が渦巻き、黒雲から雷鳴がパリパリと閃きだした。短縮スキルのないゆっくりとした詠唱だ。兵士たちはちゃんと逃げるか隠れるか出来たようだ。


「吹き飛べ! テラサンダー!」


 刹那、城壁の前面を雷がなめ尽くし、その場に居た魔物を殲滅しつくした。

 「どうじゃ」とリリアがささやかな胸を張る。生き残りは壁に張りついていた数匹くらい。ほんとうに城壁に当てない程度にギリギリを狙ったようだ。

 その生き残りをサティが仕留めるのを確認すると、城壁の上へと移動し降り立つ。そして少し待っていると、城壁を守るべきはずの兵士たちが恐る恐るといった様子で戻ってきた。

 誰一人声を上げない。激しく城門を攻めて来ていた魔物も沈黙し、あたりをつかの間の静寂が支配していた。


「我らはエルド将軍を訪ねて参ったのだが、どこに居られるかな?」


 少し周りを見回したリリアが何事もなかったかのように用件を告げた。


「は……友軍の魔法兵団ではないのですか?」


 戻ってきた兵士の一人が疑問の声をあげた。確かに救援に来た友軍が訪ねて来たなどとは言わないだろう。


「我らは北方方面軍のほうから来たエルフの義勇兵じゃ。こちらに来てみれば少々難儀しておるようじゃったからの。ほんの少し手伝ったまでじゃ」


「ほんの少し!? 先程から町の周囲の敵を倒して回っていたのは貴方がたなのですよね?」


「うむ、むろん我らじゃ。して将軍殿はどちらかな?」


「……北方軍から来たということですが?」


 やはりこのローブ姿が怪しく思うのだろうか。声にわずかに警戒が滲んでいる。いくら魔物を殲滅して回っていたのを目にしていても、さあどうぞと将軍のところへ案内はしてもらえないようだ。


「此度はバルナバーシュ殿と共に弟子である将軍殿に会いに来てな。まあそのバルナバーシュ殿は先程、赤い部隊が出撃するのを助けてくると言い置いてはぐれてしまったのじゃが……」


「剣聖様が!?」


 様呼ばわりとはこいつはビエルス出身か。そういえば装備もあの部隊みたいに真っ赤ではないが、赤で統一されている。エルド将軍の麾下のカラーなのだろう。


「そうですか、剣聖様が……閣下なら首尾よく渡河地点を制圧して、もう戻られているはずです。おいお前、この方たちを案内して差し上げろ」


 剣聖の名前で何か納得したようで、俺たちに対する警戒も解けたようだ。どうやら特に何事もなく合流できそうだ。


「我らは今しばらくこの場を守らねばなりません」


 俺たちと話していた兵士が外を睨む。探知にも魔物の反応がある。もう次が来やがった。ここは魔物の領域側の城門だけあって攻勢も集中するんだろうな。大した数でもないが、兵士たちの疲労の色が濃い。もう少し殲滅しておくか。

 【霹靂】詠唱開始――広めに範囲を設定して――


「いや待たれよ。どうやら交代人員が来たようです」


 城門前の広場に到着した部隊から、数人の兵士が城壁の上へと駆け足でやってきた。


「ご苦労! 守備の交代だ。こちらは第三方面軍バルバロッサ将軍麾下第十……」


 やってきた兵士がそう報告し始めたところで詠唱が完了した。違和感を感じたのだろう、城壁を見回して言葉を切った。城壁の兵士は魔法の予兆を見てすでに再び退避したり隠れたりしている。俺たちの相手をしていた兵士もようやく気付き、空を見上げて引きつった表情である。


「一体何が……」


 交代の兵士がそう言いかけたところで【霹靂】を発動させた。閃光と轟音。城門に迫りつつあった新手の魔物の反応が消滅する。


「交代も来たし、残った魔物もこれで居なくなったようじゃ。さて参ろうかの?」


「え、ああ。ご案内致します」


 リリアに声をかけられてようやく我に返った様子で城壁の兵士が返事を返した。



 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■



「町の防衛はバルバロッサ将軍の管轄に移った。我が軍は三日間の完全休養の後、次の町へと進軍する予定だ」


 エルド将軍の司令部はラクナの町同様、町の中心部にある領主の館だった。歩いていこうとする兵士を掴んでフライでひとっ飛びし、案内人がいることであっさりと将軍との面会が叶った。ついでに師匠もちゃんと居て、紹介や礼などいつものやり取りの後、エルド将軍が俺たちにそう告げた。

 ここで三日も休みか。せっかく稼ごうと来たのにいきなり出鼻をくじかれた。


 ならバルバロッサ将軍のほうに話を持っていけばいいのではと思ったのだが、兵士も魔法使いも潤沢で防衛のための戦力は十分。拠点は目と鼻の先で物資も兵力の移動も問題なく、助力は必要なかろうとのことだ。まあそう言われてもいまひとつ信用ならないのであるが。


「エルフ殿も当面は休息し魔力の回復に努められては?」


 助力をしてもらえるなら数日後の進軍に備えて十分な休養を取ってほしい。そう言われて領主の館の一室を宛てがわれた。エルド将軍は激戦の後始末の真っ最中で、鎧についた魔物の返り血を清める暇もないほどで、入れ替わり立ち代わり防衛戦から引き揚げてきた部下もやってくる。あまり邪魔をしては悪いとまずは大人しく部屋に案内されることにした。防衛に問題がないのなら急ぐ用件は特にない。


「ティリカ、ラクナの町のほうはどうだ?」


「戦いは始まっているけど問題はないって」


「何かあればすぐに教えてくれ」


 俺の言葉にティリカがこくりと頷いて、ボロいソファーに腰をおろして目を閉じた。ここ数日朝は早かったし、今日も動き詰めだ。休憩は必要だろう。俺も隣に腰を下ろす。とは言ってもティリカは召喚獣、俺は探知で外の様子を監視中だ。完全にくつろぐとまではいかない。


 このままここに居ては三日間の休暇か。真っ当な休暇なら大歓迎であるのだが、この場所では俺の望むバカンスは無理だろう。領主の館だけあって、広々としていて元は立派な部屋だったのだろうが、やっぱり臭うし壁やかろうじて残った家具すら破壊の痕跡がある。お風呂部屋も付いていたが、お風呂場だった名残は破壊されたバスタブの破片のみで、即席のゴミ置き場にされてしまっていた。臭いは浄化をかけて窓を全開にして和らいだが、あまりお泊りしたくなる部屋じゃないな。


 それでもしばしの休憩だ。軽食を取り出してゆっくりすることにした。鎧は脱がないほうがいいだろうなあ。フルプレートの鎧さえなければ短時間の休憩でもそれなりに楽しく過ごせるはずなのだが、今の状況だといつ出動がかかるかわからない。

 だが普段の一日の労働量としてはもう十分だし、それを言えばここ三日間ずっと戦っていたから、冒険者の流儀ではこの三日間は休みにしてもいいはずだ。


「どうするのじゃ?」

 

「どうしようかね」


 このままの配置で四日後、軍と一緒に出撃が無難な選択ではある。北は防衛。南は進撃。それが軍の方針だ。俺たちの当初の計画では遊撃だったが、魔物の攻勢が激しいなら町に籠もって守りに入るのも悪くない。要は魔物を倒して経験値が稼げればそれでいいのだが、防衛の手伝いなら楽だし、軍の被害が少ないに越したことはない。


 軍の不甲斐なさが問題だな。これでヒラギス奪還なんか果たして可能だったのかひどく疑問だ。出来たとしても恐ろしく被害が出ただろう。やはり俺たちの手伝いは欠かせない。北とも南とも協力関係は結べそうだし、積極的に軍の補助をする方向で考えたほうがいいのだろうか。


 休憩してるうちに外が騒がしくなってきた。城壁付近での慌ただしい動きは恐らく敵襲。


「たぶん魔物が来た」


 それを聞くや暇そうにしていたリリアが出る準備をしだした。

 まあ別に休んでろと命令されたわけでもないし、そもそもここまで軍の指揮に従ったことなんか全然ない。勝手に動けばいいのだ。結果を出せば誰も文句は言わない。すぐに集まると二階の窓から飛び出した。


「さっき入ってきた城門のほうに行こう」


 この町での一番の激戦区になるだろう場所だ。

 

「あれは魔法使いではないか?」


 一旦空中で停止したリリアの指差す方、城壁の上には黒いローブの一団が配置されていた。見るからに魔法使いだが、そういえば俺もあんまり人間の魔法使いって見たことがない。まあローブ姿が定番らしいので魔法使いなのだろう。

 魔物との戦闘がすでに始まっていたのでそのまま空から眺めていると、その中の一人から手招きされた。リリアと顔を見合わせるが、空中には俺たち以外に居ようはずもない。


「貴様らが噂のエルフだな!」


 招きに応じて城壁に降り立つと、中の一人の老魔法使いに怒鳴るように言われた。藪から棒に失礼なやつだな。城壁の城門上あたりはそれなりに広いスペースが取られてはいるが、防衛の人手が多く、こうも狭くて近いとでかい声がやけにうるさい。


「北方軍で少々派手にやっておったようだが、ここでは出番はないぞ!」


 それならそれでありがたい話である。三日間完全休暇に出来る。


「ふむ。そなたらはバルバロッサ将軍とやらの配下か?」


「なっ!? 儂らを知らんのか! ありえんっ」


 知らんがな……ウィルもこっちに連れてくれば良かったな。暇つぶしに色々教えてもらえていただろう。


「良かろう。田舎者のエルフにもわかるように教えてくれよう!」


 しかし遊んでてもいいのだろうか。周囲は絶賛戦闘中である。まだ魔物の数はそう多くもなく、時折ちょっかいをかけてきている程度だが、離れた場所で徐々に新たな魔物の軍勢が集結しつつあるのが見えた。


「我らこそ帝国最強! 陛下直属の黒の魔法兵団じゃ!」


 ふーん。


「ほう。帝国最強とな。それは是非とも戦い振りを見てみたいものじゃ」


「ふふん。そこでしっかりと見ておれ!」


 そう言うとのしのしと城壁の前面へと歩いていった。

 しばし待つと魔物の本隊が進軍を始めた。どうやらそれをあの魔法使いの爺さんと黒の魔法兵団で迎え撃つようだ。

 

「お、火魔法だ」


 城壁にずらりと並んだ魔法使いたちが数十の火球を形成し、一斉に解き放った。

 無数の火球が迫りくる魔物の先陣に襲いかかり大きな爆発を起こし、多数の魔物を消し飛ばした。しかし後続はまだまだ無傷で迫ってきている。

 だが防衛側の詠唱のほうもまた続いていた。


「放て!」


 今度は火嵐(ファイアーストーム)だった。大量の火柱が城壁前を荒れ狂い、後続の魔物をごっそりと飲み込んでいく。


「おお、すげえ」


 数十人で一斉に撃った火魔法は壮観だ。俺でもちょっと再現出来そうもない光景だった。


「どうじゃ!」


「人間の魔法使いもすごいものじゃな!」


 ドヤ顔の老魔法使いの言葉にリリアが無邪気にパチパチと手を叩いているが、未だ燃え盛る炎の中を突っ切って城壁へと到達しようとしている魔物が三体。別に偶然でもなんでもなくて俺たちが城門の真上にいるからだろうが、ちょうど俺たちのいる所へとまっすぐ向かってきている。まだ消えきってない火が邪魔で誰も気がついてない。まあたった三体じゃさすがに何も……

 そう思った瞬間、一体が跳躍した。もう二体と力を合わせて飛んだのか、届くはずのない城壁の縁に手をかけると、全身焼け焦げたその姿をぬうっと現した。


 唐突に現れたオークに誰も反応できずに固まっている。俺たちを除いては。

 さすがにこんな大ジャンプまでは予期出来なかったが動きは追っていたし、城壁を乗り越えたオークが周囲の状況を確認するほんの僅かな隙があれば対処には十分。

 手が見えた時にはすでに抜いていた剣を、身についた自然な動きで上段へと構え、オークが何をする間もなく身につけていた防具ごと切り裂いた。


「グッオ……」


 オークは俺に致命傷と思われる傷を食らってなおもしぶとく動きを止めない。が、それも最後の足掻きに過ぎない。

 雄叫びを上げきる間もなくサティとミリアムの剣に縫い留められ、今度こそ絶命してその動きを止めた。

 残った二体は逃走にかかっていた。逃がすかよ。【火球】詠唱――念の為三連だ――

 すぐさま三つの火球が形成され、見るまに巨大に成長し激しく燃え盛る。城壁間近に突如現れた桁違いに強大な火球に、兵士たちばかりか、あろうことか先ほど火魔法を放った魔法使いたちまで後ずさる様子を見せた。

 とっさのことで威力のセーブを忘れてた。俺にとっては普通の火球。だが先ほどの魔法使いたちの火球すべて合わせても飲み込むほどの火力だ。

 だがそう考えるのもほんの僅かな時間のこと。所詮はレベル2クラスの火魔法だ。短時間で詠唱は完了し、十分な魔力が乗せられ打ち出された三連の火球の一つは狙い通り逃走を続けるオークの片方に命中し、激しい爆発を引き起こす。当たったオークはもとよりもう一匹も巻き込まれて跡形もなく消滅し、後には巨大なクレーターだけが残されていた。少し過剰だったが逃げられるよりいい。

 

「フレア、いや大爆発ハイエクスプロージョンか? 三連同時のフレアなどありえんし、なにより詠唱速度が……」


 老魔法使いが驚きの表情を浮かべている。火球の系統の魔法はレベル2の火球、レベル3の小爆発、レベル4の大爆発、そして最上級のフレアまで基本的な効果はどれも同じだ。当たると弾け、爆発を起こす。だから火球のつもりでも魔力を込めるとレベル3の小爆発と区別がつかないんだが、火魔法は俺の一番の得意魔法。手を抜かないと俺の今の魔力を素直に反映し、通常ではありえないほどの威力を見せる。だがそれにしても少し過剰だったか。

 だがまあいいか。今回の戦いはエルフの示威行為も兼ねている。


「違うな。今のはただの火球(ファイヤーボール)だ」


「ただの火球? 馬鹿な……これがエルフの魔法……」


 俺はエルフじゃないのでそれだけ言うと黙って城壁の後方に引っ込んだ。


「まあこやつを基準に見られても困るのじゃがな。普通のエルフの魔法は人間族とそう変わらん」


「そうなのか。あれは特別なエルフか。剣の腕といいなんとも凄まじい」


「あやつこそ我らエルフの守護者、最強の魔法剣士よ」


 エルフの守護者ガーディアン・オブ・エルフか。リリアめ、うまい言い方をする。エルフであるとは言ってないから嘘でもないし、名誉ハイエルフよりいいな。言葉の響きもちょっと格好いいし、今度からオレンジ隊の格好のときはそう名乗ってもいいかもしれない。




ツイッター上でコミカライズ販促グッズのプレゼント企画をやっております

詳しくは『#ニートだけどハロワ』タグで検索を。締切は9月28日までです

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
[良い点] 二つ名が増えて行く。いずれ、同一人物として登場するのがウイルだったり?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ