180話 青い狂戦士
「あらあら。お気に入りの鎧まで引っ張り出して来て。よっぽどこの子たちが気に入ったのねー」
ホーネットさんがそんなことを言う。見ると全身深い青のごつごつしたプレートメイルを装着したブルーブルーが現れた。ジェロームさんに手伝ってもらって最後の調整をしているようだ。
ガチ装備じゃん。まあこっちも装備はそのままでいいって言われて、実戦装備のままだったからそんな気はしたが……
「総アダマンタイト製の青いプレートメイルを着て戦場に立つ姿ゆえに青いブルー、青の狂戦士とも呼ばれている」
そうフランチェスカが説明してくれた。
「強いの?」
「リュックス殿よりさらに強いらしいが、まだ戦ったところは見たことはないんだ」
フランチェスカがここに来て数日は、狩りに出てるか料理をしてるかばかりだったそうな。どんな戦い方をするのか知りたかったのだが、聞こうにも弟子どもは災難を避けるがごとく、俺たちからは距離を取っている。それとも真偽官に近寄りたくないのだろうか。さっきはあんなにおたついて、一体何をやらかしたのか。
とりあえずまずはサティがやるから頑張ってもらおう。できればサティが倒してくれないかな。体調が悪いから俺だけやりたくないって言えるような雰囲気でもないし、そもそも一戦や二戦くらい戦うのに支障があるほどでもないのだ。
「サティ、慎重にな」
「はい」
ブルーブルーが手に持つのは棒状の武器、鉄棍に、盾は小さく見えるが中程度のそこそこ大きいサイズだな。鉄棍は真剣の代わりか、普段のメイン武器か判断がしかねるところだが、どちらにせよ十分すぎるほどの殺傷力があるのには間違いない。
「一つアドバイスをしてやろう」
剣聖が言った。
「ブルーは手加減が下手だ。最初から全力でいかぬと、死ぬぞ」
役に立たないアドバイスだな。危険なのは見ればわかる。だがサティの顔が一層真剣になる。覚悟を決める効果くらいはあったようだ。
ウィルからはうへぇという声が漏れる。まったく同感だ。
ぶおん。手にした鉄棍を振るう音がこちらまで届いた。ブルーブルーの準備が出来たらしい。すぐにずんずんとこちらへと向かって来た。
広場の中央にいるサティじゃなく俺たちのほうへ。
いやもしかして目標は俺か? その視線まっすぐ俺へと向かっているし、どう見ても戦いの前のおしゃべりをしに来るような雰囲気ではない。
「みんな離れてろ」
ブルーブルーがサティを素通りし、サティがぽかんとしてそれを見送っている。やっぱ目標は俺か……
そう言って背中の剣に手をかける。いま止めてもどうなるものでもないな。どっちみち順番は回ってきてやらざるを得ないのだ。
だがシラーちゃんが立ちはだかるように俺の前に出た。
「邪魔ダ」
「ここはどうあっても私から相手をしてもらうぞ」
「シラーじゃ無理だ、下がれ!」
「例え無理でも……三度も遅れを取るくらいならっ!」
一度目は村でのオークキングで、二度目は昨日か。
だがこんな場面で、しかも相手はリュックスより強いのだ。意味がない。ないが……
抜きかけた剣を納め、距離を取った。
「俺とやりたければ、まずはこのシラーを倒すんだな。ブルーブルー」
勝てなくともそれでも戦わざるを得ない時はある。軍曹殿の教えだ。
シラーちゃんにとってそれが今なのだろう。
どっちみち順番に相手をすることになる。遅いか早いかだけの違いだ。
「あーあ、逆立ちしても勝てるわけないのに」
「だが簡単に出来ることじゃない。いい覚悟だ」
「そうだな。死ななきゃいいんだが」
剣聖の弟子たちが好き勝手言っている。
「いいダロウ。ならばソノ身を懸ケ、ブルーブルーのチカラに抗ってミセヨ!」
ブルーブルーが鉄棍を大きく振りかぶった。普通なら隙だらけなのだが、しっかりと正面に構えられた盾が、懐に飛び込むのを難しくしている。やはり体のでかさはそれだけで大きなアドバンテージになる。
そして鉄棍がそのまま、何の工夫もなくまっすぐ振り下ろされた。
鉄棍は唸りを上げ、余裕をもって躱したはずのシラーちゃんの至近を通過。地面がバカンッとはじけ飛び、砂や小石が周囲に激しく飛び散る。
ブルーブルーがゆっくり鉄棍を引き上げた地面には人の頭ほどの穴が穿たれ、まさに爆発といった様相だ。
「ブルーブルーを恐れるのハ、恥ではナイ」
鉄棍の威力に押され、一歩二歩と後退したシラーちゃんにブルーブルーが言い、ゆったりとした構えを取った。
「今のはわざと外したのよー。だから棄権したいならしろってブルーは言ってるのよー」
そうホーネットさんが言い添える。
「だ、だまれ!」
シラーちゃんが突っ込んだ。
ブルーブルーに打ち掛かるがわずかに盾を動かすだけで防がれる。
「お前まで大振りになってどうする。落ち着いて、冷静に動け!」
俺の言葉で少し冷静になったようだ。一旦距離を置いて、今度は慎重に距離を詰める。
そうだ。威力があると言っても当たらなければどうということはない。ずっと俺やサティと戦ってきたのだ。回避力も十分に鍛えてある。
シラーちゃんが探るような一撃を繰り出した。それをブルーブルーが鉄棍で軽く受けた。そう見えた。
だがシラーちゃんの剣は激しく打ち返されたかのように弾かれた。
「ぐぅ」
シラーちゃんが後退し、呻き声を上げる。
「ブルーの鉄棍を受けて手が痺れたな」
そう剣聖が解説をいれてくれた。たったあれだけで?
後退したシラーちゃんにブルーブルーが巨体に似合わずするすると迫る。さっきはドスドスと歩いていたのに、今は流れるような足運びで素早さもある。
ひょいっと繰り出されたブルーブルーの鉄棍をシラーちゃんの盾が受け止め――受け止められず、盾が叩き落された。
盾を落とした左手がだらんと垂れている。
「肩が外れたか、折れたかもしれんな」
そう剣聖が言う。嘘だろ? 俺やサティの攻撃でさえ、きっちり受け切れるまでに防御も鍛えてあるのだ。
「あの鉄棍もアダマンタイト製で見た目よりもずっと重い。左手だけで運が良かったな」
見た目通りでさえかなりの重量に見えるが、それ以上ってことか?
「この、程度カ」
そう言ってブルーブルーは鉄棍を地面に下げた。
「さあ、次ハ貴様ダ。リュックスを倒したというチカラを……」
「まだだ!」
シラーちゃんが剣を掲げた。どうする? 止めるべきか?
「私はまだ倒れてない!」
そう叫ぶと止める間もなく、ブルーブルーに飛びかかっていった。
もはや捨て身の状態で、シラーちゃんが何度も激しく剣を振るう。しかし――
ブルーブルーは一歩すら動かず、盾と鉄棍の最小限の動きだけでシラーちゃんの剣をあしらい続けた。
パワータイプかと思ったら、足の運びといい剣や盾の扱いといい、シラーちゃんを子供扱いしてまったく歯牙にもかけない。
リュックスやアーマンドも強かったが、まだどうにかできそうな強さだった。しかしブルーブルーには、まるで勝つ糸口が見出だせない。
そしてカウンターで繰り出された鉄棍に、ついにシラーちゃんが突き飛ばされた。
「大丈夫か、シラー!?」
倒れて動かないシラーちゃんに駆け寄り、エクストラヒールをかける。軽く突いただけに見えたが、胸の装甲がべっこりと凹んでいる。
息はしている。手加減は下手だと言っていたが一応の手加減はしてくれたようだ。
回復魔法が効いて、気を失っていたシラーちゃんが目を覚ました。
「う……私はまた……何の……」
「大丈夫だ。シラーは役に立った。奴の戦い方を見れた」
底は知れないが、力は垣間見えた。
「そうです。それに前衛は時間を少しでも稼げれば、後は私たちがなんとかしますよ、シラーちゃん」
よろよろとだがシラーちゃんがなんとか立ち上がった。大事はないようだ。
「後は俺に任せて、休んでろ」
「マサル様……」
サティが行きたそうだが、サティでもあれの相手は厳しいだろう。
「あいつは俺をご指名だ」
俺のチカラが見たいと言ったな。いいだろう。たっぷりと見せてやろうじゃないか。
あいつはシラーちゃんの胸、おっぱいを攻撃しやがった。シラーちゃんのかわいい胸に傷でも残ったらどうしてくれる。非常に許しがたい。
「お待たせしました」
十分な距離でブルーブルーと相対する。俺を前にしてもただ突っ立ったままで、まるで無警戒だ。
昨日の俺の戦いは見てないと言っていた。魔法が使えるくらいは聞いたかもしれないが、それがどれほどかは恐らくは知らないのだろう。
本当は腕を見たいということで剣メインで戦うつもりだったが、こんな相手に手段を選んではいられない。できればパーティ全員で戦いたいくらいだ。
ブルーブルーは俺が魔力を集中し始めてようやく構えを取った。強さに絶対の自信があるのだろうが、吹っ飛んで後悔するがいい。
まずは三倍強化――
「エアハンマー!」
真正面から受けてしまえば、剣をへし折り盾を吹き飛ばし、人が確実に空を飛ぶ威力がある。はずだった。
だがやはりというか、当然にようにバンッという爆裂音とともに、鉄棍であっさりと撃ち払われた。
油断して適当に受けてくれないかと思ったが、きっちり腰を落とした構えからの迎撃だ。
魔力への見極めがいいのだろう。それとも戦闘経験か野生の勘の類だろうか。よく見ると顔には結構な皺が刻まれ、軍曹殿を知ってるようだし結構な年齢なのだろう。
「骨マデ響く、良い攻撃ダ」
「そりゃどうも」
ブルーブルーが一歩前に踏み出した。
「まあ待て。今のはほんの挨拶代わりだ。次の攻撃、ブルーブルーに受ける勇気があるか?」
俺の言葉でブルーブルーの足が止まる。
「今から撃つのは最強究極のエアハンマーだ」
きちんと何にやられたかを理解して吹き飛んでもらうことにしよう。
詠唱を開始――昨日はぶっつけだったから暴走しかけて途中で放ってしまったが、今回は何が起こるかしっかりわかっている――
風が集い、空気の塊が熱を帯び始める。もっとだ。もっと圧縮する。限界まで。
昨日のエアハンマーを越え、倍ほども魔力を込めたあたりだろうか。さらに圧縮しようとしても空気の塊のサイズが抑えきれずに成長し始めた。それに魔力の放出量が激しくなってきている。際限なく魔力を込めれば恐らくもっと威力は上がるだろうが――
威力はすでに昨日の二倍か三倍以上。エアハンマーの周囲には風と魔力が一体となったような何かが、ビリビリと鳴動している。制御もここらで限界か。
「吹き飛べ!」
唸りを上げ風を巻き上げ、エアハンマーがブルーブルーに向かい飛翔した。
「ヌゥん!」
ブルーブルーの鉄棍がエアハンマーを捉え撃ち落とすかに見え、しかし鉄棍がぴたりと空中で静止する。
次の瞬間ドンッという爆裂音とともに鉄棍が弾かれ、ブルーブルーの巨体がふわりと空中に舞い上がった。
ゴウッと目を開けていられないほどの烈風が周囲を吹き荒る。
ブルーブルーがくるくると回転しながら地面に落下し、バウンドして倒れた。
昨日より飛ばなかったのはブルーブルーが重かったからか、打撃の威力でエアハンマーの力が殺されたか。
仰向けで大の字に倒れたブルーブルーがぴくりと身じろぎをした。良かった。死んではないようだ。
治療をするかと近寄ろうとして、足が止まった。
ブルーブルーがむくりと起き上がり、ゆっくりと立ち上がろうとしている。だがふらついてまた膝をついたし、だらりと下がった右手はもう使い物にならないだろう。
全力で撃って正解だった。もし昨日と同じ威力だったら撃ち落とされていたかもしれない。
「マ、ダダ」
そう言って頭を振ったブルーブルーが魔力を集中し始めた。
「ヒール」
ブルーブルーが落ちた鉄棍と盾を拾い上げ、今度こそしっかりと立ち上がった。嘘だろ……
「ヒール」
手にした鉄棍を軽く振るう。
「ヒール」
鉄棍をぶんっと力強く振った。鉄棍は少し斜め曲がっているようだが、その機能に変わりはなさそうだ。
「ヒール」
なるほど。完全に倒したと思ったのに復活してくる。これはやられると怖いな。
それに回復中に攻撃するのも、卑怯な気がしてなんだか躊躇われる。
「さあ、続きダ」
ずいっとブルーブルーが前に出た。続きって言われても、さあどうしようか……
後は任せろって出てきちゃったし、ここで棄権ってわけにもいかないだろうなあ。
他の威力のある魔法にしても完全に魔物を殺す用で、さすがにブルーブルー相手でも焼き尽くして殺すってわけにもいかないだろうし。
「ゴーレム召喚」
少なくともフランチェスカ相手には効果があった。無論ブルーブルーがこれでどうにかなるとは思えないが、普通に挑みかかるよりは勝率は高まるだろう。
ゴーレムで出来る穴が邪魔になるため、ブルーブルーを待たせ、広場の外周へ移動してから詠唱を始める。
詠唱に従って巨大なゴーレムが徐々に姿を現す。今回は一〇メートル級だ。このサイズなら、ブルーブルー相手にも時間稼ぎくらいはできるだろう。
「ほう。マサルは色々と芸があるんだな」
後方で剣聖が言うのが聞こえる。芸ってなんだよ。
「マサル様は何でもできるんですよ!」
サティが嬉しそうに言う。確かに色々できるが、何でもはさすがに無理かな。
「何でもか。例えば?」
「料理がすごくうまいんです。あと家や畑も作れて、歌やおはなしもたくさん知ってて、もちろん魔法も剣もすごくて……」
「ワシも倒せるか?」
「……きっとできます」
わずかな逡巡だけサティがそう言い切った。出来るかなあ。おっと、ゴーレムさんが準備完了してる。まずは目の前のブルーブルーだ。
ゴーレムを何の工夫もなく突っ込ませると、たぶん即破壊されるだろう。
一歩二歩。前に出る俺に従うように移動して、ブルーブルーにあまり近寄らせない。
「いいぞ。やろうか」
「ソレが、戦ウノカ?」
「そうだ。これは俺の魔力で作った土くれ。俺そのものと言っていい」
風で作ったエアハンマーで倒されたとて、風が倒してずるいとは言うまい。
ブルーブルーは「ソウカ」と言うと、即座にゴーレムのほうへと動いた。いきなりゴーレムを壊されては作戦が頓挫する。迫るブルーブルーからゴーレムを逃し、俺が前へ出る。
最初から両手の全力で打ち込んだ剣はブルーブルーに受けられた。弾き返されこそしなかったが、恐ろしく重い。その岩を叩いたような手応えに、両手がビリっと痺れる。
一瞬の組み合い。そこへゴーレムの巨大な足が飛び込んでくる。
もう一回吹っ飛べ!
ブルーブルーは身をよじり盾で受け、数歩よろめいた。攻撃が浅い。それにうまく受け流された。
俺ごと蹴る訳にもいかないし、大きいだけに微妙な狙いが難しい。
だが体勢は完全に崩れている。そこに再びゴーレムとのコンビ攻撃を……
ブルーブルーは崩れた体勢から俺の剣を掻い潜って躱すと、そのまま体をゴーレムに対して俺を盾にするような位置に動いた。
チッ。対応が早い。こういう位置取りをされると俺自身が邪魔でゴーレムの攻撃が出来ない。
とはいえゴーレムの脅威は生きたままだ。俺自身が追撃をしかけつつ、俺の後方、上から腕を下げ伸ばし、ブルーブルーの頭上を強襲する。
俺の攻撃は再び器用にも回避されたが、ゴーレムの手の追尾は躱しきれず、盾を頭上に掲げるように受け――ゴツッと激突音とともにがっちりと受け止めた。
よし、そのまま押し潰せ!
だがブルーブルーはぐっと腰を落としたかと思うと、ぐぉおおおおと雄叫び上げ、ゴーレムの巨大な指先を弾き返した。
リーチを考えて指にしたのが失敗だった。グーパンにしとくべきだった。いやそういう問題じゃない。そもそも人間に巨大ゴーレムの力を受け止めることが出来るなんて予想も……
油断など欠片もなかったはずだ。しかし動揺して判断に、追撃すべきか距離を取るか、一瞬の迷いがあったのかもしれない。
ゴーレムを弾き返したブルーブルーが、鉄棍を引いた特徴的な構えを取っていたのに気がつくのが遅れた。
雷光の構え。
回避――
間に合う――
躱した。そう思った瞬間、衝撃とともに吹き飛んでいた。
ごろごろと地面を転がり、うつ伏せで停止する。息が詰まる。くそっ、またこんなだよ。
頭がぐらぐらするが、ダメージは……
ゴッと近くで音がする。ヤバ。ゴーレムの足がごっそり削られた。
退避だ、ゴーレム。だが二撃目で片足が完全にへし折られた。ゴーレムがバランスを崩し、ゆっくりと倒れようとしている。
くそっ、寝てる場合じゃない。はっきりとわかるダメージはない。雷光をもろにくらったのに生きているのは、実戦用のフル装備のおかげか、さっきエアハンマーでひん曲げた分、鉄棍の入りが浅かったのだろう。それとも盾で受けたとはいえ、ゴーレムの一撃がブルーブルーにも影響があったのかもしれない。
ふらつく頭で立ち上がるが、剣が手にない。見当たらない。
アイテムボックスから武器箱を出し、予備の武器を掴み取る。ズゥンと巨大なゴーレムが倒れ、ブルーブルーがこちらに向き直った。
【ヒール】――よし、頭もはっきりした。派手に吹っ飛んだが、攻撃はかすった程度だったのだろう。ダメージもない。
ブルーブルーがこちらへと向かってくる。だがゴーレムは倒れただけでまだ生きている。消滅するほどのダメージではなかったのだ。もうひと働きできる。
倒れたまま、その巨大な手で地面をえぐり、ブルーブルーに向けて巻き上げるように大量の土を放り投げた。
大量の土埃に視界がゼロとなる。目もほとんど開けてはいられない状態だが、俺にはブルーブルーの位置ははっきりと感じ取れる。
気配を消し足音もまったく立てず、土埃の中、静かに移動する。この視界ではブルーブルーは俺を完全に見失っているはずだ。
再びのゴーレムの土の投擲。土埃は晴れる間もなく、さらに視界が暗く染まる。
殺った。
完全な不意打ちはブルーブルーの体を捉えた。剣が肩に叩きつけられる。
だが俺の剣はアダマンタイトの装甲に阻まれ、弾き返されてしまった。
あれ……刃引きの剣だ、これ。
ブルーブルーが闇雲に反撃しようとするのを下がって回避する。
武器箱は……ダメだ。俺ももうどこかわからん。まったく見えない。探してる暇はない。
出したらきちんと仕舞って置くべきだった。
ゴーレムによる土の投擲は続行している。再び忍び寄り、今度は剣を脇腹目掛けて思いっきり突き入れた。
やはり装甲に阻まれたが、ぐぅとブルーブルーが呻き声を上げた。また素早く距離を取る。
よし。この戦法はいいぞ。ブルーブルーには対処するすべがない。
ダメージは与えられているし、このまま続けて叩きのめすか、武器箱を見つけて……
だがブルーブルーは状況の発生源に目をつけたようだ。逃げることも身を隠すすべもない巨大なゴーレムに向かい、土埃を発生させようとしていた手を一撃で破壊した。
いかん。
さらにゴーレムを破壊しようとしているブルーブルーの背後から、剣を思いっきり叩きつける。
ブルーブルーがその攻撃で膝をつくが、鉄棍をぶうんと振り回し反撃に出る。むろんすでに後退して空振りに終わる。
今のもかなりダメージはあったはずだ。
もう一撃。
だが、長く視界を覆っていた土埃が、薄っすらと晴れだしていた。
俺の攻撃は不意打ちとはならず、剣は鉄棍で打ち返され、そしてぽっきりと根本からへし折れた。剣先はどこかへと飛んで消えた。
頑丈な造りとはいえ、所詮は練習用の量産品だ。ちくしょう。
ブルーブルーが追撃しようとするのを再びの土埃で回避した。ゴーレムの手はもう一本ある。
武器箱を……いや武器はあった。いつも腰にさしている愛用のショートソード。伊藤神に最初に貰った剣。
手に持つ折れた剣を投げ捨て、腰のショートソードを抜く。
逃げる事もできないゴーレムはブルーブルーの攻撃を受け、ついにグズクズとただの土くれになって崩れ落ちようとしていた。
これが最後のチャンスだ。ブルーブルーに接近し、腰だめに構えたショートソードを、今度こそ確実に装甲に突き入れた。
殺ったぞ!
だがしかし。剣の一刺しで倒せるほど、青い狂戦士は脆くはなかったようだ。
がっちりと装甲に食い込んだ剣は咄嗟に引き抜けず、ブルーブルーの鉄棍が迫る光景を見たのを最後に、俺は意識を手放した。




