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178話 パーティ会議

「お、おい……」


 恐る恐るといった感じでリュックスが俺に声をかけてきた。剣聖は剣を下ろし悠然と佇んでいるが、いまだフレアはしっかりと狙いをつけている。


「サティ?」


 剣聖から目を離さずサティに声をかける。


「みんな気絶してるだけで大丈夫みたいです」


 誰か一人でも大事になっていたら問答無用で発射していたところなんだが……


「マサル、もういい」


 ティリカがそう言うなら仕方ない。ふーっと息を吐き、フレアを上に向けて解き放った。どうやら思ったより俺は腹を立てていたようだ。

 フレアは上空でまばゆい閃光を発し、遅れて衝撃波と轟音が届く。

 爆発の規模を見るとちょっと魔力を込めすぎた気がするが、半端な威力では剣聖には通用しなかっただろう。距離的にこちらも危険があったが、これほどの相手だ。倒せるならその程度のリスクは仕方あるまい。まあ通用してしまったら、それはそれで大問題になりそうだが。

 ついでに火矢の当たった辺りが燃えだしていて火勢が強くなりそうな気配だったので、ウォーターボールを何発か打ち込んでおく。


「今のドラゴンはどこへ?」


 爆風に首をすくめていたリュックスが、我に返ったのか辺りを見回して言った。


「ドラゴンを召喚し使役する魔法使いがかつては居たという」


 リュックスの言葉に、音もなく歩き寄って来た剣聖がティリカを見やりながら言った。


「そう」


 ティリカが短く答えて軽く頷いた。今更ごまかしても仕方ない。あそこでどらごを出さなかったら、リュックスが来るまでに全滅していただろう。


「でも出来れば見なかったことにしておいてほしい」


「良かろう。リュックスもいいな?」


 ティリカがしれっと言い、剣聖があっさりと応じた。いいのかよ。いや、ありがたいんだが。


「え、いや、まあいいけどよ……」


 全然納得してないようだが、剣聖の言葉にリュックスは異議を唱える気はないようだ。

 みんなは……シラーちゃんは気がついて、立ち上がろうとしていた。他は気絶したままでサティが様子を見てくれている。

 回復魔法をかけていくと、すぐに目を覚ましていった。ダメージはあまりなかったようだ。

 とりあえずはあの暗殺者が剣聖で、リュックスがきて戦闘が中断したことを説明する。


「剣聖の腕試しだったの?」


 エリーが剣聖のほうを見ながら言う。一〇〇に近い歳だという話だが、髪は総白髪で顔には相応に皺が刻まれてはいるものの、ローブから垣間見える体格はがっしりとしていてとてもそんな歳には見えない。


「そうだ。全員気絶しただけで一人も斬られてない」


「わたしは何の役にも……」


 シラーちゃんがひどくうなだれている。役立たずはウィルも同じだがこっちはあまり気にしてないようだ。

 サティは真剣な顔をしてチラチラと剣聖のほうを見ている。

 

「とりあえず今日は帰ろうぜ」


「そうね」


「リリア頼む」


 上からも騒ぎを聞きつけた剣聖の弟子たちも近づいてきている。イベントはもうお腹いっぱいだ。

 剣聖との顔合わせも終わったことだし、あっちもひとしきり暴れて満足したのだろう。


「明日は朝一だ」


 それだけ言って特に引き止めもされなかった。剣聖が言うので俺は大人しく頷いた。最低でも二、三日は休まないといけないくらい消耗してるんだが、逆らうと怖そうだ。

 そしてフライを発動しようとしたリリアをエリーが押しとどめた。


「バルナバーシュ・ヘイダ殿。私たちは強かったかしら?」


「ああ、とびっきりな」


 とは言いながらもその黒いローブは焼け焦げ、一部はずたずたになってはいるのみで、目に見えるダメージはどこにもなさそうだ。俺たちの攻撃がことごとく通用しなかった。これはちょっと考えないといけないだろう。


「ならいいわ。いきなりの攻撃も許しましょう。さ、いきましょうか」


 許しちゃうのか……まあ文句を言ったところで何がどうなるわけでもなさそうなんだけどさ。

 リリアがフライを発動させると、ちょうどフランチェスカがやってくるのが見えた。あのキンキラの近衛の鎧を着ていたが、見る影もなくボロボロになり、本人もずいぶんと憔悴したように見える。わずか数日の修行のはずだが相当きつかった様子だ。

 何か叫んでいるが、全部明日だ。今日はもう何もやりたくない。


「すごいわ! 剣聖と戦って、とびきり強かったって言わせたのよ!」


 飛び立ってすぐにエリーが言った。倒されたのに嬉しそうだな。横綱に張り手でももらったような感覚なのだろうか。


「しかし人間離れした強さじゃったのう」


 だが魔法とか大岩にはしっかりと対処していた。攻撃が当たれば倒せる人間だってことだ。


「あれくらい強くなれれば……」


 サティがぽつりという。ずっとそんなことを考えていたのか。それはすなわち剣聖になるってことなのだが、わかっているのだろうか。


「おおそうじゃ。あれこそが人族最強の剣士、我らが目指すべき頂じゃ!」


「サティとマサルならきっといけるわよ!」


 簡単にいいやがる。


「ウィルとシラーもだぞ」


 シラーちゃんは悲壮な顔で頷いているが、ウィルはどうも他人事だったようだ。


「さすがにアレは無理じゃないっすかね……」


 俺もそう思う。だがアレでも勝てなかったのが魔境には居たという。どうあってももっと強くなっておく必要がある。


「加護があればお前らも俺と同等の力は持てる。暇を見て経験値は稼がせてやるし、ヒラギスでもかなり稼げるはずだ」


「そうなると誰が剣聖になってもおかしくないわね。みんな、修行はがんばるのよ!」


 まあ少なくとも基本スペックが最低な俺じゃないな。



 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■



「今日のことは落ち着いてから話しましょうか」


「そうだな。時間もかかりそうだし」

 

 エリーが手早くお風呂を用意してくれたので、まずはありがたくいただくことにした。エリーたち魔法使い組は、その間に買い物に出かけるという。ここに滞在するのに必要な雑貨や食料などを買い足すのだ。

 ヒラギス居留地でも拠点を作ったので手持ちが最低限しかない。村の屋敷に戻れば予備くらいあるのだが、一時的な拠点には似つかわしくない高級品が多くて使えない。臨時収入があったのでどっさりと買い込むつもりのようだ。


 で、お風呂で楽しくと思ったのだが、シラーちゃんが相変わらず暗い。


「あまり気にするな。相手が悪かったんだ。装備も軽装備だったしな」


 フル装備だったらまた違った展開もあっただろう。


「だが私は主殿の剣となり盾となると誓ったのに、肝心な時に何もできなかった」


 いきなりやられて終わるまで気絶してたものな。


「俺たちは今日のことを感謝すべきだな」


 不本意ではあるがガチで襲い掛かってきた剣聖に。


「感謝?」


「俺たちは強いと思い上がっていた。そのことを実戦で思い知らされる前に知ることができた」


 多少剣技で負けることはあっても、実戦では無敵だとどこかで信じていたのだ。


「今日のことを後悔するなら今以上に強くなればいい」


「いっぱい修行しましょう、シラーちゃん!」


「はい、主殿。サティ姉様」


 それでシラーちゃんも多少は吹っ切れたようだ。

 だがしかし。せっかくのお風呂なのに、ちょっといちゃつこうって雰囲気じゃないよね、これ?

 とりあえず続きは夜にと我慢して、サティを抱っこしてゆっくりとお風呂で体を休めた。




 お風呂から上がり、ようやくのご飯を食べているとエリーたちが戻ってきた。


「マサル、いいニュースよ!」


「何かあったのか?」


「買い物ついでに、マサルが文句を言ってた不動産屋のところに寄ってきたんだけどね」


 あいつか! わざわざ苦情を言いに行ってくれたのか。


「お話ししたらお詫びにこの道場を譲ってくれることになって、払った家賃も返してもらったわ」


 マジか。結果オーライとはいえ、かなりな大事になったのは、そもそもが不動産屋がエアリアル流に俺たちの情報を漏らしたせいなのは確かなのだが……


「十分に反省したようだけど、もしマサルの気がすまないのであれば更に懲罰を」


 そうティリカがマジな目をして言う。懲罰って何をする気だ!?


「いやいやいや、これで十分だ」


 家一軒分捕ってちょっと可哀想なくらいだ。


「そう? とにかく、これでいつでもビエルスに戻って来れるわね」


 ちゃんとした拠点があるのは便利ではある。俺はあまり長々と修行はしたくないが、今日のことを考えると、他のみんなは二、三ヵ月ではい終了ってわけにもいかないだろうし。


「マサル、いつもみたいに地下室を……いえ、それはあとで私がやっておくわ」


 至れり尽くせりだな。


「さてと、じゃあ今日のことだな。まずは剣聖との戦いからか?」


「あれはマサルのやる隠密?」


 ティリカがそう尋ねる。


「同じかどうかわからんけどそうだな。気配察知にはかかってたんだけど、姿が見えなかったけど山道で両側は森だし、近づくまで特に気にしなかったんだけど……」


 敵襲と叫ぶまでの流れを思い出しながら話す。


「忍び足もです。気がついた時には剣を構えるのが精一杯でした」


「私はサティ姉様がやられるまで全然わからなかった」


 後衛もサティがやられるまで全然姿を捉えてなかったらしい。


「隠密に忍び足、どっちも相当に高いレベルだな」


「マサルもたまにやるわよね?」


「え? 俺のはあそこまでじゃないだろ」


 エリーとティリカが首を振る。

 ふむ。剣で戦う時たまに使ってあまり効果はないと思っていたが、確かに狩りの時に見つかった覚えはない。

 ポイントは風景と溶け込むことか? あとで試してみよう。


「エリーの空間探知ならわかったんじゃないか?」


「探知範囲が狭すぎるのよね。それに今日みたいな森があってごちゃごちゃしたところでじっとされると、相当集中してないと見過ごしそうだわ」


 それなら俺の気配察知だけで十分だし、エリーの空間探知に頼る理由にはならない。俺がもっと警戒しているべきだった。


「でもそうね。今後は私も外では警戒しておくわ。慣れておかないとね」


「頼む」


 ウィルはまだ気配察知は取ってないし、予備の探知はあっても困らないだろう。

 そこからは戦闘の総括だ。

 今日の殊勲はティリカだな。サティがやられたのを見てヤバいってんで、即召喚魔法でたいがを呼び出した。その後は倒れた者の救護と後方への移送だ。

 ティリカは今日は攻撃魔法は全然使ってなかったが、他の面子が攻撃魔法を使うにも倒れたシラーちゃんとかが邪魔しては使用はかなり制限されていたことだろう。


 たいがが倒れ(これも当て身だけで無事だったようだ)、俺たち三人の攻撃魔法はことごとく凌がれた。

 どれも防ぐのは不可能なはずだった。

 サンダーは見てから砂を投げては間に合わない。魔力の流れから発動を予測して動いていたとしか思えない。

 ウィンドストームは無数の風の刃が竜巻状に襲いかかる魔法だ。どこかを斬ったとてほんの一部。それをどうやってかすっぱり斬って抜けてきた。

 そして俺の十二連の火矢も。おそらく三つか四つだけ斬り払って、残りをすり抜けた。

 魔法の気配はまったくなかった。すべて剣技のみでやってのけたのだ。


「もっと確実で防げない魔法が必要ね」


「今後の課題だな」


 俺の大岩が砕かれた後は後方のエリーとリリアを狙ったのは、次の魔法を止めるためだろう。やはりフリーで撃たせるのは危険と判断されたのだ。


「魔法が当たれば倒せるってことだな。威力は弱くなっても確実に当たる魔法を考えたほうがいいかもしれない」


 その次は転移剣が防がれた。


「初見じゃなければ魔力の発動はありますし、気配を読めれば防げると思います」


 そうサティが意見を言う。斬ろうとしたのが失敗だったか。今日の模擬剣では無理だが、刺す体勢で転移すれば確実に仕留められるだろうか。

 それでも転移を予測できれば防ぐことはできるし、反撃すら可能なのはサティが何回か練習でやって見せている。

 どんな状況にでも対応できる戦闘経験があるのだろう。あの多対一の状況で、そこまで完璧に対応しきるのは恐ろしいが。


 その後はどらごの召喚。

 どらごに手間取ったのは突然のドラゴンに驚いたのもあるのだろうが、恐らく殺さずの縛りのため。剣聖はこの時点でティリカの召喚魔法だというのに気がついていたのだろう。

 そして最後のフレア。撃てば勝っていた。例え避けても斬っても、剣聖はどらごとその周囲をも巻き込んで、チリも残さず消滅していた。そう思っていたが今は確信が持てない。


「どんな相手でも持ちこたえられる前衛と、確実に相手を仕留める魔法が必要だ」


「剣聖との戦闘は得難い経験だったわ」


 剣聖でなければあそこまで俺たちを手玉に取れなかっただろう。


「ほんとにな。俺たちはどこか慢心があった。気を引き締めよう」


 どんな敵だろうと切り抜けられるよう、更なるパーティの強化をする。


「ええ。明日からは剣の修行と魔法の改良ね。それぞれがんばりましょう」


 ん? ちょっと待って。


「俺だけ両方やるの?」


「がんばりましょう?」


 うんまあがんばるけどさ。俺また倒れるんじゃないか……


「じゃあ次は午前中の戦いね。こっちは観戦しながら話はしたけど、サティの一〇〇人抜きからおさらいを――」


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