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ニートだけどハロワにいったら異世界につれてかれた【書籍12巻、コミック12巻まで発売中】  作者: 桂かすが
第二章

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14話 男子達のくだらない話

 翌朝、ギルドに向かう。受付のおっちゃんに大部屋に案内された。かなり早めの時間のはずだが、すでに副ギルド長に軍曹どの、5人ほどの冒険者たちがいた。


 中の2人がこちらに気がついて寄ってきた。初心者講習会を一緒にうけた、クルックとシルバーだ。クルックは軽装備の戦士で剣と弓を装備。背は170くらい。細身で愛嬌のある顔をしている。シルバーは身長180くらいのがっしりとした体格で、装備も金属製プレートにでかい盾、剣を持っている。顔はイケメンであるが、脳ミソにも筋肉が詰まってる。


「マサル!おまえもこの依頼受けたのか?」とクルック。


「ああ、荷物持ちで呼ばれたんだ」


「紹介するよ、うちのパーティー、アリブールのリーダー、剛剣のラザードさん。Cランクだよ」


 ごついゴリラを紹介される。身長は180のシルバーよりさらに高い。大きな剣を背中に担ぎ、腕の筋肉がすごいことになっている。金属の胴プレートはたくさんの傷がきざまれ、年季が入ってることがうかがえる。手を差し出してきたので握手をする。痛い。力入れすぎだ、手が砕けるよ!見た目もゴリラなら力もまさしくゴリラだ。たぶんそんな力をいれたつもりもないんだろう。


「噂はきいてるよ、野ウサギハンターなんだって?」


 やめてくれ。それはもう歴史に封印したい事柄なんだよ。


「へー、この子が」


「こっちがリーズさんでこっちがモーラルさん。みんなアリブール村の出身なんだ」


 それでパーティ名もアリブールか。リーズさんは女剣士。クルックとシルバーの中間くらいの背格好だろうか。なかなかの美人だとは思うが、女豹って感じで少々怖い。モーラルさんは槍を持った猫耳獣人の男性だ。無口で紹介されても少し頭を下げるのみ。


 クルックとシルバーと情報交換をする。2人はこの一週間ほど、近場の依頼を何件かこなしたそうだ。森にも行って、何度か実戦を経験したらしい。話すのはほとんどクルックだ。シルバーは時々相槌をうつくらい。話すのはクルック担当だと思ってるんだろう。おれも最近の話をしてやる。特に野ウサギ狩りのことを知りたがったので詳細に教えてやった。あとは回復魔法を覚えたこと。


「おれ、マサルは剣士だと思ってた。魔法も使えたんだな」と珍しくシルバーが発言する。


「うんうん。模擬戦とか2人掛かりじゃないと相手にならなかったもんな。剣も強くて魔法も使えるって反則だよな」と、クルック。

 

 まあチートだし。


「ほう、そんなに腕がたつのか。一度手合わせしてみたいな」と、ラザードさん。やめてください、死んでしまいます。階級がミニマム級とへヴィー級くらい違うのに、何考えてるんだ。


「いやー、あんときはみんな体がぼろぼろでしたからね。万全でやればそんなに実力の差はないと思いますよ?」


「そうか?」と、クルックが首をかしげている。そうなんだよ!そういうことにしとけって!


 気がつくと他のパーティーも到着してて、何事かとこちらを見に来る。おれを指差し「野ウサギ、野ウサギ」と和気藹々である。おれは作り笑いをしてぷるぷるしているしかない。クルックとシルバーも一緒になって笑っている。友達がいのないやつらめ。


「おう、揃ったようだな!みなこっちにこい」と、ドレウィン。

 

 おお、助かった!みなぞろぞろと副ギルド長と軍曹どのの前に集まる。


「私が今回の調査隊のリーダーを務める、元Aランクのヴォークト軍曹だ。聞いての通り、森の奥で何かあり、普段はこちらには出ないようなモンスターが草原まであふれてきている。我々の目的はその調査および、原因の排除である。現在、森の状態は非常に不安定で、力尽くによる強行突破を図る。第一の目的地はここ。湖周辺である。その後は状況により柔軟に対処する。行程は行きに2日、調査に1日、帰りに2日である」


「原因については何もわかっていないんでしょうか」


「不明だ。ドラゴンクラスの大型種ではないかという推測はあるが、確証はない。戦力としてはBランクパーティーの暁の戦斧、Cランクパーティ3つに集まってもらった。ではまず、暁の戦斧から……」


 各パーティーの紹介が始まる。Bランクの暁の戦斧が主戦力。リーダーは斧持ちだ。女戦士にドワーフらしきのに、黒いローブにフードを被ったメイジ風の小さいのもいる。Cランクがゴリラ率いるアリブール、ヘルヴォーンというパーティーは弓主体のようだ。最後のパーティーが斥候担当の宵闇の翼。うん、宵闇の翼はねーな。だが本人たちは真剣だし、周りも特に反応はない。普通に紹介が進んでいく。ヘルなんちゃらとか剛剣、鮮血のなんてのもいたし、こっちでは普通の感覚なんだろうか。


「最後が、おい、こっちにこい」

 

 何故前に呼びやがりますか、軍曹どの。みなの前に連れて行かれる。注目が集まる。


「今回、補給品の輸送を担当してもらうマサルだ。自己紹介しろ」


「えーと、Eランクで荷物持ち担当のマサル、野ウサギハンターです」


 どっと笑いが起きる。おお、やけくそでいってみたが、結構受けたな。こういうときは変にこそこそするより開き直ったほうがいい。


「火魔法と回復魔法をそこそこ、あと水魔法で飲み水を作れます」


 自己紹介が終われば質問タイムだ。


「補給品はどの程度用意してあるんだ?」


 軍曹どのに指示されて、補給品を全て出す。食料の詰まった箱10個に水樽が5個。何人かが箱を開けて中身をチェックしていく。


「5日分、十分に用意してある。さらにアイテムボックスには余裕があるから、天幕などもこちらで用意しておいた。その他の輸送に関しては個別に交渉してくれ」


 天幕ってテントか。部屋の隅に積んであったのをアイテムに収納していく。パーティーリーダー達がこちらに話しかけてくる。内心びびりつつも、戦利品の輸送の約束をした。報酬は戦利品の1割。先着順で持ちきれなくなるまでと話がまとまった。


 持ち切れなくなった場合はどうするのかと尋ねたら、金目のところだけ切り取って担いで持って帰るんだそうだ。一応自前のアイテムボックスはあるのだが、最低限の必需品をいれればそれほど余裕もなく、馬車や荷車が活躍するということだ。今回は森なので全行程徒歩である。簡易の荷車のようなのも持ってるそうだが、あてにはできない。

 

 おれはアリブールのパーティーに入ることになった。ゴリラは頼もしいし、クルックとシルバーがいれば、話し相手にも困らないだろう。こいつらがいなければきっとぼっちだったな!


 ギルドを出ると馬車が用意されていた。街道をある程度馬車で進んで、そこから森に入るそうである。3台の馬車に分乗して出発する。クルックと話してると、おれが森が初めてと知ったゴリラはおれを教育してやろうと決めたようだ。色々話かけてくる。やれ筋肉が足りないの、戦での心得がどうだの。逃げ場のない馬車の上。おれは大人しくふんふん聞いている他ない。

 

 おれの武器と防具の品評会まで始まった。背中の黒鉄鋼のブロードソードをむしられ、

「ほう、いい剣じゃないか。使いこなせるのか?」「いやいや、若い頃からいい武器に親しむというのは大事で……」「達人は武器を選ばんものだ。武器に頼って戦うようじゃ……」と他の人たちまで加わってきた。


 結構なお値段がしただけあって、ブロードソードはやはりいい品なようだ。50万円だもんな。みなの評価が高い。おれもゴリラの大剣を見せてもらった。刀身は150cmほど。重い。おれの力では振り回すなど無理そうだ。最近ちょっとは剣術に自信がついてきたんだが、体の作りが違う。どうあがいても体力方面では勝てそうにない。


 2時間ほどで目的地についた。馬車から降りると、遠くに森が見えていた。体をほぐすとすぐに出発となった。斥候担当の宵闇の翼を先頭に、暁の戦斧、アリブール、ヘルヴォーンと続く。みな無駄話をやめて真剣な顔をしている。森につくと一本の細い道があって、それを辿って行く。おれはゴリラにくっついてきょろきょろしながら歩いていた。気配察知を使うが小動物らしきものの反応が時々するだけで、他には何もない。危険危険と聞いていたが、少し拍子抜けした。


 ふいにラザードが止まる。背中の大剣に手をかけている。声をかけようとすると手で制された。すぐに前の暁が動き始めたので行軍を再開する。


「今のは?」と、聞いてみる。


「前のほうで戦闘があったようだな。すぐに終わったみたいだが」


 進むとすぐにわかった。宵闇の翼の一人が獲物を手に待っていた。でかい蜘蛛だ。足を伸ばすとおれの身長くらいはありそうだ。言われるままにアイテムに収納すると、宵闇の人はさっさと先に走っていった。


「今のは大蜘蛛だな。たいして強くはないが、不意をうたれると結構やばいモンスターだ。かまれると麻痺して体が動かなくなり、糸でぐるぐる巻きにされて餌にされる。いい死に方じゃねーな」

 

 確かにぞっとしない。


「蜘蛛の糸は高級素材だし、足も悪くない味だ」


 食うのか……。昆虫はおいしいっていうが、なるべくなら避けたい食材だな。


 しばらくしてまた隊列が止まる。今度は暁の戦斧が進むが、ラザードは止まったままだ。問いかけると、

「少し手強いのが出たらしいな。何、暁に任せとけば心配ない」


 先に進むと今度は人型モンスターの死体が待っていた。オークよりもでかくて赤い。角はないが赤鬼みたいだな。片足がちぎれかけてる。体は傷でぼろぼろだ。アイテムに収納する。


「トロールだな。あんまりでかくないし、子供かもしれん。だがやつらは力がすごいからな。あまり接近しないほうがいい。こいつも足を先につぶしてそれから倒したみたいだな」


 2mはあった気がするがあれでも子供なのか。


 そんなことが数度あった。その度にアイテムに収納する。オークを8匹、熊に、オオトカゲ。ゴブリンはその場に放置された。小休止を2回はさみ、昼食を摂ることになった。


 ちょっとした広場になっているところで、食料の木箱からパンと干し肉、果物を支給。水樽も出して各人が水の補給をしていた。


「ここから先はさらに道が悪くなる。しっかり休憩しておけよ」


「なんか全然戦闘がなくて退屈ですよね」


「危険がなくて結構なことじゃねーか。このまま最後までなーんもないほうがいい」


「獲物を全部、前のパーティーに取られて報酬が減るんじゃないですか?」


「ああ。取り決めがあってな。倒したパーティーが6割。お前が1割。他のパーティーも1割ずつもらえることになってる。歩いてるだけで報酬が湧いてくるなんて滅多にないぞ?」


 お金より経験値が欲しいんだけどなあ。どうにかして前に出れないだろうか。


 午後も似たような感じだった。獲物はほとんどがオークで、あとは狼が5匹、ハーピーが1匹。クロウラーというでかい緑色の芋虫も倒されていたが、これをどうするのかは怖くて訊けなかった。ちなみに狼もハーピーも食材だそうだ。芋虫はさすがに食う勇気はない。


 午後遅く、野営地に到着する。天幕をだしてキャンプを設営。夕食はオークが饗されることとなった。新鮮なオークが手際よく捌かれていく様子はグロそのものだったが、焼かれた肉はいい匂いがしたのでありがたく頂いた。



 クルックとシルバーと同じ天幕で寝ていると好きな人はいるか?みたいな話がはじまってしまった。高校生の修学旅行かよ!シルバーが珍しく饒舌に同パーティーの女戦士リーズさんへの思いを語っていた。


「でもリーズさん、ラザードさんのことが好きじゃん」


 クルック容赦ないな。落ち込むシルバー。今度はクルックが話しだす。初心者講習を一緒に受けた女の子が結構いいなーと思ってたんだそうだが、あの子遠くにいっちゃったからね。最近は新しい恋をみつけたそうだ。通ってる食堂のウエイトレスさんで笑顔がかわいいんだそうだ。


「ポニーテールの子?でもあの子、コックの人と仲良くしてるの見たことあるよ」


 仕返しとばかりにシルバーが暴露する。おまえらほんとに友達か?まあ目がないのを早めに知らせるのも、友達を思ってこそかもしれんが。


「おまえはどうなんだ?」「そうだ、お前のも話せ」


 うーむ。二次元への思いなら一晩中でも語ってやれるんだが、どうしたもんか。こっちにできた女性の知り合いと言えば、ティリカちゃんとアンジェラちゃんくらい。もうアンジェラちゃんのことでいいか。でも確かにかわいいなとは思うが、恋とかじゃないと思うんだよな。


「神殿のシスターでな……」

 

 いかにかわいいか。いかに子供思いで親切な女性か、少しばかり盛りながら話す。ナイフで手を刺したりとかそういう話はもちろんしない。


「それはもう告白すべきでは」「うんうん」


「あのな、おまえら。よく聞け。少し仲良くしてもらった、笑いかけてもらったくらいで、告白なんてしようものなら、ひどい目にあうのが必然なんだよ。親切にしたのは生徒だったから。笑いかけてくれたのはお土産を毎回持っていったから。おれのことはなんとも思っちゃいない。一月もすればすぐ忘れるさ。もし告白なんてしてみろ。マサルくんのことは嫌いじゃないけど、そういうのはちょっととか。マサルくんのことは好きだけどいいお友達でいましょうねって返事が100%返ってくる。間違いない。そしてなんだかぎくしゃくした関係になって、友達ですらいられなくなるんだよ!」


「そ、そうか」


 学生時代のトラウマが蘇ってくる。二次元にはまったのはあのあとだったな。


「おれが村に居たころ」とクルックが話し出す。なんだ、話を変えるのか。賢明だな。


「近所のおじさんが冒険者を引退して帰ってきてさ。お嫁さんを連れて帰ってきたんだよ」


 ほうほう。それでそれで。


「おじさんよりずいぶん年下のかわいい人でさ、夫婦仲もよくて、子供も生まれてそれはそれは幸せそうだった。あとで知ったんだけど、そのお嫁さん、奴隷だったんだよ。冒険者で儲けたお金で買ってきたんだって」


「そういうのありなのか!?」「それってクルックの隣に住んでた!?」


「うちの村では珍しかったけど、普通にあるみたいだよ。ほら、何年も冒険者やってると、知り合いの女の子なんかみんな結婚しちゃうし、年を取ったり、怪我したりでなかなか結婚できないから」


 おれもシルバーも興味津々である。


「それでさ。見に行ってみたんだよ。奴隷商」


「いつのまに!?」と、シルバー。


 俺たちはクルックから詳しい話を根掘り葉掘り聞きだした。


「おれが見たのはだいたい4,5万ゴルドくらいだった。がんばったら貯められない値段じゃないよね」


 メニューを確認する。


「おれいま3万くらいある……」 正確には31979ゴルド。


くそ、武器防具で1万ゴルドも無駄遣いするんじゃなかった!


「何!?」「なんでそんなに持ってるんだ!」


「いやいや、待ちたまえ諸君。愛する女性をそのような、物のように売買するのはよろしくない」


「うーん」「それはそうだが……」


「だがね。大きい家を買ったとしよう、いや借りるでもいいかな。一人じゃ掃除するのもきつい。お手伝いさんが欲しいよな。それで奴隷を買うという選択肢もあるかもしれない。いやいや、けしてやましい気持ちはないよ?手はだしたりはしないさ。でも、一つ屋根の下で暮らすんだ。つい恋に落ちちゃうこともあるかもしれない。うん、それなら仕方ないよな」


「うんうん」「すごくありうる話だ!」


「諸君、おれは帰ったら大きな家を借りよう。きっとだ!」


「な、なんだと!」「貴様、裏切るのか!!」



 騒いでたら軍曹どのに怒られた。


「貴様ら、明日も早いのだ。早く寝ろ」

誤字脱字、変な表現などありましたらご指摘ください。

ご意見ご感想なども大歓迎です

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[良い点] どんな話だっけと読み直したら、ほんとうに男子のくだらない話で面白可愛いかったです。
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